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第一次真珠海作戦(後)
未だ言えぬ事実
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「…………そうしたらさ、ヴェンデッタと、僕の中にいる———ケイが言ってくれたんだ」
「……?」
リコは困惑の顔色を見せていた。……それはそうだろう、ケイはここにいる———なのに、僕の中にいるケイなんて言い方を、僕はしたもんだから。
「僕はずっと君を———騙してたことになるのかもしれない。
……実は、本当のケイはとうに———いないんだ」
「…………どういうこと?」
「僕の正体———聞いているかは分からないけれど、僕はあっち———オリュンポスからやってきた、君たちのスパイなんだ。……クーデターの真っ最中に、それは思い出した」
「スパイ…………だったの?!」
「そんな僕……いいや、この際本当の名前を言っちゃおう。
僕の名前はトゥルース。僕の本当の名前にして、このケイ・チェインズの身体を乗っ取った、敵側のスパイなんだ」
リコは思わず絶句していた。
『そんなこと知らなかった』なんて言わんばかりにポカンと開けられた口が、その困惑具合を助長する。
「あの時———僕がケイ自身の両親を殺したときには、既に僕はトゥルースに成り代わっていた。……でも、長い時を重ねて、僕とケイは重なり合った。同じ体を共有する人間として」
「ちょっちょ、ちょっと待って……つまり今の貴方は、ケイとトゥルースの……融合体……なの?
2人の人格が溶け合ってるって認識で……いい?」
めっちゃ物分かりが早いな、今に限って。ああいや、別に物分かりが悪そうな感じはしなかったし、不思議に思うことでもないか……
「うん、とりあえずそれでいいんだけど———」
「……聞いて」
話し始めた瞬間、リコに両頬を掴まれ、僕たち2人はガッチリと真正面から見合ってしまう。
「———っ!」
「じゃあさ………………私に、好きって……私のことを、大好きって言ってくれて、今まで生きてきた貴方は、どっちなの?
ケイ? それともトゥルース?…………どっち、なの?」
答えは…………あまりにも単純で、あまりにも簡単だった。
「僕たち———2人だ。
今の僕は、ケイ・チェインズという仮面を被った偽者、本来この世界に居場所なんてない存在。
……でも、君を好きだ———好きで好きでたまらない、そんな想いだけは本当だった。
クーデターの時———告白の、時…………僕の背中を押してくれたのは、紛れもない、僕の中にいるケイ自身だった、から」
「………………」
急にリコが黙りこくった。……ダメ、なのか。
僕自身じゃなくて、本当に彼女が愛してほしかったのは———やっぱりケイの方、だったのか。
そうか、やっぱり僕は———偽者で……
「———じゃあ、これで……本当の意味で、言えるね……!
ケイ……トゥルース……どっちで呼んでいいのか分からないけれど、でも私は———大好き!
今のケイが、今の貴方が、私も好きで好きでたまらない!……それでいいよね、ね!」
「…………」
涙ながらに想いを伝える彼女に、こっちまでもらい泣きしてしまう。
ほんの少しだけど、それでも僕は……彼女のために、泣けるんだ。
「———っ!」
涙を拭こうと眉を擦った瞬間、急に顔を寄せられる。
……そのまま、口と口が重なり合う。
濃密な時間。
そのまましばらくの間、僕たちはそうしていた。
静かなるユニットコンテナ。
頭が……なんかこう、もう幸せでいっぱいになる。
彼女のことを考えたいのに、頭がおぼつかなくって、あんまりよく分かんなくなる。
……でも、今は。
もう少しこのままでいたいって、そう思えたんだ。
「———ぷはぁ」
リコの間抜けな声で、その時間は終わった。
「……私、言えたよ!……ちゃんと、きちんと、伝えられた!」
「僕はまだ———言えてないよ」
「何……を?」
「『愛してる』って、まだ言えてなかったんだ」
その言葉を発した瞬間、もう一度2人で互いの顔を、目を見つめ合う。
あっちのソレはきょとんとしていたけれど、僕は僕で、穏やかな目つきで見れていた…………と思う。
「…………そうだね、そうだそう! まだ言ってないよ、愛してるって! 愛してる、愛してる愛してる、あいしてるっ!」
そうだ、僕は———ずっと…………聞きたかったんだ、その言葉が。
僕は君が好きじゃなかったら、僕はここまで来れてなかったから。
「そろそろ、帰ろう。ずっとここで話すのも何だし、続きは寮舎に帰ってからだ。……無事に帰れるといいんだけど」
「きっと帰れるよ。……だって私たち、生還率0とまで言われたこの作戦を、生き残って———」
そんな発言を台無しにするかの如く訪れる非常アラート。一体何が……?
『イチャイチャしてるとこすまないが聞いてほしい! 先程、一部Ξ標的の再起動を確認した! 第0機動小隊はこれを撃破することを最終任務とする! コーラス7、お前はヴェンデッタに戻れ!』
レイさんの声だった。レイさんに『イチャイチャしてるとこ』なんて言われちゃったよ。
「ケイ、これって……!」
「リコ———、絶対に、無理をするんじゃない」
「…………そうしたらさ、ヴェンデッタと、僕の中にいる———ケイが言ってくれたんだ」
「……?」
リコは困惑の顔色を見せていた。……それはそうだろう、ケイはここにいる———なのに、僕の中にいるケイなんて言い方を、僕はしたもんだから。
「僕はずっと君を———騙してたことになるのかもしれない。
……実は、本当のケイはとうに———いないんだ」
「…………どういうこと?」
「僕の正体———聞いているかは分からないけれど、僕はあっち———オリュンポスからやってきた、君たちのスパイなんだ。……クーデターの真っ最中に、それは思い出した」
「スパイ…………だったの?!」
「そんな僕……いいや、この際本当の名前を言っちゃおう。
僕の名前はトゥルース。僕の本当の名前にして、このケイ・チェインズの身体を乗っ取った、敵側のスパイなんだ」
リコは思わず絶句していた。
『そんなこと知らなかった』なんて言わんばかりにポカンと開けられた口が、その困惑具合を助長する。
「あの時———僕がケイ自身の両親を殺したときには、既に僕はトゥルースに成り代わっていた。……でも、長い時を重ねて、僕とケイは重なり合った。同じ体を共有する人間として」
「ちょっちょ、ちょっと待って……つまり今の貴方は、ケイとトゥルースの……融合体……なの?
2人の人格が溶け合ってるって認識で……いい?」
めっちゃ物分かりが早いな、今に限って。ああいや、別に物分かりが悪そうな感じはしなかったし、不思議に思うことでもないか……
「うん、とりあえずそれでいいんだけど———」
「……聞いて」
話し始めた瞬間、リコに両頬を掴まれ、僕たち2人はガッチリと真正面から見合ってしまう。
「———っ!」
「じゃあさ………………私に、好きって……私のことを、大好きって言ってくれて、今まで生きてきた貴方は、どっちなの?
ケイ? それともトゥルース?…………どっち、なの?」
答えは…………あまりにも単純で、あまりにも簡単だった。
「僕たち———2人だ。
今の僕は、ケイ・チェインズという仮面を被った偽者、本来この世界に居場所なんてない存在。
……でも、君を好きだ———好きで好きでたまらない、そんな想いだけは本当だった。
クーデターの時———告白の、時…………僕の背中を押してくれたのは、紛れもない、僕の中にいるケイ自身だった、から」
「………………」
急にリコが黙りこくった。……ダメ、なのか。
僕自身じゃなくて、本当に彼女が愛してほしかったのは———やっぱりケイの方、だったのか。
そうか、やっぱり僕は———偽者で……
「———じゃあ、これで……本当の意味で、言えるね……!
ケイ……トゥルース……どっちで呼んでいいのか分からないけれど、でも私は———大好き!
今のケイが、今の貴方が、私も好きで好きでたまらない!……それでいいよね、ね!」
「…………」
涙ながらに想いを伝える彼女に、こっちまでもらい泣きしてしまう。
ほんの少しだけど、それでも僕は……彼女のために、泣けるんだ。
「———っ!」
涙を拭こうと眉を擦った瞬間、急に顔を寄せられる。
……そのまま、口と口が重なり合う。
濃密な時間。
そのまましばらくの間、僕たちはそうしていた。
静かなるユニットコンテナ。
頭が……なんかこう、もう幸せでいっぱいになる。
彼女のことを考えたいのに、頭がおぼつかなくって、あんまりよく分かんなくなる。
……でも、今は。
もう少しこのままでいたいって、そう思えたんだ。
「———ぷはぁ」
リコの間抜けな声で、その時間は終わった。
「……私、言えたよ!……ちゃんと、きちんと、伝えられた!」
「僕はまだ———言えてないよ」
「何……を?」
「『愛してる』って、まだ言えてなかったんだ」
その言葉を発した瞬間、もう一度2人で互いの顔を、目を見つめ合う。
あっちのソレはきょとんとしていたけれど、僕は僕で、穏やかな目つきで見れていた…………と思う。
「…………そうだね、そうだそう! まだ言ってないよ、愛してるって! 愛してる、愛してる愛してる、あいしてるっ!」
そうだ、僕は———ずっと…………聞きたかったんだ、その言葉が。
僕は君が好きじゃなかったら、僕はここまで来れてなかったから。
「そろそろ、帰ろう。ずっとここで話すのも何だし、続きは寮舎に帰ってからだ。……無事に帰れるといいんだけど」
「きっと帰れるよ。……だって私たち、生還率0とまで言われたこの作戦を、生き残って———」
そんな発言を台無しにするかの如く訪れる非常アラート。一体何が……?
『イチャイチャしてるとこすまないが聞いてほしい! 先程、一部Ξ標的の再起動を確認した! 第0機動小隊はこれを撃破することを最終任務とする! コーラス7、お前はヴェンデッタに戻れ!』
レイさんの声だった。レイさんに『イチャイチャしてるとこ』なんて言われちゃったよ。
「ケイ、これって……!」
「リコ———、絶対に、無理をするんじゃない」
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