上 下
36 / 37
最終章

再会

しおりを挟む
 終戦後、戦後処理でバタバタしている私の元にある男性が訪ねてきた。
その男性とは─────オリヴァー・ランドルフ様だ。
どうやら、彼は約束通り話をしに来てくれたらしい。

 自室のテラスで銀髪の美青年と向き合う私は、アメジストの瞳を見つめ返した。

「久しぶりだね、ニーナ。まずは、戦勝おめでとう……と言うべきかな?」

「お久しぶりです、オリヴァー様。お祝いの言葉、ありがとうございます」

「ははっ。『ありがとう』と言う割には、あまり嬉しそうじゃないね?」

 オリヴァー様はそう言って、心配そうにこちらを見つめる。
慈愛に満ち溢れたアメジストの瞳を前に、私はクシャリと顔を歪めた。

 この方の優しさは、本当に狡い……そんな目で見られたら、隠し事なんて出来なくなるもの……。

「落ち込んでいる原因は、大体予想がつくけど……私に本音を話してくれないかい?君の力にはなれないかもしれないけど、話したら少しはスッキリすると思うよ」

 柔らかく微笑むオリヴァー様は、静かにこちらの反応を窺う。
私の本音に耳を傾けてくれるこの方にやっぱり、隠し事なんて出来なくて……私は促されるまま、口を開いた。

「わ、たし……私は最善を尽くしたと思っているんです。被害を最小限に留めて、味方も守り抜いて……被害者の数は十人にも満たない。数字だけで見れば、万々歳の結果でしょう。でも……その被害者たちを自分の手で殺した私には、とても喜べる結果じゃなくて……!」

「うん」

「必要な犠牲だったと言えば、そこまでだけど、私はどうしても割り切れなくて……!今でも時々、夢に出て来るんです!真っ赤な血に染まった彼らの姿が……!私の手はもう穢れているんです……!」

「うん」

「私のやったことは本当に正しかったんでしょうかっ……!?」

 一気に本音をぶちまけた私は、涙目になりながら、オリヴァー様を見つめる。
ただ静かに相槌を打つ彼は、ゆっくりと顔を上げた。
真剣な面持ちでこちらを見据え、彼はスッと目を細める。

「これは前も言ったけど、この世に絶対的な正義や正しさはないよ。だから、君の取った行動が正しいとは言い切れない……でも────君は君の正しき信念に従って、行動した。それが正解であれ、不正解であれ、君が最善を尽くしたのは紛れもない事実。だから、堂々と前を向いていればいい」

 不敵な笑みを浮かべるオリヴァー様は、私に自信という名の武器を持たせる。
今の私にとって、彼の真っ直ぐな言葉は何よりも尊いものだった。

 前を向いて、か……。
そう言えば、ケイト王妃陛下もそんなことを言っていたわね。『ただ前を向いて、成すべきことをして』だったかしら?

 尊敬している男女に全く同じことを言われたからか、私は少しだけ気が楽になる。
命を奪った責任や罪悪感は一生付きまとうだろうが、もう下を向くのはやめた。

「そうですね。オリヴァー様の言う通り、前を向いて行こうと思います。私は……私の信念・・は、これが最善だったと言っていますから」

 ギュッと拳を握りしめ、私は晴れやかな笑顔で断言した。
吹っ切れた様子の私を見て、オリヴァー様も表情を和らげる。
『その意気だよ』とでも言うように、彼は満足そうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

突然、婚約破棄されたら普通は後手に回ってざまぁなんて出来ませんわ。ですが婚約してた関係でそちらの不正取引を知ってましたので後日ちゃんと匿名で

竹井ゴールド
恋愛
 卒業パーティーで伯爵令嬢は突然、婚約者に婚約破棄を言い渡される。  婚約者とその家族が浮気相手の匂いを上手く隠してたので、本当に寝耳に水の婚約破棄で、卒業パーティーでは動転して何も出来ずにやり込められたのだが・・・  後日、元婚約者の結婚式当日、結婚終了直後に元婚約者の伯爵家は反逆罪で一族全員が逮捕されて貴族籍を失うどころか処刑されたのだった。 【2022/10/7、出版申請、10/18、慰めメール】 【2022/10/9、24hポイント5600pt突破】

愚鈍な妹が氷の貴公子を激怒させた結果、破滅しました〜私の浮気をでっち上げて離婚させようとしたみたいですが、失敗に終わったようです〜

あーもんど
恋愛
ジュリア・ロバーツ公爵夫人には王国一の美女と囁かれる美しい妹が居た。 優れた容姿を持つ妹は周りに持て囃されて育った影響か、ワガママな女性に成長した。 おまけに『男好き』とまで来た。 そんな妹と離れ、結婚生活を楽しんでいたジュリアだったが、妹が突然屋敷を訪ねてきて……? 何しに来たのかと思えば、突然ジュリアの浮気をでっち上げきた! 焦るジュリアだったが、夫のニコラスが妹の嘘をあっさり見破り、一件落着! と、思いきや……夫婦の間に溝を作ろうとした妹にニコラスが大激怒! ────「僕とジュリアの仲を引き裂こうとする者は何人たりとも許しはしない」 “氷の貴公子”と呼ばれる夫が激怒した結果、妹は破滅の道を辿ることになりました! ※Hot&人気&恋愛ランキング一位ありがとうございます(2021/05/16 20:29) ※本作のざまぁに主人公は直接関わっていません(?) ※夫のニコラスはヤンデレ気味(?)です

婚約破棄、ですか?なんですか?その訳の分からない理由は

榎夜
恋愛
「マリエッタ!貴様は私の婚約者に相応しくない!」 どういうことでしょう?私と貴方は今日初めて会ったんですよ? ※全部で5話です。《18時更新》

わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗
恋愛
 伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。  三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。  久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

捨てたのは、そちら

夏笆(なつは)
恋愛
 トルッツィ伯爵家の跡取り娘であるアダルジーザには、前世、前々世の記憶がある。  そして、その二回とも婚約者であったイラーリオ・サリーニ伯爵令息に、婚約を解消されていた。   理由は、イラーリオが、トルッツィ家よりも格上の家に婿入りを望まれたから。 「だったら、今回は最初から婚約しなければいいのよ!」  そう思い、イラーリオとの顔合わせに臨んだアダルジーザは、先手を取られ叫ばれる。 「トルッツィ伯爵令嬢。どうせ最後に捨てるのなら、最初から婚約などしないでいただきたい!」 「は?何を言っているの?サリーニ伯爵令息。捨てるのは、貴方の方じゃない!」  さて、この顔合わせ、どうなる?

処理中です...