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10.家族

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「覚えてない? 転んだメイドに手を貸してたよね」

 転んだメイド……?
 その単語を頼りに、記憶を呼び起こす。
 えーっと、そういえば、そんなこともあったような……

「ロイクにとってはそんなの覚えてないくらい、当たり前で些細なことだったんだよね。でもさ、自分が生きるだけで精一杯のこの国で、他人を思いやることができる人がまだ居るんだなって感心した。しかも、それが同業者なんだよ? びっくりしたよね。もう、それで恋に落ちた」
「いや、やっぱり意味が分からない」

 目の前で転んだ人を助けただけで、その人を好きになんてなっていたら、キリがなくないか?

「しかもさ。ロイクって、かなり優秀な暗殺者じゃん。だから、ちょっとやそっとじゃ殺されることはないし」
「は、はぁ……」

 いつもこいつには軽くあしらわれてばかりいるので、まさかそんな評価をされるとは思っていなかった。心の端っこが妙にむず痒くなる。なんだ、この感情は。

「ちなみに、俺も優秀な暗殺者だけどね!!」
「自分で言ったら台無しだと思うが」
「アピールポイントは積極的に売り込んでおかないと! だって、俺はロイクと家族になりたいから」

 家族……
 その言葉で心がスッと冷えた。

「……家族なんて、要らない」
「要らなくないよ。一緒に居たら、毎日がもっと楽しくなるよ! それにさ。俺だったら、そんな簡単に死なないよ。知ってるでしょ?」
「でも……、くせに」
「えっ?」
「……なんでもない」
「えー……何て言ったか教えてよー」
「なんでもないっ」

 俺は布団を頭から被って、視界からジルを消した。




 どんなに強くたって、お金があったって、飛んでくる大砲に当たれば死ぬし、病気に勝つことはできない。

 俺は戦争孤児だ。
 帝国の端っこの小さな農村で生まれ育った。
 自然豊かな村は皇帝のせいで戦火に包まれ、両親は死んだ。
 妹と二人生き残ったけれど、妹は戦争の所為で視力を失った。
 病気がちになった妹と二人で生きていくためには、とにかく金が必要だった。

 だから俺はどんな仕事でもした。
 良いことよりも、悪いことをするほうが金になった。
 それで、稼いで、稼いで、いっぱい稼いで……だけどある冬、俺が仕事に出かけている間に、妹は風邪をこじらせて死んでしまった。
 薬を買うだけの金なら十分にあったのに、体調を崩した妹は自力で薬屋に行くことができなかったんだ。
 俺が帰ってきたときには息も絶え絶えになっていて、手に入れられる中で一番高い薬を飲ませたけれど、もう手遅れだったんだ。

 人はいつか死ぬ。
 ……大好きな家族に置いて行かれるのは、もう嫌だ。

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