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8.夢から醒めたら
しおりを挟む「ん……」
寝返りをうったときに何かにぶつかった気がして、オレは目を覚ました。
「おはようございます」
声がしたほうを見ると、至近距離にアルトの顔があった。
「あー……おはよう……」
顔の近さに一瞬驚いたけれど、瞬時に昨日のことを思い出す。
色んな体液でベトベトだったはずの身体がさっぱりしているのは、きっとアルトが後始末をしてくれたのだろう。
ついでに、最後に「出て行かないで欲しい」とねだったことを思い出して顔に熱が集まる。一晩経って、流石にもうアルトはオレの中には居ないようだった。ちょっと寂しいような、残念なような……って、そうじゃなくて。
この後、どんなふうに好きだと伝えようかと考えていると、アルトが先に口を開いた。
「すみません。私は昨日、貴方に嘘をつきました」
「え……?」
思ってもみないアルトからの告白にオレは一瞬固まる。
「実は、昨日は私の誕生日ではありませんでした」
「なんだ、そんなことか」
どうしてそんな嘘を……と思ったけれど、その内容がオレにとっては大したものではなかったことにホッと胸を撫で下ろした。いや、むしろ、その嘘のおかげでこうやって一緒に朝を迎えられたのだから、そのことについてオレはアルトを咎める気持ちは全くなかった。だけど……
「アルト? 顔にヒビが……」
その時になってようやく、オレは目の前の違和感に気付いた。アルトの頬に大きなヒビが入っているのだ。
「いったい、どうして……」
アルトの身体中が傷だらけだったことと、何か関係があるのだろうか。
「私は人間ではなくて人形と呼ばれる存在なのです」
「ドール……?」
聞いたことのない話にオレは眉を顰めた。
「そんなことより、早く手当を……ひっ!?」
オレは身体を起こして布団を捲って、目の前の光景に息を飲んだ。
アルトの首から下は、壊れてバラバラになっていた。
「すみません、貴方は私の主人だから……」
「ドールとか、プレイとかって何なんだよ!!」
アルトの手を取ろうとして触れたら、それだけでボロボロと崩れ落ちてしまう。
「私は元々、貴方のおもちゃでした。子供の頃、いっぱい遊んでくれましたよね?」
オレが子供の頃に遊んだおもちゃ!? それは一体どんなおもちゃだ!? アルトの顔をじっと見ても、何も思い出せない。
「ああ、すみません。本来なら、元の姿に似たような形をとるべきなんですけれど、貴方に喜んでもらいたくて少し無茶をしてしまいました」
アルトは苦笑した……んだと思う。だけど、ひびが入ったアルトの顔は、いつも会社で見かける作り物のような笑顔のまま動かなかった。いや、そんなことはなかった。口許に、ピシリと新しいヒビが入る。
「アルト!!」
「貴方とまた一夜を過ごせた。それだけで十分です。素敵な夜を、ありがとうございました」
「おい!! これは、どうやったら治るんだ!?」
オレの言葉にアルトは視線を伏せた。
「ドールはプレイと結ばれたら崩れ落ちる、そういう運命なんです」
「そんな馬鹿な!」
咄嗟にアルトの言葉を否定したのは、単にオレがそれを信じたくなかったからだ。
「それを知っていれば、オレはアルトとセックスなんてしなかった!!」
アルトがゆっくり瞬きすると、瞼に細かいヒビが走った。
「昨日貴方とセックスしなくても、私は崩れる運命でした」
「なんで……!!」
「もともと、時間切れだったんです。私は、この姿を保つために、色々無茶をしましたから……」
「どうして、そんな無茶なんて……!!」
「貴方が好きだったんです。ずっとずっと。だから、一人遺された貴方をどうしても救いたかった」
今度は額に大きなヒビが入った。
きめ細やかでもちもちと弾力があったアルトの肌が、目の前でボロボロと崩れ落ちていく。
「最期に貴方と結ばれて、幸せでした」
ピシリ、ピシリ。ボロボロボロボロ。
アルトの顔だけじゃない。全てのパーツが崩れる速度が加速していく。
「嫌だ、アルト!! それ以上崩れるな!!」
「もし、私のことを思い出したら……」
────どうか私のことを、見つけてください。
声は聞こえなかったけれど、アルトがそう言ったような気がした。
「思い出せばいいんだろ!! 思い出すから、絶対に思い出すから!!」
アルトの元の姿は何だ!? ヒントはどこにある!?
焦りながら考えるけれど、心当たりのあるおもちゃなんてなにも思いつかない。
そのとき不意に、「家族が遺したものは、大切にすべきだ」と言ったときのアルトの姿が思い浮かんだ。なんで、今、その時の言葉を思い出したのかはわからない。
だけど、オレはそのとき確信した。アルトは家族からのプレゼントだったのではないかと。
家族からプレゼントされて、ずっと大切にしていたおもちゃ……オレは必死に記憶を漁る。そうだ、あれだ!! 遊びに行くときも、寝るときも、ずっと手放さなかったおもちゃ。それは……
「……犬のぬいぐるみの、アルト!?」
オレが叫ぶと同時に、粉々になったアルトは、まるで最初からそこに存在していなかったかのように跡形もなく消えてしまった。
「アルト……!? アルト……!!」
先程までアルトが横たわっていたところを触っても、そこには温もりすら残ってはいなかった。
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