上 下
197 / 237
禍根未だ途切れず

理解への道

しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇

「…………何……を、何を、何をやってるんだ、僕は!」

 ここ最近、本当にずっと———おかしい。何もかも上手くいってないような、気もする。

「ああ……何が、何が正しいんだ、僕は何をすれば……いいんだ?

 ……ヴェンデッタ、にも……見放された…………ははっ、ははははははっ! そりゃあ……そりゃそうさ! 当たり前だ、はははははははっ!


 ———ああ」

 虚しい自分に失望し、思わず床に倒れ込む。
 第0機動小隊、大部屋———そのドアの前にて。

「ああ———虚しい。……どうしよう、コレから。……また、シミュレーターに籠るかな……」

 そう言って、もう一度立って足を進めようとした時。





「また……お前か。また、お前なのか……!」

 ついさっき、別れたはずのトゥルースがそこにいた。

『また、とかさ、そんな軽々しく言わないでよ……僕はお兄ちゃんのことが、大大、大っ好きなんだから!』

「……気色悪いんだよ………………っ、ヴェンデッタは———どうした」

『ヴェンデッタ?……ああ~、色々あって乗るのを許されなかったんだ~、ヴェンデッタにつまみ出された』

「そう……か。…………」
『ホッとした?』

「内心は———そう。そうだけど、でも僕の歪みは、ヴェンデッタのことだけじゃないんだ。

 ……僕は———僕は、ヴェンデッタ抜きでも……どうすればいいのか、分からないんだ」


 少しだけ、間が空いて。もう返答はないのかな、と思い始めた瞬間だった。

『話聞こうか、お兄ちゃん?』
「———ん……」




◆◆◆◆◆◆◆◆



「だからさ……僕は……みんなに、死んでほしくないだけなんだよ……みんな真面目に練習しなくて……そんなんだったら、出撃して死ぬかもしれないじゃないか!

 そんなの嫌なんだ……せっかくここまで一緒に戦ってきて、ここに来てまでみんなを失うなんて……そんなこと……!」


『———優しいんだね、って』


「優しくなんて……ない。……ただ、みんなが死んでほしくないって———そんな幻想を押し付けてるだけなんだ。

 でも、それを願うことは間違ってる……こと、なのか……?」



『あー……あー、お兄ちゃん、ちょっと言わせてもらうけどさ、

 話が足りないよ?……もうちょっと、彼らと話し合ってみたらどう?

 そんなんじゃ、意思疎通があまりにも足りなさすぎるよ。お兄ちゃん1人で考え込むには、あまりにも早計』


「…………まだ、話し、合っても、いいの……かな」

『話し合わないと進まないからね。お互いの理解は大事だよ? だから僕は、お兄ちゃんのことをもっと知りたいんだよ。

 少なくとも、お兄ちゃんは彼らのことを悪く思ってないんでしょ?……だったら話し合った方がいい。互いのことを分かり合うことは、ホントに重要だよ。

 ———それを僕は、よく思い知ったから』



「……そう、だね。そう、だよ……ね。……トゥルース、君の言う通りだよ」

『やだなあ、僕たちは兄妹なんだからさ、妹って———ああ、妹に対して『妹』呼びもしっくりこないなぁ……』

「ありがとう……ちょっとだけ、自信、持てたよ。明日起きたら、みんなと話し合ってみる」

 トゥルースの表情が和らぐ。どこか胡散臭さも孕んだその顔に、今は安心感すら覚えるほどだった。

『ほらね。……人間って、案外簡単に分かり合えるもんなんだよ。……ふふっ、お兄ちゃんの力になれて、僕嬉しいなあ……!』

「………………何でさ、僕のことをお兄ちゃんって呼ぶんだ、君は?」


 聞いてはいけなさそうな質問———だった。それでも、意外にもあっさり———そして迂闊にも口に出てしまった。





『何で……?…………いいよ、話を聞かせてくれたから教えてあげる。……僕はね、つまるところなんだ。

 百面相。ゴルゴダ機関7番隊隊長———トゥルース。……その、2代目さ』




 ゴルゴダ機関7番隊隊長、トゥルース。
 僕の本当の名前にして、『ケイ・チェインズ』の身体を乗っ取った張本人。

 僕自身でも、その記憶は忘れていたけれど。それでも僕は、自分トゥルースのやったことを思い出してみせた。

 ……そして、そのトゥルースがここに来た目的も。それまで、思い出してしまった。



 ———そして今、僕の目の前にいるコイツが、ゴルゴダ機関のトゥルース———かつての僕の役割を継承したのならば。

「………………殺す……つもりか、みんなを」

 聞かずには、いられなかった。


『うん?……そりゃあそうだよ、もちろんさ!……みんな、殺す。

 人界軍、トランスフィールド、どこであろうと誰であろうと、みんなみんな殺す。それが僕に課せられた使命で、命令だから。

 ……この僕も———この自分も、身分も、姿も、全部偽りなんだよ。……ごめんね、お兄ちゃん?』


「僕は……僕をこの場で殺さないのか、ヴェンデッタは———一番の脅威のはずだろ」


『今の僕に殺せるわけないじゃん!……刃物もない、拳銃もない、僕の機体———もない! そんな無力な僕が何か行動を起こしたところで、結局意味がないんだよ。



 ———それに……お兄ちゃんは、殺したくないなあって』



「……そっちに戻るつもりは毛頭ない。……僕は、トゥルースは『ケイ・チェインズ』としての生き方を手に入れた。

 今の僕は———トゥルース・チェインズだ。……ゴルゴダ機関なんて肩書きは、捨てたんだぞ」



『ああ、そう?……いいよ別に、勝手にどうぞ?……結局、お兄ちゃんはお兄ちゃんのままだからね!』

「信用……して、いいのか?」

『それも勝手に。僕を殺したいなら、寝込みにでも襲えばいいんだよ。

 ……それじゃあおやすみ! 僕はシミュレーションルームで寝とくよ、その部屋狭っ苦しくて嫌なんだ!』


「……じゃあ、僕も。シミュレーターの中で寝るよ」

『じゃあじゃあ、僕おとなりがいいな!』
「……勝手に…………いいよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー活劇〜 

天海二色
SF
 西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。  珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。  その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。  彼らは一人につき一つの毒素を持つ。  医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。  彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。  これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。  ……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。 ※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります ※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます ※この小説は国家資格である『毒劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。 参考文献 松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集 船山信次  史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり 齋藤勝裕  毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで 鈴木勉   毒と薬 (大人のための図鑑) 特別展「毒」 公式図録 くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科 その他広辞苑、Wikipediaなど

テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ

Lunaire
SF
「強くなくても楽しめる、のんびりスローライフ!」 フリーターの陽平が、VRMMO『エターナルガーデンオンライン』で目指すのは、テイマーとしてモンスターと共にスローライフを満喫すること。戦闘や冒険は他のプレイヤーにお任せ!彼がこだわるのは、癒し系モンスターのテイムと、美味しい料理を作ること。 ゲームを始めてすぐに出会った相棒は、かわいい青いスライム「ぷに」。畑仕事に付き合ったり、料理を手伝ったり、のんびりとした毎日が続く……はずだったけれど、テイムしたモンスターが思わぬ成長を見せたり、謎の大型イベントに巻き込まれたりと、少しずつ非日常もやってくる? モンスター牧場でスローライフ!料理とテイムを楽しみながら、異世界VRMMOでのんびり過ごすほのぼのストーリー。 スライムの「ぷに」と一緒に、あなただけのゆったり冒険、始めませんか? 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

マイニング・ソルジャー

立花 Yuu
SF
世界の人々が集うインターネット上の仮想世界「ユグド」が存在するちょっと先の未来。 日本の沖縄に住む秦矢は今時珍しいエンジンバイクの修理店兼スクラップ店を営んでいる。副業で稼ぐために友達から勧められた「マイニン・ワールド」に参加することに。マイニング・ワールドとは仮想世界「ユグド」で使用されている暗号通貨「ユード」の「マイニング(採掘)」競争だ。エイリアン(暗号化技術でエイリアンに化けた決済データ)を倒してこ使い稼ぎをする日々がスタートさせるのだが、見知らぬ人物が突然助っ人に⁉︎ 仮想世界と暗号通貨が織りなす、ちょっと変わった友情劇とアクションありのSF小説!

月とガーネット[上]

雨音 礼韻
SF
 西暦2093年、東京──。  その70年前にオーストラリア全域を壊滅させる巨大隕石が落下、地球内部のスピネル層が化学変化を起こし、厖大な特殊鉱脈が発見された。  人類は採取した鉱石をシールド状に改良し、上空を全て覆い尽くす。  隕石衝突で乱れた気流は『ムーン・シールド』によって安定し、世界は急速に発展を遂げた。  一方何もかもが上手くいかず、クサクサとしながらふらつく繁華街で、小学生時代のクラスメイトと偶然再会したクウヤ。  「今夜は懐が温かいんだ」と誘われたナイトクラブで豪遊する中、隣の美女から贈られるブラッディ・メアリー。  飲んだ途端激しい衝撃にのたうちまわり、クウヤは彼女のウィスキーに手を出してしまう。  その透明な液体に纏われていた物とは・・・?  舞台は東京からアジア、そしてヨーロッパへ。  突如事件に巻き込まれ、不本意ながらも美女に連れ去られるクウヤと共に、ハードな空の旅をお楽しみください☆彡 ◆キャラクターのイメージ画がある各話には、サブタイトルにキャラのイニシャルが入った〈 〉がございます。 ◆サブタイトルに「*」のある回には、イメージ画像がございます。  ただ飽くまでも作者自身の生きる「現代」の画像を利用しておりますので、70年後である本作では多少変わっているかと思われますf^_^;<  何卒ご了承くださいませ <(_ _)>  第2~4話まで多少説明の多い回が続きますが、解説文は話半分くらいのご理解で十分ですのでご安心くださいm(_ _)m  関連のある展開に入りましたら、その都度説明させていただきます(=゚ω゚)ノ  クウヤと冷血顔面w美女のドタバタな空の旅に、是非ともお付き合いを☆  (^人^)どうぞ宜しくお願い申し上げます(^人^)

雪原脳花

帽子屋
SF
近未来。世界は新たな局面を迎えていた。生まれてくる子供に遺伝子操作を行うことが認められ始め、生まれながらにして親がオーダーするギフトを受け取った子供たちは、人類の新たなステージ、その扉を開くヒトとしてゲーターズ(GATERS=GiftedAndTalented-ers)と呼ばれた。ゲーターズの登場は世界を大きく変化させ、希望ある未来へ導く存在とされた。 希望の光を見出した世界の裏側で、存在情報もなく人間として扱われず組織の末端で働く黒犬と呼ばれ蔑まれていたジムは、ある日、情報部の大佐に猟犬として拾われ、そこで極秘裏に開発されたアズ(AZ)を用いる実験部隊となった。AZとは肉体を人間で構築し、その脳に共生AIであるサイ(SAI)を搭載した機械生物兵器、人工の子供たちだった。ジムは配備された双子のAZとともに、オーダーに従い表裏の世界を行き来する。 光の中の闇の王、食えない機械の大佐、変質的な猫、消えた子供、幽霊の尋ね人。 AIが管理する都市、緑溢れる都市に生まれ変わった東京、2.5次元バンド、雪原の氷花、彷徨う音楽、双子の声と秘密。 曖昧な世界の境界の淵から光の世界を裏から眺めるジムたちは何を見て何を聴き何を求めるのか。

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

処理中です...