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Side-1:希望と贖いの旅々(後)

失意の底

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『ありがとおおおおおおっ!』
『勇者だ、アイツこそ本物の勇者だ!』
『サイドツーの、人界軍の奴らを追い払ってくれるなんてサイコーッ!』
『トゥルース最高!』
『『『『トゥルース最高っ!!!!』』』』



 きこえる、かんせい。
 ぜんぶが、ばとうにきこえて、しかたがない。



 僕が、殺した。
 この手で。人を。
 悪意を持って、自らの意思で、


 なんだかとても、あっけなかった。
 本当にあっけなく、人は死ぬんだな、とよく分かった。
 あれだけ分かっていたはずなのに。


 いいや、あれだけ分かっていたからこそ、僕はあの時怒りに任せてしまったのかな。

『死んだんだろ、だったらソイツらにはんだよ、きっとなぁ!』

 そんなわけ。
 そんな、わけ、ないじゃないか。






『———、ショーゴォッ!』

 ……だったら、ショーゴのあの死には、意味がなかった、だと……?
 死んだやつに、意味なんて……なかった、と、そう言いたいのか、お前は……!


「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

 

 誰にも聞かれない、必死の叫び。
 固く閉ざしたユニットコンテナの中で、1人。

 いつまでも、いつまでも叫び続けた。

 もはや考えることすらやめた。考えることすらできなくなった。いわゆる鬱というやつなのだろうか。分からない。分からない。分からなくていい。



『トゥルース最高! トゥルース最高! トゥルース最高! トゥルース最高! トゥルース最高!』

 やめてくれ。
 僕は、そんな人間なんかじゃない。

『トゥルース最高! トゥルース最高! トゥルース最高! トゥルース最高!』

 仮面を被っただけなんだ、臆病なだけなんだ。
 逃げ出せないんだ。向き合えないんだ。


 どこも最高なんかじゃないのに。何で、どうして。


 どうして人を殺したというのに、そんなに笑っていられるの?
 何で人を殺したのに、僕を褒められるの?

 あの時とは違う。
 あの時は、人を殺したから非難された。
 だから違う。今は人を殺したから賞賛されている。

 どっちだって同じことだ、人を殺したのには変わりない。人数、大切な度合い、それらは変わろうと、僕が犯した罪は変わらない。

 人を殺して、喜ばれるんだ。

 それで、喜ぶんだ。
 
 それは、それは、何かを見失ってるような気がして、嫌なんだけど。
 考え出したらきっと止まらない。だから、せめて今はその考えに飲まれて、溺れることにした。



◆◇◆◇◆◇◆◇


 何時間経った?
 何日経った?
 何年経った?

 とりあえず、寝ることにした。
 もう何もしたくなかったし、考えることもしたくなかったから。

 でも、寝ても変わらない。前と同じ悩みが、変わらない体の中で持ち越されるだけ。

 結局僕自身が、弱い人間だって———起きる度に突きつけられる。

 グゥ~ッ。


 腹の虫。嘆く暗闇の底で、我こそはと叫ぶ虫。


 うるさい。そんな声聞きたくないんだ。

「ね……たい、けど、ねれ……ない……」

 3度の睡眠。流石に身体の目も覚めてしまった。

 よだれと尿まで垂れ流しにして、何もかも動く気が起きない虚脱の中。
 それでは嫌だ、と、いつものように反発する自分は、そこにはいなかった。

 これが、贖罪か。
 贖罪なのか、こんなものが。
 違うな、きっと。

 僕はただ、逃げているだけなんだ、と。

 リコ、君からも———、罪からも、逃げたんだ。

 逃げ出して、逃げ出して、逃げて、逃げて、転げ回って、ひたすら擦りむけまくって。

 辿り着いた先は、永遠の暗闇。
 もはや動くことも、声を出すことも、見ることも、聞くことも、何もかも叶いはしない暗闇の中。


 ごめん、なさいと。

 僕はそっちには、行けないと。

 待ってくれている、君の元には、絶対に行けないと。


「僕には……贖罪なんて、そんなことできなかった……!

 僕は救世主でも、ヒーローでも、英雄でも何でもない……ただの、何もできない、ひ弱なガキだったんだ……

 こんなものに縋って、人を殺して、もう何もしたくなくなって…………こんな僕になんて、何も、何もできっこないんだよ…………僕には、何も……!」


 前を向くはずだったのに。
 どこまでも中途半端で。
 揺れ動いて、また揺れ動いて、そして結局崩れ去る。


 君に、誓った、はずなのに。



 何度ソレを嫌だと思ったか。何度ソレを憎んだか。
 どれだけ自分を憎んだか。どれだけ他人を憎んだか。

 殺したくて、殺したくて。こんな自分、粉々になるまで殺し尽くしたくて。

 あの日、君に言った『好き』の言葉さえ、もはやその全てが嘘に思えてくるほどに。



 嘘と欺瞞だらけのこの僕に、何があるのか。


 何もない、ただ、終わりを待つのみだ。
 助けはない。僕になんて、そんなものはないし、あってたまるかって思うから。




「…………」
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