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第七章
第303話『魔王討伐クエスト攻略完了《リアム side》』
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「狂戦士化、100%……|《狂剣の舞》」
聖剣エクスカリバーの神々しさを掻き消すような禍々しいオーラを放ち、無名は走り出した。
いや、『風となった』と言った方がいいか……だって、僕の目には追えなかったから。
気づいたら魔王が床に倒れていて、無名は彼の頭部を踏みつけていた。
す、ごい……なんて強さだ。
弱体化しているとはいえ、あの魔王をこうもあっさり……。
まあ、まだHPは0になってないけど。
残り六割となった魔王のHPを見つめ、僕は『やっぱ、しぶといな』と考える。
恐らく、魔王はMPを攻撃じゃなくて防御に回しているのだろう。
もう大技を放てなくなったから。
『覚醒前なら、さっきの一撃で死んでいたね』と頬を引き攣らせていると、不意に魔王が身を捩る。
どうにかして、起き上がろうと必死だ。
無名のことだから、みすみす取り逃すような真似はしないと思うけど……念のため────
「────ラルカ、玉座を壊してほしい。アレには、魔王のステータスを底上げする効果がある」
『座らせなければ問題ないけど、後顧の憂いは断ちたい』と主張する僕に、ラルカは小さく頷いた。
かと思えば、アイテムボックスからデスサイズを取り出し、玉座に迫る。
「ま、待て……!」
こちらの会話を聞いていたのか、魔王は必死に手を伸ばした。
『それがなくなったら……!』と焦り、表情を曇らせる彼に─────
「貴方の指図を受ける気はありません」
────と、アラクネは冷たく言い放つ。
オドオドしていた普段の姿からは、想像もつかないほどの無表情で。
『この子もやはり、PK集団の一員なんだな』と痛感する中、アラクネは魔王の伸ばした手に蜘蛛糸を垂らした。
すると、魔王の手はまるで豆腐のように切れ、バラバラになる。
「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁあああ!!!!」
あまりの痛みに絶叫し、魔王は直ぐに手を引っ込めた。
が、その動作によりまたも怪我を負ってしまい……ひたすら苦しむ。
でも、魔王の辛そうな姿を見ても誰一人として表情を変えなかった。
「ラーちゃんはもっと苦しくて、怖い思いをした筈だ」
妖刀マサムネを手に持ち、徳正は明確な敵意と殺意を放つ。
と同時に、玉座は大きな音を立てて壊れた。
ラルカの鎌が突き刺さったソレを一瞥し、徳正はゆっくりと魔王の前までやってくる。
「起きろ、影」
詠唱ですらないその一言に、徳正の影は呼応する。
まるで生き物のようにうねりながら実体を成し、キョロキョロと辺りを見回した。
困惑を表すかのように。
『こ、これは一体……?』
「説明は後だ。とにかく、こいつを殺せ」
いつになく威圧的で感情的な態度を取る徳正に、影は戸惑う。
が、直ぐに了承し、魔王へ襲い掛かった。
『さっきはよくもやってくれたな!』と言わんばかりに。
「っ……!くそっ……!」
向かってくる黒い物体を前に、魔王は『暴食』を発動する。
でも、数々の弱体化によって威力はかなり落ちているため、影を押し留めるのがやっと。
一応MPは吸収しているものの、存在を維持するのが困難な程ではなかった。
「ふ~ん?まだそんな力、あるんだ。今の一撃で終わらせようと思ったんだけど……まあ、いいや────俺自ら手を下せばいい話だし」
妖刀マサムネ片手に距離を詰めてくる徳正に、魔王は『ひっ……!』と小さな悲鳴を上げる。
圧倒的不利な状況を悟り、戦慄しているようだ。
逃げようにも、無名やアラクネに囲まれていて身動きを取れない。
「ちょっと、徳正ー!何一人で熱くなってんのー?」
『僕達を忘れてもらっては困る』
「そうよ。ラミエルちゃんの件で、腹を立てているのは皆同じなんだから」
「わ、私達だって一緒に戦いたいです!」
ラミエルの復讐を果たしたいと志願してきたシムナ達に、徳正は困ったような表情を浮かべた。
「う~ん……そうは言っても、今回はラーちゃんの命が懸かっている訳だし……」
「確かにな。それじゃあ────」
そこで一度言葉を切り、無名は魔王の体と床の間に足を差し込む。
「────いつも通り、早い者勝ちで行こう」
そう言って、無名は思い切り魔王を蹴り上げた。
フワッと宙を舞う紫髪の青年を見上げ、誰もが目の色を変える。
まるで、獲物を前にした肉食動物かのように。
ゾクリとした感覚が全身を駆け巡る中、彼らは我先にと動き出した。
凄まじい風と魔法、武器が辺りを漂い、魔王の絶叫が木霊する。
っ……!ダメだ……!早すぎて、全く見えない!
地上に残った淑女達が魔法と蜘蛛糸を放ったのは分かったけど、紳士達の動向は本当に一切分からない……!
『何が起きているんだ!?』と困惑しつつ、僕は飛ばされそうになる帽子を手で押さえた。
無名達の無事と魔王の死を切に願う中、ふと目の前に
『魔王ルシファーの消滅を確認。これにより魔王討伐クエストは────クリアとなります』
という文章が、浮かび上がる。
『えっ!?』と思わず声を漏らす僕は、慌てて顔を上げた。
その瞬間、風は止み────代わりに光が降ってくる。
それは魔物やプレイヤーが死んだ時に出てくるものと同じで……。
「ちぇー!結局、今回も徳正の一人勝ちかー!」
『やはり、“影の疾走者”には敵わないな』
「狂戦士化100%でも、本気の徳正には勝てなかったか」
「……」
上から降ってくる無名達は魔王の残骸を振り払い、無事着地する。
と同時に、ラミエルの元へ駆け寄ってきた────ものの、彼女の姿はもうない。
「ま、間に合わなかった……?」
青ざめた顔で崩れ落ち、徳正はラミエルの痕跡を探すように何度も床を……彼女の居た場所を撫でる。
────と、ここで彼女の頭部のあった辺りから光の粒子が舞い上がった。
「大丈夫だよ、徳正。ラミエルは────ちゃんと生きている」
「ほ、本当に……!?」
ブォンッと風を切って駆け寄ってきた徳正は、僕の両肩を掴んだ。
縋るような目で見てくる彼を前に、僕はしっかりと頷く。
「ああ。だから────現実世界で待っていておくれ」
『Free Rule Onlineの全クエストクリア』と書かれた文面を見つめ、僕はそう言った。
肩に置かれた徳正の両手をそっと解き、小さく笑う。
「きっと、もうログアウトボタンが復活している筈だ。それを押せば、現実世界に戻れる」
『もちろん、何の弊害もなくね』と説明する僕に、徳正は眉を顰めた。
「悪いけど、ラーちゃんの無事を確認してからじゃないとログアウトは……」
「────分かった」
徳正の言葉を遮り、了承の意を示したのは無名だった。
『主君……!』と抗議するような声を上げる徳正に対し、無名は小さく首を横に振る。
やめておけ、とでも言うように。
「今、ラミエルのプロフィール画面を確認してみたら────ログイン状態でもログアウト状態でもなく、待機状態になっている。つまり、仮想世界にも現実世界にもラミエルの意識はないってことだ」
ゲーム内ディスプレイを横目に、無名は『探しても無駄だ』と言い切った。
が、徳正は尚も食い下がる。
「な、なら……!尚更ここに残って、リアムくんから話を……!」
「話を聞いた程度で、お前は安心出来るのか?」
「っ……!それは……!」
図星を突かれグッと押し黙る徳正に、無名は一つ息を吐いた。
かと思えば、ある提案を持ち掛ける。
「もし、今すぐログアウトするなら────現実世界でラミエルに会えるよう、取り計らってやる」
「!?」
「俺は現実世界じゃ、それなりに名の通った企業の息子だ。多少融通が効く」
『人探しと面会くらい、朝飯前だ』と言い、無名は肩を竦める。
と同時に、徳正の背中を軽く叩いた。
「ここでああだこうだ話し合うより、現実世界に戻ってラミエルの安否を確認した方が早くて確実だ。だから、ログアウトしてくれ」
「……分かった」
無名の説得に折れ、徳正はようやく首を縦に振った。
早速ログアウトの準備に取り掛かっているのか、空中をタップしている。
「他の奴らも、それでいいな?」
『ちゃんとお前らもラミエルのところに連れていく』と主張し、無名は全員の同意を求めた。
すると、シムナ達は間髪容れずに頷く。
「よし。じゃあ、また後で会おう」
『迎えに行く』と言い残し、無名は先陣を切るかのようにログアウトした。
フッと消える彼の姿を前に、他の者達もログアウトボタンを押していく。
そして、
「リアムくん────信じているからね」
と言って、最後の一人である徳正もついにこの場を去った。
自分以外誰も居ない玉座の間を前に、僕はスッと目を細める。
「ああ。君達のお姫様はちゃんと無事に返すよ」
『心配しなくていい』と呟き、僕は────仲間の力を借りて、別の空間へ移動した。
聖剣エクスカリバーの神々しさを掻き消すような禍々しいオーラを放ち、無名は走り出した。
いや、『風となった』と言った方がいいか……だって、僕の目には追えなかったから。
気づいたら魔王が床に倒れていて、無名は彼の頭部を踏みつけていた。
す、ごい……なんて強さだ。
弱体化しているとはいえ、あの魔王をこうもあっさり……。
まあ、まだHPは0になってないけど。
残り六割となった魔王のHPを見つめ、僕は『やっぱ、しぶといな』と考える。
恐らく、魔王はMPを攻撃じゃなくて防御に回しているのだろう。
もう大技を放てなくなったから。
『覚醒前なら、さっきの一撃で死んでいたね』と頬を引き攣らせていると、不意に魔王が身を捩る。
どうにかして、起き上がろうと必死だ。
無名のことだから、みすみす取り逃すような真似はしないと思うけど……念のため────
「────ラルカ、玉座を壊してほしい。アレには、魔王のステータスを底上げする効果がある」
『座らせなければ問題ないけど、後顧の憂いは断ちたい』と主張する僕に、ラルカは小さく頷いた。
かと思えば、アイテムボックスからデスサイズを取り出し、玉座に迫る。
「ま、待て……!」
こちらの会話を聞いていたのか、魔王は必死に手を伸ばした。
『それがなくなったら……!』と焦り、表情を曇らせる彼に─────
「貴方の指図を受ける気はありません」
────と、アラクネは冷たく言い放つ。
オドオドしていた普段の姿からは、想像もつかないほどの無表情で。
『この子もやはり、PK集団の一員なんだな』と痛感する中、アラクネは魔王の伸ばした手に蜘蛛糸を垂らした。
すると、魔王の手はまるで豆腐のように切れ、バラバラになる。
「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁあああ!!!!」
あまりの痛みに絶叫し、魔王は直ぐに手を引っ込めた。
が、その動作によりまたも怪我を負ってしまい……ひたすら苦しむ。
でも、魔王の辛そうな姿を見ても誰一人として表情を変えなかった。
「ラーちゃんはもっと苦しくて、怖い思いをした筈だ」
妖刀マサムネを手に持ち、徳正は明確な敵意と殺意を放つ。
と同時に、玉座は大きな音を立てて壊れた。
ラルカの鎌が突き刺さったソレを一瞥し、徳正はゆっくりと魔王の前までやってくる。
「起きろ、影」
詠唱ですらないその一言に、徳正の影は呼応する。
まるで生き物のようにうねりながら実体を成し、キョロキョロと辺りを見回した。
困惑を表すかのように。
『こ、これは一体……?』
「説明は後だ。とにかく、こいつを殺せ」
いつになく威圧的で感情的な態度を取る徳正に、影は戸惑う。
が、直ぐに了承し、魔王へ襲い掛かった。
『さっきはよくもやってくれたな!』と言わんばかりに。
「っ……!くそっ……!」
向かってくる黒い物体を前に、魔王は『暴食』を発動する。
でも、数々の弱体化によって威力はかなり落ちているため、影を押し留めるのがやっと。
一応MPは吸収しているものの、存在を維持するのが困難な程ではなかった。
「ふ~ん?まだそんな力、あるんだ。今の一撃で終わらせようと思ったんだけど……まあ、いいや────俺自ら手を下せばいい話だし」
妖刀マサムネ片手に距離を詰めてくる徳正に、魔王は『ひっ……!』と小さな悲鳴を上げる。
圧倒的不利な状況を悟り、戦慄しているようだ。
逃げようにも、無名やアラクネに囲まれていて身動きを取れない。
「ちょっと、徳正ー!何一人で熱くなってんのー?」
『僕達を忘れてもらっては困る』
「そうよ。ラミエルちゃんの件で、腹を立てているのは皆同じなんだから」
「わ、私達だって一緒に戦いたいです!」
ラミエルの復讐を果たしたいと志願してきたシムナ達に、徳正は困ったような表情を浮かべた。
「う~ん……そうは言っても、今回はラーちゃんの命が懸かっている訳だし……」
「確かにな。それじゃあ────」
そこで一度言葉を切り、無名は魔王の体と床の間に足を差し込む。
「────いつも通り、早い者勝ちで行こう」
そう言って、無名は思い切り魔王を蹴り上げた。
フワッと宙を舞う紫髪の青年を見上げ、誰もが目の色を変える。
まるで、獲物を前にした肉食動物かのように。
ゾクリとした感覚が全身を駆け巡る中、彼らは我先にと動き出した。
凄まじい風と魔法、武器が辺りを漂い、魔王の絶叫が木霊する。
っ……!ダメだ……!早すぎて、全く見えない!
地上に残った淑女達が魔法と蜘蛛糸を放ったのは分かったけど、紳士達の動向は本当に一切分からない……!
『何が起きているんだ!?』と困惑しつつ、僕は飛ばされそうになる帽子を手で押さえた。
無名達の無事と魔王の死を切に願う中、ふと目の前に
『魔王ルシファーの消滅を確認。これにより魔王討伐クエストは────クリアとなります』
という文章が、浮かび上がる。
『えっ!?』と思わず声を漏らす僕は、慌てて顔を上げた。
その瞬間、風は止み────代わりに光が降ってくる。
それは魔物やプレイヤーが死んだ時に出てくるものと同じで……。
「ちぇー!結局、今回も徳正の一人勝ちかー!」
『やはり、“影の疾走者”には敵わないな』
「狂戦士化100%でも、本気の徳正には勝てなかったか」
「……」
上から降ってくる無名達は魔王の残骸を振り払い、無事着地する。
と同時に、ラミエルの元へ駆け寄ってきた────ものの、彼女の姿はもうない。
「ま、間に合わなかった……?」
青ざめた顔で崩れ落ち、徳正はラミエルの痕跡を探すように何度も床を……彼女の居た場所を撫でる。
────と、ここで彼女の頭部のあった辺りから光の粒子が舞い上がった。
「大丈夫だよ、徳正。ラミエルは────ちゃんと生きている」
「ほ、本当に……!?」
ブォンッと風を切って駆け寄ってきた徳正は、僕の両肩を掴んだ。
縋るような目で見てくる彼を前に、僕はしっかりと頷く。
「ああ。だから────現実世界で待っていておくれ」
『Free Rule Onlineの全クエストクリア』と書かれた文面を見つめ、僕はそう言った。
肩に置かれた徳正の両手をそっと解き、小さく笑う。
「きっと、もうログアウトボタンが復活している筈だ。それを押せば、現実世界に戻れる」
『もちろん、何の弊害もなくね』と説明する僕に、徳正は眉を顰めた。
「悪いけど、ラーちゃんの無事を確認してからじゃないとログアウトは……」
「────分かった」
徳正の言葉を遮り、了承の意を示したのは無名だった。
『主君……!』と抗議するような声を上げる徳正に対し、無名は小さく首を横に振る。
やめておけ、とでも言うように。
「今、ラミエルのプロフィール画面を確認してみたら────ログイン状態でもログアウト状態でもなく、待機状態になっている。つまり、仮想世界にも現実世界にもラミエルの意識はないってことだ」
ゲーム内ディスプレイを横目に、無名は『探しても無駄だ』と言い切った。
が、徳正は尚も食い下がる。
「な、なら……!尚更ここに残って、リアムくんから話を……!」
「話を聞いた程度で、お前は安心出来るのか?」
「っ……!それは……!」
図星を突かれグッと押し黙る徳正に、無名は一つ息を吐いた。
かと思えば、ある提案を持ち掛ける。
「もし、今すぐログアウトするなら────現実世界でラミエルに会えるよう、取り計らってやる」
「!?」
「俺は現実世界じゃ、それなりに名の通った企業の息子だ。多少融通が効く」
『人探しと面会くらい、朝飯前だ』と言い、無名は肩を竦める。
と同時に、徳正の背中を軽く叩いた。
「ここでああだこうだ話し合うより、現実世界に戻ってラミエルの安否を確認した方が早くて確実だ。だから、ログアウトしてくれ」
「……分かった」
無名の説得に折れ、徳正はようやく首を縦に振った。
早速ログアウトの準備に取り掛かっているのか、空中をタップしている。
「他の奴らも、それでいいな?」
『ちゃんとお前らもラミエルのところに連れていく』と主張し、無名は全員の同意を求めた。
すると、シムナ達は間髪容れずに頷く。
「よし。じゃあ、また後で会おう」
『迎えに行く』と言い残し、無名は先陣を切るかのようにログアウトした。
フッと消える彼の姿を前に、他の者達もログアウトボタンを押していく。
そして、
「リアムくん────信じているからね」
と言って、最後の一人である徳正もついにこの場を去った。
自分以外誰も居ない玉座の間を前に、僕はスッと目を細める。
「ああ。君達のお姫様はちゃんと無事に返すよ」
『心配しなくていい』と呟き、僕は────仲間の力を借りて、別の空間へ移動した。
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