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第七章
第306話『リアル』
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見慣れない白い天井を前に『病院の中かな?』ぼんやり考えていると、不意に────
「ラーちゃん……!」
────見知らぬ男性の姿が、視界に入った。
黒髪黒目の彼は心配そうにこちらを覗き込み、『痛くない?』『苦しくない?』と問い質してくる。
今にも泣きそうな顔で。
どことなく既視感を覚える光景に、私はパチパチと瞬きを繰り返した。
えっ……?ちょっと待って……?
この声……それにこの呼び方って、まさか────
「────徳正さん!?」
思わず大声を上げると、見知らぬ男性は柔らかく微笑んだ。
「うん、そうだよ~!気づいてくれて、嬉しい……って、それより体の調子はどう?俺っち達が目覚めてからも一週間ほど眠っていたから、心配してたんだけど」
『やっぱり、具合悪い?』と尋ね、徳正さんはそっと眉尻を下げる。
整った顔に哀愁を漂わせる彼の前で、私はブンブンと首を横に振った。
「だ、大丈夫です!ずっと眠っていたので体はちょっとダルいですが、それ以外は本当に……!」
「本当~?なら、良かった~!」
『でも、念のためお医者様に診てもらおうね』と言いながら、徳正さんはそっと体を起こす。
────と、ここで病室の扉は勢いよく開け放たれた。
「ねぇー!ここのコンビニ、品揃え悪くなーい?菓子パン、三つしかなかったんだけどー!」
そう言って、プクッと頬を膨らませるのは黒髪の少年……いや、青年?
子供と言うには大きく、大人と言うには幼い容姿で顔立ちもあどけない。
ただ、彼の纏うオーラは凄く独特で……ある人に凄く似ていた。
『もしかして、この人って……』と正体を予想する中、活発そうな男の子と目が合う。
「あーーー!!!ラミエルーーーー!!!起きているじゃーーーん!!!」
ビシッとこちらを指さし、彼は『いつの間にーーー!!?』と叫んだ。
と同時に、満面の笑みでこちらへ駆け寄ってくる。
「えっと……シムナさん、で合ってますか?」
おずおずと質問を投げ掛ける私に、彼は『うん!』と大きく頷いた。
「そうだよー!僕はシムナ!現実世界で会うのは、初めてだよねー!」
「そ、そうですね……」
『精神病院からはどうやって出てきたんだ?』という疑問を呑み込み、私は一先ず再会を喜ぶ。
さすがに何も知らない徳正さんの前で、尋ねるのは憚られたから。
『他人のプライベートをペラペラ喋るのは、ね』と思案していると、開けっ放しの扉から桃髪の女性が顔を出す。
「あら、本当に起きているわ~!」
「シムナの叫び声を聞いて、駆けつけてみて正解だったな」
女性の後ろから見覚えのあるおっとりイケメンが姿を現し、微かに笑う。
『無事で良かった』とでも言うように。
「えっ……!?ちょっ……!?ヴィエラさんとラルカさんまで……!?」
「うふふっ。お邪魔しているわよ」
「寝起き早々、騒がしくて悪いな」
ピンクがかった瞳をうんと細めるヴィエラさんと苦笑を浮かべるラルカさんは、とりあえず扉を閉める。
そして、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「とにかく、無事目を覚ましてくれて良かったわ。ついさっきまで徳正もシムナも大荒れで、酷かったのよ」
「『もう一か八か、ゲーム装置をぶっ壊そう』とまで言い出していたからな。まあ、さすがに止めたが」
呆れ気味に溜め息を零すラルカさんは、ヴィエラさんと目を合わせ、小さく肩を竦める。
『あれは酷かったよね』と共感し合うかのように。
わ、私が眠っている間にそんなことが……。
頭に装着されたままのゲーム装置へ触れ、私はホッと息を吐き出す。
『ヴィエラさんとラルカさんに感謝だな』と考える中、徳正さんとシムナさんは
「ちょっと~!それは言わないお約束でしょ~!」
「ラミエルには、知られたくないんだけどー!」
と、抗議の声を上げていた。
『本気じゃなかったんだって!』と弁解する二人は、ヴィエラさんとラルカさんに食ってかかる。
が、あっさり論破されて終了。
ガクリと肩を落とす二人を前に、思わず苦笑を漏らすと────不意に扉をノックされた。
「あ、あああああああ、あの!入ってもいいですか!ら、ラミエルさんが起きたって聞いてそれで……!」
聞き覚えのある声と口調に、私はスッと目を細める。
『彼女も会いに来てくれたんだな』と、嬉しく思いながら。
「どうぞ」
「し、しししししし、失礼しましゅ!」
若干声を上擦らせながら返事し、彼女は病室の扉を開けた。
かと思えば、素早く中へ入り、扉を閉める。
『意外と俊敏』と感心する私を前に、彼女はピンッと背筋を伸ばし、
「あ、あああああああ、アラクネです!ラミエルさん、初めまして!」
と、丁寧に自己紹介してくれた。
ペコッと頭を下げる彼女は、『勝手にお邪魔してすみません!』と謝る。
後ろで結い上げた黒髪を揺らしながら。
『現実世界では、一つ縛りなのか』と思いつつ、私はニッコリと微笑んだ。
「初めまして、アラクネさん。お見舞いに来てくれて、嬉しいです。なので、どうか謝らないでください」
驚きこそしたものの、特に不満は感じなかった。
むしろ、起きて早々みんなの無事を確認出来て嬉しいくらいである。
『現実世界での連絡手段はなかったから』と肩を竦め、私はメガネ越しに見える黒い瞳を見つめた。
『ぴぎゃっ……!?』と変な声を上げて俯くアラクネさんの前で、私は思わず笑ってしまう。
なんだか、いつも通りすぎて。
ホッとするなぁ、この感じ。
などと思いながら、私はふと顔を上げる。
「ところで、あの……リーダーもこちらにいらっしゃって……」
「────呼んだか?」
『いらっしゃっていますか?』という言葉に被せて、発言したのは窓際に居た男性。
ずっとここに居たのか、本片手にこちらを振り返った。
その際、サラリと銀髪が揺れる。
り、りりりりりり、リーダー!?そんなところに居たの!?
ずっと扉の方しか見てなくて、気づかなかったんだけど……!?
「い、居るなら声を掛けてください……凄くビックリしました」
「それは悪かったな」
『今度から一声掛ける』と言い、リーダーは本を閉じた。
独特な虹彩を持つ瞳をこちらに向け、おもむろに丸椅子から立ち上がる。
「あと、もう一つ謝ることがある」
そう言ってリーダーはベッドの傍まで来ると、目線を合わせるように腰を折った。
かと思えば、深々と頭を下げる。
「ラミエルの無事を確認しようと思って、個人情報を勝手に調べた。すまない」
ネット上では、確実に敬遠される個人情報の特定。
それをしてしまったことについて、リーダーはきちんとお詫びしてくれた。
「当然、慰謝料は支払う。不安であれば、引っ越ししてもらっても構わない。その費用はこちらで負担する」
『捜査資料はきちんと破棄するつもりだが』と補足しつつ、リーダーは損害賠償を申し出た。
この対応に徳正さん達がハッと息を呑む中、私は小さく首を横に振る。
「いえ、謝罪や慰謝料は必要ありません。今回は緊急事態だった訳ですし。それにこうして、皆さんの無事を早く確認出来て私も安心しました」
リーダーが情報を悪用するとも思っていないため、私は彼の申し出を辞退した。
『きちんと破棄さえしてくれればいい』と主張し、頭を上げるよう促す。
『分かった』と言って姿勢を正す彼の前で、私はホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても、よく調べられましたね?徳正さんの話からして、目覚めてからあまり時間は経っていない筈なのに」
『相当腕のいい興信所でも雇ったのか』と首を傾げ、私は半ば感心する。
だって、顔も住所も電話番号も分からない相手を探すのは誰がどう考えても難易度高いから。
至難の業とも言える。
「あぁ……実は俺、大企業の息子でな。そこら辺、融通が効くんだ」
「そーそー!僕が問題なく、外に出れたのもボスのおかげー!」
精神病院に閉じ込められていたことを話に出し、シムナさんは『マジでボスさまさまって感じ!』と零す。
すっかり興奮している様子の彼を前に、私は一人納得した。
全国各地に散らばっていた私達『虐殺の紅月』が、こうして顔を合わせられたのはリーダーのおかげか。
何の企業の息子かは分からないけど、本当に凄いな。
これなら、どんな人物も探し当てられそう……って、ちょっと待って!?
リーダーなら、もしかしてリアムさん達のことも!
「リーダー、一つお願いがあります!」
「ラーちゃん……!」
────見知らぬ男性の姿が、視界に入った。
黒髪黒目の彼は心配そうにこちらを覗き込み、『痛くない?』『苦しくない?』と問い質してくる。
今にも泣きそうな顔で。
どことなく既視感を覚える光景に、私はパチパチと瞬きを繰り返した。
えっ……?ちょっと待って……?
この声……それにこの呼び方って、まさか────
「────徳正さん!?」
思わず大声を上げると、見知らぬ男性は柔らかく微笑んだ。
「うん、そうだよ~!気づいてくれて、嬉しい……って、それより体の調子はどう?俺っち達が目覚めてからも一週間ほど眠っていたから、心配してたんだけど」
『やっぱり、具合悪い?』と尋ね、徳正さんはそっと眉尻を下げる。
整った顔に哀愁を漂わせる彼の前で、私はブンブンと首を横に振った。
「だ、大丈夫です!ずっと眠っていたので体はちょっとダルいですが、それ以外は本当に……!」
「本当~?なら、良かった~!」
『でも、念のためお医者様に診てもらおうね』と言いながら、徳正さんはそっと体を起こす。
────と、ここで病室の扉は勢いよく開け放たれた。
「ねぇー!ここのコンビニ、品揃え悪くなーい?菓子パン、三つしかなかったんだけどー!」
そう言って、プクッと頬を膨らませるのは黒髪の少年……いや、青年?
子供と言うには大きく、大人と言うには幼い容姿で顔立ちもあどけない。
ただ、彼の纏うオーラは凄く独特で……ある人に凄く似ていた。
『もしかして、この人って……』と正体を予想する中、活発そうな男の子と目が合う。
「あーーー!!!ラミエルーーーー!!!起きているじゃーーーん!!!」
ビシッとこちらを指さし、彼は『いつの間にーーー!!?』と叫んだ。
と同時に、満面の笑みでこちらへ駆け寄ってくる。
「えっと……シムナさん、で合ってますか?」
おずおずと質問を投げ掛ける私に、彼は『うん!』と大きく頷いた。
「そうだよー!僕はシムナ!現実世界で会うのは、初めてだよねー!」
「そ、そうですね……」
『精神病院からはどうやって出てきたんだ?』という疑問を呑み込み、私は一先ず再会を喜ぶ。
さすがに何も知らない徳正さんの前で、尋ねるのは憚られたから。
『他人のプライベートをペラペラ喋るのは、ね』と思案していると、開けっ放しの扉から桃髪の女性が顔を出す。
「あら、本当に起きているわ~!」
「シムナの叫び声を聞いて、駆けつけてみて正解だったな」
女性の後ろから見覚えのあるおっとりイケメンが姿を現し、微かに笑う。
『無事で良かった』とでも言うように。
「えっ……!?ちょっ……!?ヴィエラさんとラルカさんまで……!?」
「うふふっ。お邪魔しているわよ」
「寝起き早々、騒がしくて悪いな」
ピンクがかった瞳をうんと細めるヴィエラさんと苦笑を浮かべるラルカさんは、とりあえず扉を閉める。
そして、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「とにかく、無事目を覚ましてくれて良かったわ。ついさっきまで徳正もシムナも大荒れで、酷かったのよ」
「『もう一か八か、ゲーム装置をぶっ壊そう』とまで言い出していたからな。まあ、さすがに止めたが」
呆れ気味に溜め息を零すラルカさんは、ヴィエラさんと目を合わせ、小さく肩を竦める。
『あれは酷かったよね』と共感し合うかのように。
わ、私が眠っている間にそんなことが……。
頭に装着されたままのゲーム装置へ触れ、私はホッと息を吐き出す。
『ヴィエラさんとラルカさんに感謝だな』と考える中、徳正さんとシムナさんは
「ちょっと~!それは言わないお約束でしょ~!」
「ラミエルには、知られたくないんだけどー!」
と、抗議の声を上げていた。
『本気じゃなかったんだって!』と弁解する二人は、ヴィエラさんとラルカさんに食ってかかる。
が、あっさり論破されて終了。
ガクリと肩を落とす二人を前に、思わず苦笑を漏らすと────不意に扉をノックされた。
「あ、あああああああ、あの!入ってもいいですか!ら、ラミエルさんが起きたって聞いてそれで……!」
聞き覚えのある声と口調に、私はスッと目を細める。
『彼女も会いに来てくれたんだな』と、嬉しく思いながら。
「どうぞ」
「し、しししししし、失礼しましゅ!」
若干声を上擦らせながら返事し、彼女は病室の扉を開けた。
かと思えば、素早く中へ入り、扉を閉める。
『意外と俊敏』と感心する私を前に、彼女はピンッと背筋を伸ばし、
「あ、あああああああ、アラクネです!ラミエルさん、初めまして!」
と、丁寧に自己紹介してくれた。
ペコッと頭を下げる彼女は、『勝手にお邪魔してすみません!』と謝る。
後ろで結い上げた黒髪を揺らしながら。
『現実世界では、一つ縛りなのか』と思いつつ、私はニッコリと微笑んだ。
「初めまして、アラクネさん。お見舞いに来てくれて、嬉しいです。なので、どうか謝らないでください」
驚きこそしたものの、特に不満は感じなかった。
むしろ、起きて早々みんなの無事を確認出来て嬉しいくらいである。
『現実世界での連絡手段はなかったから』と肩を竦め、私はメガネ越しに見える黒い瞳を見つめた。
『ぴぎゃっ……!?』と変な声を上げて俯くアラクネさんの前で、私は思わず笑ってしまう。
なんだか、いつも通りすぎて。
ホッとするなぁ、この感じ。
などと思いながら、私はふと顔を上げる。
「ところで、あの……リーダーもこちらにいらっしゃって……」
「────呼んだか?」
『いらっしゃっていますか?』という言葉に被せて、発言したのは窓際に居た男性。
ずっとここに居たのか、本片手にこちらを振り返った。
その際、サラリと銀髪が揺れる。
り、りりりりりり、リーダー!?そんなところに居たの!?
ずっと扉の方しか見てなくて、気づかなかったんだけど……!?
「い、居るなら声を掛けてください……凄くビックリしました」
「それは悪かったな」
『今度から一声掛ける』と言い、リーダーは本を閉じた。
独特な虹彩を持つ瞳をこちらに向け、おもむろに丸椅子から立ち上がる。
「あと、もう一つ謝ることがある」
そう言ってリーダーはベッドの傍まで来ると、目線を合わせるように腰を折った。
かと思えば、深々と頭を下げる。
「ラミエルの無事を確認しようと思って、個人情報を勝手に調べた。すまない」
ネット上では、確実に敬遠される個人情報の特定。
それをしてしまったことについて、リーダーはきちんとお詫びしてくれた。
「当然、慰謝料は支払う。不安であれば、引っ越ししてもらっても構わない。その費用はこちらで負担する」
『捜査資料はきちんと破棄するつもりだが』と補足しつつ、リーダーは損害賠償を申し出た。
この対応に徳正さん達がハッと息を呑む中、私は小さく首を横に振る。
「いえ、謝罪や慰謝料は必要ありません。今回は緊急事態だった訳ですし。それにこうして、皆さんの無事を早く確認出来て私も安心しました」
リーダーが情報を悪用するとも思っていないため、私は彼の申し出を辞退した。
『きちんと破棄さえしてくれればいい』と主張し、頭を上げるよう促す。
『分かった』と言って姿勢を正す彼の前で、私はホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても、よく調べられましたね?徳正さんの話からして、目覚めてからあまり時間は経っていない筈なのに」
『相当腕のいい興信所でも雇ったのか』と首を傾げ、私は半ば感心する。
だって、顔も住所も電話番号も分からない相手を探すのは誰がどう考えても難易度高いから。
至難の業とも言える。
「あぁ……実は俺、大企業の息子でな。そこら辺、融通が効くんだ」
「そーそー!僕が問題なく、外に出れたのもボスのおかげー!」
精神病院に閉じ込められていたことを話に出し、シムナさんは『マジでボスさまさまって感じ!』と零す。
すっかり興奮している様子の彼を前に、私は一人納得した。
全国各地に散らばっていた私達『虐殺の紅月』が、こうして顔を合わせられたのはリーダーのおかげか。
何の企業の息子かは分からないけど、本当に凄いな。
これなら、どんな人物も探し当てられそう……って、ちょっと待って!?
リーダーなら、もしかしてリアムさん達のことも!
「リーダー、一つお願いがあります!」
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