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Side-1:希望と贖いの旅々(前)

放浪

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 また、空だ。
 結局2週間前の、ジャンおじさんの家に泊まる前と何も変わっちゃいない。

 上空60メートル。
 地上に乱立する、塩の柱の頂点付近の高度。

 まるでそこにある何かを支える柱のように、この高度に来て全ての柱は途切れている。

 直下には、未だに照りつける日差しを反射し続けている、虹色の大地が。

 やっぱり、どこまで見ても異常だ。

 異常、異常。異常だらけで、本当に気持ち悪い。

「ん……っ、」

 塩の柱。人間が、虹の雨に触れて変わった姿。この巨大な柱1つ1つが、元は人間だった。

 ただの人間で、普通に生活していただけの人々が。クーデターに巻き込まれて、ただ逃げ続けていただけの人々が化した、塩の柱。

 その光景を、そこに出来上がった地獄を想像して、少しばかり吐き気がしてきてしまった。

 このような地獄に。このような光景に。このような罪に、どう贖えばいいのか、と。

 僕にとっての贖罪とは何だ、何が僕にとって———世界にとって、贖罪たり得るのかと。


「……どうすれば、いいんだろう」

 まだ、帰る時じゃない。
 まだ、何も償っていない。何にも贖えていない。

 まだ、愛してもらうには———早すぎる。

 空。空、澄み渡る青い空。
 何にも悩みなんてないように、ただ無邪気に広がり続けるその景色を、僕はひたすらに見つめ続け。

 そして、それを羨んで、妬んだ。
『おまえはいいな』と。




 何にも失ってなんてなかった。別に何も、気に病むことなどないし、何も悲しいことなんてない。

 なのに、なのに何で———どうしてここまで悲しいのだろう。

 何で僕は、胸が苦しくて張り裂けそうなんだろう。


 コレは分かる。『恋』とは違う。アイツへの『愛』でもない、僕から始まって僕に帰結して僕で完結する『鬱』だ。

 何をすればいいのか分からない。
 旅をする、とは言ったものの、僕自身はどう生きればいいのか分からない。

 贖罪も、何もかも。本当に為すべきことを、僕は忘れてしまっていた。

「どうし……よう、お腹……減ったな……」

 そう言えばと、今日は何1つ食べていないことを思い出す。だがしかし空腹は収まらない。

 だからと言って、今の僕にレメルがあるわけでもない。そんなものは持ち出していないし、そもそもあの寮では金なんて持ち歩く必要がなかった。

「…………っ!」

 体勢を崩し始めたサイドツー。その崩れを利用しながら、ボードランサーを加速させる。

 どこに行こうか———それも分からない。ただ、どこか町に行こう、と。

 どこかの町に行けば、ちょっとくらいは収まってくれるはずだ、少しくらいは紛らわせてくれるだろうと信じて。


「んうううううぅぅぅぅっ!」

 凄まじい降下に準ずる突風が、サイドツーの本体を襲う。揺れるユニットコンテナ。

 スラスターを吹かして徐々に減速し、風の壁を完全に抜けきる。

 見えた景色は———それでもやはり、一部が虹色に染まっていた。

 でも、その侵食を逃れた地上は、緑の芽を見せているところもあって———それがどこか、僕の心に安心を与えてくれた。

 そうして見えてきたのは、赤い海とそこに接するようにできている港町。

 いつの間にそんなものができていたのか、と感心し、そして決心した。


「…………降り……よう、あそこに……」
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