上 下
198 / 237
禍根未だ途切れず

分かり合う道を( Ⅳ )

しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇



 シミュレーションルーム、シミュレーター内部。

 暗く染まったその中で、想いを馳せながら。


「……よし」

 腹は決まった。明日話し合うんだ、勇気を持って。
 ほんの些細なことかもしれないけど———僕にとってはこれが今の一番の悩みだった。

 ……どこか、等身大の悩みに戻れて嬉しかったような———そんな気も抱いたまま、眠りについた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 そうして、翌朝。
 第0機動小隊の部屋の前。……皆起きたばかりだというのに既にうるさい部屋の前。

 勇気を持って、その一歩を踏み出した。

「お……おは……よう」


 寝ぼけた皆の顔が、一斉に気まずそうな顔へと変わる。


「…………リコ!」

「は……はうっ?!」

 名前を呼ばれたリコは、一瞬のうちにその顔を赤く染める。

「……とブラン!……朝からごめん……けど、話がある」

 ブランは何かを察してくれたのか、どこか仕方なさを臭わせる鈍い足つきで、僕の横を通り過ぎる。

「は……話……?」
「そう。……色々と、話しておきたい。だからちょっと、別の場所に移動したくって」


◇◇◇◇◇◇◇◇




 そして、廊下の隅の方に移動した後。

「…………ごめんっ!……本当に、ごめん……ここ最近の僕は……悪かったというか……おかしかったって自覚してる……だから、ごめん」


 リコとブラン、並んだ2人に対して頭を下げる。リコは戸惑い気味だったが、ブランはどこか余裕のある顔つきをしていた。



「ああ———確かに今までのお前はおかしかったな。……急に訓練に執着しだして……」

「そのこと……なんだ。……何で、そんなことを急に言い出したのかって」

 ここでようやく、リコがハッとした表情を見せる。……言われるまで何のことか分かってなかったな、リコは。

「……まず、僕がどう思ってるか言おうと思う。……それから言わないと、まず始まらないから。

 僕は———みんなを失うことが、怖いんだ。それが怖くて、それだけは嫌だ……って思った。だから僕は……耐えられなかったんだよ、第二次真珠海作戦……それにおける、僕たちの任務に」



「……まあ…………敵の大群の中に、私たち3人で放り込まれるんだから……そりゃあ、ね……」





「だから何度もブランも連れてシミュレーターにも行ったし、だから何度も練習の必要性だって……訴えたんだ。

 でも…………ちょっと、度が過ぎたかなと思ってる。逆に一緒に居づらくしてしまって……ごめん」


 ———思えば、初めて頭を下げた。こんなことは今までに初めてだった。

 でも……そうだな、分かりあう為だったら、頭だって何だって下げてやる。



「別に~さ、そんなマジメにするほどのことじゃ……」



「…………ケイは……至って真面目だ。……何せ俺たちのことを考えた結果———こうなったんだからな。……少しはケイの気持ちも、汲み取ってやるのがってモノだろ」

「か……っ、かかぁ……っ!」

 ブランの一言に動揺するリコだったが、ブランはそんなこと気にも留めずに話し続ける。


「だから……その……俺からもすまん。お前の気持ちを汲み取ってやれなかった俺たちにも、責任はある……もう少し、危機感を持って臨む」


「じゃあ、私も…………ケイは私たちのことを想ってああ言ってくれた。

 ……それはよく分かったし、もうこの話は終わりでいい……よね?……私も、いつまでも雰囲気悪いままでいたくないしさ」

「……ここ数日、なぜか俺にばっかりケイの話をしまくってたしな、相当溜まってたんだろ」
「ぐぎーーーーっ!」



 ……コントかよ。

「まあ……うん。とりあえず、色々と付き合わせちゃってごめん。……この後はどうする、何か予定とかあるの、2人は?」



「この後の予定と……」
「言えば……しかないでしょ……!」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「結局……シミュレーターの訓練なんだね……」
『これから特に予定はないしな、こっちの方が有意義ってもんだろ?……それに、ケイの言葉で俺も———少し変われた気がするんだ』

『じゃあ私は切り込み隊長で~!』

 ……リコは何を言っているんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

改造人間

SIN
SF
改造人間になった青年の想い。 改造人間に対する青年の想い。

魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ
SF
音ゲーが大好きな高校生の紫乃月拓斗はある日親友の山河聖陽からクローズドベータテストに当選したアーティファクト・オンラインを一緒にプレイしないかと誘われる。 始めはあまり乗り気じゃなかった拓斗だったがこのゲームに特典として音ゲーが付いてくると言われた拓斗はその音ゲーに釣られゲームを開始する。 思いのほかアーティファクト・オンラインに熱中した拓斗はその熱を持ったまま元々の目的であった音ゲーをプレイし始める。 それから三か月後が経過した頃、音ゲーを全クリした拓斗はアーティファクト・オンラインの正式サービスが開始した事を知る。 久々にアーティファクト・オンラインの世界に入った拓斗は自分自身が今まで何度も試しても出来なかった事がいとも簡単に出来る事に気づく、それは相手の攻撃をパリィする事。 拓斗は音ゲーを全クリした事で知らないうちにノーツを斬るようにパリィが出来るようになっていた。

やる気が出る3つの DADA

Jack Seisex
SF
強欲カルロス三田&オメガの野望を挫くために立ち上がったフェイスルックだったが、行く手に立ち塞がる山本と鈴木の魔手。手に汗握る熱血 DADAコラージュ小説。

銃撃されて死んだと思っていたら、気がついたら幼女に!? 超能力が蔓延する世界で、銀髪幼女が日本を救う!

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
服用すると超能力に目覚める違法薬物、「PSI(サイ)」が流通する日本。 警視庁、超能力対策課のエージェントである二条銀次は任務中に命を落とした……と思ったら幼女に転生していた!? 日本の平和を守るため! PSI密売組織に捕まっている家族を助けるため! 二条銀次、改め、アリス・アルテウスがんばぁりまぁす!

最後のひと押し

唄うたい
SF
医療アンドロイド【HA-03G】が精神治療を担当することになったのは、SNS上で「天使」と称される美しい女性だった。 ※少し過激描写が含まれます。ご注意下さい。 ※他サイトでも公開しています。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

バーチャルアイドル「アリス」の配信と本音

クライン・トレイン
SF
突如現れたバーチャルアイドル「アリス」 ぶりっこキャラという設定を活かして様々なモーションをするアリス そんなアリスにリスナーはメロメロだった そして配信も形を変えていく バーチャル空間という技術領域を使って 様々な形でリスナーを獲得していくアリス その果てにあるアリスの配信と本音 リスナーとのやり取りは技術が加速していくにつれて 配信もバーチャル空間配信を活かした配信へと切り替わっていく アリスの目的は製作者(マスター)が知っている

処理中です...