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Side-2:最悪へと向かう風上
第0機動小隊、休息。
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「あ、ブランおっかえり~っ!」
「おかえり、ブランくん」
「おお、おかえり!」
第0機動小隊。
そのメンバーとなる人間は、今はこの大部屋で過ごすことが義務付けられている。
王都の感じにはそぐわない、白い床と壁の部屋。そこに日ノ國式の布団を敷いただけの、あまりにも簡素すぎる部屋。
……ただ、続く2回の戦闘を経て、総勢16名だったはずの第0機動小隊も、今ここにはいないセン隊長とヤンスとくいなとケイを含めない5人にまで減少してしまった。
「ちょっと~? せっかく私が話してあげてるのに全く聞いてないんですけど~?」
「やめてあげようリコちゃん、今はブランくん……なんか誰とも話したくなさそうだしさ」
「……まあ、気が向いたら俺に声かけてもいいからな! 元気出せよ!」
今話していたのは、残った第0機動小隊のメンバーたちだ。
リコと呼ばれた少女、その名を呼んだニンナ、最後の最後に追い打ちのように言葉をかけてきた秀徳。
……そして、今まで一声も発していない、部屋の隅で本ばっか読んでる少年、ランド。
……この5人が、今の第0機動小隊のレギュラーメンバーだ。
随分とか細くなったもんだ。
「おいブラン! お前もランドみたく部屋の隅に閉じこもる気かよ!」
「結局お前から声をかけてくるのかよ……やめてくれ、今日の俺は———誰とも話したくないんだよ、秀徳」
そうだ。誰とも話したくはない。今日はそういう気分じゃないし、俺にはベーゼンドルファーを扱えなかったという責任もある。
だから、今だけはやめてくれ。
「いいじゃねえかよ、いつまた戦闘が起きるか分からねえんだ、今のうちにいっぱい話しとくのが吉だぜ?
それにっ! 燃える心というのは、このようななんでもない時に育んでおくものだぜっ!」
「———うるせえなぁ、今日は話したくないつってんだろっ!」
叫んだ瞬間、場は一斉に鎮まり返った。あっちの方で話していたリコとニンナも、互いに黙りこくってしまった。
「ちぇっ、つれねえヤツだなぁ」
「……どけ、俺に近寄んな」
……今の自分は、これ以上何を言ってしまうかも分からないから。
「ブランくん、流石にその言い方はひどいと思うよ」
「お前の気持ちなんか言われたところで、俺は何も変えないぞ、ニンナ。
……それに今の俺は誰とも話したくないって言ってるんだ、わざわざ声かけてくる方が悪いんだよ!」
閉じこもる。
その真意を誰にも悟られないために。
……自分でさえも、その心の真意は掴めてはいなかったのに、コイツはそんな時だけ喋りやがる。
「…………本当は話しかけてほしいんじゃないの」
部屋の隅から聞こえた、か細い声。
どこまでも儚く、今にも途切れそうな少年の、弱々しい声。
———だがその言葉は、確実に真理を突いていた。
「っ、何を……っ!」
「……本当は話しかけてほしいのに、自分から話す道を閉ざすなんて……哀れだねと思っただけ」
その言葉に俺はカッとしてしまい、次の瞬間には俺の足はランドの元まで動いてしまっていた。
「……」
「いつもはそうやって黙りこくってる癖に、都合がよくなったら語り始めて……何なんだよお前……!」
「図星で……怒った?」
「んぎぎぎ……コイツ……ッ……!」
「君と僕は同じなんだ。……だから僕にも分かるんだよ、その気持ちは。
互いに話し始めたら相手を傷付けてしまうから、君は相手を拒絶して、僕は黙っているだけ。……違うのは、性格だけだ」
「…………何が言いたい」
「それは僕の方から言うべき言葉だ。……ブラン、君は何を言いたいんだ?……本当は何を言ってやりたかったんだ?
……僕が言う言葉はそれだけだ、他人にどんな言葉をかけてやるべきか———それは君が選ぶんだよ」
そう告げた瞬間、ランドはまた本を広げ、優雅に床に寝そべってソレを読み始めた。
……とても同年代の人間とは思えないような言葉だった。……それで。
『どんな言葉をかけてやるべきか———それは君が選ぶんだよ』
その言葉が胸に残ったまま、俺は口走った。
「……あの……色々教えてくれて、ありがとうな」
広げた本の裏にあったランドの表情が、少しばかりほどけるのを、俺はこの目で見届けた。
「おかえり、ブランくん」
「おお、おかえり!」
第0機動小隊。
そのメンバーとなる人間は、今はこの大部屋で過ごすことが義務付けられている。
王都の感じにはそぐわない、白い床と壁の部屋。そこに日ノ國式の布団を敷いただけの、あまりにも簡素すぎる部屋。
……ただ、続く2回の戦闘を経て、総勢16名だったはずの第0機動小隊も、今ここにはいないセン隊長とヤンスとくいなとケイを含めない5人にまで減少してしまった。
「ちょっと~? せっかく私が話してあげてるのに全く聞いてないんですけど~?」
「やめてあげようリコちゃん、今はブランくん……なんか誰とも話したくなさそうだしさ」
「……まあ、気が向いたら俺に声かけてもいいからな! 元気出せよ!」
今話していたのは、残った第0機動小隊のメンバーたちだ。
リコと呼ばれた少女、その名を呼んだニンナ、最後の最後に追い打ちのように言葉をかけてきた秀徳。
……そして、今まで一声も発していない、部屋の隅で本ばっか読んでる少年、ランド。
……この5人が、今の第0機動小隊のレギュラーメンバーだ。
随分とか細くなったもんだ。
「おいブラン! お前もランドみたく部屋の隅に閉じこもる気かよ!」
「結局お前から声をかけてくるのかよ……やめてくれ、今日の俺は———誰とも話したくないんだよ、秀徳」
そうだ。誰とも話したくはない。今日はそういう気分じゃないし、俺にはベーゼンドルファーを扱えなかったという責任もある。
だから、今だけはやめてくれ。
「いいじゃねえかよ、いつまた戦闘が起きるか分からねえんだ、今のうちにいっぱい話しとくのが吉だぜ?
それにっ! 燃える心というのは、このようななんでもない時に育んでおくものだぜっ!」
「———うるせえなぁ、今日は話したくないつってんだろっ!」
叫んだ瞬間、場は一斉に鎮まり返った。あっちの方で話していたリコとニンナも、互いに黙りこくってしまった。
「ちぇっ、つれねえヤツだなぁ」
「……どけ、俺に近寄んな」
……今の自分は、これ以上何を言ってしまうかも分からないから。
「ブランくん、流石にその言い方はひどいと思うよ」
「お前の気持ちなんか言われたところで、俺は何も変えないぞ、ニンナ。
……それに今の俺は誰とも話したくないって言ってるんだ、わざわざ声かけてくる方が悪いんだよ!」
閉じこもる。
その真意を誰にも悟られないために。
……自分でさえも、その心の真意は掴めてはいなかったのに、コイツはそんな時だけ喋りやがる。
「…………本当は話しかけてほしいんじゃないの」
部屋の隅から聞こえた、か細い声。
どこまでも儚く、今にも途切れそうな少年の、弱々しい声。
———だがその言葉は、確実に真理を突いていた。
「っ、何を……っ!」
「……本当は話しかけてほしいのに、自分から話す道を閉ざすなんて……哀れだねと思っただけ」
その言葉に俺はカッとしてしまい、次の瞬間には俺の足はランドの元まで動いてしまっていた。
「……」
「いつもはそうやって黙りこくってる癖に、都合がよくなったら語り始めて……何なんだよお前……!」
「図星で……怒った?」
「んぎぎぎ……コイツ……ッ……!」
「君と僕は同じなんだ。……だから僕にも分かるんだよ、その気持ちは。
互いに話し始めたら相手を傷付けてしまうから、君は相手を拒絶して、僕は黙っているだけ。……違うのは、性格だけだ」
「…………何が言いたい」
「それは僕の方から言うべき言葉だ。……ブラン、君は何を言いたいんだ?……本当は何を言ってやりたかったんだ?
……僕が言う言葉はそれだけだ、他人にどんな言葉をかけてやるべきか———それは君が選ぶんだよ」
そう告げた瞬間、ランドはまた本を広げ、優雅に床に寝そべってソレを読み始めた。
……とても同年代の人間とは思えないような言葉だった。……それで。
『どんな言葉をかけてやるべきか———それは君が選ぶんだよ』
その言葉が胸に残ったまま、俺は口走った。
「……あの……色々教えてくれて、ありがとうな」
広げた本の裏にあったランドの表情が、少しばかりほどけるのを、俺はこの目で見届けた。
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