76 / 237
其は天命の刻、誰が為の決意
START-UP:Vendetta-02
しおりを挟む
僕の機体は、その期待と———共に、地に伏した。
響き渡った衝突音。
鉄が歪む音と共に、なんとも形容し難い機械音が鳴り響く。
突如、鉄で構成されたユニットコンテナから開けた眼前に入り込んだのは、紛れもない———モニター越しなんかじゃない、本当の陽の光。
ただ、そんな中。
僕のサイドツーの正面ディスプレイを、その力づくでこじ開けてでも僕の前に立った、その機体は。
———白銀に、乱反射していた。
「ヴェンデッタ……レイさん……じゃない……?」
ああ、ヴェンデッタだ。ヴェンデッタだった。どこからどう見ても、その姿はヴェンデッタそのものだった。……だけど、この機体は———2号機だ。
……ヴェンデッタ2号機。僕が乗ってはいけないと言われた機体は、この機体だった。
「乗れ……って、言ってるのか?」
よく見ると、その銀に塗られた胸部ハッチは開いており。
ヴェンデッタの黒い左拳は、僕の目の前にて大きく開かれていた。
「乗ってほしいのか、ヴェンデッタ!」
ヴェンデッタは、その頭部は———ほんの少しだけ、縦に揺れ動いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5分前———第0機動小隊専用格納庫にて。
まるでそこに収まるのを嫌がっているかのように、全身をくねらせ揺れ動いていたヴェンデッタ2号機。
「なんで……なんでサイドツーが勝手に動いてんだ?!」
「ヴェンデッタには今、誰も乗ってないはず……よねぇ?!」
「お……おい、退いた方がいいんじゃないか、俺たち?!」
ヴェンデッタの整備や研究を続けていた人々が、一斉に束となってその場から逃げ出す。
その直後、ヴェンデッタは自身に取り付けられていた装甲具を全て引きちぎり、強引にも歩み出してみせたのだ。
『よ…………ん……で………………る』
ヴェンデッタの機体接合部からは、そのような低い音が聞こえたという。
『い…………か、……な……きゃ…………』
ただの機械の擦れによる摩擦音としては、あまりに生物的な音だったという。
———そしてヴェンデッタは、軍が開発中の新型脚部装備式移動具『ボードランサー』に乗り、そのまま空へと駆けて行った。
……現場にいた職員たちは皆、後にそのようなコメントを残したという。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「救いたいんだ。……名も知らぬ誰かも分からないし、救う価値もないのかもしれないし、結果的に———僕は死んでしまうのかもしれないけれども。
それでも僕は、助けたいんだよ……独りよがりかもしれないけれど、殺したくなんて……ないんだよ……!!」
ユニットコンテナ内が、奥の方から光の線が入り、直後明るく染まる。
搭乗者は誰1人としてそこにはいない。……つまりはヴェンデッタが、たった1人で僕の元に駆けつけてくれたんだ。
できる。できるんだ、この力なら。
あれだけ望んだ身勝手なわがままだって、叶えてくれる。夢のような、嘘のような……ホントの存在。
コイツの中に、何らかの意思があるのは知ってる。……正確な情報じゃないけど、僕が操っているのはおそらく、あの機巧天使と同じように作られた何者かの魂。
ホントは操られることなんて、僕の力になることだって、嫌だと思っているのかもしれない。
でも、僕は信じたい。僕の下に来てくれた、コイツを———ヴェンデッタを。
「…………いいんだね、ヴェンデッタ。
みんなは———大丈夫って?………………そうか、ありがとう。なら僕———行くよ」
決意は未だ固まってない。半ば逃げるようにして勝ち取った結論だ、どっちつかずで中途半端で、揺らしたものならすぐさま崩れ落ちるのは、前々から変わっちゃいない。
『AACIC、起動確認。エンジェルシェル、出力50%。ボードランサー、接続安定』
でも、今はコイツがいる。力がある、僕のために寄り添ってくれる力が。
わがままな結論でもいいと、その声に応じてくれた、僕のための力が。
だから僕はコイツを信じたい。僕の下に寄り添ってくれて、僕と共に歩んでくれるであろう力だと、そう信じたいんだ。
「フィードバックシステム、オールグリーン。VR神経リンク、よし。マジニックジェネレーター出力上昇…………いける!
スタートアップ、ヴェンデッタ!」
辺りの視界が、鮮明にその色を増してゆく。前と同じように背中の真ん中に何かがブッ刺さるが、そんな事はどうでもいい。今は、今はただ———、
「僕のわがままを……叶える力になってくれ、ヴェンデッタ!」
年頃もない子供が発しそうな綺麗事を、本当に成し遂げに行くだけだ……!
響き渡った衝突音。
鉄が歪む音と共に、なんとも形容し難い機械音が鳴り響く。
突如、鉄で構成されたユニットコンテナから開けた眼前に入り込んだのは、紛れもない———モニター越しなんかじゃない、本当の陽の光。
ただ、そんな中。
僕のサイドツーの正面ディスプレイを、その力づくでこじ開けてでも僕の前に立った、その機体は。
———白銀に、乱反射していた。
「ヴェンデッタ……レイさん……じゃない……?」
ああ、ヴェンデッタだ。ヴェンデッタだった。どこからどう見ても、その姿はヴェンデッタそのものだった。……だけど、この機体は———2号機だ。
……ヴェンデッタ2号機。僕が乗ってはいけないと言われた機体は、この機体だった。
「乗れ……って、言ってるのか?」
よく見ると、その銀に塗られた胸部ハッチは開いており。
ヴェンデッタの黒い左拳は、僕の目の前にて大きく開かれていた。
「乗ってほしいのか、ヴェンデッタ!」
ヴェンデッタは、その頭部は———ほんの少しだけ、縦に揺れ動いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5分前———第0機動小隊専用格納庫にて。
まるでそこに収まるのを嫌がっているかのように、全身をくねらせ揺れ動いていたヴェンデッタ2号機。
「なんで……なんでサイドツーが勝手に動いてんだ?!」
「ヴェンデッタには今、誰も乗ってないはず……よねぇ?!」
「お……おい、退いた方がいいんじゃないか、俺たち?!」
ヴェンデッタの整備や研究を続けていた人々が、一斉に束となってその場から逃げ出す。
その直後、ヴェンデッタは自身に取り付けられていた装甲具を全て引きちぎり、強引にも歩み出してみせたのだ。
『よ…………ん……で………………る』
ヴェンデッタの機体接合部からは、そのような低い音が聞こえたという。
『い…………か、……な……きゃ…………』
ただの機械の擦れによる摩擦音としては、あまりに生物的な音だったという。
———そしてヴェンデッタは、軍が開発中の新型脚部装備式移動具『ボードランサー』に乗り、そのまま空へと駆けて行った。
……現場にいた職員たちは皆、後にそのようなコメントを残したという。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「救いたいんだ。……名も知らぬ誰かも分からないし、救う価値もないのかもしれないし、結果的に———僕は死んでしまうのかもしれないけれども。
それでも僕は、助けたいんだよ……独りよがりかもしれないけれど、殺したくなんて……ないんだよ……!!」
ユニットコンテナ内が、奥の方から光の線が入り、直後明るく染まる。
搭乗者は誰1人としてそこにはいない。……つまりはヴェンデッタが、たった1人で僕の元に駆けつけてくれたんだ。
できる。できるんだ、この力なら。
あれだけ望んだ身勝手なわがままだって、叶えてくれる。夢のような、嘘のような……ホントの存在。
コイツの中に、何らかの意思があるのは知ってる。……正確な情報じゃないけど、僕が操っているのはおそらく、あの機巧天使と同じように作られた何者かの魂。
ホントは操られることなんて、僕の力になることだって、嫌だと思っているのかもしれない。
でも、僕は信じたい。僕の下に来てくれた、コイツを———ヴェンデッタを。
「…………いいんだね、ヴェンデッタ。
みんなは———大丈夫って?………………そうか、ありがとう。なら僕———行くよ」
決意は未だ固まってない。半ば逃げるようにして勝ち取った結論だ、どっちつかずで中途半端で、揺らしたものならすぐさま崩れ落ちるのは、前々から変わっちゃいない。
『AACIC、起動確認。エンジェルシェル、出力50%。ボードランサー、接続安定』
でも、今はコイツがいる。力がある、僕のために寄り添ってくれる力が。
わがままな結論でもいいと、その声に応じてくれた、僕のための力が。
だから僕はコイツを信じたい。僕の下に寄り添ってくれて、僕と共に歩んでくれるであろう力だと、そう信じたいんだ。
「フィードバックシステム、オールグリーン。VR神経リンク、よし。マジニックジェネレーター出力上昇…………いける!
スタートアップ、ヴェンデッタ!」
辺りの視界が、鮮明にその色を増してゆく。前と同じように背中の真ん中に何かがブッ刺さるが、そんな事はどうでもいい。今は、今はただ———、
「僕のわがままを……叶える力になってくれ、ヴェンデッタ!」
年頃もない子供が発しそうな綺麗事を、本当に成し遂げに行くだけだ……!
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
データ・ロスト 〜未来宇宙戦争転生記
鷹来しぎ
SF
宇宙船に轢かれて死んだ少年、轢いた少女とともに宇宙帝国と戦う。
遙か未来の並行世界の少年・ユウキとして目を覚ました南勇季。勇季は職場で失敗し失意に暮れていたところ、通りかかった建築現場の事故で死んだはずだった。
目覚めたときにそばにいた少女スズランは、ユウキは彼女が起こした宇宙船事故によって重傷を負っていたのだと教えてくれる。
「一度、死なせちゃってごめんね。なんでもするから許して!」
死の淵をさまよい、目覚めたユウキには超知覚“レクトリヴ”が備わっていた。世界を書き換える力をもつ超常の能力を手に入れたユウキは、この力があれば他人から羨まれるような自分になれるのではないかと思い始める。
一方、全宇宙の支配をもくろむ帝国・ギデスがレクトリヴ能力者の独占を企んでおり、ユウキは連邦宇宙政府とギデスとの戦争に巻き込まれていくことになる。
レクトリヴ能力者として規格外であることが判明するユウキ。自身が望んだように、見返したかった知り合いや、少女スズランからの尊敬を集めていく。
黒猫のペシェは言う。
「では、キミ、幸福になりたまえよ。優れた者のみ幸福になれるのだとしたら、キミはこの宇宙で最も幸福たりえる存在だ」
キャラ紹介など: https://sepia-citron-b77.notion.site/NIL-AQ-b6666b9e57ba48c7a6faa53934dd2bab?pvs=4
悪徳権力者を始末しろ!
加藤 佑一
SF
何をしても自分は裁かれる事は無いと、悠然としている連中に
特殊能力を身につけた池上梨名、
ハッカーの吉田華鈴、
格闘技が鬼レベルの川崎天衣(あい)、
と共に戯れ合いながら復讐を完結させるお話です。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。
理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。
彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。
そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。
そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。
さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。
司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。
その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。
そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。
そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。
その宿命に誠は耐えられるか?
SFお仕事ギャグロマン小説。
人脳機兵バイドロン対英勇閃奏Vリーナ対破戒神魔ゴッデビロン
博元 裕央
SF
※この紹介文は大半がフィクションです。詳細は注意書をご確認下さい。
今、三大異色ロボットアニメの奇跡の共演がOVAで幕を開ける!
それは全く新たな物語にして伝説の完結編!
非情の超人電脳『42』に滅ぼされ行く世界で明日亡き戦いに散る少年兵を描いた問題作、<人脳機兵バイドロン>。
ゲームのオリジナルキャラから人気によりアニメ化、その活躍ぶりは描かれたものの複数の物語を繋いだその謎は未だ明らかになっていない<英勇閃奏Vリーナ>。
世界を侵略し滅ぼす悪のロボット軍団の視点から描き、しかもその悪が勝利するピカレスクロボットアニメ<破戒神魔ゴッデビロン>。
救いは無かったのかという疑問と、明かされなかった謎、その答えが今明かされる!
上中下巻、各巻30分、合計90分の完全新作。21世紀のロボットてれびまんが祭り、開幕=発売中!
※注意・上記紹介文はあくまで「架空のロボットアニメが共演する架空のOVAとしての本作品」を紹介した内容です。小説としての本作品は、架空のOVAのノベライズというイメージで書かれた、全く別々の世界観を持つ三種類のロボット達が登場するロボットアニメ風小説、ハイスピード疑似クロスオーバー小編です。
※人脳機兵バイドロン等過去作品で触れられているものもありますが、知らなくても一切問題なく読めます。過去に触れた作品でも描写は無いも同然でしたし、一部設定も少し異なる所もあるかもです。それでも一応気になる方は、同作者の小説【UNBALANSTORY】をご覧下さい。但し、同作品は非常に実験的な問題作である為ご注意下さい。気になりましたらもしよければどうぞ。
トワイライト・クライシス
幸田 績
SF
仮想現実が現実世界を侵食するサイバーテロ〈黄昏の危機〉。その脅威に妄想、もとい想像力で立ち向かうのは物書き志望の女子高校生だった――!
桜咲く街を舞台に、すこしふしぎな青春群像劇が満を持して花開く。
『奇-KISEKI-蹟』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
SF
一九九二年。十歳の金城浩樹は柏崎海岸でおぼれ死のうとしていた。プロテスタントの牧師である父親は浩樹をたすけようとしたことで溺死する。そのために浩樹は『神は存在しない』ことを科学的に証明せんと決意する。
二〇〇一年。マンハッタンを散歩していたハンナは九一一同時多発テロを目撃する。
無神論者であるハンナはテロのさなか熱心に神にいのった。
すると神が熾天使ラファエルをつかわして奇蹟をおこしテロが『なかった』ことにしてくれた。
二〇一一年。ハンナは東京の大聖堂で『九一一同時多発奇跡』にいたるまでの生涯を物語っていた。
聴衆のひとりである金城は『ハンナはいんちきだ』という。
そこでハンナは実際に奇蹟をおこすが東京の大地がゆれはじめる。
『三月一一日』のことであった。――。
No.5 トウトリノス
羽上帆樽
SF
別れると、出会い
仮想空間も、物語も、形式的にはすべて終わった。しかし、始まりが明確でない以上、終わりもまた明確でない。円周上にいるとき、向かい側は常に見える。
月噴水(ムーン・ファンテン)
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。
(この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる