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ビヨンド・ザ・ディスペアー

コール・ヴェンデッタ( Ⅰ )

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 その頃、サイドツー格納庫では。

*◇*◇*◇*◇

『ったく、おいおい、こんなんで出るってのかぁ?!』
『あそこまで金をかけたと言うのに、これで出すしかないと言うのか!』
『貴様、本当にこれでいいと思っているのか、ブドゥー!』
『こんなもので勝てるとでも———』





『起動テストを行っていないので、今回限りは私共技術者も含めた初回起動、と言うことになりますが……よろしいですか?』

 1人だったはずのユニットコンテナに、直接知らない誰かの声が響く。

 まだ(ほとんど)完成していないものを戦場へ送る———そのようなことは、技術者にとっては耐え難いものだったろうに、わざわざここまでしてくれることには感謝しかないだろう。

 ……だが、ヴェンデッタに乗るにあたって———なんかめちゃくちゃピチピチな……ものすごく身体にキツくフィットするスーツを着た。

 体温調節機能があるのか、そんなに蒸れたりはしないが……ここまでピチピチということは、いつの間にか僕は太ってしまったのか?

 僕自身、太ったという自覚はないのだが———、

「はい、よろしくお願いします。

 ……行こうか、スタートアップ・ヴェンデッタ!」

『ナーヴライン接続完了。パイロット神経系安定、視神経接続モニター……出ます』

 そう聞こえた瞬間、格納庫の景色がユニットコンテナに重なって見え始める。……もしやとは思っていたが、まさか視神経に直接繋がっていたとは驚きだ。

 ……まあ、AACIC新型OSを使うという時点で分かりきっていたようなことだが。

『中枢神経、エンジェルシェルダイブ……スタート。………………第50層まで到達、ダイブ完全終了』

『各層コールバック、行きます……第5層経過……異常発生、第8層にて返答なし!』

『なぜだ?! ケイ・チェインズは全層コールバックを1発で成功させたはず……その後の運用も支障はなかったと……!』

『通常パイロットのように第1層で弾かれる……なんてことは減りましたが、それにしても8層とは……まだヴェンデッタの表層意識ですよ?』


 ……よく分からないが、みんな慌てている。……まさかヴェンデッタが起動しないって言うのか……?!

『なぜだなぜ……ケイ君、再度ヴェンデッタのエンジェルシェル内コールバック、お願いする』
「分かりました……って、どうやれば……」
『普通に、ヴェンデッタを起動するイメージでいいさ』


 ヴェンデッタを起動するイメージ……
 文字通り……ヴェンデッタを呼んで、呼び起こす感じか……?

「………………行こう、。一緒に、ヴェンデッタを呼び起こすんだ」

 全部直感、完全なるイメージの狭間。
 無限大とも言えようその意識の中に入り込み、そしてヴェンデッタそのものへと声を投げかける……というイメージを、頭の中で敢行する。


『第8層……突破。感応波徐々に縮小、第28層で止まりました』

『感応波が縮小……?? ケイ君の心理グラフは?』

『シンクロナイズドスーツの現時点データによると、心理グラフが……なぜか1秒ごとに2つの人格を示しているらしく……ただ、それらは折れはせず、完全に1本の線として安定しています。

 なぜか2つのグラフを交互に行き来するという点以外では、全くの正常と言っても過言ではありません』


『あぁ~……2つのグラフに関しては、気にしなくて大丈夫だよ~。それはどちらも彼の心だからねぇ~……心配はいらないさ』

『貴方ほどの人がそう言うのなら……』


 聞き覚えのある声……ブドゥー博士と言ったか、その人の声が聞こえた。

 ……僕の一方がトゥルース———またはケイとは違う他人の意識であると分かってなお、心配はいらないと言ってくれるのか。

「……起きて、起きてくれ、ヴェンデッタ。……早く」
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