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Side-1:希望と贖いの旅々(前)
新たなる門出
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サイドツー。
僕と一緒にいてくれた、僕の、僕だけの相棒。……いや、相棒はヴェンデッタなんだけれども。
そのサイドツーに乗りながら。ボードランサーで魔力舞う空中を滑空し、雲の壁を乗り越えて、先へ。
もはや円環は広がらず、白い柱も立つことはなく。空に広がった虹の異常光景もなく、ただ明るい陽の光と、澄み切った青空が広がっていた。
リコが言っていた。あの中に巻き込まれた人たちは、いずれ全て元に戻るって。
ファーストヘヴンズバーストに巻き込まれた人たちは……戻らない。それは僕の罪として、僕が背負わなければいけない。
でも、リコが起こしたセカンドヘヴンズバーストは……別に、その罪は誰も背負うことがないんだ。だって、全て無かったことになるから。
だから僕も、安心して旅に出れる。
食糧は……あんまりない。サイドツーの燃料は…………何だコレ、マジニックジェネレーター…………ヴェンデッタにもあったアレってのは分かるけど、実際僕もよく分かんない。
ああ、気持ちいい。心地がいい。僕自身が木の枠で囲まれた枠組みになって、その中を風が飛び抜けたように爽やかだ。
この瞬間を噛み締めて、風の先へ。
どこに行き着くか分からない。どこに行けばいいのかも分からない。分からないけど、どうしよう。
いっそのこと、一度ここで睡眠して、どこにサイドツーが不時着するかでも試してみようかな。
どうしよう、どうしよう……かな…………
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん…………ぅ…………ぁ……」
意識は朧げだ。僕は……何をしていた?
「ここは……」
真っ暗だ。まさか、ユニット……コンテナ?
「……ええっ、えっ、うそ、まさか……?!」
そう言えば、と。意識が途切れる直前の僕の気持ちを思い出した。
「まさか…………本当に寝たの、僕ぅ?!」
自分でも信じられなかった。
あんなに爽やかな気持ちで空を飛んでいたのに、いつの間にこんな落ちぶれてしまったのか、と。
「…………どうしよ」
数分かけて熟考した結果、なんだかんだで外に出てみることにした。
右手の操縦桿の上にあるサイドツーのハッチレバーを下ろし、ユニットコンテナの正面が開く。
まばゆい日差しが照りつけてくる———と思っていたら、僕の目に飛び込んだのは一面の星空だった。
「……ああ、綺麗だな」
自らの置かれている状況にも気付かず、そんな陳腐な感想を漏らす。
それでも、その星空は本当に綺麗だった。一度は自分で汚してしまったことを考えると、ちょっと胸が痛むが。
「……やっと出てきたか、ずっと待っておったんだがな……」
……ん?
今、今———何が聞こえた?
声?
僕以外の、人の、声?
「ううううわぁぁぁぁぁあっ?!?!」
ユニットコンテナからほんの少し這い出ただけの僕の横から、僕をそっと覗いていた老人がいた。
「やはり人が乗っておったか。……しかし、コレが人界軍の新技術……とやらか。
……いやあ、壮観というか何というか……」
「あの……誰———あ、こんばんは……ところで、誰……ですか……?」
「そこの家の住人じゃよ。……いやあ、真っ昼間からこんな物騒なモンが落ちてきたもんでな、鬼が出るか蛇が出るかと見張っておったんよ」
そういうと、その老人は『家』と名付けられたものを指差した。
…………家?
「おっと……確かに、アレを家と言うには……少しばかり酷いもんじゃが、まあ住むには問題ないだろう」
その家には、なんと落石が直撃していた。どこから来たのか分からないような、激突してある程度時間が経ったであろう劣化と汚れが見られる、巨大な落石。
それに直撃していながらも、まるでソレを家の一部として捉えているかのように改装されたその家の周りに、僕は一番、心の底から驚いた。
「……もう、夜も遅い。今日はここに泊まっていかんか?」
「…………いいんですか、お世話になっても?」
「大丈夫だよ、こんなへんぴな場所には滅多に人が来ないからな、わしも退屈だったんじゃよ」
僕と一緒にいてくれた、僕の、僕だけの相棒。……いや、相棒はヴェンデッタなんだけれども。
そのサイドツーに乗りながら。ボードランサーで魔力舞う空中を滑空し、雲の壁を乗り越えて、先へ。
もはや円環は広がらず、白い柱も立つことはなく。空に広がった虹の異常光景もなく、ただ明るい陽の光と、澄み切った青空が広がっていた。
リコが言っていた。あの中に巻き込まれた人たちは、いずれ全て元に戻るって。
ファーストヘヴンズバーストに巻き込まれた人たちは……戻らない。それは僕の罪として、僕が背負わなければいけない。
でも、リコが起こしたセカンドヘヴンズバーストは……別に、その罪は誰も背負うことがないんだ。だって、全て無かったことになるから。
だから僕も、安心して旅に出れる。
食糧は……あんまりない。サイドツーの燃料は…………何だコレ、マジニックジェネレーター…………ヴェンデッタにもあったアレってのは分かるけど、実際僕もよく分かんない。
ああ、気持ちいい。心地がいい。僕自身が木の枠で囲まれた枠組みになって、その中を風が飛び抜けたように爽やかだ。
この瞬間を噛み締めて、風の先へ。
どこに行き着くか分からない。どこに行けばいいのかも分からない。分からないけど、どうしよう。
いっそのこと、一度ここで睡眠して、どこにサイドツーが不時着するかでも試してみようかな。
どうしよう、どうしよう……かな…………
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん…………ぅ…………ぁ……」
意識は朧げだ。僕は……何をしていた?
「ここは……」
真っ暗だ。まさか、ユニット……コンテナ?
「……ええっ、えっ、うそ、まさか……?!」
そう言えば、と。意識が途切れる直前の僕の気持ちを思い出した。
「まさか…………本当に寝たの、僕ぅ?!」
自分でも信じられなかった。
あんなに爽やかな気持ちで空を飛んでいたのに、いつの間にこんな落ちぶれてしまったのか、と。
「…………どうしよ」
数分かけて熟考した結果、なんだかんだで外に出てみることにした。
右手の操縦桿の上にあるサイドツーのハッチレバーを下ろし、ユニットコンテナの正面が開く。
まばゆい日差しが照りつけてくる———と思っていたら、僕の目に飛び込んだのは一面の星空だった。
「……ああ、綺麗だな」
自らの置かれている状況にも気付かず、そんな陳腐な感想を漏らす。
それでも、その星空は本当に綺麗だった。一度は自分で汚してしまったことを考えると、ちょっと胸が痛むが。
「……やっと出てきたか、ずっと待っておったんだがな……」
……ん?
今、今———何が聞こえた?
声?
僕以外の、人の、声?
「ううううわぁぁぁぁぁあっ?!?!」
ユニットコンテナからほんの少し這い出ただけの僕の横から、僕をそっと覗いていた老人がいた。
「やはり人が乗っておったか。……しかし、コレが人界軍の新技術……とやらか。
……いやあ、壮観というか何というか……」
「あの……誰———あ、こんばんは……ところで、誰……ですか……?」
「そこの家の住人じゃよ。……いやあ、真っ昼間からこんな物騒なモンが落ちてきたもんでな、鬼が出るか蛇が出るかと見張っておったんよ」
そういうと、その老人は『家』と名付けられたものを指差した。
…………家?
「おっと……確かに、アレを家と言うには……少しばかり酷いもんじゃが、まあ住むには問題ないだろう」
その家には、なんと落石が直撃していた。どこから来たのか分からないような、激突してある程度時間が経ったであろう劣化と汚れが見られる、巨大な落石。
それに直撃していながらも、まるでソレを家の一部として捉えているかのように改装されたその家の周りに、僕は一番、心の底から驚いた。
「……もう、夜も遅い。今日はここに泊まっていかんか?」
「…………いいんですか、お世話になっても?」
「大丈夫だよ、こんなへんぴな場所には滅多に人が来ないからな、わしも退屈だったんじゃよ」
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