上 下
189 / 315
第四章

第188話『フェニックス討伐完了』

しおりを挟む
「うふふっ。そうねぇ……なら────どっちも試してみましょうか」

 えっ?ど、どっちも試す……!?嘘でしょ!?
時間停止魔法は言わずもがな、封印魔法だってかなり魔力MPを持って行かれるのに……!!
この二つの消費魔力MPを合計したら、一体どのくらいになると思って……!?

「ヴィエラさん、本気ですか!?」

「もちろん、本気よ。だって、『どっちを選ぼうか』って悩むより、どっちも試しちゃった方が早いじゃない」

「確かにそうかもしれませんが、時間停止魔法と封印魔法ですよ!?この二つの魔法を一気に使うだなんて、無茶ですよ!!」

 心配のあまり猛抗議すると、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らした。

「無茶ですって?ラミエルちゃんは私を誰だと思っているの?私は────“アザミの魔女”よ。この程度のことでダウンするほど、やわじゃないわ」

 腰に手を当て、“アザミの魔女”は自信満々に言い切った。
彼女の脳内に『不可能』の文字はないらしい。

 はぁ……参ったなぁ。
本当は全力で止めるべきなんだろうけど……ヴィエラさんを見ていると、なんだか出来そうな気がしてくる。

「……分かりました。ヴィエラさんの判断に従います」

 元はと言えば、ヴィエラさんに判断を丸投げした私のせいなので、ここは腹を括ろう。

「うふふっ。ラミエルちゃんなら、そう言ってくれると思っていたわ」

 フェロモンというフェロモンを垂れ流すヴィエラさんは、『じゃあ、早速準備に取り掛かるわね』と言って杖を構えた。
と同時に、真剣な表情を浮かべる。
集中しているのか、『すぅー……はぁー……』と深呼吸を繰り返していた。

「時の凍結 永遠の宴 孤独の空間 時計の針が疲れを癒す間、誰も時間を動かせない 時計は時間そのものである 我は時の支配者なり────《時の支配者クロノス・ルーラー》」

 詠唱を終え、ヴィエラさんは指揮者のように杖を振る。
すると────どこからともなく、砂時計が現れた。

「シムナ、フェニックスにトドメを刺してちょうだい。作戦を開始するわ」

「りょーかーい!んじゃ、ファルコは先に下がっててー」

 今の今まで私の言いつけを守って行動していたシムナさんは、瀕死状態のフェニックスを見つめる。
足元にある両翼と右足を蹴り飛ばし、彼は一瞬でフェニックスの息の根を止めた。

「んじゃ、離脱するねー」

 ヒラヒラと手を振ってその場から離れ、シムナさんはこちらの様子を窺う。
『何するの?』とワクワクしている彼の前で、ヴィエラさんは金の砂時計を手に持った。

「時の支配者である我が命ずる の者の時間を止めたまえ」

 そう言って、ヴィエラさんは手に持つ砂時計を水平に持ち直した。
すると────今まさに生き返りを始めようとしていたフェニックスが、ピタッと動きを止める。
時間を止められたことで、あらゆる干渉を受け付けなくなったようだ。

「一先ず、作戦通り……と言ったところでしょうか?」

「ええ。と言っても、フェニックスの死亡判定に引っ掛かるかどうかは分からないけれど」

「作戦って、死亡直後のフェニックスに時間停止魔法を掛けることだったんかい。想像以上に大掛かりな作戦やなぁ」

「ねぇーねぇー!今、あの鳥を殴ったらどうなるのー?」

「今、フェニックスを殴っても何も起きませんよ。時間停止魔法であらゆる干渉を受け付けなくなっているので」

 『面白いことは何も起きない』と告げれば、シムナさんはつまらなさそうに口先を尖らせた。
そんな彼を横目に、私達は時間停止魔法に囚われたフェニックスの亡骸を観察する。

 特に異常はなし、か……。

「時間停止魔法でフェニックスを倒すことは、出来なさそうですね」

「そうみたいね。じゃあ、プランBに行きましょうか」

「プランBとかあったんや」

「ねー。僕も初めて聞いたー」

 初耳だと騒ぐ男性陣をスルーし、ヴィエラさんはプランBの準備を始める────時間停止魔法を発動したまま。

 えっ?はっ?嘘でしょ!?まさか、魔法を同時発動させるつもり!?

「永久の檻 現世うつしよから切り離された空間 永遠の罰 時の断絶 孤独な檻 封印の鐘が鳴り響く時 我はこの世の全てにお別れを告げるだろう──────《鍵のない牢獄キーレス・プリズン》」

 何食わぬ顔で封印魔法を発動し、ヴィエラさんはフェニックスの止まった時を動かした。
かと思えば、直ぐさまフェニックスの亡骸を銀色の鎖で縛り上げる。
そして、棺桶の中に押し込んだ。
不死能力を発動する隙も与えぬ素早い封印に、私とファルコさんは唖然とする。

「……す、凄すぎる……一瞬とはいえ、時間停止魔法と封印魔法を同時発動するだなんて……」

「シムナも充分化け物やったけど、ヴィエラも負けず劣らずって感じやな……」

 規格外を通り越して底が見えないヴィエラさんの実力に、私達は頬を引き攣らせた。
互いに顔を見合わせ悶々とする中、ヴィエラさんは指に髪を巻き付ける。

「あっ、死亡判定が降りたみたいよ。封印内に居る筈のフェニックスが消えたわ」

 そう言って、ヴィエラさんは発動していた封印魔法を解除する。
すると、そこにはもうフェニックスの亡骸などなかった。

 なんというか……思ったより、呆気なかったな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男達は二人きりのホールで惨めに身悶える

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

番になれないアルファ

リョウ
BL
アルファがアルファとなんて番えない。だから俺を利用してくれ。利害一致の関係は平和には続かない。どうして?なにが?俺はそろそろいらないよな。

性癖全部詰め込みましたっ

ri.k
BL
初心者なので暖かい目で見ていただけると幸いです🥰🥰

【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜

鏑木 うりこ
BL
シメジ以下と言われ死んでしまった俺は気がつくと、秋の森でほんわりしていた。  弱い毒キノコ(菌糸類)になってしまった俺は冬を越せるのか?  毒キノコ受けと言う戸惑う設定で進んで行きます。少しサイコな回もあります。 完結致しました。 物凄くゆるいです。 設定もゆるいです。 シリアスは基本的家出して帰って来ません。 キノコだけどR18です。公園でキノコを見かけたので書きました。作者は疲れていませんよ?\(^-^)/  短篇詐欺になっていたのでタグ変えました_(:3 」∠)_キノコでこんなに引っ張るとは誰が予想したでしょうか?  このお話は小説家になろう様にも投稿しております。 アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会に小話があります。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

銀色の精霊族と鬼の騎士団長

BL
 スイは義兄に狂った愛情を注がれ、屋敷に監禁される日々を送っていた。そんなスイを救い出したのが王国最強の騎士団長エリトだった。スイはエリトに溺愛されて一緒に暮らしていたが、とある理由でエリトの前から姿を消した。  それから四年。スイは遠く離れた町で結界をはる仕事をして生計を立てていたが、どうやらエリトはまだ自分を探しているらしい。なのに仕事の都合で騎士団のいる王都に異動になってしまった!見つかったら今度こそ逃げられない。全力で逃げなくては。  捕まえたい執着美形攻めと、逃げたい訳ありきれいめ受けの攻防戦。 ※流血表現あり。エリトは鬼族(吸血鬼)なので主人公の血を好みます。 ※予告なく性描写が入ります。 ※一部メイン攻め以外との性描写あり。総受け気味。 ※シリアスもありますが基本的に明るめのお話です。 ※ムーンライトノベルスにも掲載しています。

この行く先に

爺誤
BL
少しだけ不思議な力を持つリウスはサフィーマラの王家に生まれて、王位を継がないから神官になる予定で修行をしていた。しかし平和な国の隙をついて海を隔てた隣国カリッツォが急襲され陥落。かろうじて逃げ出したリウスは王子とばれないまま捕らえられてカリッツォへ連れて行かれて性奴隷にされる。数年間最初の主人のもとで奴隷として過ごしたが、その後カリッツォの王太子イーフォの奴隷となり祖国への思いを強めていく。イーフォの随行としてサフィーマラに陥落後初めて帰ったリウスはその惨状に衝撃を受けた。イーフォの元を逃げ出して民のもとへ戻るが……。 暗い展開・モブレ等に嫌悪感のある方はご遠慮ください。R18シーンに予告はありません。 ムーンライトノベルズにて完結済

処理中です...