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最終章
再会
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終戦後、戦後処理でバタバタしている私の元にある男性が訪ねてきた。
その男性とは─────オリヴァー・ランドルフ様だ。
どうやら、彼は約束通り話をしに来てくれたらしい。
自室のテラスで銀髪の美青年と向き合う私は、アメジストの瞳を見つめ返した。
「久しぶりだね、ニーナ。まずは、戦勝おめでとう……と言うべきかな?」
「お久しぶりです、オリヴァー様。お祝いの言葉、ありがとうございます」
「ははっ。『ありがとう』と言う割には、あまり嬉しそうじゃないね?」
オリヴァー様はそう言って、心配そうにこちらを見つめる。
慈愛に満ち溢れたアメジストの瞳を前に、私はクシャリと顔を歪めた。
この方の優しさは、本当に狡い……そんな目で見られたら、隠し事なんて出来なくなるもの……。
「落ち込んでいる原因は、大体予想がつくけど……私に本音を話してくれないかい?君の力にはなれないかもしれないけど、話したら少しはスッキリすると思うよ」
柔らかく微笑むオリヴァー様は、静かにこちらの反応を窺う。
私の本音に耳を傾けてくれるこの方にやっぱり、隠し事なんて出来なくて……私は促されるまま、口を開いた。
「わ、たし……私は最善を尽くしたと思っているんです。被害を最小限に留めて、味方も守り抜いて……被害者の数は十人にも満たない。数字だけで見れば、万々歳の結果でしょう。でも……その被害者たちを自分の手で殺した私には、とても喜べる結果じゃなくて……!」
「うん」
「必要な犠牲だったと言えば、そこまでだけど、私はどうしても割り切れなくて……!今でも時々、夢に出て来るんです!真っ赤な血に染まった彼らの姿が……!私の手はもう穢れているんです……!」
「うん」
「私のやったことは本当に正しかったんでしょうかっ……!?」
一気に本音をぶちまけた私は、涙目になりながら、オリヴァー様を見つめる。
ただ静かに相槌を打つ彼は、ゆっくりと顔を上げた。
真剣な面持ちでこちらを見据え、彼はスッと目を細める。
「これは前も言ったけど、この世に絶対的な正義や正しさはないよ。だから、君の取った行動が正しいとは言い切れない……でも────君は君の正しきに従って、行動した。それが正解であれ、不正解であれ、君が最善を尽くしたのは紛れもない事実。だから、堂々と前を向いていればいい」
不敵な笑みを浮かべるオリヴァー様は、私に自信という名の武器を持たせる。
今の私にとって、彼の真っ直ぐな言葉は何よりも尊いものだった。
前を向いて、か……。
そう言えば、ケイト王妃陛下もそんなことを言っていたわね。『ただ前を向いて、成すべきことをして』だったかしら?
尊敬している男女に全く同じことを言われたからか、私は少しだけ気が楽になる。
命を奪った責任や罪悪感は一生付きまとうだろうが、もう下を向くのはやめた。
「そうですね。オリヴァー様の言う通り、前を向いて行こうと思います。私は……私の信念は、これが最善だったと言っていますから」
ギュッと拳を握りしめ、私は晴れやかな笑顔で断言した。
吹っ切れた様子の私を見て、オリヴァー様も表情を和らげる。
『その意気だよ』とでも言うように、彼は満足そうに微笑んだ。
その男性とは─────オリヴァー・ランドルフ様だ。
どうやら、彼は約束通り話をしに来てくれたらしい。
自室のテラスで銀髪の美青年と向き合う私は、アメジストの瞳を見つめ返した。
「久しぶりだね、ニーナ。まずは、戦勝おめでとう……と言うべきかな?」
「お久しぶりです、オリヴァー様。お祝いの言葉、ありがとうございます」
「ははっ。『ありがとう』と言う割には、あまり嬉しそうじゃないね?」
オリヴァー様はそう言って、心配そうにこちらを見つめる。
慈愛に満ち溢れたアメジストの瞳を前に、私はクシャリと顔を歪めた。
この方の優しさは、本当に狡い……そんな目で見られたら、隠し事なんて出来なくなるもの……。
「落ち込んでいる原因は、大体予想がつくけど……私に本音を話してくれないかい?君の力にはなれないかもしれないけど、話したら少しはスッキリすると思うよ」
柔らかく微笑むオリヴァー様は、静かにこちらの反応を窺う。
私の本音に耳を傾けてくれるこの方にやっぱり、隠し事なんて出来なくて……私は促されるまま、口を開いた。
「わ、たし……私は最善を尽くしたと思っているんです。被害を最小限に留めて、味方も守り抜いて……被害者の数は十人にも満たない。数字だけで見れば、万々歳の結果でしょう。でも……その被害者たちを自分の手で殺した私には、とても喜べる結果じゃなくて……!」
「うん」
「必要な犠牲だったと言えば、そこまでだけど、私はどうしても割り切れなくて……!今でも時々、夢に出て来るんです!真っ赤な血に染まった彼らの姿が……!私の手はもう穢れているんです……!」
「うん」
「私のやったことは本当に正しかったんでしょうかっ……!?」
一気に本音をぶちまけた私は、涙目になりながら、オリヴァー様を見つめる。
ただ静かに相槌を打つ彼は、ゆっくりと顔を上げた。
真剣な面持ちでこちらを見据え、彼はスッと目を細める。
「これは前も言ったけど、この世に絶対的な正義や正しさはないよ。だから、君の取った行動が正しいとは言い切れない……でも────君は君の正しきに従って、行動した。それが正解であれ、不正解であれ、君が最善を尽くしたのは紛れもない事実。だから、堂々と前を向いていればいい」
不敵な笑みを浮かべるオリヴァー様は、私に自信という名の武器を持たせる。
今の私にとって、彼の真っ直ぐな言葉は何よりも尊いものだった。
前を向いて、か……。
そう言えば、ケイト王妃陛下もそんなことを言っていたわね。『ただ前を向いて、成すべきことをして』だったかしら?
尊敬している男女に全く同じことを言われたからか、私は少しだけ気が楽になる。
命を奪った責任や罪悪感は一生付きまとうだろうが、もう下を向くのはやめた。
「そうですね。オリヴァー様の言う通り、前を向いて行こうと思います。私は……私の信念は、これが最善だったと言っていますから」
ギュッと拳を握りしめ、私は晴れやかな笑顔で断言した。
吹っ切れた様子の私を見て、オリヴァー様も表情を和らげる。
『その意気だよ』とでも言うように、彼は満足そうに微笑んだ。
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