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其は天命の刻、誰が為の決意

決意と赴き

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 ———見えた。
 地に垂直突き刺した長刀の柄を上から手で押さえる、紅く染まったサイドツーmark.2。

 まるで私を地獄に誘うように、彼女は微動だにしなかった。


「……回線を開け」

 返事はなし。聞こえていないこともなかろうに。

「回線を開けと言っているのだ、ライ・チャールストン!
 私はここに、茶番を演じに来たわけではない!……を止めにきたのだ……!」


『聞こえているさ。……そんなに騒ぎ立てなくとも』

 ライ機のサイドツーはすぐさま長刀を構える。やはりどこまでも白兵戦のつもりなのだな、と再確認する。

『まずは刀を合わせよう。話はそれからだと言うものだろう?』

 言われるまでもなく、操縦桿を押し倒し、機体を前進させる。
 イメージは剣士。

 1つの刀を体の正面に持ってくるように構える姿。そのイメージは、ヴェンデッタが具現化し、そしてヴェンデッタの動きとして反映される。

 ……実に哀れだ。意思を持つこの機体が、この私なんかの言いなりになっていると言うのだから。


「なぜ……なぜ王に反旗を翻した……貴公はそのような者ではなかったはずだ!」

 互いの刃が真っ向から重なり、互いに刀を押し付け合うように力を込める。

『なぜ……なぜだと?……それは我が王の為すことが、間違っていると判断したまでだからだっ!』

 力がより一層強くなる。ヴェンデッタを通してフィードバックされた負荷は、私にそのようなサイドツーの操縦による力の高まりも教えてくれていた。

「王に絶対の忠誠を誓う近衛騎士の身でありながら、そのようなことは……っ!」

『許されない……だと? それは違う、我が王が誤った道を歩もうとしているのならば、私はそれを臣下として、そして自ら憎まれ役を買って出ても正す!……それが私にとっての……忠義だっ!』

 その刀を薙ぎ払われ、そのままヴェンデッタは後退する。やはり話は進まない、どこまでも。解決———和解の目処は立ちやしない。

「魔族の為に戦うことがか?!…………だが、もっと他に策はあっただろう?!……なぜ流血を伴うやり方を選んだ、どうしてそのような道を、貴公は……!」

『こうしなければならなかった、こうでもしなければ、ヤツらに見せる希望の星なぞ……無いに等しいからだ!』

「貴公はどちらが大事なんだ、国と———王と、魔族、どちらが……」

『そんな陳腐な事を話す為に来たわけではないだろうっ!』

 瞬間、スラスターを急噴射し、敵機はこちらに一瞬にして詰め寄る。
 振り下ろされた刀はなんとかこちらの長刀で防ぎきりはしたものの……またもや先程と同じく膠着状態、一方的に押し倒されるままで、私は何もできなかった。

『……そもそも、貴様もどうなんだ……何を考えているかも分からんトランスフィールドなどと結託し、この場を収めようなどと……いつから日和見主義者に成り下がった、レイ・ゲッタルグルト! 貴様には———貴様には、力があると言うのにっ!!!!』

「必要な力だ、この力———サイドツーも、その為の……」

『必要な力か……ならば流血を伴うしかあるまいな……そうさ、誰かが……魔族の、ヤツらのためにも『自分たちの為に立ち上がってくれる、力のある誰か』が必要なのではないか!

 歪ながらも、この国をまとめてみせる……それが私の覚悟で、そして決意だ……!』

「その為に、こんな無意味な事をする必要があったとでも言うのか?!……ただでさえオリュンポスとの戦いにおいても疲弊していると言うのに、それでもまだ貴公は……!」

『このままいけば、いずれ魔族軍は瓦解する! そして、どこの馬の骨ともとれん輩につけ込まれ、最終的には全てが分断され、まともにオリュンポスのヤツらともやり合えなくなる!……それは誰の目から見ても秒読みだと言うのに……!』

 だからどうした、と互いの重たく鋭い刃が弾け合う。
 これが意見の、そして本音のぶつけ合いだ。これこそが、私の望んでいた殺し合いだった。


『もはや……私は戻れない。……人を斬った、それだけで私も———貴様の言う『人斬り』……『白』と同じ罪人だ。今更償う気も、贖う気も持ち合わせちゃいないっ!』

「それでも止めてみせる、私は……私の恩人でもある貴公を止めてみせる……そう決意したのだからっ!」

 敵機の動きが一変する。先程の話し合っていた時とは違う、明らかにこちらへの殺意を向けた『本気』の動きに。

『…………この身は、もはや和平を望まず、外道なぞに堕ちた身。
 止めることなど……貴様にはできはしないのだぁっ!』

 鉄の装甲に長刀が触れ、耳障りな金切り音がユニットコンテナ全体に響き渡る。

 が、そんなことなぞ気にしている場合はない。

 この機体はヴェンデッタ1号機。重装甲による防護性を意識した機体……だと言うのなら、負傷でもしようものなら———その瞬間に攻めるしかなくなる!

 どうせこのまま続けても、装甲を徐々に剥ぎ取られ押し切られるだけだ、確実にこの一瞬で懐に入ってみせる……!
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