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其は天命の刻、誰が為の決意
START-UP:Vendetta-02
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僕の機体は、その期待と———共に、地に伏した。
響き渡った衝突音。
鉄が歪む音と共に、なんとも形容し難い機械音が鳴り響く。
突如、鉄で構成されたユニットコンテナから開けた眼前に入り込んだのは、紛れもない———モニター越しなんかじゃない、本当の陽の光。
ただ、そんな中。
僕のサイドツーの正面ディスプレイを、その力づくでこじ開けてでも僕の前に立った、その機体は。
———白銀に、乱反射していた。
「ヴェンデッタ……レイさん……じゃない……?」
ああ、ヴェンデッタだ。ヴェンデッタだった。どこからどう見ても、その姿はヴェンデッタそのものだった。……だけど、この機体は———2号機だ。
……ヴェンデッタ2号機。僕が乗ってはいけないと言われた機体は、この機体だった。
「乗れ……って、言ってるのか?」
よく見ると、その銀に塗られた胸部ハッチは開いており。
ヴェンデッタの黒い左拳は、僕の目の前にて大きく開かれていた。
「乗ってほしいのか、ヴェンデッタ!」
ヴェンデッタは、その頭部は———ほんの少しだけ、縦に揺れ動いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5分前———第0機動小隊専用格納庫にて。
まるでそこに収まるのを嫌がっているかのように、全身をくねらせ揺れ動いていたヴェンデッタ2号機。
「なんで……なんでサイドツーが勝手に動いてんだ?!」
「ヴェンデッタには今、誰も乗ってないはず……よねぇ?!」
「お……おい、退いた方がいいんじゃないか、俺たち?!」
ヴェンデッタの整備や研究を続けていた人々が、一斉に束となってその場から逃げ出す。
その直後、ヴェンデッタは自身に取り付けられていた装甲具を全て引きちぎり、強引にも歩み出してみせたのだ。
『よ…………ん……で………………る』
ヴェンデッタの機体接合部からは、そのような低い音が聞こえたという。
『い…………か、……な……きゃ…………』
ただの機械の擦れによる摩擦音としては、あまりに生物的な音だったという。
———そしてヴェンデッタは、軍が開発中の新型脚部装備式移動具『ボードランサー』に乗り、そのまま空へと駆けて行った。
……現場にいた職員たちは皆、後にそのようなコメントを残したという。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「救いたいんだ。……名も知らぬ誰かも分からないし、救う価値もないのかもしれないし、結果的に———僕は死んでしまうのかもしれないけれども。
それでも僕は、助けたいんだよ……独りよがりかもしれないけれど、殺したくなんて……ないんだよ……!!」
ユニットコンテナ内が、奥の方から光の線が入り、直後明るく染まる。
搭乗者は誰1人としてそこにはいない。……つまりはヴェンデッタが、たった1人で僕の元に駆けつけてくれたんだ。
できる。できるんだ、この力なら。
あれだけ望んだ身勝手なわがままだって、叶えてくれる。夢のような、嘘のような……ホントの存在。
コイツの中に、何らかの意思があるのは知ってる。……正確な情報じゃないけど、僕が操っているのはおそらく、あの機巧天使と同じように作られた何者かの魂。
ホントは操られることなんて、僕の力になることだって、嫌だと思っているのかもしれない。
でも、僕は信じたい。僕の下に来てくれた、コイツを———ヴェンデッタを。
「…………いいんだね、ヴェンデッタ。
みんなは———大丈夫って?………………そうか、ありがとう。なら僕———行くよ」
決意は未だ固まってない。半ば逃げるようにして勝ち取った結論だ、どっちつかずで中途半端で、揺らしたものならすぐさま崩れ落ちるのは、前々から変わっちゃいない。
『AACIC、起動確認。エンジェルシェル、出力50%。ボードランサー、接続安定』
でも、今はコイツがいる。力がある、僕のために寄り添ってくれる力が。
わがままな結論でもいいと、その声に応じてくれた、僕のための力が。
だから僕はコイツを信じたい。僕の下に寄り添ってくれて、僕と共に歩んでくれるであろう力だと、そう信じたいんだ。
「フィードバックシステム、オールグリーン。VR神経リンク、よし。マジニックジェネレーター出力上昇…………いける!
スタートアップ、ヴェンデッタ!」
辺りの視界が、鮮明にその色を増してゆく。前と同じように背中の真ん中に何かがブッ刺さるが、そんな事はどうでもいい。今は、今はただ———、
「僕のわがままを……叶える力になってくれ、ヴェンデッタ!」
年頃もない子供が発しそうな綺麗事を、本当に成し遂げに行くだけだ……!
響き渡った衝突音。
鉄が歪む音と共に、なんとも形容し難い機械音が鳴り響く。
突如、鉄で構成されたユニットコンテナから開けた眼前に入り込んだのは、紛れもない———モニター越しなんかじゃない、本当の陽の光。
ただ、そんな中。
僕のサイドツーの正面ディスプレイを、その力づくでこじ開けてでも僕の前に立った、その機体は。
———白銀に、乱反射していた。
「ヴェンデッタ……レイさん……じゃない……?」
ああ、ヴェンデッタだ。ヴェンデッタだった。どこからどう見ても、その姿はヴェンデッタそのものだった。……だけど、この機体は———2号機だ。
……ヴェンデッタ2号機。僕が乗ってはいけないと言われた機体は、この機体だった。
「乗れ……って、言ってるのか?」
よく見ると、その銀に塗られた胸部ハッチは開いており。
ヴェンデッタの黒い左拳は、僕の目の前にて大きく開かれていた。
「乗ってほしいのか、ヴェンデッタ!」
ヴェンデッタは、その頭部は———ほんの少しだけ、縦に揺れ動いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5分前———第0機動小隊専用格納庫にて。
まるでそこに収まるのを嫌がっているかのように、全身をくねらせ揺れ動いていたヴェンデッタ2号機。
「なんで……なんでサイドツーが勝手に動いてんだ?!」
「ヴェンデッタには今、誰も乗ってないはず……よねぇ?!」
「お……おい、退いた方がいいんじゃないか、俺たち?!」
ヴェンデッタの整備や研究を続けていた人々が、一斉に束となってその場から逃げ出す。
その直後、ヴェンデッタは自身に取り付けられていた装甲具を全て引きちぎり、強引にも歩み出してみせたのだ。
『よ…………ん……で………………る』
ヴェンデッタの機体接合部からは、そのような低い音が聞こえたという。
『い…………か、……な……きゃ…………』
ただの機械の擦れによる摩擦音としては、あまりに生物的な音だったという。
———そしてヴェンデッタは、軍が開発中の新型脚部装備式移動具『ボードランサー』に乗り、そのまま空へと駆けて行った。
……現場にいた職員たちは皆、後にそのようなコメントを残したという。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「救いたいんだ。……名も知らぬ誰かも分からないし、救う価値もないのかもしれないし、結果的に———僕は死んでしまうのかもしれないけれども。
それでも僕は、助けたいんだよ……独りよがりかもしれないけれど、殺したくなんて……ないんだよ……!!」
ユニットコンテナ内が、奥の方から光の線が入り、直後明るく染まる。
搭乗者は誰1人としてそこにはいない。……つまりはヴェンデッタが、たった1人で僕の元に駆けつけてくれたんだ。
できる。できるんだ、この力なら。
あれだけ望んだ身勝手なわがままだって、叶えてくれる。夢のような、嘘のような……ホントの存在。
コイツの中に、何らかの意思があるのは知ってる。……正確な情報じゃないけど、僕が操っているのはおそらく、あの機巧天使と同じように作られた何者かの魂。
ホントは操られることなんて、僕の力になることだって、嫌だと思っているのかもしれない。
でも、僕は信じたい。僕の下に来てくれた、コイツを———ヴェンデッタを。
「…………いいんだね、ヴェンデッタ。
みんなは———大丈夫って?………………そうか、ありがとう。なら僕———行くよ」
決意は未だ固まってない。半ば逃げるようにして勝ち取った結論だ、どっちつかずで中途半端で、揺らしたものならすぐさま崩れ落ちるのは、前々から変わっちゃいない。
『AACIC、起動確認。エンジェルシェル、出力50%。ボードランサー、接続安定』
でも、今はコイツがいる。力がある、僕のために寄り添ってくれる力が。
わがままな結論でもいいと、その声に応じてくれた、僕のための力が。
だから僕はコイツを信じたい。僕の下に寄り添ってくれて、僕と共に歩んでくれるであろう力だと、そう信じたいんだ。
「フィードバックシステム、オールグリーン。VR神経リンク、よし。マジニックジェネレーター出力上昇…………いける!
スタートアップ、ヴェンデッタ!」
辺りの視界が、鮮明にその色を増してゆく。前と同じように背中の真ん中に何かがブッ刺さるが、そんな事はどうでもいい。今は、今はただ———、
「僕のわがままを……叶える力になってくれ、ヴェンデッタ!」
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