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第二章

逃走《ロゼッタ side》

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 完全に逃げるタイミングを逃した私は、頭の中が真っ白になる。
身動き一つ取れずに固まる中────民達は憎悪の籠った目で、こちらを見下ろした。

「死ねっ!!この偽物がっ!!」

「よくも騙してくれたな!?」

「メイヴィス様に謝れ!!」

 民達はそれぞれ本音をぶちまけながら、私に暴力をふるった。
屈強な男の拳が、ヒールを履いた女の足が、情け容赦なく私の体を痛めつける。
今まで痛みとは無縁の世界で生きてきた私にとって、体を襲う様々な衝撃と痛みは耐え難いものだった。
あまりの仕打ちに、私は早くも音を上げそうになる。
暴動と言うにはあまりにも悲惨で過激的な集団リンチは、私の心身を深く傷つけた。

 処刑台に立たされた時のメイヴィスも、こんな気持ちだったのだろうか……。

 民衆に石を投げられたメイヴィスの姿がふと甦り、私はギュッと拳を握り締めた。
必死に涙を堪える私は、ここから逃げ出す算段を考える。
幸いなことに祈りの間は今、人で溢れ返っている。
上手く人混みに紛れ込めば、逃げ出すことは可能だろう。
あとは彼らのリンチから抜け出す隙さえ、あれば……。

 両手で頭を守り、必死に周囲の様子を窺う私は────彼らの攻撃が途絶える、その瞬間を見逃さなかった。

「────今よ!」

「えっ!?ちょっ……!!」

「おい!逃げんな!」

 私は一瞬の隙をついて、人混みの中に紛れ込む。
人口密度の高さを利用した逃走劇に、平民達はざわつき、私を追い掛けようとするが……身動きが取れない。
対する私は小柄で体型もほっそりしているため、スイスイと人混みを潜り抜けることが出来た。
『上手くいった』とほくそ笑む私は変装のため、床に落ちていた帽子をこっそり拝借しておく。

 我ながら、見事な逃走劇ね。
まさか、ここまで上手く行くとは思わなかったわ。

 『新しい才能を発見したかもしれない』とポジティブに考える私は、深く帽子を被る。
そして、身体中に出来た無数の傷がジンジンと痛む中、私は教会本部を後にした。
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