上 下
203 / 237
ビヨンド・ザ・ディスペアー

急襲の警笛

しおりを挟む
「行っちゃいましたね……」

 特に急ぐ様子も見せず、そそくさと部屋を出ていったクラッシャーさん。
 その姿を不思議に見つめながらも、僕たちは最後の発言の意味について考えていた。


 その時であった。

 ゴオン、と鈍く唸るような音を聞いた瞬間、建物が横に激しく揺れる。
 一体何事だと足を進めようとした時、ようやく放送が鳴ってくれた。

『敵襲、敵襲! サイドツーパイロット各員は、速やかにサイドツー格納庫へ向かってください! 繰り返します、サイドツーパイロット各員は———』

 非常事態だ。非常事態なんだけど……どこかおかしい。
 普通こういう時は、もっと早く連絡が来るはずなんだ。いきなり攻めてきましたなんて、そりゃあおかしい気も……

「ケイ、君は———」
「あっ、隊長……僕は何の機体に乗れば?!」

 ヴェンデッタは使えない。ならば今は何の機体に乗るべきか。
 カスタムシリーズでも何でも来い、全部使いこなしてみせる……!


「ケイは……そうだな、格納庫まで行ったら待機だ。……君が何に乗せられるのかは、僕にも分からない」

「……分かりました」

◇◇◇◇◇◇◇◇

 サイドツー格納庫。今やそこは、もはや人の声のみで埋め尽くされていた。

「うああっ!」

 格納庫に着いた瞬間、またさらに激しい揺れが皆を襲う。
 ここに来るまでに、9回ぐらいは経験した揺れだ。……外で何が起こっている……?

 ———だが、かろうじて見える外の状況……格納庫の上の方に取り付けられた窓からは、明らかに火の手が上がっているかのような朱色がその姿を見せていた。

 ここにいる人々もどこか荒んでいる。
 不満を垂れる整備士……駄々をこねるパイロット……今はそんなことしている場合じゃないだろうに。

 ただ、まあ急にこの状況になってしまったと思えば……そりゃあ不満の1つも垂れたくなるものではあるのだろう。

 それよりも、今の僕にはやるべきことがあるはずだ。
 この敵が、クラッシャーの言っていたヤツらなのだろうが……ならば僕は、一刻も早く戦わなくてはならない。

 みんなを護るために。


「ヴェンデッタ……」

 リコのヴェンデッタ1号機———そのすぐ横にて、今なお改修作業の進められているヴェンデッタ2号機……ヴェンデッタ・シン。

 その足元には12個のヒレのような物体が散らばっており、どこか整備の荒さを感じさせるものだった。


 ヴェンデッタの肝心のその機体は、中に埋め込まれた白い素体……アークレイとか言う人型のアレが露出しており、ソレを覆うように色々と灰色の配線だの機械だのが設置されていた。

 人の肉を正面だけ剥ぎ取って、その中身の骨が正面のみ見えているかのような……どこか痛ましいとまで感じられる光景だった。


「乗っていいのか……僕は……」

「……貴様は、ヴェンデッタ・シンに乗るがいい」

 独り言をこぼした瞬間、後ろから聞き慣れた声が発せられた。
 とても数日前まで酒を飲んでいたとは思えない近衛騎士団長、レイさんの声だった。

「ヴェンデッタ・シン……って、まだ改修作業は終わっていないんじゃ……装甲だって、素人目に見てもほとんど出来上がっていませんよ。

 顔以外、ボロボロで……人形みたい」

「残念ながら、今貴様に提供できる機体は……アレ以外存在しない。……上の方に報告はできている、出るなら出てもいい。

 可動域やスラスター、その他武装の最低限の形式は完成しているそうだからな」

「でも、だったら———乗ります。乗らせてください、ヴェンデッタに」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

未来史シリーズ⑩レッドリバー・バレー~こんな所にやばい石が!

江戸川ばた散歩
SF
「マイ・ブルー・ヘヴン」に登場のストンウェル兄・ジャスティスが新たな星系の惑星「アリゾナ」で出会った少年? は。 そして彼だけが存在を知る謎の鉱石とは。

魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪
ファンタジー
惑星歴95年。 人が宇宙に進出して100年が到達しようとしていた。 宇宙居住区の完成により地球と宇宙に住む人間はやがてさらなる外宇宙にも旅立つことが可能となっていた。 だが、地球以外にも当然ながら知的生命体は存在する。 地球人の行動範囲が広がる中、外宇宙プロメテラ銀河に住む『メビウス』という異星人が突如として姿を現し、地球へ侵攻を開始。 『メビウス』は人型兵器を使い、地球からもっとも遠い木星に近い宇宙居住区を攻撃。実に数千万の命が失われることになった。 すぐに対抗戦力を向ける地球側。 しかし、地球人同士の戦争やいざこざが多少あったものの、比較的平和な時を過ごしてきた地球人類にこの攻撃を防ぐことはできなかった。 さらに高機動と人間を模した兵器は両手による武装の取り回しが容易な敵に対し、宙用軍艦や宙間戦闘機では防戦一方を強いられることになる。 ――そして開戦から五年。 日本のロボットアニメを参考にして各国の協力の下、地球側にもついに人型兵器が完成した。 急ピッチに製造されたものの、『メビウス』側に劣らず性能を発揮した地球性人型兵器『ヴァッフェリーゼ』の活躍により反抗戦力として木星宙域の敵の撤退を成功させた。 そこから2年。 膠着状態になった『メビウス』のさらなる侵攻に備え、地球ではパイロットの育成に精を出す。 パイロット候補である神代 凌空(かみしろ りく)もまたその一人で、今日も打倒『メビウス』を胸に訓練を続けていた。 いつもの編隊機動。訓練が開始されるまでは、そう思っていた。 だが、そこへ『メビウス』の強襲。 壊滅する部隊。 死の縁の中、凌空は不思議な声を聞く。 【誰か……この国を……!】 そして彼は誘われる。 剣と魔法がある世界『ファーベル』へ。 人型兵器と融合してしまった彼の運命はどう転がっていくのか――

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ
ファンタジー
【第15部まで公開。他サイトでは第17部まで公開中】 もと騎士である青年アッシュと、彼の義理の娘とも呼べる少女ユーリィは平和で有名なアティス王国に訪れていた。この国を第二の故郷とし、人が乗る巨人・鎧機兵の工房を開くためだ。しかしどうにか工房も開く事が出来た二人だが、客が一向にこない。そこで二人は街へ客を探しに赴くのだが……。 一応、王道っぽいファンタジーを目指した作品です。 1部ごとでライトノベル一冊分ほどの文量になります。 □本作のクロスオーバー作品『悪竜の騎士とゴーレム姫』も投稿しています。よろしければそちらも宜しくお願い致します。 □表紙イラストは『マグネットマクロリンク』さまより頂いたものです。 □『小説家になろう』さま『カクヨム』さま『マグネットマクロリンク』さま『ノベルアップ+』さまにも投稿しています。

toy gun

ももんがももたろう
SF
おもちゃの銃は所詮おもちゃ。 威力なんて一切ない。 だが、電子世界のなかではどうだ?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

処理中です...