上 下
117 / 237
Side-1:希望と贖いの旅々(前)

新たなる門出

しおりを挟む
 サイドツー。
 僕と一緒にいてくれた、僕の、僕だけの相棒。……いや、相棒はヴェンデッタなんだけれども。

 そのサイドツーに乗りながら。ボードランサーで魔力舞う空中を滑空し、雲の壁を乗り越えて、先へ。

 もはや円環は広がらず、白い柱も立つことはなく。空に広がった虹の異常光景もなく、ただ明るい陽の光と、澄み切った青空が広がっていた。

 リコが言っていた。あの中に巻き込まれた人たちは、いずれ全て元に戻るって。

 ファーストヘヴンズバーストに巻き込まれた人たちは……戻らない。それは僕の罪として、僕が背負わなければいけない。

 でも、リコが起こしたセカンドヘヴンズバーストは……別に、その罪は誰も背負うことがないんだ。だって、全て無かったことになるから。


 だから僕も、安心して旅に出れる。
 食糧は……あんまりない。サイドツーの燃料は…………何だコレ、マジニックジェネレーター…………ヴェンデッタにもあったアレってのは分かるけど、実際僕もよく分かんない。

 ああ、気持ちいい。心地がいい。僕自身が木の枠で囲まれた枠組みになって、その中を風が飛び抜けたように爽やかだ。
 この瞬間を噛み締めて、風の先へ。

 どこに行き着くか分からない。どこに行けばいいのかも分からない。分からないけど、どうしよう。

 いっそのこと、一度ここで睡眠して、どこにサイドツーが不時着するかでも試してみようかな。

 どうしよう、どうしよう……かな…………



◆◇◆◇◆◇◆◇





 
「ん…………ぅ…………ぁ……」

 意識は朧げだ。僕は……何をしていた?
「ここは……」

 真っ暗だ。まさか、ユニット……コンテナ?


「……ええっ、えっ、うそ、まさか……?!」

 そう言えば、と。意識が途切れる直前の僕の気持ちを思い出した。


「まさか…………本当に寝たの、僕ぅ?!」


 

 自分でも信じられなかった。
 あんなに爽やかな気持ちで空を飛んでいたのに、いつの間にこんな落ちぶれてしまったのか、と。


「…………どうしよ」



 数分かけて熟考した結果、なんだかんだで外に出てみることにした。
 右手の操縦桿の上にあるサイドツーのハッチレバーを下ろし、ユニットコンテナの正面が開く。

 まばゆい日差しが照りつけてくる———と思っていたら、僕の目に飛び込んだのは一面の星空だった。

「……ああ、綺麗だな」

 自らの置かれている状況にも気付かず、そんな陳腐な感想を漏らす。


 それでも、その星空は本当に綺麗だった。一度は自分で汚してしまったことを考えると、ちょっと胸が痛むが。




「……やっと出てきたか、ずっと待っておったんだがな……」

 ……ん?
 今、今———何が聞こえた?
 声?

 僕以外の、人の、声?

「ううううわぁぁぁぁぁあっ?!?!」

 ユニットコンテナからほんの少し這い出ただけの僕の横から、僕をそっと覗いていた老人がいた。

「やはり人が乗っておったか。……しかし、コレが人界軍の新技術……とやらか。
 ……いやあ、壮観というか何というか……」

「あの……誰———あ、こんばんは……ところで、誰……ですか……?」

「そこの家の住人じゃよ。……いやあ、真っ昼間からこんな物騒なモンが落ちてきたもんでな、鬼が出るか蛇が出るかと見張っておったんよ」

 そういうと、その老人は『家』と名付けられたものを指差した。

 …………家?

「おっと……確かに、アレを家と言うには……少しばかり酷いもんじゃが、まあ住むには問題ないだろう」

 その家には、なんと落石が直撃していた。どこから来たのか分からないような、激突してある程度時間が経ったであろう劣化と汚れが見られる、巨大な落石。

 それに直撃していながらも、まるでソレを家の一部として捉えているかのように改装されたその家の周りに、僕は一番、心の底から驚いた。


「……もう、夜も遅い。今日はここに泊まっていかんか?」

「…………いいんですか、お世話になっても?」

「大丈夫だよ、こんなへんぴな場所には滅多に人が来ないからな、わしも退屈だったんじゃよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

エレメンツハンター

kashiwagura
SF
 「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。  3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。  3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。  ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。  ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。  それが”トレジャーハンター”であった。  主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。  独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。  アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。  破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。  様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

マイニング・ソルジャー

立花 Yuu
SF
世界の人々が集うインターネット上の仮想世界「ユグド」が存在するちょっと先の未来。 日本の沖縄に住む秦矢は今時珍しいエンジンバイクの修理店兼スクラップ店を営んでいる。副業で稼ぐために友達から勧められた「マイニン・ワールド」に参加することに。マイニング・ワールドとは仮想世界「ユグド」で使用されている暗号通貨「ユード」の「マイニング(採掘)」競争だ。エイリアン(暗号化技術でエイリアンに化けた決済データ)を倒してこ使い稼ぎをする日々がスタートさせるのだが、見知らぬ人物が突然助っ人に⁉︎ 仮想世界と暗号通貨が織りなす、ちょっと変わった友情劇とアクションありのSF小説!

毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー活劇〜 

天海二色
SF
 西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。  珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。  その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。  彼らは一人につき一つの毒素を持つ。  医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。  彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。  これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。  ……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。 ※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります ※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます ※この小説は国家資格である『毒劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。 参考文献 松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集 船山信次  史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり 齋藤勝裕  毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで 鈴木勉   毒と薬 (大人のための図鑑) 特別展「毒」 公式図録 くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科 その他広辞苑、Wikipediaなど

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

ジュラシック村

桜小径
SF
ある日、へんな音が村に響いた。 ズシン、ズシン。 巨大なものが村の中を徘徊しているような感じだ。 悲鳴もあちこちから聞こえる。 何が起こった? 引きこもりの私は珍しく部屋の外の様子がとても気になりはじめた。

採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game> それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。 そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!? 路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。 ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。 そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……? ------------------------------------- ※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。

処理中です...