67 / 237
十字架
Side-リコ: 蠢き( Ⅳ )
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇
********
8月25日、早朝。
『第1~第5近衛騎士機動小隊、発進準備はいいか?!』
返事はなし。その声は、どこまでも深い虚空へと吸い込まれてゆく。
『……リコ、貴様には辛い決断になってしまうかもしれないが———』
……それは、教官の———近衛騎士団長、『ライ・チャールストン』の言葉だった。わざわざ秘匿回線なんかで私に繋げて、そんなに私の事が気になるのかと少し呆れる。
……ただの一兵卒にすぎないというのに。
「私にそれを言う暇があったら、他の人に言ってあげてください。……辛いのは———決起を決意した他の人だって同じです、私だけその想いを受け取るなんて———」
『受け取れる想いは、受け取れるうちに受け取っておけ。コレは貴様に向けた、特別な感情だ。秘匿回線とは———話し合いとはそういうものだからな』
「話し合いを拒絶し、今まさに王に刃を向けようとしている貴方が、よく言えたことですね」
『なんとでも言ってもらって構わない。……どうせ、この先はないのだから』
話は終わり、サイドツーの格納庫の扉が下からどんどん開いていく。
シャッターの如く上昇した扉の外側からは、見るに堪えない直射日光が差し込んでくる。……だと言うのに、私の心は沈んでばかりだ。
「……行くよ、私。近衛騎士機動小隊、リコ・プランク!」
そう、私は———私は近衛騎士だ。
誰にも秘密にしていた。もちろん、ケイにだって秘密にしていたことだった。
私は孤独だ。本当に。あの日から、私の心はずっと孤独だった。
———いいや、あの日は別に———ただ喪失を味わっただけだ。本当の孤独は、私の友達だったスライムが、執拗な人間の攻撃によって死んでしまった日から始まった。
もう、思い出したくもない。
私を救ってくれる人は、本当に、ただの誰1人として存在しない。
……いや、教官は信じてるのかな。あの人が———ケイが、私を救ってくれるって。
そんなわけないのに。アレはもう、私を救うことすらできないってのに。
私は孤独だ。今に始まったことじゃない。本当に孤独だった。
ごめんね、ケイ。貴方じゃ私は救えないし、何より———貴方であることを失った貴方を……私は許せないから。
どうせコレから事を起こせば、レイ新隊長率いる第0機動小隊とも鉢合わせることになるだろう。
その時。ケイを見つけた時は———真っ先に、殺してあげる。
「……ごめん……ね、ケイ…………さよなら……言えなかった……!
できる事なら……もっと、一緒にいたかったのに……想い、伝えたかったのに……!」
何を今更になって泣いているのか、私は。
どうせ全て斬り殺す、アイツの———アイツでないアイツの想いも全て斬り伏せて終わらせるだけだと言うのに。
そう言えば、約束……してたかな。『虹』を見る……とかなんとか。
「もう、知らない……知らない、知らない、知らないっ!
私は近衛騎士、そう、復讐に燃える殺人鬼!……だから、もう………………容赦は、しない…………!」
涙で眼前が揺らぐ。サイドツーの運用にも支障をきたすほどに。
『行くぞ……第1近衛騎士機動小隊、全機急速発進! 目標、王都中心部、王城内部———人界王を奪取する!』
———嗚呼。
もう一度、君に。巡り逢えたのなら。
その時は、きっと———断ち切ってみせるから。
……殺して、みせるから。
********
8月25日、早朝。
『第1~第5近衛騎士機動小隊、発進準備はいいか?!』
返事はなし。その声は、どこまでも深い虚空へと吸い込まれてゆく。
『……リコ、貴様には辛い決断になってしまうかもしれないが———』
……それは、教官の———近衛騎士団長、『ライ・チャールストン』の言葉だった。わざわざ秘匿回線なんかで私に繋げて、そんなに私の事が気になるのかと少し呆れる。
……ただの一兵卒にすぎないというのに。
「私にそれを言う暇があったら、他の人に言ってあげてください。……辛いのは———決起を決意した他の人だって同じです、私だけその想いを受け取るなんて———」
『受け取れる想いは、受け取れるうちに受け取っておけ。コレは貴様に向けた、特別な感情だ。秘匿回線とは———話し合いとはそういうものだからな』
「話し合いを拒絶し、今まさに王に刃を向けようとしている貴方が、よく言えたことですね」
『なんとでも言ってもらって構わない。……どうせ、この先はないのだから』
話は終わり、サイドツーの格納庫の扉が下からどんどん開いていく。
シャッターの如く上昇した扉の外側からは、見るに堪えない直射日光が差し込んでくる。……だと言うのに、私の心は沈んでばかりだ。
「……行くよ、私。近衛騎士機動小隊、リコ・プランク!」
そう、私は———私は近衛騎士だ。
誰にも秘密にしていた。もちろん、ケイにだって秘密にしていたことだった。
私は孤独だ。本当に。あの日から、私の心はずっと孤独だった。
———いいや、あの日は別に———ただ喪失を味わっただけだ。本当の孤独は、私の友達だったスライムが、執拗な人間の攻撃によって死んでしまった日から始まった。
もう、思い出したくもない。
私を救ってくれる人は、本当に、ただの誰1人として存在しない。
……いや、教官は信じてるのかな。あの人が———ケイが、私を救ってくれるって。
そんなわけないのに。アレはもう、私を救うことすらできないってのに。
私は孤独だ。今に始まったことじゃない。本当に孤独だった。
ごめんね、ケイ。貴方じゃ私は救えないし、何より———貴方であることを失った貴方を……私は許せないから。
どうせコレから事を起こせば、レイ新隊長率いる第0機動小隊とも鉢合わせることになるだろう。
その時。ケイを見つけた時は———真っ先に、殺してあげる。
「……ごめん……ね、ケイ…………さよなら……言えなかった……!
できる事なら……もっと、一緒にいたかったのに……想い、伝えたかったのに……!」
何を今更になって泣いているのか、私は。
どうせ全て斬り殺す、アイツの———アイツでないアイツの想いも全て斬り伏せて終わらせるだけだと言うのに。
そう言えば、約束……してたかな。『虹』を見る……とかなんとか。
「もう、知らない……知らない、知らない、知らないっ!
私は近衛騎士、そう、復讐に燃える殺人鬼!……だから、もう………………容赦は、しない…………!」
涙で眼前が揺らぐ。サイドツーの運用にも支障をきたすほどに。
『行くぞ……第1近衛騎士機動小隊、全機急速発進! 目標、王都中心部、王城内部———人界王を奪取する!』
———嗚呼。
もう一度、君に。巡り逢えたのなら。
その時は、きっと———断ち切ってみせるから。
……殺して、みせるから。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい
工藤 流優空
SF
社畜?社会人4年目に突入する紗蘭は、合計10連勤達成中のある日、VRMMOの世界にダイブする。
ゲームの世界でくらいは、ほのぼのライフをエンジョイしたいと願った彼女。
女神様の前でステータス決定している最中に
「言霊の力が活かせるジョブがいい」
とお願いした。すると彼女には「言霊エンチャンター」という謎のジョブが!?
彼女の行く末は、夢見たほのぼのライフか、それとも……。
これは、現代とVRMMOの世界を行き来するとある社畜?の物語。
(当分、毎日21時10分更新予定。基本ほのぼの日常しかありません。ダラダラ日常が過ぎていく、そんな感じの小説がお好きな方にぜひ。戦闘その他血沸き肉躍るファンタジーお求めの方にはおそらく合わないかも)
エレメンツハンター
kashiwagura
SF
「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。
3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。
3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。
ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。
ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。
それが”トレジャーハンター”であった。
主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。
独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。
アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。
破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。
様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。
『天燃ゆ。地燃ゆ。命燃ゆ。』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
SF
武士たちが『魂結び』によって『神神』を操縦し戦っている平安時代。
源氏側は平家側の隠匿している安徳天皇および『第四の神器』を奪おうとしている。
斯様なる状況で壇ノ浦の戦いにおよび平知盛の操縦する毘沙門天が源義経の操縦する持国天に敗北し平家側は劣勢となる。
平家の敗衄をさとった二位の尼は安徳天皇に『第四の神器』を発動させるように指嗾し『第四の神器』=『魂魄=こんそうる』によって宇宙空間に浮游する草薙の剱から御自らをレーザー攻撃させる。
安徳天皇の肉体は量子論的にデコヒーレンスされ『第四の神器』は行方不明となる。
戦国時代。わかき織田信長は琵琶法師による『平曲』にうたわれた『第四の神器』を掌握して天下統一せんと蹶起する。――。
UWWO ~無表情系引きこもり少女は暗躍する?~
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
フルダイブ型VRMMORPG Unite Whole World Online ユナイト・ホール・ワールドオンライン略称UWWO
ゲームのコンセプトは広大なエリアを有する世界を一つに集約せよ。要するに世界のマップをすべて開放せよ。
そしてようやく物語の始まりである12月20に正式サービスが開始されることになった。
サービスの開始を待ちに待っていた主人公、大森あゆな はサービスが開始される15:00を前にゲーム躯体であるヘルメットにゲームをインストールしていた。
何故かベッドの上に正座をして。
そしてサービスが始まると同時にUWWOの世界へダイブした。
レアRACE? 何それ?
え? ここどこ?
周りの敵が強すぎて、先に進めない。
チュートリアル受けられないのだけど!?
そして何だかんだあって、引きこもりつつストーリーの重要クエストをクリアしていくようになる。
それも、ソロプレイで。
タイトルの副題はそのうち回収します。さすがに序盤で引きこもりも暗躍も出来ないですからね。
また、この作品は話の進行速度がやや遅めです。間延びと言うよりも密度が濃い目を意識しています。そのため、一気に話が進むような展開はあまりありません。
現在、少しだけカクヨムの方が先行して更新されています。※忘れていなければ、カクヨムでの更新の翌日に更新されます。
主人公による一方的な虐殺が好き、と言う方には向いていません。
そう言った描写が無い訳ではありませんが、そう言った部分はこの作品のコンセプトから外れるため、説明のみになる可能性が高いです。
あくまで暗躍であり、暗殺ではありません。
いえ、暗殺が無い訳ではありませんけど、それがメインになることは確実に無いです。
※一部登場人物の名前を変更しました(話の内容に影響はありません)
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
マイニング・ソルジャー
立花 Yuu
SF
世界の人々が集うインターネット上の仮想世界「ユグド」が存在するちょっと先の未来。
日本の沖縄に住む秦矢は今時珍しいエンジンバイクの修理店兼スクラップ店を営んでいる。副業で稼ぐために友達から勧められた「マイニン・ワールド」に参加することに。マイニング・ワールドとは仮想世界「ユグド」で使用されている暗号通貨「ユード」の「マイニング(採掘)」競争だ。エイリアン(暗号化技術でエイリアンに化けた決済データ)を倒してこ使い稼ぎをする日々がスタートさせるのだが、見知らぬ人物が突然助っ人に⁉︎
仮想世界と暗号通貨が織りなす、ちょっと変わった友情劇とアクションありのSF小説!
毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー活劇〜
天海二色
SF
西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。
珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。
その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。
彼らは一人につき一つの毒素を持つ。
医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。
彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。
これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。
……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。
※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります
※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます
※この小説は国家資格である『毒劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。
参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
鈴木勉 毒と薬 (大人のための図鑑)
特別展「毒」 公式図録
くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ
ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科
その他広辞苑、Wikipediaなど
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる