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其は天命の刻、誰が為の決意

息抜き

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 意を決して発言したのは、コーラス3———あの魔族だった。あのまんまるのドワーフ?……とか言う種族の、茶色い魔族。

『……何をするつもりだ?』
『俺は同じドワーフの中でも、特に鼻が効くんでヤンス。霧で視界が見えなくなるギリギリで匂いを嗅げば、外の匂いも分かるでヤンス。

 ……どこに繋がってるのか、そもそも繋がってるのかはまだ分かんないでヤンスが、サイドツーがいるのなら独特の塗料の匂いで分かるでヤンス!』

『ならばサイドツーから降りる事を許可する。……という……か、それは全員に……うっ、許可する』

 あれ、なんか声が……とても歪んできた感じがするのですが。大丈夫なんですかね……??

『コーラス7……ケイ、少し……私の機体を……人界王を頼む……!』
「ちょっちょ、一体どうしたんですか?!」

 もはや言葉を言い終わる前に、レイさんはヴェンデッタ1号機から転げ落ちる。

「た……頼むって言ったってえ……?!」

 おそらく、ヴェンデッタ1号機の後部座席には人界王が乗っているはずだと思い、開いたヴェンデッタ1号機のハッチを手で覆い隠す。


 瞬間。
 響き渡ったのは、何とも苦い嗚咽だった。



「お゛っ、ゔう……っ、」


 何をしているのか、分かってしまった。

 この人、お酒の飲み過ぎで吐いてんだ!!!! っいや何してんだよこんな時にっ!!!!

「っはあ……っ、すまない、な…………いやしかし、我が王の眼前でこのような醜態を晒さなかった事は……素直に認めてもらいたいところだ……っぶぅ……」

「……何でそんな死にそうな形相を浮かべてるんですか…………というか、完全に見られてますよ。貴女の王に」

「ひうっ?!」

 ほんっとうに、なんて物好きな王様だろうか。

 自分が命を狙われていると言うのに、人界王は———そう呼ばれた老人は、僕のヴェンデッタの指の間から顔を覗かせていたのだ。


「『酒は飲んでも飲まれるな』、前に言ったはずだが……全く、近衛騎士ともあろうものが……」

 そんな、どこか呆れたような声が、僕たちが聞く人界王の初めての声だった。

「任務の慰めとして飲むのは構わん。が、あまり飲みすぎないようにするが良い。今は特に戦時中だからな。飲酒搭乗は事故の元だぞ、レイよ」

「は……はい、つぎからはほどほどにしましゅ……」

 
 ……ああ、やっぱり、どうしても変わらない雰囲気ってのはあるんだな。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 とりあえず、今は待機だ。機体内でも、外でもいいから、とりあえずあの魔族が帰ってくるまで———外の様子がわかるまで待機。

「ん?……ボード……ランサー?」

 ふと開いた装備済武装の欄に、奇妙なモノを発見した。青白い線で縁取られたデータ上の形を見る限り、どうやらこのヴェンデッタを乗せる為のもの……のように見えるが、まさか———、

 まさか、スラスター噴射を使わずにできたあのアクロバティックな機動は、この武装を用いてできたものなのか……!

 ———しかし、本当にコレに乗ってヴェンデッタは駆けつけてきたのだろうが……果たして僕にこのボードが使いこなせるのであろうか?……というか、なんであの時にあそこまで使いこなせたのかが未だに分からない。

 ……今はヴェンデッタの脚に付いている———なんてことはなく、フツーにヴェンデッタのそばに置かれている(と言うかヴェンデッタが自分で動いて置いてくれた)が、いったいこんなデカい板切れを用いてどう動けと?

 ……まあ、そんなことはどうでもいいか。今はが優先だ。

 やはりどこまでも静かで、飽き飽きするほどに静まったコックピット内で、僕はその他には何をしていたか、それは———、


「ヴェンデッタ、好きな食べ物は何?」

 それは、ヴェンデッタに対して何らかの質問をすることだった。



 時は少し遡り、さっきヴェンデッタと合流した時。

 僕は彼———彼女の声を聞いたのだ。ヴェンデッタの声、というとどこか不気味な話かもしれないが、それも機巧天使の話を踏まえれば少しは自然に思えてくる。


『彼らは大丈夫。だから貴方は、自分のできることだけに、専念なさい』
 
 と、そう。慈母のような柔らかな声で。
 僕の頭の中に直接言い聞かせるように響いたその声は、紛れもなく———僕の知ってる声ではなかった。

 だからこれはヴェンデッタ自身の声なのだと、そう思って———そして、意思疎通を図ろうとした質問が、

「ヴェンデッタ、好きな食べ物は何?」


 ……だったのだ。…….いや、他にも色々質問はした。『趣味は?』だの、『今の気分は?』だの、『好きな人はいた?』だの、いろいろ。

 長い間地下に埋まってた機巧天使に趣味を聞くなんて、そんなアホらしいことを軽々とやってしまったのだが。

 返答はなし。もし本当に機巧天使で、もし本当に意思があるのなら、答えてくれたっていいじゃないか、と。

 ……まるで研究者にでもなった気分だったが、息抜きとしてはちょうどいい遊び……でもあったと思う。




 ……ヴェンデッタが、『覚悟』と囁いたこと以外では、の話だけど。
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