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本編
21話 家出
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行き先なんて全然考えてなかった。
なんとなく電車に乗ったけれど、持っている定期券で行ける一番遠い場所は会社の最寄り駅だった。
だから、オレは仕方なくそこで電車を降りた。
まだ夕方だったから、仕事中の人とか、学校帰りの学生とかで駅前はそこそこ人通りがあった。
特に行く当てもないので、オレは街路樹の前にあるベンチに座る。
多分、発情期はもう始まっているんじゃないかと思う。
だから、オレからはかなりの量のフェロモンが出てるハズだ。
フリーのオメガがこんなことをしたら、故意の発情テロということで捕まってもおかしくない。
だけど、誰もオレに反応しない。オレが礼二さんの番になったからだ。
番ってすごいな。
オレは今、世界でたった一人、礼二さんだけのものなんだと実感した。
だけど、礼二さんには本当は好きな人が居て……
「茜祢くん、帰ろう」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、目の前に礼二さんが立っていた。
「え!? なんでっ!?」
オレがここに座ってから五分も経っていない。びっくりしすぎて、目の端に溢れそうになっていた涙が思わず引っ込んでしまった。
「だって、茜祢くんにはGPSを仕込んでいるから」
礼二さんが手にしていたスマホ画面をオレに見せてくれた。
地図上に赤い丸印がついている。多分、オレがいる場所なんだろう。
「えっ、ええっ……? どーゆーこと!? ていうか、いつどこに仕込んだの!?」
「そんなことより、早くおうちに帰ろう」
「え、いや……でも……」
これって「そんなことより」で軽く流していい話だっけ?
発情期と驚きで混乱を極めているオレにはよくわからない。
「帰るのはイヤ?」
「あの、イヤというか、えーっと、あの、その、だから……」
礼二さんのあまりに突拍子もない行動で、自分が何に悩んでいたのかすらわからなくなってしまった。ポカンとしてしまって、上手く言葉が出ない。
差し出してもらった礼二さんの手をとることすらできず、あわあわしていると、礼二さんの目がスッと細まった。
「酷いなぁ……ようやく一緒になれたのに、逃げるなんて」
低く囁かれた声に身体がビクッと震える。
礼二さんの顔には、いつもの穏やかな笑みではなく、捕食者の獰猛な笑みが浮かんでいた。
「ひっ……!?」
『見かけ詐欺アルファ』という言葉が脳内で蘇る。
北見さんはなんて言ってた? 礼二さんは、猫かぶりで腹黒で……昼間聞いた話を一生懸命頭の中で反芻する。
「せっかく巣までつくってあげたのに。だから、一緒に帰ろう」
『だから』の前後の繋がりが、オレには全く分からなかった。だけど、礼二さんはベンチの上で固まっているオレをひょいっと肩に担ぐと、タクシーを捕まえて、オレをあっさりとマンションまで連れ帰ってしまった。
こうして、オレの家出はたった三十分ほどの外出で、呆気なく終了したのだった。
なんとなく電車に乗ったけれど、持っている定期券で行ける一番遠い場所は会社の最寄り駅だった。
だから、オレは仕方なくそこで電車を降りた。
まだ夕方だったから、仕事中の人とか、学校帰りの学生とかで駅前はそこそこ人通りがあった。
特に行く当てもないので、オレは街路樹の前にあるベンチに座る。
多分、発情期はもう始まっているんじゃないかと思う。
だから、オレからはかなりの量のフェロモンが出てるハズだ。
フリーのオメガがこんなことをしたら、故意の発情テロということで捕まってもおかしくない。
だけど、誰もオレに反応しない。オレが礼二さんの番になったからだ。
番ってすごいな。
オレは今、世界でたった一人、礼二さんだけのものなんだと実感した。
だけど、礼二さんには本当は好きな人が居て……
「茜祢くん、帰ろう」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、目の前に礼二さんが立っていた。
「え!? なんでっ!?」
オレがここに座ってから五分も経っていない。びっくりしすぎて、目の端に溢れそうになっていた涙が思わず引っ込んでしまった。
「だって、茜祢くんにはGPSを仕込んでいるから」
礼二さんが手にしていたスマホ画面をオレに見せてくれた。
地図上に赤い丸印がついている。多分、オレがいる場所なんだろう。
「えっ、ええっ……? どーゆーこと!? ていうか、いつどこに仕込んだの!?」
「そんなことより、早くおうちに帰ろう」
「え、いや……でも……」
これって「そんなことより」で軽く流していい話だっけ?
発情期と驚きで混乱を極めているオレにはよくわからない。
「帰るのはイヤ?」
「あの、イヤというか、えーっと、あの、その、だから……」
礼二さんのあまりに突拍子もない行動で、自分が何に悩んでいたのかすらわからなくなってしまった。ポカンとしてしまって、上手く言葉が出ない。
差し出してもらった礼二さんの手をとることすらできず、あわあわしていると、礼二さんの目がスッと細まった。
「酷いなぁ……ようやく一緒になれたのに、逃げるなんて」
低く囁かれた声に身体がビクッと震える。
礼二さんの顔には、いつもの穏やかな笑みではなく、捕食者の獰猛な笑みが浮かんでいた。
「ひっ……!?」
『見かけ詐欺アルファ』という言葉が脳内で蘇る。
北見さんはなんて言ってた? 礼二さんは、猫かぶりで腹黒で……昼間聞いた話を一生懸命頭の中で反芻する。
「せっかく巣までつくってあげたのに。だから、一緒に帰ろう」
『だから』の前後の繋がりが、オレには全く分からなかった。だけど、礼二さんはベンチの上で固まっているオレをひょいっと肩に担ぐと、タクシーを捕まえて、オレをあっさりとマンションまで連れ帰ってしまった。
こうして、オレの家出はたった三十分ほどの外出で、呆気なく終了したのだった。
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