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其は天命の刻、誰が為の決意
出撃
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話が終わり、格納庫の自分のサイドツーへと移動する皆の顔は、どこか決意と悲壮に満ち溢れていたようだった。
前回の出撃の際、あんなに嫌がってたブランでさえも、左手で握り拳を作りながらも必死にソレを抑えている。
……それだけ怖いんだ、『人を殺す』というのが。その応酬が。その罪を背負うのが。
戦場では、100人殺せば英雄らしい。1000人殺せば英傑、10000人殺せば戦の神。
……でも、そんなものを、そんなもので表彰されたって、どこも嬉しくない。
他人の未来を奪って、その上で自分は幸福を得ているに等しいのだから。そんな屍の山の上に座するゴミのような名誉、僕にとっては願い下げだ。
「———ケイ。ケイ・チェインズ。貴様に伝えなければならないことがある」
本当に至近距離、真後ろで放たれた威厳ある声は、レイ新教官のものだった。
「……はい、なんでしょう」
「貴様は今回———ヴェンデッタには乗らずに、量産型サイドツーを用いて出撃しろ」
———え。
だってヴェンデッタは僕のための機体で……このような戦場において、僕が乗るためだけに送られてきたんじゃないのか?
「……疑問に思っているかもしれないが、これは昨日起こったヴェンデッタの自動起動、完全自律制御反応の解析の為だ。……少しばかりの辛抱だが我慢してくれ。
……そして、貴様にはあのヴェンデッタに乗って、そして戦場を駆ける義務がある。それをゆめゆめ忘れず、絶対に生きて帰ってこい。
……ヴェンデッタ2機で、貴様と肩を並べるのを楽しみにしていたからな」
「は———はいっ!」
了承———しちゃったが、やっぱりよく考えたら納得できなかった。
『よっ』
そう言って、左腕を振り下ろした瞬間の妙な感覚。
一瞬にて、まるで自分の体かのようにサイドツーが動く臨場感。
何もかもが楽しかったアレに乗れないとなると、少し寂しい。
…………その楽しさで、人を殺してしまうことも———怖い。
『搭乗ライセンス承認、LOGIC OS、起動確認』
薄暗いユニットコンテナに、前面から流れるように後ろへと光が走る。
ここまで来て、僕はようやく違和感を見つける。
「そういえば、リコは———リコはどこに行ったんだ……?」
昨日までリコはいたはずだ、僕とちゃんと話たはずだ。……なのに、今日はいない。あの場には、リコはいなかった。
副隊長だから、いたらすぐに気付くはずだ。いないとなれば……いや、それはないか。ないと信じよう。
『第0機動小隊各機、出撃準備!』
整列したサイドツー軍の奥より、薄白の朝日が差し込む。
眩しい———とは思わなかった。むしろ、僕に取っては真っ暗に見えたのだ。
『———発進っ!』
カタパルトが発進する。音を立てて、石やら何やらでできた道をサイドツーが滑走し、滑走路が切れるところで飛び立つ。
「……ふう」
スラスターを吹かし、段々と視界が持ち上がる。上へ、上へと。
前回の出撃の際、あんなに嫌がってたブランでさえも、左手で握り拳を作りながらも必死にソレを抑えている。
……それだけ怖いんだ、『人を殺す』というのが。その応酬が。その罪を背負うのが。
戦場では、100人殺せば英雄らしい。1000人殺せば英傑、10000人殺せば戦の神。
……でも、そんなものを、そんなもので表彰されたって、どこも嬉しくない。
他人の未来を奪って、その上で自分は幸福を得ているに等しいのだから。そんな屍の山の上に座するゴミのような名誉、僕にとっては願い下げだ。
「———ケイ。ケイ・チェインズ。貴様に伝えなければならないことがある」
本当に至近距離、真後ろで放たれた威厳ある声は、レイ新教官のものだった。
「……はい、なんでしょう」
「貴様は今回———ヴェンデッタには乗らずに、量産型サイドツーを用いて出撃しろ」
———え。
だってヴェンデッタは僕のための機体で……このような戦場において、僕が乗るためだけに送られてきたんじゃないのか?
「……疑問に思っているかもしれないが、これは昨日起こったヴェンデッタの自動起動、完全自律制御反応の解析の為だ。……少しばかりの辛抱だが我慢してくれ。
……そして、貴様にはあのヴェンデッタに乗って、そして戦場を駆ける義務がある。それをゆめゆめ忘れず、絶対に生きて帰ってこい。
……ヴェンデッタ2機で、貴様と肩を並べるのを楽しみにしていたからな」
「は———はいっ!」
了承———しちゃったが、やっぱりよく考えたら納得できなかった。
『よっ』
そう言って、左腕を振り下ろした瞬間の妙な感覚。
一瞬にて、まるで自分の体かのようにサイドツーが動く臨場感。
何もかもが楽しかったアレに乗れないとなると、少し寂しい。
…………その楽しさで、人を殺してしまうことも———怖い。
『搭乗ライセンス承認、LOGIC OS、起動確認』
薄暗いユニットコンテナに、前面から流れるように後ろへと光が走る。
ここまで来て、僕はようやく違和感を見つける。
「そういえば、リコは———リコはどこに行ったんだ……?」
昨日までリコはいたはずだ、僕とちゃんと話たはずだ。……なのに、今日はいない。あの場には、リコはいなかった。
副隊長だから、いたらすぐに気付くはずだ。いないとなれば……いや、それはないか。ないと信じよう。
『第0機動小隊各機、出撃準備!』
整列したサイドツー軍の奥より、薄白の朝日が差し込む。
眩しい———とは思わなかった。むしろ、僕に取っては真っ暗に見えたのだ。
『———発進っ!』
カタパルトが発進する。音を立てて、石やら何やらでできた道をサイドツーが滑走し、滑走路が切れるところで飛び立つ。
「……ふう」
スラスターを吹かし、段々と視界が持ち上がる。上へ、上へと。
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※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります
※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます
※この小説は国家資格である『毒劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。
参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
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