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ビヨンド・ザ・ディスペアー
コール・ヴェンデッタ( Ⅱ )
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*◇*◇*◇*◇
『うぉあああっ!』
様々な人々の叫び声が重なって聞こえる。……何があったのだろうか。
『ヴェンデッタ……ケイ・チェィンズ君…………もうそろそろ、時間がなくなってきたのかもしれないねぇ……』
ブドゥー博士は、僕のヴェンデッタの側に寄り添う。その声はどこか思い詰めたように息苦しさを孕んでいた。
「……ヴェンデッタ、まだ……まだ起きてくれないのか……?」
『ケイ君、再コールバックをやろう。ヴェンデッタが目覚めない限りは、この状況は打開できない』
「外では……外では何が起きているんですか……?」
『今は気にしなくてもいい、君はヴェンデッタのみに集中しようか』
「……はい」
精神を再度研ぎ澄ませる。もう切り離させはしない、絶対にヴェンデッタを起動させてみせる。
「落ち着け……僕。……大丈夫だ、ヴェンデッタは起動する……動いてくれるはずだ」
『第24層、返答なし……またダメなのか……!』
落ち着け、落ち着くんだ。焦る必要なんてない。
起きてくれヴェンデッタ、ただ、ただ起きて動いてくれるだけでいいんだ。
……もう、奪われるわけにはいかない。
『おおい、ヴェンデッタはまだなのか?!』
『もうアデーレ大隊も限界よ!……いくら何でもこれ以上は……!』
「ヴェンデッタ……頼む、動いて……起きてくれ……!!」
何度も何度も、願い詰めたその時。一筋の悲鳴が、僕の胸を引き裂いた。
『い、いやああああああっ!!』
「……っな、何だ……一体何が……っ?!」
『なん……っ、何でここに火の手が上がって……きてんだよぉっ?!』
「………………んだよ、なん……だよ、これぇっ!」
悲鳴と共に、一瞬のみブレて暗転した視界。
再度開けたそこは———既に火の手が上がっていた。
……無論、外は激戦となっていることだろう。その証拠に、ここにいても地響きが数度に渡って聞こえてくる。
ただ———この、火の手は。さっきの地響きは、まさか……
『…………ぁ…………ぅ……っ』
技術者たちの白衣が土煙に染まる。
傷を負い、床に倒れ込んだ1人の技術者。
突如訪れた現実に喘ぎながらも、必死に生き延びようと手を伸ばしたその男の真上には———、
「っ、ダメだ! 今すぐそこから離れて———ひっ!」
無駄、だった。
どれだけ呼びかけようと、その男は前に進み続け、そして……真上より降り注いだ瓦礫に、その身体を潰された。
「ぁぅ……っおぼぇぇ……っ!」
もうあれほど見たくないと願った血の跡。倒れた瓦礫の中から、地面に垂らした水のようにじわじわと広がりゆく血溜まり。
「ぁあ……っ、……うぅ……また、救えない……なんて……っ!」
もうあれほど、そんな想いはしたくないって思っていたのに。
「ヴ……ヴェンデッタァァァァァァッ!!!!
動け、動け、動け動け動けぇっ! 今動かなくて、今やらなくていつやるって言うんだよ、ヴェンデッタ・シン!
もう嫌なんだよ、もう……もう、救えないなんてそんなの嫌なんだよ! 何で側にいるのに、その命を救えないんだよ、そんなのもう……もう、僕は耐えられないんだよっ!
動け、動け動け動け動け動け動け動けぇっ!! 動いてくれぇっ、ヴェンデッタァッ!
……っ……うう、っ……っく……!」
『すまない……ねぇ、ケイ君……もう、ヴェンデッタは……いい、から……ねぇ……?』
ブドゥー博士は生きていた。視界の端よりそそくさと現れ、申し訳なさそうにその口を開く。
「…………ダメ……なん、です。……ヴェンデッタじゃないと、ダメなんですよっ!!」
だって、みんなが……心待ちにしているだろうから。
みんなが、その存在を待ち望んでいるだろうから。
コイツがいないと、僕は生きた心地がしないから。……全て、始まらなかったんだ。
動かずに終わるなんて、そんなの———許せないから。
「……お前が僕を見捨ててたって、僕は何度でもその名を呼ぶ! 身勝手だけど、僕は僕のわがままを通すって決めたんだ、だいぶ前にっ!
だからお願いだ、動いてくれ———僕にもう一度、もう一度だけ……力を貸してくれよぉっ!」
……しかし、やはり反応はなかった。
———本当、に。
「いい……加減に、してよ……動いて……くれよ……っ———、
動いてくれぇっ、エンジェリオンッッッ!!!!」
『その……名前は…………はっ!』
『うぉあああっ!』
様々な人々の叫び声が重なって聞こえる。……何があったのだろうか。
『ヴェンデッタ……ケイ・チェィンズ君…………もうそろそろ、時間がなくなってきたのかもしれないねぇ……』
ブドゥー博士は、僕のヴェンデッタの側に寄り添う。その声はどこか思い詰めたように息苦しさを孕んでいた。
「……ヴェンデッタ、まだ……まだ起きてくれないのか……?」
『ケイ君、再コールバックをやろう。ヴェンデッタが目覚めない限りは、この状況は打開できない』
「外では……外では何が起きているんですか……?」
『今は気にしなくてもいい、君はヴェンデッタのみに集中しようか』
「……はい」
精神を再度研ぎ澄ませる。もう切り離させはしない、絶対にヴェンデッタを起動させてみせる。
「落ち着け……僕。……大丈夫だ、ヴェンデッタは起動する……動いてくれるはずだ」
『第24層、返答なし……またダメなのか……!』
落ち着け、落ち着くんだ。焦る必要なんてない。
起きてくれヴェンデッタ、ただ、ただ起きて動いてくれるだけでいいんだ。
……もう、奪われるわけにはいかない。
『おおい、ヴェンデッタはまだなのか?!』
『もうアデーレ大隊も限界よ!……いくら何でもこれ以上は……!』
「ヴェンデッタ……頼む、動いて……起きてくれ……!!」
何度も何度も、願い詰めたその時。一筋の悲鳴が、僕の胸を引き裂いた。
『い、いやああああああっ!!』
「……っな、何だ……一体何が……っ?!」
『なん……っ、何でここに火の手が上がって……きてんだよぉっ?!』
「………………んだよ、なん……だよ、これぇっ!」
悲鳴と共に、一瞬のみブレて暗転した視界。
再度開けたそこは———既に火の手が上がっていた。
……無論、外は激戦となっていることだろう。その証拠に、ここにいても地響きが数度に渡って聞こえてくる。
ただ———この、火の手は。さっきの地響きは、まさか……
『…………ぁ…………ぅ……っ』
技術者たちの白衣が土煙に染まる。
傷を負い、床に倒れ込んだ1人の技術者。
突如訪れた現実に喘ぎながらも、必死に生き延びようと手を伸ばしたその男の真上には———、
「っ、ダメだ! 今すぐそこから離れて———ひっ!」
無駄、だった。
どれだけ呼びかけようと、その男は前に進み続け、そして……真上より降り注いだ瓦礫に、その身体を潰された。
「ぁぅ……っおぼぇぇ……っ!」
もうあれほど見たくないと願った血の跡。倒れた瓦礫の中から、地面に垂らした水のようにじわじわと広がりゆく血溜まり。
「ぁあ……っ、……うぅ……また、救えない……なんて……っ!」
もうあれほど、そんな想いはしたくないって思っていたのに。
「ヴ……ヴェンデッタァァァァァァッ!!!!
動け、動け、動け動け動けぇっ! 今動かなくて、今やらなくていつやるって言うんだよ、ヴェンデッタ・シン!
もう嫌なんだよ、もう……もう、救えないなんてそんなの嫌なんだよ! 何で側にいるのに、その命を救えないんだよ、そんなのもう……もう、僕は耐えられないんだよっ!
動け、動け動け動け動け動け動け動けぇっ!! 動いてくれぇっ、ヴェンデッタァッ!
……っ……うう、っ……っく……!」
『すまない……ねぇ、ケイ君……もう、ヴェンデッタは……いい、から……ねぇ……?』
ブドゥー博士は生きていた。視界の端よりそそくさと現れ、申し訳なさそうにその口を開く。
「…………ダメ……なん、です。……ヴェンデッタじゃないと、ダメなんですよっ!!」
だって、みんなが……心待ちにしているだろうから。
みんなが、その存在を待ち望んでいるだろうから。
コイツがいないと、僕は生きた心地がしないから。……全て、始まらなかったんだ。
動かずに終わるなんて、そんなの———許せないから。
「……お前が僕を見捨ててたって、僕は何度でもその名を呼ぶ! 身勝手だけど、僕は僕のわがままを通すって決めたんだ、だいぶ前にっ!
だからお願いだ、動いてくれ———僕にもう一度、もう一度だけ……力を貸してくれよぉっ!」
……しかし、やはり反応はなかった。
———本当、に。
「いい……加減に、してよ……動いて……くれよ……っ———、
動いてくれぇっ、エンジェリオンッッッ!!!!」
『その……名前は…………はっ!』
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