上 下
10 / 37
第一章

予想外の訪問者

しおりを挟む
 ────それから、お昼になるまで仕事を続けた私は、束の間の休息を楽しんでいた。
侍女の用意してくれたサンドウィッチを頬張りながら、『ふぅ……』と息を着く。
『午後から、謝罪回りか』なんて考えていると────部屋の扉を叩かれた。

 こんな時間に一体誰かしら?今日は訪問者の予定なんてなかった筈だけど……。

「どうぞ」

「失礼するよ」

 全く身に覚えのない訪問に首を傾げる中、ガチャリと扉が開く。
そして、扉の向こうから現れたのは────銀髪紫眼の美青年だった。

 え、はっ……!?オリヴァー様……!?何でここに……!?

 驚愕する私を置いて、部屋を訪ねてきたオリヴァー様はこちらへ歩み寄る。

「昼食中にすまない。どうしても、君に話したいことがあって……」

「えっ?あ、いえ!気にしないで下さい!」

 私は手に持つサンドウィッチを慌ててお皿に戻すと、椅子から立ち上がる。
『そこまで畏まらなくていいよ』と笑うオリヴァー様に、私は急いで席を勧めた。
ソファに座る彼を横目に、慌ててお茶を用意する。

「申し訳ありません。こんな物しか用意出来なくて……」

「いやいや、突然訪問した私が悪いんだから気にしないでおくれ。それに────君の淹れてくれたお茶なら、大歓迎だよ。まるで夢のようだ」

「うふふっ。オリヴァー様は大袈裟ですね」

 場を和ませるオリヴァー様のジョークに笑いつつ、私は向かい側のソファに腰を下ろした。

「それで本日はどういったご用件でこちらに?」

 午後も予定がギューギュー詰めになっているため、私は直球で質問を投げかける。
会話を急かす私に、オリヴァー様は気を悪くするでもなく、おもむろに口を開いた。

「一つニーナ王女に相談……というか、聞きたいことがあってね」

「聞きたいこと、ですか……?」

「ああ。実は────キャンベル王家とホールデン王家の話し合いに証人として私も立ち会おうと思うんだが……ダメだろうか?」

 捨てられた子犬のような目でこちらを見つめるオリヴァー様は、コテンと首を傾げる。
母性本能を擽られるあざとい仕草に、私は頬を僅かに上気させた。

 それは狡い……!あざと過ぎるわ!
────って、そうじゃなくて!

「よろしいのですか?王家同士の話し合いに同席するのは、それなりにリスクを背負うことになりますが……」

 王家同士の話し合いは、国同士の話し合いと同じ。そこに皇太子であるオリヴァー様が介入するとなれば、ルーメン帝国にも少なからず迷惑を掛けてしまう。

 まあ、こちら側としては嬉しい限りだけど……。
何故なら、王家同士の話し合いには立会人証人と仲裁役が必要だから。
仲裁役は基本的に神殿の人間にお願いするけど、証人は中立の立場にある他国の権力者にしかお願い出来ない。
王族同士国同士の話し合いである以上、下手な人間を証人にする訳にはいかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私のことはお構いなく、姉とどうぞお幸せに

曽根原ツタ
恋愛
公爵令嬢ペリューシアは、初恋の相手セドリックとの結婚を控え、幸せの絶頂のはず……だった。 だが、結婚式で誓いの口づけをする寸前──姉と入れ替わってしまう。 入れ替わりに全く気づかず婿入りしたセドリックの隣で、姉は不敵に微笑む。 「この人の子どもを身篭ったの。だから祝ってくれるわよね。お姉様?」 ペリューシアが掴んだはずの幸せは、バラバラと音を立てて崩壊する。 妊娠を知ったペリューシアは絶望し、ふたりの幸せを邪魔しないよう家を出た。 すると、ひとりの青年だけが入れ替わりを見抜き……?

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺
恋愛
入学式の前に校内を散策していたら不貞行為を目撃した。 性に奔放というか性欲旺盛で色々な店に出入りしていたのは知っていましたが、学園内でそのような行為に及ぶなんて――。  すばらしいです、婚約は破棄ということでよろしいですね? 婚約破棄を画策してはいましたが、こんなに早く済むなんて嬉しいです。 待っていてくれたあの人と学園生活楽しみます!  ◆婚約破棄編 5話  ◆学園生活編 16話  ◆番外編 6話  完結しました! 見てくださった皆様本当にありがとうございます!

今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます

結城芙由奈 
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】 交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。 ※他サイトでも投稿中 ※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

【完結】妹にあげるわ。

たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。 婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。 それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。 いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。 それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。 なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。 浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。 家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。 もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。 だったら、この生活もあげるわ。 だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。 キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...