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屍山血河〜王都防衛戦〜

終われない

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「な……なん……で、どうして、後ろはどうなって———」
 
 何でだ、敵は1体たりとも通してないはずだ、しっかり目を配っていたのに、なんでそんなことに……?

 ……いや、今の一瞬で……死んだ、のか?
 今さっき……数秒前まで話していたショーゴは、もうこの世にはいない……?


 う……嘘だ、信じられない……そんな呆気なく終わるわけないだろ、そんなに呆気なく、一瞬で終わるなんて———あ。




 その時画面の中心に見えたのは、まるで僕を貫くように伸びていた青白い光の糸。
 瞬間、僕は死を覚悟した。




 死を覚悟———そんなモノなのだろうか。
 そんなやわなモノじゃない。

 唐突に目の前に巨大な『死』の一文字が迫って来たかのような、そんなあまりにも突然すぎる死の結果。

 ポツポツと頭に浮かぶ、自らの体の惨状。

 もうこの時点で、僕の心は完全に貫かれ砕かれていた。

「———いやだ」

 青白く染まりつつある視界。
 何故だかどこか、心の底から熱くなってくる胸焼け。
 死へ向かう不安と焦燥。そして———。


「い…………いやだぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 生き延びてみせる———確固たる決意。そして、冷静な判断を胸にっ!!

「ちくしょぉぉぉぉおっ!」

 文字通り、スラスターを急に吹かしクイックブーストをかける。
 その一瞬が、気の遠くなるほど長く思えてくる。

「おおおおおおっ!!」

 風を切るような、そんな神力光線の甲高い音が隣接する中。


 もうダメだ、と誰もが諦めた、この一瞬。
 誰もが諦め、誰もが乗り越えられなかった、この照射の瞬間。

『僕だけは違うんだ』と、確固たる決意と意識を胸に。



「———っ、ハア、ハ……フウ……ハァ……」

 抜けた。

 黒く染まった星空を、下から明るく照らす神力光線の青白い光は、もはや既に僕の頭上を通過していた。

 機体損傷……なし。
 諦めないと叫んだ心が、ようやく奇跡を手繰り寄せた。






『こちら第0機動小隊指揮官機よりコーラス7! 2機行動していたコーラス6のマーカーが消えたが、一体何があった?!』



「新種のアレ……から狙われました、神力光線でコーラス6は———」


『………………なるほど、そうか、そこまで来れば当分雑兵の方のヤツらも追っては来れないだろう。…………初めての経験で辛いかもしれないが、生きて戻ってこい、いいな?』



「———了解……」






 ……守れはしなかった。

 アイツの後ろを守るのは、僕なのに。


「———ちくしょう」

 ヤケになって吐き捨てた。
 

 ……全く信じられなかった。
 ついさっきまで、本当についさっきまで、僕は話していたはずなのに。




◆◆◆◆◆◆◆◆




 王都周辺。
 既に土塁や氷魔法などで即興の壁が形作られていた。目に見えるモノとして、防衛線を見たのは初めてだ。






 結局、前哨基地の者ら含め全員が撤退した。
 撤退行動に出て殺された者もいるが、戦力の保持のための撤退としてはかなり良い成果を上げたと言っても良い。


 現在はここより東に6キロ地点からこちらに突進してくる神話的生命体を迎撃するために、各部隊が各々の準備を整えている時間でもあり、僕たちにとっては、作戦によって生まれた心の隙間を埋めるような時間でもあった。



『損害確認、死者……本小隊は現在、4名にまで留まっている。

 ……初陣だと言うのに、2万もヤツらの数を減らすどころか、ここまでも被害を抑えるとは、全くよくやってくれたものだ』

 死者———もはや思い出したくもない。



 あんな簡単に、そしてあんな唐突に人は死ぬんだ、そして僕も例外じゃない……と。

 そう分かって、実感してしまった時の圧迫感、そして生き急ぐような焦燥。

 そして、そんな気持ちが常時渦巻く戦場に、もう一度行かないといけないという事実。
 またあんな気持ちを味わわなければいけないのかという悔しさ。


 ———僕に力が無かったから、アイツは死んだんだ。
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