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第七章

第296話『魔王の討伐開始』

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◇◆◇◆

「今回は今までのようにいかないからね────魔王ルシファー!」

 真っ青な瞳を見つめ返し、私は威勢よく啖呵を切った。
すると、徳正さん達は『いいぞ、いいぞ』と野次を飛ばす。
おかげで、すっかりいつものペースに。

 普段なら、『もっと危機感を持って!?』と思うんだろうけど、今はなんだか心地いい。

 『私も大分、毒されてきたかも』と思いつつ、気を引き締める。
杖を握る手に力を込め、一度大きく深呼吸した。

「では、皆さん手筈通りに」

「「「了解」」」

 間髪容れずに了承の意を示した徳正さん達は、それぞれ武器を構えた。
かと思えば、魔王に向かって放つ大技・・の準備に取り掛かる。
それを視界の端に捉えながら、私はいつでもサポートに入れるよう身構えた。

 格好よく『手筈通りに』なんて言ったけど、実際のところ────作戦なんてない。
ただ、最初から全力で・・・立ち向かうだけ。
だって、魔王戦のことは私自身よく分からないから。

 『いつも、一発KOだったもので……』と苦笑いする中、まず最初に徳正さんが動きを見せた。

「起きろ、影」

 そう言って、徳正さんは自身の影を足で蹴る。
と同時に、影が実態を成した。

「用件は一昨日、言った通りだ。今回はガチでやばいから、真剣に頼む」

『承知した』

 いつの間にか魔王戦のことを伝えていたのか、影さんは直ぐさま攻撃に移る。
今回は冗談を言い合う余裕もないため、口数は少なかった。
『頑張って、影さん!』と応援する中、黒い物体が魔王を喰らう。
────だが、しかし……

「なんだ、この程度か」

 スキル『暴食』を使い、逆に影さんのHP────ならぬ徳正さんのMPを吸収し始めた。
影さんが存在を維持するのに必要なエネルギーは、それだから。
『つまらん』と吐き捨てる魔王を前に、私は唖然とする。

 ま、待って……!?『暴食』って、連発出来るの……!?
じゃあ、手の打ちようが……って、落ち着け!
もし、連発出来るなら先に私達を喰らっている筈でしょ!?
だから、あれはさっき見た『暴食』じゃない!多分、それより効力の弱いやつ!
つまり────

「────まだ希望はある!」

 半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、私はバッと後ろを振り返った。

「ヴィエラさん、シムナさん、遠距離攻撃を!」

「「了解」」

 それぞれ杖と銃を構える二人は、風の上級魔法とスキル入りの弾丸を放つ。
向かってくる二つの攻撃を前に、魔王は影さんを盾にした────つもりが、影さんの機転により負傷する。
というのも、当たる寸前に体に大きな穴を開け、攻撃を素通りさせたため。
おかげで、真後ろに居た魔王はもろに攻撃を食らった。

「自由自在に形状を変えられる影さんだからこそ、なし得た技ですね!お見事です!」

 手放しで褒め称える私は、『結構いいダメージが入っている筈』と目を輝かせた。
照れる影さんを更に持ち上げ、『凄い凄い』と囃し立てる中────

「よし、一気に畳み掛けるぞ」

 ────リーダーは聖剣エクスカリバーを構える。
その際────取っ手部分に後付けした鎖が、ジャラリと音を立てる。
何故こんな格好になったかというと、魔王との接近戦を避けつつ、聖剣エクスカリバーでダメージを与えるため。

 正直、魔王に関する情報はまだまだ少ない。
だから、無闇に近づいて一発KOされる事態だけは何としてでも避けたかった。
だから、アラクネさんや田中さんとも話し合って『聖剣エクスカリバーを投げる→鎖を引っ張って回収』という形に落ち着いたのだ。
ぶっちゃけ、かなり古典的というか……小学生が考えそうな案だけど、聖剣エクスカリバーを下手に改良して『相手の属性関係なくダメージを与える』という効果が失われたら大変だから。

 『魔王討伐の難易度が一気に上がっちゃう』と思案する中、リーダーは取っ手部分から伸びた鎖を掴む。
と同時に、頭の上で聖剣エクスカリバーをブンブン振り回した。

「う~ん……やっぱり、なんかシュールだね~」

『未だ嘗て、聖剣をこのように扱った事例はないだろうな』

「神聖さの欠片もないわよね」

「それはボスの手に渡った時点で、もう損なわれるでしょー。だって、僕達PK集団だよー?」

「た、たたたたたた、確かに勇者向きのチームではありませんよね……!」

「まあ、この際何でもいいでしょう。魔王を討伐出来れば」

「『「確かに」』」

 結局、実用性重視の結論に至り……私達はリーダーの動向を見守る。
ただし、遠距離攻撃向きのヴィエラさんとシムナさんはサポート体制に入っているが。
少しでも、聖剣エクスカリバーの命中率を上げるためだろう。
攻撃がシンプルな分、魔王に太刀筋を読まれやすいから。
『どんなに凄い剣でも当たらなければ意味がない』と考える中、リーダーはついに聖剣を放つ。
ヴィエラさんとシムナさんもそれに合わせて、

「《アイスアロー》」

「《サン・ヒート・ショット》」

 氷結魔法とスキルを発動させた。
聖剣エクスカリバーの露払いを務めるかのように前へ出て、魔王との距離を縮めていく。
だが、しかし……魔王は一切顔色を変えなかった。

「くだらん」

 盾として活用していた影さんを一度解放し、魔王はクルリと人差し指を回す。
その瞬間、『暴食』の効果は切れ────代わりに黒い羽根が複数顕現した。
かと思えば、先に到着した氷の矢と弾丸を相殺する。
それも、たった二枚で。

 ヴィエラさんの魔法やシムナさんの弾丸を防ぐなんて……あの羽根ったら、どんだけ頑丈なの!?

 などと考えていると、後からやってきた聖剣エクスカリバーが黒い羽根によって軌道を修正される。
あれでは、魔王に当たらない。

「そう簡単には、いかないか」

 声色に少し落胆を滲ませ、リーダーは鎖を握る手に力を込めた。
と同時に、何かがぶつかり合う音が響き、聖剣エクスカリバーは再び軌道を修正。

「えっ?」

 思わず声を漏らす私の前で、聖剣エクスカリバーは魔王の顔の横を通り過ぎ、玉座に突き刺さる。

「ほう?この土壇場で、よくやる」

 感心したように目を細める魔王は、右頬に流れる────を手で拭った。
『まさか、この私が負傷するとは』と零す彼に、徳正さんはヘラリと笑う。

「本当はその顔面に突き刺す予定だったんだけどね~。避けられちゃったか~」

 『残念』と肩を竦め、徳正さんは手に持っていたクナイをゆらゆら揺らした。
よく見ると、床にも同じものが落ちている。
つまり────聖剣エクスカリバーの軌道を寸前で変更したのは、徳正さん……もっと正確に言うと、彼の投げたクナイだ。
『そ、そんなのいつの間に……』と目を剥く私の隣で、リーダーはフッと笑みを漏らす。

「よくやった、徳正」

「たまには、やるねー」

『ちょっとだけ見直したぞ、ちょっとだけな』

「いや、『たまには』と『ちょっとだけ』は余計~!普通に褒めてよ~!俺っち、結構頑張ったのに~」

 シムナさんとラルカさんの賛辞(?)に、徳正さんはムッと口先を尖らせる。
『ひど~い』と非難する彼を前に、ヴィエラさんは人差し指を顎に押し当てた。

「ねぇ、あのクナイって消音付きのやつでしょう?」

 風の音すらしなかった原因を指摘し、ヴィエラさんはコテリと首を傾げる。
すると、徳正さんはこちらへ目を向けた。

「ん?あぁ、そうそう。あーちゃんに頼んで、作ってもらったんだ~」

「こ、ここここここ、こういう使い方をするためにわざわざ注文されたんですね!作った甲斐がありました!」

 なんだかちょっと誇らしげなアラクネさんに、私は頬を緩める。
『やっぱり、作り手としては嬉しいんだろうな』と思いつつ、横を向いた。

「さすがです、徳正さん」

「やった~!ラーちゃんから、褒められちゃった~!」

 『えへへ~』と照れたように笑いながら、徳正さんはすっかり気を良くする。
先程まで拗ねていたのが、嘘みたいに。
まあ、今度はシムナさんが不機嫌になってしまったみたいだけど。

「むぅー!僕だって、ラミエルに褒められたーい!徳正ばっかり、狡くなーい!?」

「狡くないで~す。俺っちはしっかり活躍して、褒めてもらったんだから~。悔しければ、シムナも活躍すれば~?」

 一応、魔王FROのラスボスを前にしているのに、二人の態度はいつもと変わらない。
全くもって、危機感0だった。
『またあの二人は……』と呆れ返る私を他所に、二人は尚も言い合いを繰り広げる。
だが、しかし……

「うるさいぞ」

 リーダーの注意によって、直ぐさま口を閉ざした。
慌てたように取り繕う彼らの前で、リーダーはグイッと鎖を引っ張る。
そして、玉座に突き刺さった聖剣エクスカリバーを回収すると、再び構えた。

「この調子で、さっさと終わらせるぞ」

「「『了解』」」

 一気に緊張感が戻り、私達は前を向く────と同時に、目を剥いた。
だって、影さんが必死に私達を守っていてくれたから。

 な、なるほど……なんか魔王が静かなだと思ったら、影さん一人で頑張ってくれていたんだ。

 向かってくる黒い羽根を全て取り込む影さんの姿に、私は申し訳なくなる。
『私達の雑談なんかのために……』と感動すら覚える中、徳正さんはMPポーションを飲んだ。
『危な……強制送還するところだった』と零し、クナイを構える。

「とりま限界まで影を維持するけど、あんま長くは持たないよ~」

「分かってます」

 徳正さんの影魔法はクールタイムの関係もあり、恐らく一回しか使えない。
なので、限界を迎える前に片をつけたかった。

「ラルカさん、申し訳ありませんが────人形を出していただけませんか?手数を増やしたいんです」

『分かった』

 魔王の実力を目の当たりにしたからか、ラルカさんは二つ返事で了承した。
普段なら、絶対に『クマ好きとしては、ちょっと……』と渋るのに。
恐らく、あまりいい状況とは言えないため理解を示してくれたのだろう。
『ありがとう、ラルカさん!』と感謝する中、彼はアイテムボックスから等身大のクマのぬいぐるみを出す。
それも、二十体近く。
『いや、多いな……!?』と思わずツッコミを入れそうになるものの、我慢。

『よし。では、ラミエルの言う通り手数で攻めよう』
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