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Side-1:希望と贖いの旅々(後)

分かり合う道を( Ⅲ )

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「…………っ……ここ、は……」

 モニターは回復しきっていた。
 機体の損傷率は……6パーセント。左脚装甲と右脚装甲が破損、腕部には破損箇所はなし。戦闘行動にはほとんど支障はない。

 オマケに右腿部についていたボードランサーも……その損傷率は10パーセント以内に留まっている。不幸中の幸いだ。
 
 腕に持った卵も……無事であると信じたい。


「ここ…………どこなんだ……?」

 青と緑の、鮮やかな色彩に包まれた謎の空間。……が、見上げた上には大きな穴のようなものが空いており、そこから空を見上げることができた。

 ……つまり、地下空間だろうか。

『コッ、コケッ、コケッコ』

 首を振りながら、ブレイブバードはこちらに近づいてくる。よかった、無事だったんだ、こっちも。

「……コレは返すよ」

 巣を地面に置く。アレだけ崩落したにも関わらず、ここら辺は斜めになってはいるが平坦だ。

『コッケ、コケケッコ』

 動物の気持ち……なんてわからないけど、どこがはしゃいでいるような印象を、しぐさから受けた。

「ガスさんたちはどこかな……無事だといいんだけど」

 かなり広い空間だった。空間内には緑と青の光が充満し、どこまでもきらびやかな視界だった。

 ……ただ、やはりここ以外、足場がおぼつかない。どこか尖ってたりするし、サイドツーで行くのは不向きか。

「降りよう……かな」

◆◆◆◆◆◆◆◆

 ユニットコンテナから降り、その床に足をつけた瞬間、僕はそのふわっとした感触に違和感を覚えた。

 ……が、その違和感は、僕の確認不足だったことがすぐにわかる。

「……草?……たった今、崩落したばかりの岩に……草が生えてる……?」

 草が生えていることは———まあ普通に考えればおかしくはないのかもしれない。……だけど、やはりおかしかった。

 その雑草たちは、何かに押し潰されたような痕跡はなく———しかも、その空間の床全体に広がっていた。

「まさか、今この場で生えてきたとでも言うのか……?!」

 そりゃあおかしいとは思ったが、そうとしか思えない。

 ……一体なんなんだ、この空間は———っ?!

「なん……だよ、アレ……?!」

 辺りを探索しようと後ろを向いた時。
 僕の背にそびえていたのは、巨大な黒い壁画のような何かだった。

 壁画と言っても、絵は何一つ書かれていない。オマケに人の手が入った様子もゼロ。

 ただ———何か、巨大な人……のようなものが、その壁にはまっていたことを示唆するような……そんなくぼみが出来上がっていた。大きさはサイドツー程度。

 ……とは言え、おかしいものはおかしい。その黒い壁だけには、あの青と緑の輝きがなかった。

 ……もしや、あの壁がここら一帯にある異常の原因なんだろうか?

 分からない、とりあえず今はガスさんたちを———、


『おかえり』
「うおわぁっ?!」

 僕の耳元で、フォルスさんはそっと囁いた。……と言うかやめてほしい、なんかこう……ゾクっとするし、普通に怖いから。

『……って、そう言ってますよ、あの壁が』
「あの壁が……話してる?」

『はい、壁というより———この空間そのものが、ケイさんに話しかけているような、そんな感じがします。

 おかえり、って言ってるんですけど、どれも私に宛てられた言葉ではないような気がするんです』

「僕に、宛てられた———帰りの言葉……?

 っ、そういえばガスさんとジェールズさんは……」

『大丈夫ですよ、今は気絶してますが……起きてるのは私だけです、今なら———この空間と何を話そうと、私以外の誰かに聞かれることはないので安心ですよ!』

「……話しても、いいんですか?」

『……この空間自体が、ケイさんと話たがってるんですって。……それを繋ぐのが、私の役目だそうで。

 幸い魔力のバックアップは完璧です。この空間、やっぱり何かおかしいとは思うのですけど、まあ今は対話の時間ですね!』

「———じゃあ、言いますよ。

 君は誰なんですか、何で僕におかえりと言うんですか?」


『『……私は———アンジュのただの残滓、残留思念の成れの果て。』』

 ……誰?

『『ここに、貴方がもう一度来てくれることをずっと待っていました。

 ……貴方が、2つの身に分かたれ、そしてその一部を、このに分け与えたころから』』

「何を……言って……」


『『少年。……貴方たちが『ヴェンデッタ』と呼ぶソレ———『エンジェリオン』は、元々ここに封印されていた、天使のアーキタイプの創世の器。最初の天使と共に生まれた、もう一つの紛い物の命なのです。

 そして、今の貴方は———『ケイ・チェインズ』という人間に、ヴェンデッタの残滓が混ざった状態。ヴェンデッタと完全に一つになり、その力を制御するための仕掛けが、ここにあります』』

 ……分からない、残留思念……だと……?
 ヴェンデッタと完全に一つに…………力を制御……?

『『貴方の旅で得た経験、その全てを、ヴェンデッタに教えるのです。……そして、ヴェンデッタを信じなさい。抗い続けてなお、ヴェンデッタを信じれば———きっと、力を貸してくれるはずです』』

「貴方は———残留思念って言ったって、誰の———誰のソレなんですか、一体……!」

『『かなり昔の話です。貴方には関係のないことですが、名前だけは言いましょう。

『イヴ』。『イヴ・アンジュ』。ソレが、私の本来の名前です』』

「イヴ……アンジュ……何で、僕に教えてくれるんですか。どうして、ヴェンデッタは僕を選んで———、」

『『貴方には関係のない話です。

 ……行きなさい! 貴方の助けを待つ者が、貴方の到来を待つ者がいます。そのような状況に、今はなっているのです。

 もう一度ヴェンデッタに乗って、そして全てを変えなさい!

 ———愛する者を、失いたくないのならば』』






『……ってな感じで、今のが伝えられた言葉だったのですが……何かヤバい感じですね』



「つまり———行かないといけないんですね、僕」




『ええ。……おそらく、そのような何かが起きているのでしょう。その……ヴェンデッタ……? とやらに、乗り込まなければならないほどの事態が』


 行かないといけない。のに、今はちょっと……そういう気分じゃない。
 せめて最後は、ガスさんとジェールズさんとフォルスさんに、お礼を言ってから……行きたいんだ。



「ガスさんと、ジェールズさんを起こしてくれますか?

 ……いろいろお世話になったので、別れの挨拶はしておきたいんです」

 

 でも、とりあえず僕は行かなきゃいけないというのは分かっていた。
 アンジュさんの、最後の言葉。愛する者を失うこと。それはきっと、僕が行かなかったらそうなるんだ。
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