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其は天命の刻、誰が為の決意
今は。
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「……で、外の様子だが……」
今はどうなっているかというと、こうなってる。
太陽光さえも遮る霧の中、火属性の魔術で点けた焚き火を囲って、僕たち5人は地べたに座り込んでいる。
フツーに座ってる僕とレイさん、ちょっと……いやかなり焚き火から離れて座って……座らされているウルプスさん。
そして、焚き火に寄り添って座ろうとした結果、場所を取り合うことになってしまったブランと、もう1人の魔族———ヤンス。
何をするのかと言えば、現状確認に他ならない。
「———っ、どけよ、魔族のくせして……!」
「いーじゃないでヤンスか、こっちは身を挺して霧の外縁まで行ってやったでヤンス、ここは俺に譲るもんでヤンしょー?!」
……あそこの方で、『どちらが焚き火に近づいて座るか』だとかいうことで揉めてるヤンスに、今僕たちが置かれている現状を聞くことになっているのだが。
「この、っ、ふざけやがって……テメェらなんぞに渡す席なんて1つもありゃしねえんだよっ!」
元から素行が悪い印象を持っていたプランだったが、まさかここまでとは思わなかった。
———とか何とか悠長に見てると、今度はブランが石を持ち出して、それを掲げてヤンスに殴りかかろうとする。
そこを。
「……おい、いい加減にしないか! どこまで邪魔をすれば気が済む、貴様が退けばいい話だろう、ブラン!」
慌ててレイさんが止めに入る。が、僕が驚いたのが次の言葉だった。
「貴様、魔族に対する当たりが酷いぞ、いくら魔族に父を殺されたとは言え、それとこれとは関係ないはずだ!」
「テメェだって関係ねえよ酒癖ババアッ! ベロベロの時と打って変わってめんどくさい態度になりやがって……!
全く本当に気持ち悪りぃ、コイツの汚え身体なんざあ、見てるだけでこっちが吐きそうになる!」
……ブラン、その言葉はダメだよ。
魔族に———いくら魔族とは言え、そんなことを吐き捨てるなんて。
……なんて、どれだけ頭で思っても、実際に言い出すことはできなかった。
「……貴様らのそのような態度が、此度の反乱を引き起こしたと知っても、まだそのような世迷言を吐き連ねる気か。
魔族は嫌悪すべき対象ではない、共に歩むべき対象だとなぜ理解できない?!
過去のしがらみは当然ある、だが、今そのことはこの場には関係———」
「……もう、いいでヤンス」
震えつつある声を上げたのはヤンスだった。
一番傷ついているのはヤンスだというのに、何故に今のフォローを突っぱねる意味があったのか。
「もう散々聞いて、こっちも慣れてどうでもよくなったでヤンスよ、俺たちの身体が汚いなんて。
何度も石を投げられたでヤンス。何度もこん棒で叩かれたでヤンス。何度も『死ね』と呪われたでヤンス。だから、もう慣れたんでヤンス。
魔族だから嫌悪するのなら、もう俺は諦めるでヤンス。お前らみたいなヤツらとは一生かけても分かり合えないって心に刻みつけて、もう2度と関わらないで生きていくヤンス」
「……勝手にしろ、ゴミ以下にどう思われようがこっちには無害だよ」
「ブラン……貴様ときたら……!」
———ああ、そりゃああの人だって思うわけだ。『腐っている』だなんだって、そりゃあこの現状を見ればそう思うわけだ。
だから———レイさんも言っていたけど、だからこその反乱なんだ。虐げられた魔族たちにとっての、希望の光。
それをヤンスのように『どうでもいい』と思う者もいれば、かけがえのない希望と捉える者もいる。
それを———すっかり忘れていた。あまりにも身近にそれがないものだから、余計にだ。
今はどうなっているかというと、こうなってる。
太陽光さえも遮る霧の中、火属性の魔術で点けた焚き火を囲って、僕たち5人は地べたに座り込んでいる。
フツーに座ってる僕とレイさん、ちょっと……いやかなり焚き火から離れて座って……座らされているウルプスさん。
そして、焚き火に寄り添って座ろうとした結果、場所を取り合うことになってしまったブランと、もう1人の魔族———ヤンス。
何をするのかと言えば、現状確認に他ならない。
「———っ、どけよ、魔族のくせして……!」
「いーじゃないでヤンスか、こっちは身を挺して霧の外縁まで行ってやったでヤンス、ここは俺に譲るもんでヤンしょー?!」
……あそこの方で、『どちらが焚き火に近づいて座るか』だとかいうことで揉めてるヤンスに、今僕たちが置かれている現状を聞くことになっているのだが。
「この、っ、ふざけやがって……テメェらなんぞに渡す席なんて1つもありゃしねえんだよっ!」
元から素行が悪い印象を持っていたプランだったが、まさかここまでとは思わなかった。
———とか何とか悠長に見てると、今度はブランが石を持ち出して、それを掲げてヤンスに殴りかかろうとする。
そこを。
「……おい、いい加減にしないか! どこまで邪魔をすれば気が済む、貴様が退けばいい話だろう、ブラン!」
慌ててレイさんが止めに入る。が、僕が驚いたのが次の言葉だった。
「貴様、魔族に対する当たりが酷いぞ、いくら魔族に父を殺されたとは言え、それとこれとは関係ないはずだ!」
「テメェだって関係ねえよ酒癖ババアッ! ベロベロの時と打って変わってめんどくさい態度になりやがって……!
全く本当に気持ち悪りぃ、コイツの汚え身体なんざあ、見てるだけでこっちが吐きそうになる!」
……ブラン、その言葉はダメだよ。
魔族に———いくら魔族とは言え、そんなことを吐き捨てるなんて。
……なんて、どれだけ頭で思っても、実際に言い出すことはできなかった。
「……貴様らのそのような態度が、此度の反乱を引き起こしたと知っても、まだそのような世迷言を吐き連ねる気か。
魔族は嫌悪すべき対象ではない、共に歩むべき対象だとなぜ理解できない?!
過去のしがらみは当然ある、だが、今そのことはこの場には関係———」
「……もう、いいでヤンス」
震えつつある声を上げたのはヤンスだった。
一番傷ついているのはヤンスだというのに、何故に今のフォローを突っぱねる意味があったのか。
「もう散々聞いて、こっちも慣れてどうでもよくなったでヤンスよ、俺たちの身体が汚いなんて。
何度も石を投げられたでヤンス。何度もこん棒で叩かれたでヤンス。何度も『死ね』と呪われたでヤンス。だから、もう慣れたんでヤンス。
魔族だから嫌悪するのなら、もう俺は諦めるでヤンス。お前らみたいなヤツらとは一生かけても分かり合えないって心に刻みつけて、もう2度と関わらないで生きていくヤンス」
「……勝手にしろ、ゴミ以下にどう思われようがこっちには無害だよ」
「ブラン……貴様ときたら……!」
———ああ、そりゃああの人だって思うわけだ。『腐っている』だなんだって、そりゃあこの現状を見ればそう思うわけだ。
だから———レイさんも言っていたけど、だからこその反乱なんだ。虐げられた魔族たちにとっての、希望の光。
それをヤンスのように『どうでもいい』と思う者もいれば、かけがえのない希望と捉える者もいる。
それを———すっかり忘れていた。あまりにも身近にそれがないものだから、余計にだ。
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