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第三章
第135話『体調不良』
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◇◆◇◆
「《パーフェクトヒール・リンク》」
バクバクと激しく鳴る心臓を他所に、私は虫の息同然のプレイヤー二人に治癒魔法を施した。
すると、魔力をごっそり持って行かれる感覚が痛みとなって現れる。
『っ……!』と声にならない声を上げ、何とか悲鳴を押し殺す私は額に滲んだ汗を拭った。
さっきから、治癒魔法を使う度これだ。
消費魔力に応じて痛みは変わるものの、毎回何かしらダメージを受けている。
と言っても、HPに変化はないけど。
『もし、減っていたら徳正さんに気づかれている』と思いながら、私は平静を装った。
後ろで、ゴーレムと戦う徳正さんに気づかれないよう。
「お二人共、起きてください。怪我は治しました。私達がこの場を去る前に起きないと、大変なことになりますよ」
「ん……あと十ぷ……ん!?」
「ふわぁ~……おはよ、う!?」
眠そうに目を擦って起床する彼らは、私の姿を見るなりギョッとする。
まだ頭が混乱しているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。
恐らく、現実世界と仮想世界の区別がついていないのだろう。
「お二人共、落ち着いて下さい。ここはFROのVR世界です。そして、私達は今仮想世界に閉じ込められ、ゴーレム討伐イベントに挑んでいます。大量のゴーレムと共に、中央大陸に監禁されている状況です。思い出して頂けましたか?」
「FRO……」
「ゴーレム討伐イベント……まだ悪夢は終わっていないのか」
「……はい、残念ながら」
そっと眉尻を下げる私に、彼らは答えない……ただ辛そうな表情を浮かべているだけ。
「お二人の気持ちはよく分かります。私も悪い夢なら良かったのに、と何度も思いました。でも、夢オチしてくれるほど、現実は甘くありません。だから────お互い、今やれることを精一杯やりましょう」
こんな安っぽい言葉、出会ったばかりの私に言われても説得力はないのかもしれない。
でも、この悪夢みたいな現実に立ち向かわないと私達は生き残れないんだ。
だから、きちんと現実を受け止めて……武器を取ってほしかった。
「……上級装備を所持してる貴方には分からないよ。弱小プレイヤーの私達が、この状況で生き延びるのにどれだけ苦労しているか」
「後ろでゴーレムと戦っているのは、アンタの仲間だろ?あんな強い奴に守ってもらって、羨ましいぜ。強力な用心棒が居れば、死ぬリスクを減らせるもんな」
「傷を治してもらったのは有り難いけど、高みの見物決め込んでる貴方にそんなこと言われたくない」
「安全な場所で安心して治療を行えるアンタなんかに、何を言われても響かねぇーよ」
それは……確かにそうかもしれない。
私の環境はとても恵まれているから。
狡いと非難されても、おかしくなった。
『このままだと精神衛生上よくないな、お互いに』と判断し、私は体を起こす。
と同時に、アイテムボックスからポーションを四本取り出した。
「私達は直ぐにこの場を立ち去ります。このポーションは餞別です。よく考えて、お使いください」
私は手に持ったポーションを二本ずつ彼らに渡すと、直ぐさま身を翻す。
後ろで『あ、ありがとう……』と控えめにお礼を言われたが、私は何も答えなかった。
さてと、徳正さんと合流してさっさと移動を……。
「うっ!?」
ゴーレムの首を斬り落としまくっている忍者と合流しようと一歩踏み出せば、突然心臓を握り潰されるような感覚に襲われた。
さっきよりも増した苦しさと激しい動悸に、私は思わず涙目になる。
なに、これ……?
胸が苦しくて……息が出来ない!!
ヴィエラさんはこの苦しさに耐えながら、私達の前に平然と立っていたと言うの……!?
マジックポーションの過剰摂取を完全に舐めていた私は、胸を押さえて蹲った。
呼吸困難のせいか、だんだん意識がボーッとしてくる。
「はぁはぁ……」
苦しい……痛い……気持ち悪い……。
誰か……助けてっ……!!誰かっ……!!
「────徳正さ、ん……!!」
ほぼ無意識に彼の名を呼ぶと────黒衣の忍びは慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「ラーちゃん!!どうしたの!?ラーちゃん!」
ゴーレムなんてそっちのけで私を抱き上げ、徳正さんは眉尻を下げる。
『結局、最悪の形で体調不良を明かしてしまった』と後悔していると、徳正さんは私の唇に何かを押し当てた。
「ラーちゃん、とりあえずポーションを飲んで!」
「……」
「ラーちゃん!」
懇願するような目でこちらを見つめてくる徳正さんに、私は力なく首を横に振った。
「ライフポーションは……効きま、せん……私の体調不良は……マジックポーションの……過剰摂取が……原因、だから……」
上手く回らない呂律で、私は何とか言葉を紡ぐものの……徳正さんの肩越しに見えたノーマルゴーレムを見て、ハッとする。
何故なら、奴はこちらに狙いを定めて拳を振り上げていたから。
ま、不味い……!このままじゃ、徳正さんが怪我を負ってしまう!
彼の防御力なら死ぬことはないだろうけど、もろに食らえばタダじゃ済まない!
でも、今の徳正さんは私のことしか見えてなくて……ゴーレムに気づいていない。
いや、仮に気づいていたとしても『そんなのどうでもいい』と感じている筈だ。
いつも……いつだって、彼は自分のことより私のことを優先してきたから。
徳正さん、お願いだから……逃げて!
そう言いたいのに……上手く唇を動かせない。
『こんなにも歯痒い思いはしたことがない』と考える中、ゴーレムはついに拳を振り下ろした。
その瞬間────紅蓮の炎がゴーレムを包み込む。
「間一髪と言ったところか?とりあえず、怪我はなさそうだな」
そう言って、光の粒子と化したノーマルゴーレムを満足そうに見つめるのは────『紅蓮の夜叉』のギルドマスターである、ヘスティアさんだった。
オレンジに近い赤髪を風に靡かせ、堂々と前に立つ彼女は大量のプレイヤーを引き連れている。
恐らく、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーだろう。
ヘスティアさんがどうして、ここに……?中央大陸の交通手段は全てダメになっている筈なのに……。
『田中さん達みたいに空を飛んできたとか?』と思いつつ、私はヘスティアさんの後ろへ視線を移す。
と同時に、目を剥いた。
う、嘘……海が────干上がっている!?
「《パーフェクトヒール・リンク》」
バクバクと激しく鳴る心臓を他所に、私は虫の息同然のプレイヤー二人に治癒魔法を施した。
すると、魔力をごっそり持って行かれる感覚が痛みとなって現れる。
『っ……!』と声にならない声を上げ、何とか悲鳴を押し殺す私は額に滲んだ汗を拭った。
さっきから、治癒魔法を使う度これだ。
消費魔力に応じて痛みは変わるものの、毎回何かしらダメージを受けている。
と言っても、HPに変化はないけど。
『もし、減っていたら徳正さんに気づかれている』と思いながら、私は平静を装った。
後ろで、ゴーレムと戦う徳正さんに気づかれないよう。
「お二人共、起きてください。怪我は治しました。私達がこの場を去る前に起きないと、大変なことになりますよ」
「ん……あと十ぷ……ん!?」
「ふわぁ~……おはよ、う!?」
眠そうに目を擦って起床する彼らは、私の姿を見るなりギョッとする。
まだ頭が混乱しているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。
恐らく、現実世界と仮想世界の区別がついていないのだろう。
「お二人共、落ち着いて下さい。ここはFROのVR世界です。そして、私達は今仮想世界に閉じ込められ、ゴーレム討伐イベントに挑んでいます。大量のゴーレムと共に、中央大陸に監禁されている状況です。思い出して頂けましたか?」
「FRO……」
「ゴーレム討伐イベント……まだ悪夢は終わっていないのか」
「……はい、残念ながら」
そっと眉尻を下げる私に、彼らは答えない……ただ辛そうな表情を浮かべているだけ。
「お二人の気持ちはよく分かります。私も悪い夢なら良かったのに、と何度も思いました。でも、夢オチしてくれるほど、現実は甘くありません。だから────お互い、今やれることを精一杯やりましょう」
こんな安っぽい言葉、出会ったばかりの私に言われても説得力はないのかもしれない。
でも、この悪夢みたいな現実に立ち向かわないと私達は生き残れないんだ。
だから、きちんと現実を受け止めて……武器を取ってほしかった。
「……上級装備を所持してる貴方には分からないよ。弱小プレイヤーの私達が、この状況で生き延びるのにどれだけ苦労しているか」
「後ろでゴーレムと戦っているのは、アンタの仲間だろ?あんな強い奴に守ってもらって、羨ましいぜ。強力な用心棒が居れば、死ぬリスクを減らせるもんな」
「傷を治してもらったのは有り難いけど、高みの見物決め込んでる貴方にそんなこと言われたくない」
「安全な場所で安心して治療を行えるアンタなんかに、何を言われても響かねぇーよ」
それは……確かにそうかもしれない。
私の環境はとても恵まれているから。
狡いと非難されても、おかしくなった。
『このままだと精神衛生上よくないな、お互いに』と判断し、私は体を起こす。
と同時に、アイテムボックスからポーションを四本取り出した。
「私達は直ぐにこの場を立ち去ります。このポーションは餞別です。よく考えて、お使いください」
私は手に持ったポーションを二本ずつ彼らに渡すと、直ぐさま身を翻す。
後ろで『あ、ありがとう……』と控えめにお礼を言われたが、私は何も答えなかった。
さてと、徳正さんと合流してさっさと移動を……。
「うっ!?」
ゴーレムの首を斬り落としまくっている忍者と合流しようと一歩踏み出せば、突然心臓を握り潰されるような感覚に襲われた。
さっきよりも増した苦しさと激しい動悸に、私は思わず涙目になる。
なに、これ……?
胸が苦しくて……息が出来ない!!
ヴィエラさんはこの苦しさに耐えながら、私達の前に平然と立っていたと言うの……!?
マジックポーションの過剰摂取を完全に舐めていた私は、胸を押さえて蹲った。
呼吸困難のせいか、だんだん意識がボーッとしてくる。
「はぁはぁ……」
苦しい……痛い……気持ち悪い……。
誰か……助けてっ……!!誰かっ……!!
「────徳正さ、ん……!!」
ほぼ無意識に彼の名を呼ぶと────黒衣の忍びは慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「ラーちゃん!!どうしたの!?ラーちゃん!」
ゴーレムなんてそっちのけで私を抱き上げ、徳正さんは眉尻を下げる。
『結局、最悪の形で体調不良を明かしてしまった』と後悔していると、徳正さんは私の唇に何かを押し当てた。
「ラーちゃん、とりあえずポーションを飲んで!」
「……」
「ラーちゃん!」
懇願するような目でこちらを見つめてくる徳正さんに、私は力なく首を横に振った。
「ライフポーションは……効きま、せん……私の体調不良は……マジックポーションの……過剰摂取が……原因、だから……」
上手く回らない呂律で、私は何とか言葉を紡ぐものの……徳正さんの肩越しに見えたノーマルゴーレムを見て、ハッとする。
何故なら、奴はこちらに狙いを定めて拳を振り上げていたから。
ま、不味い……!このままじゃ、徳正さんが怪我を負ってしまう!
彼の防御力なら死ぬことはないだろうけど、もろに食らえばタダじゃ済まない!
でも、今の徳正さんは私のことしか見えてなくて……ゴーレムに気づいていない。
いや、仮に気づいていたとしても『そんなのどうでもいい』と感じている筈だ。
いつも……いつだって、彼は自分のことより私のことを優先してきたから。
徳正さん、お願いだから……逃げて!
そう言いたいのに……上手く唇を動かせない。
『こんなにも歯痒い思いはしたことがない』と考える中、ゴーレムはついに拳を振り下ろした。
その瞬間────紅蓮の炎がゴーレムを包み込む。
「間一髪と言ったところか?とりあえず、怪我はなさそうだな」
そう言って、光の粒子と化したノーマルゴーレムを満足そうに見つめるのは────『紅蓮の夜叉』のギルドマスターである、ヘスティアさんだった。
オレンジに近い赤髪を風に靡かせ、堂々と前に立つ彼女は大量のプレイヤーを引き連れている。
恐らく、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーだろう。
ヘスティアさんがどうして、ここに……?中央大陸の交通手段は全てダメになっている筈なのに……。
『田中さん達みたいに空を飛んできたとか?』と思いつつ、私はヘスティアさんの後ろへ視線を移す。
と同時に、目を剥いた。
う、嘘……海が────干上がっている!?
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