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本編
19話 見た目詐欺アルファ
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「あ。見た目詐欺アルファの番だ」
オレの姿に気付いた北見さんがぽそっと言った。
「その言い方、止めてください。礼二さんは、見た目詐欺アルファなんかじゃありません。中身も優しくて素敵な人なんですからっ」
いつもだったら心の中でしか言い返さないハズなのに、モヤモヤした気分のオレは思っていたことを全部口に出してしまう。北見さんに八つ当たりしても、どうにもならないのに。
「あ、もしかして相思相愛になっちゃったカンジ?」
プッと吹き出されて、イラっとした。
「貴女には関係ないと思いますけど」
オメガというだけで、人より少ない仕事量しか割り振られない。しかも、いつ休んでもいいように、誰でも変わりができる簡単な仕事ばかりだ。
それを良く思っていない人たちが居るということを知っているので、オレは今までできるだけ、他人とは衝突しないように振る舞ってきた。
だけど、今はどうしても感情がコントロールできない。
「あー、ごめんごめん。でも、茜袮くん、何か勘違いしてない?」
「何がですか」
言葉が刺々しくなってしまうのが自分でもわかる。やっぱり、発情期が近いのだろう。
「あの人が『見た目詐欺アルファ』って言われてる理由」
「そんなの……見た目は完璧そうなのに、どこか抜けてて可愛いからでしょう?」
「か、可愛い……!!」
オレがそう言ったら、北見さんに爆笑されてしまった。目の端に涙をうかべながら、お腹を抱えて苦しそうに笑っている。北見さんはひとしきり笑ってから、息を整えて、オレに説明をした。
「全然違うわよ。『見た目は温和そうなのに、どんなエグい手を使ってでも契約取ってくるから』だよ。だから、見た目詐欺アルファ」
「……え?」
「だって、あの人、今、第一営業部で売上一番じゃない」
「そ、そうですけど……」
第一営業部は大口の取引先が多く、個人での売上も他の部署の桁違いだ。それに確かに先月の営業成績のトップは礼二さんだった。いつもは五番手くらいなのに、先月から一気に一番になったのだ。
「あの人の本性は、猫かぶりでとんでもない腹黒よ」
「そんなことは……」
ない、と言いたかったけれど、確かにオレ自身もいつもニコニコとしている礼二さんの本音を掴みかねている部分がある。それで、とっさに言い返すことができなかった。
「知ってる? あのマッチングアプリ、ずーっと前に頓挫していたのを上條さんが引っ張り出してきて企画を通して完成させたらしいよ。しかもその原動力が、好きな人とマッチングしたいからって。そんな理由で、営業なのに企画して通ってるとかオカシイでしょ。最後には社長まで使ってくるし」
北見さんは何の話をしているのだろう。だけど、それを聞き出す前に、気になる単語がオレの頭をグルグルと回り始める。
「好きな、人……?」
さっきも聞いた、礼二さんに好きな人がいるという話。やっぱり嘘じゃなかったんだ。
「それは自分で聞いてみたらいいんじゃないかなぁ。ついでに言っとくと、さっきの子たちは茜袮くん狙い……って、聞いてないか。ま、末永くお幸せにねー」
オレの姿に気付いた北見さんがぽそっと言った。
「その言い方、止めてください。礼二さんは、見た目詐欺アルファなんかじゃありません。中身も優しくて素敵な人なんですからっ」
いつもだったら心の中でしか言い返さないハズなのに、モヤモヤした気分のオレは思っていたことを全部口に出してしまう。北見さんに八つ当たりしても、どうにもならないのに。
「あ、もしかして相思相愛になっちゃったカンジ?」
プッと吹き出されて、イラっとした。
「貴女には関係ないと思いますけど」
オメガというだけで、人より少ない仕事量しか割り振られない。しかも、いつ休んでもいいように、誰でも変わりができる簡単な仕事ばかりだ。
それを良く思っていない人たちが居るということを知っているので、オレは今までできるだけ、他人とは衝突しないように振る舞ってきた。
だけど、今はどうしても感情がコントロールできない。
「あー、ごめんごめん。でも、茜袮くん、何か勘違いしてない?」
「何がですか」
言葉が刺々しくなってしまうのが自分でもわかる。やっぱり、発情期が近いのだろう。
「あの人が『見た目詐欺アルファ』って言われてる理由」
「そんなの……見た目は完璧そうなのに、どこか抜けてて可愛いからでしょう?」
「か、可愛い……!!」
オレがそう言ったら、北見さんに爆笑されてしまった。目の端に涙をうかべながら、お腹を抱えて苦しそうに笑っている。北見さんはひとしきり笑ってから、息を整えて、オレに説明をした。
「全然違うわよ。『見た目は温和そうなのに、どんなエグい手を使ってでも契約取ってくるから』だよ。だから、見た目詐欺アルファ」
「……え?」
「だって、あの人、今、第一営業部で売上一番じゃない」
「そ、そうですけど……」
第一営業部は大口の取引先が多く、個人での売上も他の部署の桁違いだ。それに確かに先月の営業成績のトップは礼二さんだった。いつもは五番手くらいなのに、先月から一気に一番になったのだ。
「あの人の本性は、猫かぶりでとんでもない腹黒よ」
「そんなことは……」
ない、と言いたかったけれど、確かにオレ自身もいつもニコニコとしている礼二さんの本音を掴みかねている部分がある。それで、とっさに言い返すことができなかった。
「知ってる? あのマッチングアプリ、ずーっと前に頓挫していたのを上條さんが引っ張り出してきて企画を通して完成させたらしいよ。しかもその原動力が、好きな人とマッチングしたいからって。そんな理由で、営業なのに企画して通ってるとかオカシイでしょ。最後には社長まで使ってくるし」
北見さんは何の話をしているのだろう。だけど、それを聞き出す前に、気になる単語がオレの頭をグルグルと回り始める。
「好きな、人……?」
さっきも聞いた、礼二さんに好きな人がいるという話。やっぱり嘘じゃなかったんだ。
「それは自分で聞いてみたらいいんじゃないかなぁ。ついでに言っとくと、さっきの子たちは茜袮くん狙い……って、聞いてないか。ま、末永くお幸せにねー」
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