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屍山血河〜王都防衛戦〜

神話的生命体

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「全機そのまま待機だ、まだ動くなよ!」

 砲撃の煙が海岸線に立ち込める中。
 誰もが息を呑み、その煙の先を見据え続ける。

『もしかしたら今ので全部倒したんじゃないのか』、そんな淡い希望を信じ続けて。

「まだだ……まだ出るなよ……!」

 直後。



『グ……グガルルゥゥゥゥウッ!!』

 低い唸り声を上げ、海水の膜を被りながら煙の先から這い上がって来たのは、神話的生命体と呼称された、四足歩行の機械のような生物。

 機械のような鉄の身体ではあったが、その隙間のところどころから赤い肉のような有機的な部分が食い込み、またあるところははみ出して完全に露出していた。

 しかもそれらは、どれもが同じ姿であり。どれもがその有機的な部分と無機的な部分が、気持ち悪い割合で混ざり合った代物だったものだから、それらを見下ろす隊員たちの愚痴はますます増していく一方だった。


「……おい、こちら懲罰大隊指揮官機より作戦基地司令部! 支援砲撃をもっと後方に回せ! 懲罰大隊が前に出るっ!」

『なんだと……倒せていないとでも言うつも———』
「言った通りだ、討ち漏らしすぎだこのバカ共がっ!」
『魔族と人間のハーフ如きが、我らを小馬鹿にするか……!』

 あまりにもうるさい司令部の愚痴などいちいち聞いてられるか。




「こちら懲罰大隊指揮官機より懲罰大隊全機に通達。全機、前に出て仮称敵、神話的生命体を迎え撃つ!

 繰り返す、前に出て討ち漏らしを全員叩き潰す、この私に着いて来いっ!」

 スラスターを点火させ、全速力でサイドツー全機の前に出る。

 岩肌に着陸し、速攻で銃を構える。
 前方———所狭しと詰め寄り、こちらに向かう神話的生命体、数は計測不能。

 まさに敵の海嘯かいしょうと言わんばかりに広がり続けるその銀色の光景。
 

 ———殺り放題だ。

「どこを撃っても当たるし、どこを狙ってもヤツらは勝手に突っ込んでくる! しかし補給は少ない、弾は無駄にするな! 指切り点射で1機1機確実に始末しろ!」

 ようやく銃声が唸り始めた。味方機の撃った弾が、まるでこちらを後押しする追い風のように敵陣に突っ込んでゆく。

 

 ———狙うのはヤツらの有機的な構造をしている部分、グロテスクな赤い肉がはだけた部分。

 何度も確認するが弾の補給はほとんどない。少なすぎる弾でできるだけの敵を殺し、なんとか次に繋ぐ———そのくらいしかできはしない。

「だあぁぁぁぁぁああっ!!!!」

 ズガガガガガガガガッ!
 耳を打つ轟音が場を支配する。

 閃光の最中。見えたヤツらは、見事に銃弾に当たりに行き、肉から血を噴き出して倒れ込んでいる。

 ……よし、別に魔力概念補強をせずとも、通常兵装で対処可能なのは分かった、それだけでも十分だ……!



『うっうおあぁぁぁぼぎぐ———!』

 タイミングはズレていたが、その声とほぼ同じ瞬間に爆発が起きる。
 ……こんな棒立ちでも殺れるようなヤツらにやられるとは、よっぽど訓練をしてなかったんだろう。



 散りゆく仲間など、どうでもよい。
 護るものなど元より何もないのだから。

『たっ———隊長! 弾が、弾がジャム詰まって……ジャムぉぅあぉぶぐぎ———』



 爆発は———左……すぐじゃないか!
 まずい、このままだと左側から突破される……弾がジャムったのなら長刀があるだろうに、いちいち迷惑をかけやがって……!


「———っ!」

 スラスターを右に吹かし、左に位置する敵を狙いながら撃ち続ける。
 轟音の合間合間に聴こえてくる爆発音。既に様々な場所で味方がやられているってのか……!

「ならばコイツで……!」

 盾を前に突き出し、打突武器としてヤツらを抑え込———え?


 咄嗟に横を向いた瞬間。
 既に横は、完全にヤツらのみで埋め尽くされていた。

「———クソッ、懲罰大隊副隊長! 応答せよ、副隊長!」

 ここに来てようやく、副隊長の存在を思い出した。
 そんなこと指揮官としてはあるまじきことなのだが。

「副隊長、応答せよ副隊長! 損害報告を———」
 
 言いかけた瞬間、もはや問いかけは無意味だと悟った。
 レーダーに目をやった瞬間。副隊長を表すマーカーが、レーダー上から完全に消え去ったからだ。

 その他懲罰大隊のマーカーは、たった数百しかその姿を示していなかった。

 ———そんなにコイツらが怖いか、そんなに狼狽えるべき敵か、コイツらは……!
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