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第三章
ハメット侯爵の末路《ジェラルド side》③
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僕の目的はもっと身近で、ささやかなものだ。
普通の人なら、皇帝になんてならなくても手に入る。
でも、僕はそうじゃないから……誰にも無視出来ない存在へ、成り上がらないといけない。
二年前に感じた渇きと虚しさを思い出し、僕はスッと目を細めた。
と同時に、首を掴んでいる手から電流を放つ。
「!?」
前侯爵は突然の感電により気を失い、机へ突っ伏した。
スースーと寝息を立てる彼の前で、僕はふわりと床に降り立つ。
さすがにちょっと魔力を使い過ぎたな……。
室内に展開した結界も解き、僕は来客用のソファへ腰を下ろした。
────と、ここで部屋の扉をノックされる。
「旦那様、そろそろ夕食のお時間ですが」
少ししゃがれた男性の声に、僕は『執事か、何かだろう』と目星をつけた。
返事しないのは、さすがに不味いか……下手したら、押し入られるかもしれないし。
面倒だけど、対応しておこう。
「食事は扉の前に置いておけ。それから、考え事をしたいから、しばらく誰も近づけさせるな」
僕は風魔法で空気の振動を操り、前侯爵の声に似せた。
口調も出来るだけ再現し、バレないよう細心の注意を払う。
そのおかげか、相手は『そうですか』とあっさり引き下がった。
これでしばらく、ゆっくり出来るな。
唯一の懸念は目を覚ました前侯爵が余計なことをしないか、だけど……電気ショックでまともに体を動かせないだろうし、多分大丈夫。
『舌も痺れて、声を出せない筈』と考えつつ、僕は扉の施錠を確認。
窓もしっかり閉めてから、ソファに寝転がった。
────それからというもの、僕は使用人の運んでくる食事を前侯爵と共に食べ、またもや電気ショックを使い、自分も眠りにつく。
この生活をひたすら繰り返した。
おかげですっかり体は良くなり、魔力・体力共に全快へ。
部屋にあった救急箱でしっかり手当てしたからか、横腹の傷もかなりマシになった。
まあ、それでも完治はしていないけど。
でも、立っているだけで辛いという状態は何とか脱した。
『これなら、戦える』と意気込み、僕は執務机へ近づいた。
椅子に座ったまま動けないでいる前侯爵を見つめ、僕はニッコリ笑う。
「それでは、今までお疲れ様でした」
前侯爵の胸元に手を添えてそう告げると、彼は見るからに動揺を示した。
「なっ……は、なしが……ち、がう……!」
上手く回らない舌を何とか動かして抗議してくる彼に、僕はコテリと首を傾げる。
「あれ?僕────言うことを聞いてくれたら生かす、なんて言いましたっけ?」
「!?」
ハッとしたように目を見開き、前侯爵はこちらを凝視した。
『そういえば……』と目を白黒させる彼の前で、僕はゆるりと口角を上げる。
「今日まで貴方を生かしてきたのは、偏に時間稼ぎのため……僕が体を休める間の、ね。でも、もう必要なくなったので始末することにしたんです」
『生かしておくメリットもないし』と言い、僕は体からバチバチと静電気を放つ。
その途端、前侯爵は怯えたように頬を引き攣らせた。
「ま、待っ……」
「待ちません」
「せ、めて話を……」
「お断りします」
淡々とした口調で前侯爵の要求を跳ね除け、僕はチラリと扉の方を振り返る。
十数人の足音が近づいてきていることを察して。
最近、使用人達も部屋に籠り続けていることを不審に思っていたし、そろそろ強行突破してくるかもしれない。
早めに切り上げるか。
「申し訳ありませんが、もうお時間のようです。それでは、さようなら」
普通の人なら、皇帝になんてならなくても手に入る。
でも、僕はそうじゃないから……誰にも無視出来ない存在へ、成り上がらないといけない。
二年前に感じた渇きと虚しさを思い出し、僕はスッと目を細めた。
と同時に、首を掴んでいる手から電流を放つ。
「!?」
前侯爵は突然の感電により気を失い、机へ突っ伏した。
スースーと寝息を立てる彼の前で、僕はふわりと床に降り立つ。
さすがにちょっと魔力を使い過ぎたな……。
室内に展開した結界も解き、僕は来客用のソファへ腰を下ろした。
────と、ここで部屋の扉をノックされる。
「旦那様、そろそろ夕食のお時間ですが」
少ししゃがれた男性の声に、僕は『執事か、何かだろう』と目星をつけた。
返事しないのは、さすがに不味いか……下手したら、押し入られるかもしれないし。
面倒だけど、対応しておこう。
「食事は扉の前に置いておけ。それから、考え事をしたいから、しばらく誰も近づけさせるな」
僕は風魔法で空気の振動を操り、前侯爵の声に似せた。
口調も出来るだけ再現し、バレないよう細心の注意を払う。
そのおかげか、相手は『そうですか』とあっさり引き下がった。
これでしばらく、ゆっくり出来るな。
唯一の懸念は目を覚ました前侯爵が余計なことをしないか、だけど……電気ショックでまともに体を動かせないだろうし、多分大丈夫。
『舌も痺れて、声を出せない筈』と考えつつ、僕は扉の施錠を確認。
窓もしっかり閉めてから、ソファに寝転がった。
────それからというもの、僕は使用人の運んでくる食事を前侯爵と共に食べ、またもや電気ショックを使い、自分も眠りにつく。
この生活をひたすら繰り返した。
おかげですっかり体は良くなり、魔力・体力共に全快へ。
部屋にあった救急箱でしっかり手当てしたからか、横腹の傷もかなりマシになった。
まあ、それでも完治はしていないけど。
でも、立っているだけで辛いという状態は何とか脱した。
『これなら、戦える』と意気込み、僕は執務机へ近づいた。
椅子に座ったまま動けないでいる前侯爵を見つめ、僕はニッコリ笑う。
「それでは、今までお疲れ様でした」
前侯爵の胸元に手を添えてそう告げると、彼は見るからに動揺を示した。
「なっ……は、なしが……ち、がう……!」
上手く回らない舌を何とか動かして抗議してくる彼に、僕はコテリと首を傾げる。
「あれ?僕────言うことを聞いてくれたら生かす、なんて言いましたっけ?」
「!?」
ハッとしたように目を見開き、前侯爵はこちらを凝視した。
『そういえば……』と目を白黒させる彼の前で、僕はゆるりと口角を上げる。
「今日まで貴方を生かしてきたのは、偏に時間稼ぎのため……僕が体を休める間の、ね。でも、もう必要なくなったので始末することにしたんです」
『生かしておくメリットもないし』と言い、僕は体からバチバチと静電気を放つ。
その途端、前侯爵は怯えたように頬を引き攣らせた。
「ま、待っ……」
「待ちません」
「せ、めて話を……」
「お断りします」
淡々とした口調で前侯爵の要求を跳ね除け、僕はチラリと扉の方を振り返る。
十数人の足音が近づいてきていることを察して。
最近、使用人達も部屋に籠り続けていることを不審に思っていたし、そろそろ強行突破してくるかもしれない。
早めに切り上げるか。
「申し訳ありませんが、もうお時間のようです。それでは、さようなら」
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