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フォール・イントゥ・ダークネス

真実( Ⅲ )

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『…………よぉ』

 ふてぶてしそうに、どこか抑え気味の声が響く。……誰の声か———そんなもの、わざわざ聞かなくとも分かることだった。

「ブラン………………君、なのか」

『聞きたいか』


 拘束され、身動きも取れず。
 もはや何もできることはなくなり、すべきことも無くなった僕に、淡々と話しかけてくれる声。


 ソレに合わせて、一瞬だけ。ほんの少し、首を縦に振った。




『…………そうか。俺がここにいることからも分かるだろうけども…………第0機動小隊は、全員無事だ。

 リコも、秀徳も、隊長も、ニンナも。全部トゥルースと戦ったが、その全員が生き延びた。

 理由は単純だ。アイツが言っていたことだが、『お兄ちゃんが死んでほしくないって言ってたから、殺さなかった』と。

 だからこそ……その感謝を……しに来たわけでも、ある。



 でも、俺は知りたいんだ。……いいや、俺だけじゃなく、みんなが知りたがっている。

 お前がどうして、最後の最後に……味方を撃ったのか、ということだ。

 あの…………なんだっけな、レイルダンジュか……あの機動は明らかに人が操作していたものだった。意図的なものだった。決して、過失なんかじゃないものだった。


 だからこそ俺は聞きたい。…………あんなに、人を殺したことを悔いていたお前が———撃ったのか?



 人を、撃ったのか?…………自分自身の、手で』




 問われた。
 自分に向けて、淡々とした問いが突き刺さる。


「…………そう、だよ。

 僕が、僕が撃ったんだ。
 僕がヴェンデッタと、僕の中にいるケイに命じた。…………否定する、つもりは、ない。


 僕が、撃ったんだ」


 無言の場が、十数秒持ち続く。
 その間、あっちはさまざまなことを思っていたであろう。…………そんなこと知らないけど、僕は———相変わらず虚無だった。



『……なんで、なんだ。

 なんで、あんなに……優しかったはずの、お前が……そんなことを、したんだよ……

 俺を導いたお前は……俺に道を説いたお前はどこに行った、なんでそんなところで、自らの罪を認めてるんだよ!


 ………………悔いては、いないのか。

 やってしまった、から、少しは悪いとか……思ってないのか?!……なあどうなんだ、その言い方からおかしいとは思ってたんだ、どうなんだよ、ケイ!』



「悪い、だって、?

 そんなこと、思ってるわけないじゃないか、思ってないから、僕は殺そうとできたんだよ、人を。

 何も……分かってないくせに、僕のことを知ったように話して…………もういいよ、ブラン。消えてくれ、邪魔なんだ。

 …………誰も———誰もトゥルースのことを、分かってあげようともしなかったくせに……っ!」


『……っおい待てよ、トゥルースがどうした……アイツと何があったんだよ、ケイ!』


「何があった……?……ああ、もう、ありすぎたよ。……でも1つだけ言えるのは、その果てに僕たちは……和解できたんだよ。

 ……分かる?……分かり合えたんだよ、僕たち。………………もういいよ、さようなら。

 もう二度と、僕はそこには戻れないだろうし、今は戻りたいとは思わないし、殺せるのなら君たち全員を殺してる。


 全部、消えてもらいたいんだよ」



『…………そう、か。


 すまん、ケイ。俺に、お前を救ってやることは……無理みたいだ。


 お前に恩返し……できなくて、すまん。


 リコにも伝えておく。もしアイツがここに来たなら、せめて話してやってくれ、そして、愛してるって伝えてやって———』


。……僕は、何も愛していない。愛する資格もないよ。

 みんなみんな、無くなればいいのに」










『………………っ…………っっ、ふふぅ……っ、なんで…………なんで、っ、ちくしょう…………っ!!!!』


 小さく聞こえたその声にも、僕は耳を貸さない。君も消えたらいいんだ。

 もう僕には、何にもないんだ。







「…………そう、か。みんな、死んで、ないのか。


 ……死んで、ない?……だって?」


 久しぶりに思考を働かせた僕は、ある1つのことに気が付いた。
 

「じゃあ…………あの子は。トゥルースは、誰も———」

 殺していない?
 だとするのならば、じゃあ、アレは———。


「あは、はは、はははははは、そりゃそうだよ、冷静に考えればそうだ、トゥルースは最初っから、話し合いによる理解を求めていた……それが大事だって、あの子は言っていたはずだ……

 どうして気づかなかったんだろうなあ、僕。……そりゃあそうじゃんか、もう戦いたくないって言っていたあの子が、誰かを殺すなんて———不自然なんだよな……」

 そりゃあそうだ、って。そうなってもしょうがないかもしれない、と。
 そう心のどこかで思ってしまっていたから、今の今まで僕にはストッパーがかかっていた。

「誰も、殺していないのか。

 ……殺して、いないのに……!」

 ああ、それでも。それでも僕は、込み上げる想いを防げなかった。


 人を殺したのだから、その報いを受けるのは……なんて、ほんの少しだけ思っていて。

 しかしソレは、僕の中の引っ掛かりとしてはどうしても大きなものでもあった。

 僕にとって、第0機動小隊は———大切なもの

 リコだって、ブランだって、誰だって大切な仲間

 いくら妹であろうと、ソレを崩すのはどうしても許せはしない。

 ……例えあのまま、トゥルースと僕が生還していたとしたら、僕はトゥルースのことを責め続けていたのかもしれない。






 ———ただ。
 もし、もし。


 殺していないとするならば。……報いを受けるべきだって、そのようなストッパーが、前提から崩れてしまうとするのならば。





「じゃあ……………………何の、ために。



 ———何のために、アイツは死んだんだよ」

 贖罪として。その身をなげうって死んだ、と。
 そのように解釈して、自分自身にも言い聞かせて、ようやく僕はほんの少しだけ納得できたというのに。

 ソレすらも、ソレすらも、ないとするのならば。


「何のために、死ぬ必要があったんだよ……!

 殺す理由なんて…………そんなの、そんなの……っ!」


 もう、きっと。歯止めがきかなくなっているって、言われなくとも分かっていた。
 でも、そんなことで僕の気持ちは止まらない。

「そんなの…………初めっから……っ!」


 もう、抑えることは無理だったんだ。


「初めっから、ないんじゃないかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
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