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Side-1:希望と贖いの旅々(前)
感謝と後悔
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◆◇◆◇◆◇◆◇
『おーい、起きろー、起きろよー、メシは用意してやったぞ、おーい』
重い瞼を開ける。入り込んでくる眩しい日差し。少しキツい臭いと共に入り込んでくる、ご飯の美味しそうな匂い。
優しさと温もりを感じながら、そのベッドから起き上がる。
ベッドの横。引き出しのついた、小さな木のテーブルの上に置いてあったのは、皿に乗った乱雑な卵の料理。
ところどころ焦げているのを見る限り、きっと料理が下手だということは想像できたが。
……だけれども。
「おう、おう。ようやっと起きたか、少年。
まずはご飯を食べて、話はその後だ」
「……これ、を……僕の、ために……?」
「そうだ、はよ食べろ。オイラはそこまで暇じゃねえんだ」
下手な料理だろうと、僕のために一生懸命作ってくれた———その事実を想うと、その温もりから涙が溢れてきた。
「お……おめぇ、なんで泣いてんだ……?」
「い……いや、あの…………作ってくれて、ありがとう……ございます……!!」
その事実だけで、もう僕は泣きじゃくることしかできなかった。
自覚した罪。どうしようもない過去。そんな僕に恵んでくれて、どこまでもどうしようもない感謝が溢れ出す。
その飯を口に入れる。やはりお世辞には美味しいと言えたものじゃなかったけれど、それでも僕は泣きながら、そのご飯を噛み締める。
「どうだ、おいしいか?」
本音じゃない。本音なんかじゃなくて、ただのお世辞。だけれども、今の僕の感謝を伝えるにはこれしかなかったんだ。
「はい……一番…………おいしいです……!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……で、事情聴取といこうやないか」
「……」
ご飯を食べ終わって数十分した後のことだった。事情聴取。何の目的か分からないが、とりあえず聞き入れるしかない。
「まず、おめぇは軍のもんか?」
「軍……人界軍と言うのなら、それは合ってます。……ただ、今はソレとは離れて行動していると言うか……」
「は~……意味が分かんねえ……次だ!
おめぇの目的は何だ? 何の目的があって、おいらの店の前に座り込んでいた?」
何の目的があった?
そう言われると、釈然としない。
何か目的があったわけじゃない。何かを為そうとここに来たわけじゃない。
本当に何もない。ただの『なんとなく』だった。そんななんとなくだからこそ、何も言うことはなかった。
「…………質問を変えよう。
お前たちはオイラん家に、税金をむしり取りにきた! 違うか?!」
「税金?! いやぁ……僕たちは戦うだけなので、税金を取るのとは違うんですけど……」
「あ…………お、おお……じゃあ……違うんだな? おめぇは別に、税金を取りに来たわけじゃ———」
「……ありません。僕は、ただ…………旅をしていただけなんです」
「旅ぃ?」
「はい。色々とあって、旅をしようと決意して……軍を抜けて、そして今はここにいます。
でも……お金もなくて、食べ物も買えなくて、このまま死ぬと思って……」
「そしたらオイラがいたわけだ! なっはーっ! オイラ人助けしちまったわけだわ!」
「はい……本当にありがとうございます、本当に助けになりました……!」
「感謝はいい、オイラの前では仕事で示してもらうことに———んだぁ?!」
突如響く爆発音、窓をギシギシと揺らす衝撃。
何があったのか、と慌てて2人覗いた外には、煙とは別に火の手を上げる家屋が。
そしてその奥にいたのは———人界軍のサイドツーだった。
「……っ!」
「来やがった……クソッ! 税金を踏んだくるためにあんなことまでしやがって!」
行かなきゃ。恩返し、したいんだろと心が囁く。
「……すいません、僕……行きます」
「あえ……何だって?」
すぐさま窓を上に開いて、そこから地面に向かって落下する。
受け身を取りながら着地し、そのまま林の方向へ走る。
「ちくしょーーーーっ! やっぱりテメェはヤツらの仲間だったかーーーーっ!」
さっきの男性は、妙な勘違いをしたのか窓の中から叫び散らかしている。……関係ない、今は僕が走って、僕の手でアレを片付ける。
「今だ、今がサイドツーを使う時なんだ……!!!!」
『おーい、起きろー、起きろよー、メシは用意してやったぞ、おーい』
重い瞼を開ける。入り込んでくる眩しい日差し。少しキツい臭いと共に入り込んでくる、ご飯の美味しそうな匂い。
優しさと温もりを感じながら、そのベッドから起き上がる。
ベッドの横。引き出しのついた、小さな木のテーブルの上に置いてあったのは、皿に乗った乱雑な卵の料理。
ところどころ焦げているのを見る限り、きっと料理が下手だということは想像できたが。
……だけれども。
「おう、おう。ようやっと起きたか、少年。
まずはご飯を食べて、話はその後だ」
「……これ、を……僕の、ために……?」
「そうだ、はよ食べろ。オイラはそこまで暇じゃねえんだ」
下手な料理だろうと、僕のために一生懸命作ってくれた———その事実を想うと、その温もりから涙が溢れてきた。
「お……おめぇ、なんで泣いてんだ……?」
「い……いや、あの…………作ってくれて、ありがとう……ございます……!!」
その事実だけで、もう僕は泣きじゃくることしかできなかった。
自覚した罪。どうしようもない過去。そんな僕に恵んでくれて、どこまでもどうしようもない感謝が溢れ出す。
その飯を口に入れる。やはりお世辞には美味しいと言えたものじゃなかったけれど、それでも僕は泣きながら、そのご飯を噛み締める。
「どうだ、おいしいか?」
本音じゃない。本音なんかじゃなくて、ただのお世辞。だけれども、今の僕の感謝を伝えるにはこれしかなかったんだ。
「はい……一番…………おいしいです……!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……で、事情聴取といこうやないか」
「……」
ご飯を食べ終わって数十分した後のことだった。事情聴取。何の目的か分からないが、とりあえず聞き入れるしかない。
「まず、おめぇは軍のもんか?」
「軍……人界軍と言うのなら、それは合ってます。……ただ、今はソレとは離れて行動していると言うか……」
「は~……意味が分かんねえ……次だ!
おめぇの目的は何だ? 何の目的があって、おいらの店の前に座り込んでいた?」
何の目的があった?
そう言われると、釈然としない。
何か目的があったわけじゃない。何かを為そうとここに来たわけじゃない。
本当に何もない。ただの『なんとなく』だった。そんななんとなくだからこそ、何も言うことはなかった。
「…………質問を変えよう。
お前たちはオイラん家に、税金をむしり取りにきた! 違うか?!」
「税金?! いやぁ……僕たちは戦うだけなので、税金を取るのとは違うんですけど……」
「あ…………お、おお……じゃあ……違うんだな? おめぇは別に、税金を取りに来たわけじゃ———」
「……ありません。僕は、ただ…………旅をしていただけなんです」
「旅ぃ?」
「はい。色々とあって、旅をしようと決意して……軍を抜けて、そして今はここにいます。
でも……お金もなくて、食べ物も買えなくて、このまま死ぬと思って……」
「そしたらオイラがいたわけだ! なっはーっ! オイラ人助けしちまったわけだわ!」
「はい……本当にありがとうございます、本当に助けになりました……!」
「感謝はいい、オイラの前では仕事で示してもらうことに———んだぁ?!」
突如響く爆発音、窓をギシギシと揺らす衝撃。
何があったのか、と慌てて2人覗いた外には、煙とは別に火の手を上げる家屋が。
そしてその奥にいたのは———人界軍のサイドツーだった。
「……っ!」
「来やがった……クソッ! 税金を踏んだくるためにあんなことまでしやがって!」
行かなきゃ。恩返し、したいんだろと心が囁く。
「……すいません、僕……行きます」
「あえ……何だって?」
すぐさま窓を上に開いて、そこから地面に向かって落下する。
受け身を取りながら着地し、そのまま林の方向へ走る。
「ちくしょーーーーっ! やっぱりテメェはヤツらの仲間だったかーーーーっ!」
さっきの男性は、妙な勘違いをしたのか窓の中から叫び散らかしている。……関係ない、今は僕が走って、僕の手でアレを片付ける。
「今だ、今がサイドツーを使う時なんだ……!!!!」
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