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還元作戦/越神伴奏ベーゼンドルファー

ザイン・ディファニッション

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「こぉれでえっ!」

 標的A ´よりも少し上の高度まで飛び上がり、槍とスラスターを逆さにして急速に落下する。

「おしまいぃぃぃぃぃいっ!!」

 氷に包まれた標的A ´を、その氷諸共、力強く槍で貫く。そのまま氷は固定された位置から剥がれ落ち、機体は標的A ´と共に落下しゆく。

「ぐ……っ…………ぐぐぅ……っ!」

 機体の腕部部分に、横からの圧がかかる。おそらく標的A ´が動こうとしていることの証なのだろう、ならば尚更、この槍を抜かせるわけにはいかないっ!


「スラスター……最大、出力…………っ!」

 なおもヴェンデッタ1号機に向かおうとする力の方角を変えるため、反対方向にスラスターを全速力で吹かす。しかし現状は変わらない。

「ダメ……なのか、ベーゼン、ドル……ファーッ!」

 このままやってもいずれ推進剤が尽きるのがオチだ。ならば、一か八か。賭けに出てでも、ここは切り抜けるのみだ!


 機体を標的A ´の上に位置するように体制を移動し、そのまま直下へと急転換。重力も用いながら、そのままのハイスピードで地面へと激突する。

「に……にぎ……ぎ…………っ!」

 槍に貫かれ、地面にはりつけにされた標的A ´。

 しかし、ソレの用いる横方向への力は変わらない。何をやっても、どこまでも苦しいままの状況が続く。

 やはり、どこまでやってもダメなのか、と悲観し。

 そして、決意した。


「ヒノカグツチ作戦司令部に通達!……プランCを完全に破棄しろ!」
『ヤツを仕留めるためだけに開放するか———プランCの完全破棄を決定、以後はプランBを続行するものとする!』




 ———起動、旋律。



「コードザインッ! 全フィルター、全リミッター解除! ナーヴラインフルリンク、ヘヴンズブラッド完全注入っ!」

 無理をしすぎだ。ソレはわかっている。そんなこと、とうの昔に分かっている。


「無でも混沌でも、何でも来るが良い……私と、私の中に潜むの力で、相殺してみせる!

 憑依召喚概念法術術式サモンコンセプチャー解放セット! ———黒騎士っ!」

 そうだ。この感覚。久しぶりだ。
 自分が誰かと溶け合っているわけではなく、自分の中に別の自分が重なっているこの感覚。中から抉られ、変革されてゆく快感と恐怖。

 その全てを五感で感じ、そしてその全てを受け入れる。

 壊れていくのは分かっていた。脆く崩れてゆくのも覚悟の上だった。その上での無理、その上での無茶。


「でも……私が…………責任を、負うんだから……責任を……負うのは、私の役目だから…………っ!」

 全てを捨てて。責任という言葉のみを意識に残して、他のすべてを置いてきた。


使徒復讐に次ぐ、旋律の素体装甲建造エンジェルビースト型サイドツー……その名は———越神伴奏えっしんばんそう!』


「越神伴奏、ベーゼンドルファー………………生誕っ!」

 一度は折れかけ、倒れかけた体を再度起こす。もはや何が正常かも分からない迷宮の中、自らのやるべきことと今の現状の最適解を見出す。

「私の手で……殺してやる!
 殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやるぅっ!!!!」

 まるで人斬りへの復讐に燃えていた頃の、昔の私のようだった。
 
「死ね、死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねぇっ!」

 何度も何度も。何度も何度も、もはやソレの原型が無くなるまで槍で突き刺し、抉り、穿つ。

 血。液体。と思しき、標的A ´の体液。もはやソレを浴びる感触を、ベーゼンドルファー越しに感じることさえ気持ちいいことだと考えてしまっていた。







「はあ……ふうっ、ふう……終わった……かな……ぁ?」


 何度槍を突き刺したかすら分からない。既にベーゼンドルファーの右腕の筋肉質はボロボロ、を注入して素体が覚醒したとは言え、もうこの衝撃には耐えられない。

 同時に、その痛みは私自身に伝わってきていた。元々何もない左腕に、もはや感覚すら失ってしまった右腕。

『動かそう』と言うイメージよりも、『そもそも存在しない』という思い込みから来た事象の方が優先されてしまっていたのだ。


「………………こち、ら、レイ……ゲッタルグルト、標的A ´の完全沈黙を…………確認、作業の再開を要請する……」

『了解した。
 ……すまんな、ここまで付き合わせてしまって』


「ふふ、の命令に奔走するのが…………我々、近衛騎士、ですから……」
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