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其は天命の刻、誰が為の決意

埋まる憎しみに殺し愛。

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 敵サイドツーとヴェンデッタ。同時にスラスターを吹かし、同時に横に逸れて発進する。

 スピードに若干の差は見られるものの、そんなものは今となっては関係ない。

 長刀と長刀。いくら空中戦で、いくら機動戦とはいえど、所詮は白兵戦。

 近付かなければ倒せない、近寄らなければ近付かれる。刀で斬らなければならないのだ、どんなにスピードがあろうとも、攻撃を防がれたりでもしたら意味がない戦いだ。

 だからこそ、細心の注意を払う必要がある。雑に避けたところで、スラスターの急速発進によって突然近付かれて斬られる———なんてのもある、何よりリコは———さっきの攻撃でも分かったけど、通常の攻撃に魔術を織り交ぜてくる危険性もある。

 迂闊に近寄るのは———確かに危険だ、だけど……行くしか道はない!

「んんぅっ!」

 ガァンッ!

 鉄が擦れる鈍い衝突音を聞き届けた直後、僕たちはまたさっきのように長刀をぶつけて取っ組み合っていた。

 やはり一筋縄じゃ行かないか……!


 互いに再度後退し、そしてまたこちらから近寄り、またもや互いの刀が擦れる。スラスターはずっと左斜め後ろに吹かしたまま、互いに大きく移動しながらではあるが、確実にせめぎ合いは続いていた。

 何度も突撃し、何度も刀を振り下ろし、そして何度も止められる。確実に『殺す』という言葉はこもっている刃だったが、何度も何度も、その刃は僕の刃と相殺されていた。


 ……が、このままじゃラチがあかない。いつまで経っても終わらない。どこかで決定的な一打を打たねば……!

「……いや、待て、これ……は……?!」

 何故だか分からない、が、ヴェンデッタの動きが鈍くなっている気がする。
 さっきまではこんなに———長刀を振る速度は遅くなかったはずだ。なのに今は———っ!

『ようやく気付いた?……

「……何、を……した、リコ……!」

 と言うよりも、既にその氷魔術は、ヴェンデッタ内部にまで浸透していたらしい。

 どうもさっきから、両腕の付け根の動きが鈍くなっているのを感じる。……つまりヴェンデッタ自体がダメージを受けていて、そのダメージが新型OSを通してフィードバックされていると言う事だ。

 おそらく、魔術をかけたタイミングと言えば———長刀で斬り合った際だ。あの時、こっそり魔術を仕込まれていた……!

「身体が……思うように……動かない……!」

『……じゃあ、もう———終わらせるね。……は守れないけど……元々君に守れるとはし、ここでお別れ』

 ———何、だと?

 僕に守れるとは思っていなかった?
 ……あの、おとぎ話でも夢に見ているような約束が、僕に守れるとは思っていなかった———だって?


「……嘘は……つくなよ、守れると思ってないなら……本当にそうなら……君は……!」

 そんなものが真っ赤な嘘、だなんて、僕にとってはすぐに分かった。だって、君は僕を信じなかったら———ここまで来る事はなかったはずだから。


「本当にそうなのなら、僕なんかに構う必要はなかったはずだろ…………僕を信じてないなら、君はここまで来てなかったはずだ、そうだろ……!」

『そうだよ、でも……でも、君はそれでも。だから私は。私の親友を奪われた、そんな憎しみを……!!』


 ……そうだったな。何で君がこんなところにいるのか、何で君が戦っているのか、僕は全く知らなかった。

 ……でも、それとは別だ。君はそんな憎しみに囚われていい人間なんかじゃない。

 ウルプスさんが———あの人が示してくれた『分かり合える』可能性を。それを実現するために、今僕はヴェンデッタを駆っているのだから。


「ヴェンデッタ……また無理をさせる、だけど僕は———っ?!」
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