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第二章

不愉快《レーヴェン side》

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「────魔術で、異界との門を開くって……こいつは正気か?数人程度の犠牲では、済まないぞ?」

 水晶に映し出されたバカ王子の奇行に、ヘレスはやれやれといった様子で肩を竦めた。
復讐のプロとして手を貸してくれた彼でも、バカ王子の言動は意味不明らしい。
ちなみにバカ王子本人は、呑気に魔術本を読み漁っている。
我々に動向を監視されているとは、微塵も思っていないらしい。

「あれだけのことをしておきながら、メイヴィス様に愛されていると思い込んでいることに驚きです……この人、ちょっとポジティブ過ぎませんか?」

「と言うより、自分の手でメイヴィスを追い詰めた事実を忘れている感じだね。本当に都合のいい頭をしているよ」

 困惑気味に瞬きを繰り返すカシエルの前で、僕は毒を吐いた。
忌々しげに水晶を睨みつける中────黒髪の美女がバンッとテーブルに拳を叩きつける。

「もう!何なのよ!?この気持ち悪い男は……!本っ当にムカつくわ!今すぐ、殺してやりたい!」

 殺意を剥き出しにして、怒り狂うアイシャはバシバシと何度も机を叩いた。
先程メイヴィスの受けた仕打ちについて、知ったばかりだからか、いつも以上に感情的になっている。
今にも暴れ出しそうなアイシャを他所に、ヘレスはハッとしたように顔を上げた。

「あっ!てか、こいつのやろうとしてる魔術って────一番危険な黒魔術・・・じゃねぇーか……!」

 ────黒魔術とは、幾人もの魂と引き換えに行う魔術で、難易度が高い上、成功率も低い。
また失敗すれば、術者の魂をも喰らう危険なものとして、知られていた。
ハッキリ言って、素人が気軽に手を出していいものではない。

「もうこの際だから、魔術に失敗して死んでくれないかな?僕のメイヴィスを妻扱いするなんて、いい加減不愉快なんだけど……」

 言葉の端々に殺気を滲ませる僕は、虫けらでも見るような目でバカ王子を見下ろした。
ヒクヒクと頬を引き攣らせる僕の前で、ヘレスは『まあ、落ち着けよ』と促す。

「確かに大分ムカつくが、魔術の使い道は他にあると思うぜ?例えば────俺達の管理する世界魔界から、魔物を召喚させる……とか。ほら、こいつの使用する魔術は異界との門を開くものだろう?なら、それを上手く利用すればいい」

 得意げに胸を張るヘレスは、『神の力をほとんど使わずに済むから、計画に支障もない』と熱弁した。

「確か、そっちの世界には魔物とか特に居なかったよな?突然、謎の生物が現れれば平和ボケした奴らも危機感を煽られるんじゃねぇーか?」
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