上 下
166 / 315
第四章

第165話『イーストダンジョン攻略開始』

しおりを挟む
 満を持してイーストダンジョンに足を踏み入れた私達は、手始めに上層魔物モンスターを斬り伏せていく。
あちこちから上がる光の粒子を眺めながら、戦闘班の活躍を見守った。

 皆、凄いな。急所を的確に狙っているし、動きに無駄がない。必要以上に列から離れないところも、好感が持てる。
このまま順調に進んで行けば、予定より早く中層に行けるかもしれない。

 ────と、少し油断したところで戦闘班が取りこぼしたゴブリンを視界に移す。
どうやら、不意を突かれたようだ。
『やべっ……!』と焦る男性の声を聞き流し、私は懐から毒針を取り出す。

 まあ、戦闘中のミスなんて誰にでもあることだ。
この失敗を糧に成長してくれれば、それでいい。

 こちらへ向かってきたゴブリンに毒針を投げつけ、私はスッと目を細める。
と同時に、ゴブリンはその場に倒れた。

「す、すみません!それと、ミスをカバーしてくれてありがとうございます!」

「いえ……それより、そのゴブリンにトドメをお願いします。体を麻痺状態にしただけなので、ダメージはほとんど入っていないんです」

「分かりました!」

 剣士と思われる少年はビシッと敬礼したあと、愛用の剣で容赦なくゴブリンの心臓を貫く。
すると、ゴブリンの体は一瞬で光の粒子に変化した。
それを一瞥し、少年は急いで踵を返す。持ち場に戻るつもりなんだろう。

 さて、そろそろ────中層かな?

 第六階層へ繋がる階段を見つめ、私は気を引き締める。
魔物モンスター爆発の際、立ち寄ったウエストダンジョンからも分かる通り、ここから一気に敵の質が上がるから。

 イーストダンジョン第六階層の魔物モンスターはオピオタウロス。
上半身を雄牛、下半身を蛇で構成された魔物モンスターで体の大きさは象くらい。
とにかく凶暴で力が強く、前足で蹴られただけで骨を折ることもあるくらいだ。
隊列を崩さず、どこまで戦えるかが肝となる。

 『先に降りた人達は大丈夫かな?』と心配しつつ、私は第六階層へ続く階段を降りた。
と同時に、目を剥く。

「な、何これ……?」

 思わず口元を覆い隠し、私は目を白黒させた。
だって、目の前には────オピオタウロスに肩や足を食われている者、オピオタウロスの蹴りで早々に戦いからフェードアウトしている者、仲間が倒れていく光景をただ呆然と見つめている者が居たから……。
彼らにはもう『戦う』という概念がなく、ただただ『逃げたい』『助かりたい』『死にたくない』という気持ちを前面に出している。

 み、んな……どう、して……?このままじゃ、討伐隊が全滅しちゃ……

「────お前ら、一旦落ち着けやぁぁぁぁ!!」

 力いっぱい声を張り上げ、絶望的状況にストップを掛けたのは他の誰でもないファルコさんだった。

「お前らはここに何しに来たんや!?ただ仲間を魔物モンスターに食わせるために来たんか!?違うよな!?少なくとも、ワイは仲間と一緒にこのダンジョンを攻略するために来た!!」

「「「っ……!!」」」

「恐怖に負けるな!!仲間を見捨てるな!!お前さんらの信念はどこにある!?」

 私達の信念……それは────この胸の中にある!!

「信念を貫け!自分が正しいと思う方へ進め!武器を取れ!仲間を守れ!傷を癒せ!援護しろ!やるべき事と自分の信念を見失うなぁ!!」

 『尻込みしている暇があったら、手と頭を動かせ!』と叫ぶファルコさんに、私は見事触発される。
感情の赴くまま純白の杖を取り、先端を地面に叩きつけた。

「《パーフェクトヒール・リンク》!」

 そう呪文を唱えれば、魔力MPの抜けていく感覚と共に仲間達の傷が癒える。
白い光に包まれ元気を取り戻していく様子は、まさに圧巻だった。

「治療班の皆さんは仲間の治療に専念してください。出来れば魔力MPは温存しておきたかったんですが、こうなった以上仕方ありません。出し惜しみはなしです」

「「「分かりました!」」」

 何とか混乱状態から抜け出した治療班のメンバーは、杖や手を前に突き出した。
かと思えば、負傷したプレイヤー達に治癒魔法を掛けていく。

 とりあえず、これでもう治療班は大丈夫。
持ちうる力全てを使ってでも、仲間を助けてくれる事だろう。
問題は……戦闘班の立て直しだ。

 今、ここに居る戦闘班のほとんどが魔物モンスターの餌食になっている。
動けるのは、ファルコさんを含める数人だけ……。
上層に居る残りのメンバーが早く駆け付けてくれるのを祈るばかりだが、正直増援を待っていられるほどの余裕はない。

 魔物モンスターの餌食になっているプレイヤーに関しては、結界師の補助と治療班の治癒魔法で何とか持ち堪えている状態……。
私の毒針が効くなら、簡単に助け出せるけど……斬撃すらまともに通さない硬い皮膚が、この針を通すとは思えない。弾かれて終わる未来が見える……。

 何か……何か策はないの!?よく考えて、私……!

「っ~……!!そんな事いきなり言われても、何も思い付かないよ……!!ここにシムナさんやヴィエラさんが居れば、話は別だけど……!」

「────僕がどうかしたのー?」

 真横から聞き覚えのある声が聞こえ、私は弾かれたように顔を上げる。
すると、ニコニコと機嫌良く笑うシムナさんが目に入った。

「ヴィエラは今、ポイズンゴブリンの毒を浴びた間抜け共の治療で居ないけど、僕なら居るよー!なんかあったー?」

「し、シムナさん……!!ナイスタイミングです!!」

「えっ?そーお?」

「はい!!めちゃくちゃナイスです!!」

 私は感激のあまり、シムナさんの手を握る。
『天の助け!』と歓喜しながら、ズイッと顔を近づけた。

「シムナさん、お願いします!オピオタウロスを討伐してください!!」

「オピオタウロスー?それって、あの気持ち悪い魔物モンスターのことー?」

「はい!あの気持ち悪い魔物モンスターのことです!お願い出来ますか?」

 懇願するような目を向ければ、シムナさんは少し驚いたように目を見開く。
が、直ぐ笑顔に戻った。

「もちろん、いいよー!これは元々僕の仕事だしー!それに何より────ラミエルのお願いだからねー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男達は二人きりのホールで惨めに身悶える

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

番になれないアルファ

リョウ
BL
アルファがアルファとなんて番えない。だから俺を利用してくれ。利害一致の関係は平和には続かない。どうして?なにが?俺はそろそろいらないよな。

性癖全部詰め込みましたっ

ri.k
BL
初心者なので暖かい目で見ていただけると幸いです🥰🥰

【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜

鏑木 うりこ
BL
シメジ以下と言われ死んでしまった俺は気がつくと、秋の森でほんわりしていた。  弱い毒キノコ(菌糸類)になってしまった俺は冬を越せるのか?  毒キノコ受けと言う戸惑う設定で進んで行きます。少しサイコな回もあります。 完結致しました。 物凄くゆるいです。 設定もゆるいです。 シリアスは基本的家出して帰って来ません。 キノコだけどR18です。公園でキノコを見かけたので書きました。作者は疲れていませんよ?\(^-^)/  短篇詐欺になっていたのでタグ変えました_(:3 」∠)_キノコでこんなに引っ張るとは誰が予想したでしょうか?  このお話は小説家になろう様にも投稿しております。 アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会に小話があります。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

銀色の精霊族と鬼の騎士団長

BL
 スイは義兄に狂った愛情を注がれ、屋敷に監禁される日々を送っていた。そんなスイを救い出したのが王国最強の騎士団長エリトだった。スイはエリトに溺愛されて一緒に暮らしていたが、とある理由でエリトの前から姿を消した。  それから四年。スイは遠く離れた町で結界をはる仕事をして生計を立てていたが、どうやらエリトはまだ自分を探しているらしい。なのに仕事の都合で騎士団のいる王都に異動になってしまった!見つかったら今度こそ逃げられない。全力で逃げなくては。  捕まえたい執着美形攻めと、逃げたい訳ありきれいめ受けの攻防戦。 ※流血表現あり。エリトは鬼族(吸血鬼)なので主人公の血を好みます。 ※予告なく性描写が入ります。 ※一部メイン攻め以外との性描写あり。総受け気味。 ※シリアスもありますが基本的に明るめのお話です。 ※ムーンライトノベルスにも掲載しています。

この行く先に

爺誤
BL
少しだけ不思議な力を持つリウスはサフィーマラの王家に生まれて、王位を継がないから神官になる予定で修行をしていた。しかし平和な国の隙をついて海を隔てた隣国カリッツォが急襲され陥落。かろうじて逃げ出したリウスは王子とばれないまま捕らえられてカリッツォへ連れて行かれて性奴隷にされる。数年間最初の主人のもとで奴隷として過ごしたが、その後カリッツォの王太子イーフォの奴隷となり祖国への思いを強めていく。イーフォの随行としてサフィーマラに陥落後初めて帰ったリウスはその惨状に衝撃を受けた。イーフォの元を逃げ出して民のもとへ戻るが……。 暗い展開・モブレ等に嫌悪感のある方はご遠慮ください。R18シーンに予告はありません。 ムーンライトノベルズにて完結済

処理中です...