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第二章

父の知っていること②

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「……あのとき、切り捨てておくべきだったか」

 独り言のようにボソッと呟き、父は額に青筋を浮かべた。
────と、ここでグランツ殿下が片手を挙げる。

「えっと、さっきも言ったけど、ジェラルドと魔物の関係性はまだハッキリしていないんだ。だから、もう少し冷静に……」

「なれると思いますか?妻の忘れ形見を失っていたかもしれないのに。たとえ、可能性の段階でも限りなく黒に近いやつなら敵意を抱いて当然です。ましてや、相手はあの第二皇子……」

 おもむろに肘掛けを掴み、父はギシッと奥歯を噛み締める。

「何度もベアトリスへ手を出してくる男だと知っていたら────助けなかったのに」

 恨みがましい口調で後悔の念を吐き出し、父は肘掛けを握り潰した。
私の体を支える方の手は、驚くほど優しいのに。
『感情が昂っていても、そこは調整してくれているのね』と目を見開く中、グランツ殿下は苦笑を漏らす。

「まあ、公爵の怒りは御尤もだね。ところで、『助けなかったのに』というのはどういう意味だい?」

 コテリと首を傾げて尋ねてくるグランツ殿下に、父は大きく息を吐く。
まるで、気持ちを落ち着かせるかのように。

「……実は大厄災のとき────特に魔物の多かった辺境で、第二皇子を保護したんですよ」

「「「えっ?」」」

 思わず声を揃えてしまう私達は、パチパチと瞬きを繰り返した。
どうにも、訳が分からなくて。

 グランツ殿下の仕入れた情報から皇城じゃない場所で暮らしていたのは、分かっていたけど……辺境って。
いや、普段は別の場所で暮らしていてそのときたまたま辺境に居たのかもしれないけど。
でも、皇族が辺境へ足を運ぶなんてあまり考えられない。

 『視察でもなければ、来ないわよね』と悶々としていると、グランツ殿下が口を開く。

「ジェラルドだけかい?ルーナ皇妃殿下は?」

 『多分、一緒に居る筈なんだけど』と零すグランツ殿下に、父は悩むような素振りを見せた。
恐らく、答えるべきか否か迷っているのだろう。

「……これはあまり周囲に広めてほしくないですが」

「大丈夫だよ。ここで話したことは基本、私達の胸に仕舞っておくつもりだから」

 『面白半分に事実を公表する気はない』と断言し、グランツ殿下はテーブルの上で両手を組んだ。
と同時に、少し身を乗り出す。

「だから、教えてほしい。ルーナ皇妃殿下の身に何があったんだい?」

「私も詳しいことは分かりませんが────ルーナ皇妃殿下は魔物に襲われ、とある小屋の中で亡くなっていました・・・・・・・・・

「亡くなって、いた……?」

 思わずといった様子で聞き返すグランツ殿下に、父は『はい』と迷わず頷いた。

「あと、小屋から少し離れた場所に見知らぬ男性の遺体もありましたね。魔物の能力でかなり腐敗が進んでいたため、身元を特定することは出来ませんでしたが、恐らく────エルフだったと思います」

「「「!?」」」

 ここでまさか、エルフが話題に出るとは思わず……言葉を失う。
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