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神威大蒼月
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———ヘファイストス神殿国。
「終末」に対抗する「救世主」……いや、「予言の子」を育むために発足した、機神ヘファイストスの骸を軸とした神殿国である。
ここの現国王、ヴァーサ・セイバーは、この国を襲うであろう「カミ」の接近にも気が付いていた。
国宮殿神殿棟———そこに座する機神「ヘファイストス」にヴァーサが祈りを捧げている時、一つの天啓があったのだ。
「機神ハ迫ル。神核ヲ取リ出シ鋳造セヨ、神威ヲ」……と。
「…………ってな、お告げだ。黒、頼めるか?」
「俺のハンパな概念法術如きで……あの神核を抽出しろ、と……そう申すのですか、国王陛下」
この男……黒は、ヴァーサの影武者、表向きの国際外交官として…………いや、今やただの召使いとして、ヘファイストス神殿国で働く男である。
当時の黒の年齢は19才。まだまだ未熟な青二才である彼に投げかけられたのが、「既に死した機神の神核を概念法術で取り出して、神威とかいう刀に刻み込んでね」だとか言う無理難題であった。
「カミ」———機神の原動力でもある神核は、強度な『概念』として構成されている為、これを取り出すには『概念法術』なる魔術の一種を扱わねばならないのである。
「…………………国王陛下、なんてカタい言葉はやめろと言ったはずだ……そんなに不安なら占いのババアに聞いてこい。おそらく……お前ならできるって予言してくれるからな」
……とのことで、俺が向かったのは、「占いのババア」のもとである。
「おはよう……ございます」
「あ……おお、黒か……今日はどんな……ご用件じゃ……?」
「占いのババア」———本名をギン、と言うが、この老婆は未来に関するあらゆる事を予言してくれる、この神殿国にとってもかなり大事な人だ。
その正体は———元魔王軍幹部。「居心地が悪い」だか何だか口にして、問答無用で魔王城から出てきたらしい。
魔王城ってそんなに簡単に出入りできたりするのか……?
「……それで、俺の今後……具体的には……神威…? だとか言う刀に関する事で予言してほしい」
「………………作れない」
「へ?」
「作れない、お主には神威は作れない、と言っておるんじゃ」
未来に関するあらゆる事を予言してくれる老婆。その老婆が言うのだから、それは全くもって嘘偽りではないのだろう。
……だけど、必ずしも自分に有利な予言をしてくれるわけでもないからにして…………え?
「作れない……作れない、って、じゃあ誰が神威を完成させるんだ……?」
「……あまりはっきりは見えてこんが……人物が定まらん、誰が作れるかも分からずじまいじゃ」
手に持った水晶玉を凝視したまま、老婆はそう発した。
「それ、詰みじゃね?」
「機神が迫る、だあ……? そんなの、国王陛下の流星爆裂魔法で粉砕すればいい話だってのに……」
人通りの多い大通りの脇にあるベンチにて、男———黒は1人項垂れる。
「……なんだと、機神……か……?」
その黒に話しかける人影が1つ。
「ん?……なんだ、イデアか……ってイデアぁっ?!」
「おい、そんな大きな声出すなよ、降りてきているのがバレるだろ……!」
イデア・セイバー。
6代目の王位継承者にして、ヴァーサ・セイバーの第一子。現13才である。
……が、イデアは王族の身。勝手に山頂の国宮殿を抜け出すことは許されていないはずだ、それにこの反応から見るに……
「……お前、また勝手に外出したな……?」
「だってそりゃあそうだ、宮殿は何もかもがつまらない」
最近にして、このイデアの性格が弟の『アレン』に似てきた気がする……このような自由奔放な性格と言えば、ついこの前まで、宮殿にはアレンしかいなかったからだ。
「つまらない……って何だよ、そらそら、早く宮殿に……も、ど、れ! お前らのお目付け係は俺なんだ、お前らが出て行ったとなれば俺が叱られるんだよ分かったか?!」
「ふん……貴様の苦労など分からなくて結構だ。それで? さっき言ってた機神、ってのは何なんだ」
「……ヘファイストスからの天啓だ、国王陛下が仰っていたが……『機神は迫る。神核を取り出し鋳造せよ、神威を』だと」
「機神が迫る……? つまりはその神威とやらで、迫り来る機神を斬り堕とせ、と?」
「知らない、俺もそこまでは聞いてない……! 全く、何もかも教えちゃくれない、ケチな神サマだよ、ホントに!」
「……まあ、この俺にかかれば、それこそ大戦に出てくる『機神アレス』だって一刀両断できるだろうがな」
「……この前、弟のアレンに模擬戦で負けたヤツがよく言うよ」
「その話はするなと言ったはずだ……!」
「負けず嫌いなヤツめ」
何気なく続く他愛もない会話だが、そうしているうちに、神殿国に地の震動が鳴り響く。
「のわっ?!」
「なんだ、コレ……地震、か……?」
「なるほど、これが国王陛下の天啓……つまりは……もう来たってのか、機神!」
「ようやく俺様の出番という訳か」
「イデア、お前の出番はないぞ……多分」
揺らぐ霊峰、蓬莱———そこにそびえ立つ神殿国宮殿より、ヴァーサと、神殿国の第7王子アレンは、事の顛末を傍観していた。
「……アレン、見えるか? アレが機神だ。俺たちがいずれ堕とすべき、最悪の終末だ」
「しゅう……まつ……?」
アレンが灰色の石でできた柱より垣間見たのは、全身が鉄で覆われたただの球体だった。
「あれが……きしん? あの玉っころが……きしん?」
「………………そうだ」
「……俺は、たたかうの?」
「いいや、今回ばかりはお前も俺も戦わない。だからこそ、アイツ———イデアには頑張ってもらわないとな」
「兄、さん……か」
国内では混乱の一途を辿っていた。
突如として、木製で作られた柵の外にて出現した球体。
その影は、神殿国の城下町をも飲み込むほど大きなものだった。
神殿国最奥の霊峰へと逃げ惑う人々に対し、その影に報いようと画策する人影が2つ。
だがしかし。
「なあ、イデア。俺はどうすればいい?」
「どうすればいいか、などこの俺様にも分かるわけがなかろう、アレと戦う? 正気なのかって話だ」
「お前さっき言ってただろ、機神アレスだって両断できるって!」
「アレは……そう、言葉のあやってやつだ、今の俺様にあの機神……らしき何かが倒せるとでも………っ?!」
イデアが饒舌にも自らの墓穴を埋めようとした瞬間、現れた鉄の球体———機神より、紫色に煌めく熱線が発射される。
その熱線が、国を覆う木製の柵の真上に達した途端、国を覆っていた、透明にして巨大な神力エネルギーで構成された障壁がその姿を現す。
同時に地は揺らぎ、空に浮かぶ微かな雲も既に晴れきっていた。
「1発目の光線は……あの通り防げた訳だが……次来た時に耐えられるかどうかだな……」
「……黒、傍観している暇は無さそうだ……宮殿へと向かうぞっ!」
イデアに手を引かれ、そのまま宮殿の方角へと連れて行かれる……が、やはり俺は疑問に思っていた。
「なんだ、あの化け物を堕とす策でもあるってのか?!」
「そんなもの知らん、分からん!……がしかし、その神威、とやらが使えるかもしれんだろ、例えここで死ぬとしても、俺は俺のできる事をやってみせる……でなければ、俺が今まで積み上げてきたものなど……無意味になってしまうだろうからな……!」
「……戦う事のみがお前の生きる意味———とでも言うつもりか…!」
「元よりそのように、教えられてきたのだからな!」
霊峰を登り、ようやく俺たち2人は、ヘファイストスの神核の眠る国宮殿へと辿り着く。
……が、辿り着いたところでどうすればよいのだ、と、死への焦燥と不安が一度に襲いかかる。
「イデア……お前はどうするつもりだ……?」
「どうする、つもりだ、だと……? もちろん、玉座の間に座する誰かさんの、その心臓を貰いうける…‥までだ……!」
玉座の間。
普段、国王———ヴァーサが座るその玉座だが、今となっては無人の玉座。
その裏にて鎮座する、機械仕掛けのカミ、ヘファイストスの神核は、その鼓動を強める一方だった。
「コイツを……力づくで……っ…!」
「無駄だイデア、機神の神核は概念体、概念法術でしか摘出できはしないんだ……」
「じゃあどうしろと……っ!」
言いかけた途端、何とも形容しがたい地響きと不安が神殿国を襲った。
柱から外に目をやると、そこには既に破られた神力障壁、そして……こちらへと迫り来る、灰色の鉄球体が。
その正面にて、既に光は形成され始めており、同時にそれが先程の熱線だとも気付く、が。
結局俺たちは、それへの対処の方法を、いまだに編み出せてはいなかった。
「イデア……刀を構えろ。魔力を纏わせ、光線を両断する準備を……しろ」
「あ……ああ」
無論、イデアもその光景を目の当たりにしていた。
そして……戦意を喪失していた。
あまりにも突然に身近に迫った死と、それを突きつける現実に戦慄していたのだ。
その恐怖の前には、鍛え上げられた勇気なども無いものに等しく、イデアは既に、生存本能のみで動く衝動の獣と化していた。
そう、これがカミである。
まるで物語が終わったあと、何の気兼ねもなく全てを終わらせる『終末装置』かのような理不尽さ。
これが現実であり、これがカミの正体であり、そこには慈悲も、憐れみも、無いに等しいと……それをたった今察知したイデアは、文字通り震えていた。
「………………絶望しろ、挫折しろ、戦慄しろ」
響いたのは———ヴァーサの一声だった。
「そして立て、絶望のドン底から……這い上がれ」
「父上……どう足掻こうとも、この状況は……」
「無理、と諦めるか? それがお前か? それがイデア、という人間か?」
「ならば、どうやって勝機を見出せと…」
「……………………人は、一度地の底を、ドン底まで陥らなければ、這い上がれない。お前は今まで、それを経験した事があったか?」
「それは……」
そうだ、俺様には……圧倒的な挫折……がなかった。
生まれてこのかた、負けず嫌いだった俺は、できない事があれば何度でも、自らの努力によって克服してきた。逆に言えば、努力で克服できなかったことなどなかったのだ。
だからこそ『自分はなんでもできる』と自分自身を過信していた。
できないことなど何もないと、そう思ってきた。
だが———これが、挫折か?
俺が、絶対に乗り越えられない……壁だと言うのか?
「ならば今だ、今こそ、だ! 今だからこそ、お前はようやく這い上がれる!
人は誰しも、這い上がらなければ……勝てはしないのだ!!」
「ようやく俺は……這い上がれる……?」
「イデア、来るぞ……ヤツの光線が…!」
次秒、閃光に包まれたその場にて、より一層輝きを放つ———翅があった。
「…………イデア……その、翅は……一体……?」
見上げたイデアの背より生えていたのは、対を失った……片翼。
その黒き左翼が場を覆い、その場にいたすべての者を、光線より護り通したのだ。
「そうか……兄弟……2人で1つの……片翼か…………黒、イデアに無銘の刀を渡してやれ」
「……国王陛下……?……まさか、この刀が神威に……」
「……ふふ、今は賭けるしかあるまい、イデアの力に…!」
「翅、か……俺にこんなものが眠っていたとは……」
「……それっ」
黒の手よりイデアに、無銘の刀が投げ渡される。
「っとお、いきなり何のようだ、黒———?」
まるで勝ち誇ったような顔をしてこちらを見つめる黒に対し、イデアは一瞬呆然とする。
「……神威を作るのは俺じゃなかった……イデア、お前だ。きっと……お前が神威を作るんだ!」
「俺が……そうか、俺が、この俺様が作るのか、神威!」
「████████」
声にもならない叫び声を上げる機体が、その姿を変貌させてゆく。
機神———その鉄の球体は、まるで鳥が翼を開くかの如く、内側から徐々に変形し、ついには巨大なカラスのような浮遊体へと……成り代わった。
「……ヘファイストス概念体……摘出開始」
イデアの、その手に持った刀が、紫色の光を纏い爛々と輝き始める。
同時に、霊峰にて眠る、ヘファイストスの亡骸より、紅く輝く光が———その刀の下へと舞い降りる。
「刻印せよ、神理の光よ。概念真名検索……惑星根源接続確認———存在強度…神宝級:概念武装『神核混濁製五十三数同時多発連撃式神聖概念武装神威』生誕……!」
「……国王陛下、これが……神核の込められた概念武装の……誕生術式、ですか」
「そうとも。……まるで機械の如く、淡々と。それでいて…人の如く猛き詠唱だとも、その不屈の心…………それこそがイデア、お前の真髄だ!」
不屈の心、そうだ、俺は今まで、何があっても諦めなかった……そのはずだ。
目の前に、敵がいる時……父上から教え込まれた、そんな時にとる行動は1つ。
「…………ブッ飛ばす…っ!!」
イデアがそう口にした後、その手にて握られていた無銘刀———神威が光り始める。
翼を広げた機神より、紫色の閃光が放たれるかどうかの刹那。
片翼の剣士は、既に……空に弧を描き、飛び立っていた。
「神威……起動っ!」
そして、一瞬。
そして、一閃。
ただの一撃、ただの一振りだった。
その神剣は、たったの一振りで、その機神のガワを……両断してみせたのだ。
「……素晴らしい、これこそが神威だ、神の終末に対するザ・ドーン! やはりそうだ、予言は間違ってはいなかった……この神剣によって、世界の夜明けを迎える!!」
両翼の斬り落とされた機神は、その核を表しながらも落ちてゆく。
確実に勝った———と、ヴァーサ以外の誰もが確信を持ったその時だった。
「まだ、まだだ。まだ終わってはおらんぞ、イデア!」
「父……上……?」
「神核が止まるまで、ヤツらは行動を止めることはない。お前が斬ったのは、機神にして真髄にあらず!……ならば、その手で決着を付けよ、イデア!」
濛々と立ち込める煙より出でたのは、紅く染まりし深淵の光。
黒翼の天使は遂に地に降り立ち、その丸き神核へと刃を突き立てる。
「終わりだ、そしてこの俺様の……勝ちだ……!」
ありったけの力を込め、振り切ろうとしたその瞬間であった。
「……っ、あの馬鹿……無防備じゃないか……っ!」
完全に勝った、と思ったその時だった。
「……あ、ぐ……何、だと……?!」
突如、その身体は宙を舞い、同時に右腕に尋常ならざる痛みが生じる。
「は……ぐ、あ、……あっ……!」
何をされたか、それはすでに分かりきっていた。
「……イデア、おい! 意識をしっかり持て! 目を閉じるな、一生寝ることになるぞ!」
「黒…………か、ち……くしょう、やらかした……っ」
「…………いいか、イデア。考えるのは最適解、だ。ヤツに勝つこと、ただそれだけを考えろ。貪欲に行くんだ、イデア」
「分かっている……離せ、俺は1人でも……できるんだ、来い、神威……!」
……と強がっているイデアだが、先程機神の神力光線をモロに食らった右肩は、溢れんばかりの赤で塗れていた。
「1人でもできるだと……? ふざけるな、今のお前1人で、あの化け物を堕とす気か?!」
「ああ、そうだ、助けなど……いらない……! 俺1人で、俺様1人でやらなければ、俺の生きてきた……意味が……っ!」
そう口にするイデアだが、一瞬よろけ、その腕ごと地に身体が伏した。
これで、この状態で、1人でやる、だって?
毛頭、無理な話に決まっている……!
「……イデア。陛下が言っていた、だろ、ドン底を見なければ、人は這い上がれない、と。
お前が見たのは、ドン底じゃないのか?……絶望の、それこそドン底を、お前は目にしたんじゃないのか……?」
「それとこれとは話が別だ、貴様の助けなど……死んでも……俺は……」
「いい加減、やめろ。強がるのだけは、やめてくれ、イデア…!」
「うるさい……認めてたまるかって……!」
「そうか、あの信頼の無さ。アレがお前の、イデアのドン底、か……2人で1つ…だと言うのに」
「黒、貴様などに頼らずとも、この俺が……この俺だけで……殺す、殺してみせる……!」
既に崩れ去った瓦礫の上にて、イデアはただ1人、機神へと向かい足を進める。
その、利き手ではない左腕で、痛みと恐怖で震えてばかりの腕で、神威を持ちながら。
———いや、神威を持つ手は、もう1つあった。
「黒、貴様……何を……っ?!」
黒はイデアから神威を奪い、その右腕にて神威を携える。
「陛下は言っていた、お前は、2人で1つの片翼だと。……その片割れが俺かどうかだなんて、俺にもお前にも分からない。それでも、俺は……今のお前の、腕にだったらなれるはずだ」
「貴様と一緒に……戦えと……?」
「そうだ、当たり前だ、お前は陛下の言葉から何を学んだ?」
「何を……」
「今こそが、絶望のドン底だろう! イデア!」
「今……今、今、なのか……? これが俺の、絶望だと……?」
「……いいか。今だけ、俺はお前の両腕だ。だからこそ、お前も……俺の目と耳と、そして……翅になってくれ、イデア……!」
「~~~~っっ」
少しばかり、その言葉の響きに羞恥を覚えるものの。
「2つとなった今の俺たちは……無敵だ。これが俺たちの、最適解なんだ、分かってくれ、イデア……!!!!」
「……あー、ああ、分かった、行ってやるよ、行ってやるさ、何だってきやがれ、クソッタレ……!!」
「█████████████」
途端、機神の神核から十数発の神力閃光弾が放たれる。
それらは軌道を変えながらも、着実に俺たちの元へと迫ってくる。
「イデア、魔術だ! 幻想顕現魔術で、俺をフォローしてくれ!」
「クソッタレぇっ!!」
イデアのイメージにより作り出した神威のレプリカが、迫り来る神力弾を斬り裂く。
「イデア、第一波が終わったからと気を抜くな、もう5回ぐらい来るぞ!」
「もう5回……どこまでもラチが明かないっ……!」
黒は、何度だって、その張り裂けそうな足を進めながら。
イデアは、何度だって、枯渇しそうな魔力器官をフルで動員させ、迫り来る神力弾を満身創痍で斬り裂きながら。
それでもと、やはりその足だけを前に進め、どこまでだって進んでゆく。
なんたって、この2人が1つになったのだから。
そこに迷いさえなければ、彼らは最強なのだから。
「イデア! 決着は……2人でだ、お前の力も必要だ!」
「この俺の左腕も使うと?!」
「当たり前だ、じゃなきゃ貫けない!」
「じゃあ防御は、防御は誰がすると———」
「…………ふ、今のお前から……そんな言葉が出てきた時点で、防御など不用だ」
「は……?」
「さあ神威を掲げろ! やられる前に貫くぞっ!」
黄金の輝きが、業火に染まった地獄を照らす。
「「いくぞ、神威!」」
空に浮かぶ、蒼き月の如く輝き、それでいて、山の隙間からその全貌を晒す、日の出の如く、その剣は燃え盛る。
「「神威、大、蒼、月っ!!!!!!」」
———光の中で。
裂けた神核と、震えた地より出でた、赤い光の中で。
昔の自分を、見た気がした。
どこまでも負けず嫌いで。
何をしたって、成功するまで1人で頑張って、他人の助けなど突っぱねてきた、そんな自分を。
———けれど、そんな自分も、少し霞んだ気がした。
ほんの、ほんの少し、他人の手を取ることも、悪くはないなと、思ってしまったのだ。
「チッ、もう……貴様の手は2度と借りん……!」
「………………でも、これでちょっとは分かっただろ?」
「……何をだ」
「他人と力を合わせる事が……だよ」
「……ふん、今後一生、そんな機会は訪れないだろうな」
ようやく手にした、明日の夜明けを仰ぎながら。
瓦礫の上にて腰を掛けたその姿は、確かに背中合わせのものだったが。
だがしかし、どちらも…………向いている方角は、一緒の方角であった———。
「……占いのババア、この後の未来を……聞いてもいいか?」
先日の戦い———機神・オーディンとの戦いより、1週間。
半壊した霊峰、国宮殿にて、ヴァーサとギンは談笑を繰り広げていたのだが、その話が始まったのは……あまりにも唐突だった。
「急にどうしたのじゃ、国王陛下」
「いやあ、どこか……悪い予感がして。この妙な胸騒ぎを……晴らしたいんだ」
「………………残念じゃのう」
「見えたのか?」
「その胸騒ぎ———晴れる事は、無いぞ」
「終末」に対抗する「救世主」……いや、「予言の子」を育むために発足した、機神ヘファイストスの骸を軸とした神殿国である。
ここの現国王、ヴァーサ・セイバーは、この国を襲うであろう「カミ」の接近にも気が付いていた。
国宮殿神殿棟———そこに座する機神「ヘファイストス」にヴァーサが祈りを捧げている時、一つの天啓があったのだ。
「機神ハ迫ル。神核ヲ取リ出シ鋳造セヨ、神威ヲ」……と。
「…………ってな、お告げだ。黒、頼めるか?」
「俺のハンパな概念法術如きで……あの神核を抽出しろ、と……そう申すのですか、国王陛下」
この男……黒は、ヴァーサの影武者、表向きの国際外交官として…………いや、今やただの召使いとして、ヘファイストス神殿国で働く男である。
当時の黒の年齢は19才。まだまだ未熟な青二才である彼に投げかけられたのが、「既に死した機神の神核を概念法術で取り出して、神威とかいう刀に刻み込んでね」だとか言う無理難題であった。
「カミ」———機神の原動力でもある神核は、強度な『概念』として構成されている為、これを取り出すには『概念法術』なる魔術の一種を扱わねばならないのである。
「…………………国王陛下、なんてカタい言葉はやめろと言ったはずだ……そんなに不安なら占いのババアに聞いてこい。おそらく……お前ならできるって予言してくれるからな」
……とのことで、俺が向かったのは、「占いのババア」のもとである。
「おはよう……ございます」
「あ……おお、黒か……今日はどんな……ご用件じゃ……?」
「占いのババア」———本名をギン、と言うが、この老婆は未来に関するあらゆる事を予言してくれる、この神殿国にとってもかなり大事な人だ。
その正体は———元魔王軍幹部。「居心地が悪い」だか何だか口にして、問答無用で魔王城から出てきたらしい。
魔王城ってそんなに簡単に出入りできたりするのか……?
「……それで、俺の今後……具体的には……神威…? だとか言う刀に関する事で予言してほしい」
「………………作れない」
「へ?」
「作れない、お主には神威は作れない、と言っておるんじゃ」
未来に関するあらゆる事を予言してくれる老婆。その老婆が言うのだから、それは全くもって嘘偽りではないのだろう。
……だけど、必ずしも自分に有利な予言をしてくれるわけでもないからにして…………え?
「作れない……作れない、って、じゃあ誰が神威を完成させるんだ……?」
「……あまりはっきりは見えてこんが……人物が定まらん、誰が作れるかも分からずじまいじゃ」
手に持った水晶玉を凝視したまま、老婆はそう発した。
「それ、詰みじゃね?」
「機神が迫る、だあ……? そんなの、国王陛下の流星爆裂魔法で粉砕すればいい話だってのに……」
人通りの多い大通りの脇にあるベンチにて、男———黒は1人項垂れる。
「……なんだと、機神……か……?」
その黒に話しかける人影が1つ。
「ん?……なんだ、イデアか……ってイデアぁっ?!」
「おい、そんな大きな声出すなよ、降りてきているのがバレるだろ……!」
イデア・セイバー。
6代目の王位継承者にして、ヴァーサ・セイバーの第一子。現13才である。
……が、イデアは王族の身。勝手に山頂の国宮殿を抜け出すことは許されていないはずだ、それにこの反応から見るに……
「……お前、また勝手に外出したな……?」
「だってそりゃあそうだ、宮殿は何もかもがつまらない」
最近にして、このイデアの性格が弟の『アレン』に似てきた気がする……このような自由奔放な性格と言えば、ついこの前まで、宮殿にはアレンしかいなかったからだ。
「つまらない……って何だよ、そらそら、早く宮殿に……も、ど、れ! お前らのお目付け係は俺なんだ、お前らが出て行ったとなれば俺が叱られるんだよ分かったか?!」
「ふん……貴様の苦労など分からなくて結構だ。それで? さっき言ってた機神、ってのは何なんだ」
「……ヘファイストスからの天啓だ、国王陛下が仰っていたが……『機神は迫る。神核を取り出し鋳造せよ、神威を』だと」
「機神が迫る……? つまりはその神威とやらで、迫り来る機神を斬り堕とせ、と?」
「知らない、俺もそこまでは聞いてない……! 全く、何もかも教えちゃくれない、ケチな神サマだよ、ホントに!」
「……まあ、この俺にかかれば、それこそ大戦に出てくる『機神アレス』だって一刀両断できるだろうがな」
「……この前、弟のアレンに模擬戦で負けたヤツがよく言うよ」
「その話はするなと言ったはずだ……!」
「負けず嫌いなヤツめ」
何気なく続く他愛もない会話だが、そうしているうちに、神殿国に地の震動が鳴り響く。
「のわっ?!」
「なんだ、コレ……地震、か……?」
「なるほど、これが国王陛下の天啓……つまりは……もう来たってのか、機神!」
「ようやく俺様の出番という訳か」
「イデア、お前の出番はないぞ……多分」
揺らぐ霊峰、蓬莱———そこにそびえ立つ神殿国宮殿より、ヴァーサと、神殿国の第7王子アレンは、事の顛末を傍観していた。
「……アレン、見えるか? アレが機神だ。俺たちがいずれ堕とすべき、最悪の終末だ」
「しゅう……まつ……?」
アレンが灰色の石でできた柱より垣間見たのは、全身が鉄で覆われたただの球体だった。
「あれが……きしん? あの玉っころが……きしん?」
「………………そうだ」
「……俺は、たたかうの?」
「いいや、今回ばかりはお前も俺も戦わない。だからこそ、アイツ———イデアには頑張ってもらわないとな」
「兄、さん……か」
国内では混乱の一途を辿っていた。
突如として、木製で作られた柵の外にて出現した球体。
その影は、神殿国の城下町をも飲み込むほど大きなものだった。
神殿国最奥の霊峰へと逃げ惑う人々に対し、その影に報いようと画策する人影が2つ。
だがしかし。
「なあ、イデア。俺はどうすればいい?」
「どうすればいいか、などこの俺様にも分かるわけがなかろう、アレと戦う? 正気なのかって話だ」
「お前さっき言ってただろ、機神アレスだって両断できるって!」
「アレは……そう、言葉のあやってやつだ、今の俺様にあの機神……らしき何かが倒せるとでも………っ?!」
イデアが饒舌にも自らの墓穴を埋めようとした瞬間、現れた鉄の球体———機神より、紫色に煌めく熱線が発射される。
その熱線が、国を覆う木製の柵の真上に達した途端、国を覆っていた、透明にして巨大な神力エネルギーで構成された障壁がその姿を現す。
同時に地は揺らぎ、空に浮かぶ微かな雲も既に晴れきっていた。
「1発目の光線は……あの通り防げた訳だが……次来た時に耐えられるかどうかだな……」
「……黒、傍観している暇は無さそうだ……宮殿へと向かうぞっ!」
イデアに手を引かれ、そのまま宮殿の方角へと連れて行かれる……が、やはり俺は疑問に思っていた。
「なんだ、あの化け物を堕とす策でもあるってのか?!」
「そんなもの知らん、分からん!……がしかし、その神威、とやらが使えるかもしれんだろ、例えここで死ぬとしても、俺は俺のできる事をやってみせる……でなければ、俺が今まで積み上げてきたものなど……無意味になってしまうだろうからな……!」
「……戦う事のみがお前の生きる意味———とでも言うつもりか…!」
「元よりそのように、教えられてきたのだからな!」
霊峰を登り、ようやく俺たち2人は、ヘファイストスの神核の眠る国宮殿へと辿り着く。
……が、辿り着いたところでどうすればよいのだ、と、死への焦燥と不安が一度に襲いかかる。
「イデア……お前はどうするつもりだ……?」
「どうする、つもりだ、だと……? もちろん、玉座の間に座する誰かさんの、その心臓を貰いうける…‥までだ……!」
玉座の間。
普段、国王———ヴァーサが座るその玉座だが、今となっては無人の玉座。
その裏にて鎮座する、機械仕掛けのカミ、ヘファイストスの神核は、その鼓動を強める一方だった。
「コイツを……力づくで……っ…!」
「無駄だイデア、機神の神核は概念体、概念法術でしか摘出できはしないんだ……」
「じゃあどうしろと……っ!」
言いかけた途端、何とも形容しがたい地響きと不安が神殿国を襲った。
柱から外に目をやると、そこには既に破られた神力障壁、そして……こちらへと迫り来る、灰色の鉄球体が。
その正面にて、既に光は形成され始めており、同時にそれが先程の熱線だとも気付く、が。
結局俺たちは、それへの対処の方法を、いまだに編み出せてはいなかった。
「イデア……刀を構えろ。魔力を纏わせ、光線を両断する準備を……しろ」
「あ……ああ」
無論、イデアもその光景を目の当たりにしていた。
そして……戦意を喪失していた。
あまりにも突然に身近に迫った死と、それを突きつける現実に戦慄していたのだ。
その恐怖の前には、鍛え上げられた勇気なども無いものに等しく、イデアは既に、生存本能のみで動く衝動の獣と化していた。
そう、これがカミである。
まるで物語が終わったあと、何の気兼ねもなく全てを終わらせる『終末装置』かのような理不尽さ。
これが現実であり、これがカミの正体であり、そこには慈悲も、憐れみも、無いに等しいと……それをたった今察知したイデアは、文字通り震えていた。
「………………絶望しろ、挫折しろ、戦慄しろ」
響いたのは———ヴァーサの一声だった。
「そして立て、絶望のドン底から……這い上がれ」
「父上……どう足掻こうとも、この状況は……」
「無理、と諦めるか? それがお前か? それがイデア、という人間か?」
「ならば、どうやって勝機を見出せと…」
「……………………人は、一度地の底を、ドン底まで陥らなければ、這い上がれない。お前は今まで、それを経験した事があったか?」
「それは……」
そうだ、俺様には……圧倒的な挫折……がなかった。
生まれてこのかた、負けず嫌いだった俺は、できない事があれば何度でも、自らの努力によって克服してきた。逆に言えば、努力で克服できなかったことなどなかったのだ。
だからこそ『自分はなんでもできる』と自分自身を過信していた。
できないことなど何もないと、そう思ってきた。
だが———これが、挫折か?
俺が、絶対に乗り越えられない……壁だと言うのか?
「ならば今だ、今こそ、だ! 今だからこそ、お前はようやく這い上がれる!
人は誰しも、這い上がらなければ……勝てはしないのだ!!」
「ようやく俺は……這い上がれる……?」
「イデア、来るぞ……ヤツの光線が…!」
次秒、閃光に包まれたその場にて、より一層輝きを放つ———翅があった。
「…………イデア……その、翅は……一体……?」
見上げたイデアの背より生えていたのは、対を失った……片翼。
その黒き左翼が場を覆い、その場にいたすべての者を、光線より護り通したのだ。
「そうか……兄弟……2人で1つの……片翼か…………黒、イデアに無銘の刀を渡してやれ」
「……国王陛下……?……まさか、この刀が神威に……」
「……ふふ、今は賭けるしかあるまい、イデアの力に…!」
「翅、か……俺にこんなものが眠っていたとは……」
「……それっ」
黒の手よりイデアに、無銘の刀が投げ渡される。
「っとお、いきなり何のようだ、黒———?」
まるで勝ち誇ったような顔をしてこちらを見つめる黒に対し、イデアは一瞬呆然とする。
「……神威を作るのは俺じゃなかった……イデア、お前だ。きっと……お前が神威を作るんだ!」
「俺が……そうか、俺が、この俺様が作るのか、神威!」
「████████」
声にもならない叫び声を上げる機体が、その姿を変貌させてゆく。
機神———その鉄の球体は、まるで鳥が翼を開くかの如く、内側から徐々に変形し、ついには巨大なカラスのような浮遊体へと……成り代わった。
「……ヘファイストス概念体……摘出開始」
イデアの、その手に持った刀が、紫色の光を纏い爛々と輝き始める。
同時に、霊峰にて眠る、ヘファイストスの亡骸より、紅く輝く光が———その刀の下へと舞い降りる。
「刻印せよ、神理の光よ。概念真名検索……惑星根源接続確認———存在強度…神宝級:概念武装『神核混濁製五十三数同時多発連撃式神聖概念武装神威』生誕……!」
「……国王陛下、これが……神核の込められた概念武装の……誕生術式、ですか」
「そうとも。……まるで機械の如く、淡々と。それでいて…人の如く猛き詠唱だとも、その不屈の心…………それこそがイデア、お前の真髄だ!」
不屈の心、そうだ、俺は今まで、何があっても諦めなかった……そのはずだ。
目の前に、敵がいる時……父上から教え込まれた、そんな時にとる行動は1つ。
「…………ブッ飛ばす…っ!!」
イデアがそう口にした後、その手にて握られていた無銘刀———神威が光り始める。
翼を広げた機神より、紫色の閃光が放たれるかどうかの刹那。
片翼の剣士は、既に……空に弧を描き、飛び立っていた。
「神威……起動っ!」
そして、一瞬。
そして、一閃。
ただの一撃、ただの一振りだった。
その神剣は、たったの一振りで、その機神のガワを……両断してみせたのだ。
「……素晴らしい、これこそが神威だ、神の終末に対するザ・ドーン! やはりそうだ、予言は間違ってはいなかった……この神剣によって、世界の夜明けを迎える!!」
両翼の斬り落とされた機神は、その核を表しながらも落ちてゆく。
確実に勝った———と、ヴァーサ以外の誰もが確信を持ったその時だった。
「まだ、まだだ。まだ終わってはおらんぞ、イデア!」
「父……上……?」
「神核が止まるまで、ヤツらは行動を止めることはない。お前が斬ったのは、機神にして真髄にあらず!……ならば、その手で決着を付けよ、イデア!」
濛々と立ち込める煙より出でたのは、紅く染まりし深淵の光。
黒翼の天使は遂に地に降り立ち、その丸き神核へと刃を突き立てる。
「終わりだ、そしてこの俺様の……勝ちだ……!」
ありったけの力を込め、振り切ろうとしたその瞬間であった。
「……っ、あの馬鹿……無防備じゃないか……っ!」
完全に勝った、と思ったその時だった。
「……あ、ぐ……何、だと……?!」
突如、その身体は宙を舞い、同時に右腕に尋常ならざる痛みが生じる。
「は……ぐ、あ、……あっ……!」
何をされたか、それはすでに分かりきっていた。
「……イデア、おい! 意識をしっかり持て! 目を閉じるな、一生寝ることになるぞ!」
「黒…………か、ち……くしょう、やらかした……っ」
「…………いいか、イデア。考えるのは最適解、だ。ヤツに勝つこと、ただそれだけを考えろ。貪欲に行くんだ、イデア」
「分かっている……離せ、俺は1人でも……できるんだ、来い、神威……!」
……と強がっているイデアだが、先程機神の神力光線をモロに食らった右肩は、溢れんばかりの赤で塗れていた。
「1人でもできるだと……? ふざけるな、今のお前1人で、あの化け物を堕とす気か?!」
「ああ、そうだ、助けなど……いらない……! 俺1人で、俺様1人でやらなければ、俺の生きてきた……意味が……っ!」
そう口にするイデアだが、一瞬よろけ、その腕ごと地に身体が伏した。
これで、この状態で、1人でやる、だって?
毛頭、無理な話に決まっている……!
「……イデア。陛下が言っていた、だろ、ドン底を見なければ、人は這い上がれない、と。
お前が見たのは、ドン底じゃないのか?……絶望の、それこそドン底を、お前は目にしたんじゃないのか……?」
「それとこれとは話が別だ、貴様の助けなど……死んでも……俺は……」
「いい加減、やめろ。強がるのだけは、やめてくれ、イデア…!」
「うるさい……認めてたまるかって……!」
「そうか、あの信頼の無さ。アレがお前の、イデアのドン底、か……2人で1つ…だと言うのに」
「黒、貴様などに頼らずとも、この俺が……この俺だけで……殺す、殺してみせる……!」
既に崩れ去った瓦礫の上にて、イデアはただ1人、機神へと向かい足を進める。
その、利き手ではない左腕で、痛みと恐怖で震えてばかりの腕で、神威を持ちながら。
———いや、神威を持つ手は、もう1つあった。
「黒、貴様……何を……っ?!」
黒はイデアから神威を奪い、その右腕にて神威を携える。
「陛下は言っていた、お前は、2人で1つの片翼だと。……その片割れが俺かどうかだなんて、俺にもお前にも分からない。それでも、俺は……今のお前の、腕にだったらなれるはずだ」
「貴様と一緒に……戦えと……?」
「そうだ、当たり前だ、お前は陛下の言葉から何を学んだ?」
「何を……」
「今こそが、絶望のドン底だろう! イデア!」
「今……今、今、なのか……? これが俺の、絶望だと……?」
「……いいか。今だけ、俺はお前の両腕だ。だからこそ、お前も……俺の目と耳と、そして……翅になってくれ、イデア……!」
「~~~~っっ」
少しばかり、その言葉の響きに羞恥を覚えるものの。
「2つとなった今の俺たちは……無敵だ。これが俺たちの、最適解なんだ、分かってくれ、イデア……!!!!」
「……あー、ああ、分かった、行ってやるよ、行ってやるさ、何だってきやがれ、クソッタレ……!!」
「█████████████」
途端、機神の神核から十数発の神力閃光弾が放たれる。
それらは軌道を変えながらも、着実に俺たちの元へと迫ってくる。
「イデア、魔術だ! 幻想顕現魔術で、俺をフォローしてくれ!」
「クソッタレぇっ!!」
イデアのイメージにより作り出した神威のレプリカが、迫り来る神力弾を斬り裂く。
「イデア、第一波が終わったからと気を抜くな、もう5回ぐらい来るぞ!」
「もう5回……どこまでもラチが明かないっ……!」
黒は、何度だって、その張り裂けそうな足を進めながら。
イデアは、何度だって、枯渇しそうな魔力器官をフルで動員させ、迫り来る神力弾を満身創痍で斬り裂きながら。
それでもと、やはりその足だけを前に進め、どこまでだって進んでゆく。
なんたって、この2人が1つになったのだから。
そこに迷いさえなければ、彼らは最強なのだから。
「イデア! 決着は……2人でだ、お前の力も必要だ!」
「この俺の左腕も使うと?!」
「当たり前だ、じゃなきゃ貫けない!」
「じゃあ防御は、防御は誰がすると———」
「…………ふ、今のお前から……そんな言葉が出てきた時点で、防御など不用だ」
「は……?」
「さあ神威を掲げろ! やられる前に貫くぞっ!」
黄金の輝きが、業火に染まった地獄を照らす。
「「いくぞ、神威!」」
空に浮かぶ、蒼き月の如く輝き、それでいて、山の隙間からその全貌を晒す、日の出の如く、その剣は燃え盛る。
「「神威、大、蒼、月っ!!!!!!」」
———光の中で。
裂けた神核と、震えた地より出でた、赤い光の中で。
昔の自分を、見た気がした。
どこまでも負けず嫌いで。
何をしたって、成功するまで1人で頑張って、他人の助けなど突っぱねてきた、そんな自分を。
———けれど、そんな自分も、少し霞んだ気がした。
ほんの、ほんの少し、他人の手を取ることも、悪くはないなと、思ってしまったのだ。
「チッ、もう……貴様の手は2度と借りん……!」
「………………でも、これでちょっとは分かっただろ?」
「……何をだ」
「他人と力を合わせる事が……だよ」
「……ふん、今後一生、そんな機会は訪れないだろうな」
ようやく手にした、明日の夜明けを仰ぎながら。
瓦礫の上にて腰を掛けたその姿は、確かに背中合わせのものだったが。
だがしかし、どちらも…………向いている方角は、一緒の方角であった———。
「……占いのババア、この後の未来を……聞いてもいいか?」
先日の戦い———機神・オーディンとの戦いより、1週間。
半壊した霊峰、国宮殿にて、ヴァーサとギンは談笑を繰り広げていたのだが、その話が始まったのは……あまりにも唐突だった。
「急にどうしたのじゃ、国王陛下」
「いやあ、どこか……悪い予感がして。この妙な胸騒ぎを……晴らしたいんだ」
「………………残念じゃのう」
「見えたのか?」
「その胸騒ぎ———晴れる事は、無いぞ」
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