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第三章
第126話『治療と地獄絵図』
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「では、これより中央大陸に閉じ込められたプレイヤーの治療を始めます。負傷者の捜索を始めてください」
その言葉を合図に、レオンさんとリアムさんは一気にスピードを上げた。
右へ左へ視線をさまよわせ、負傷者……というか、プレイヤーを発見するなり駆け寄る。
というのも、遭遇したプレイヤーのほとんどが怪我を負っていたから。
『これは思ったより悪い状況かも……』と顎に手を当て、考え込む。
その間も、レオンさんとリアムさんはずっと周辺を捜索していた。
「あっ、あそこのパーティー全員怪我しているね。回復役の神官は気絶しているみたいだよ☆」
「あっちには壊滅寸前のパーティーが居るぜ?五人中四人が気を失ってやがる。唯一意識があるプレイヤーも死にかけだし、あれは数分もすれば壊滅するな」
それぞれ右と左を指さすリアムさんとレオンさんに、私は目を剥く。
だって、さっきの治療からまだ二分も経っていないから。
『明らかにペースが早すぎる……』と思案しつつ、私は顔を上げた。
「リアムさんは右方向のパーティーに、ポーションの配布を行ってください。ついでに保護も。レオンさんは私と一緒に、壊滅寸前のパーティーの元へ向かいましょう。私が治療を終えるまで、ゴーレムの牽制と討伐をお願いします」
「「了解(したよ☆)」」
間髪容れずに頷いた二人は私をまるで荷物のように受け渡し、散開する。
正直、『なんだ?この扱いは……』と思うものの……現状を考えると、何も言えなかった。
それにしても、想像以上の地獄絵図っぷりだな。
イベント一日目の白虎の街も酷かったけど、今の状況とは比べ物にもならない……。
『こっちは退路も作れないからね』と肩を落とす中、レオンさんは不意を足を止める。
「着いたぞ!」
そう言って私をそっと地面に下ろすと、レオンさんは直ぐさまナイフを構えた。
その直後、キンッと硬いものがぶつかり合う音が聞こえる。
どうやら、ゴーレムと一戦交えているらしい。
レオンさんは序盤の方で体力を使い果たしている。
出来るだけ、早く治療を終えなきゃ。
私は目の前で倒れている四人のプレイヤーと、武器を構えたまま気絶している一人のプレイヤーに杖を翳した。
「《パーフェクトヒール・リンク》」
普段は絶対使わない範囲治癒を施し、私はクッと眉間に皺を寄せる。
これは魔力の消費が馬鹿にならないから。
でも、スピードを重視しなければならない状況を考えると、これが最善だった。
「とりあえず、この子達を起こさないと……」
私達の保護やサポートはあくまで一時的なもの。
治療が終われば、用はない……というか、治療後の面倒まで見れないのだ。
そんなことをしていたらキリがない上、私達にも危険が及ぶから。
申し訳ないけど、自分達の力で頑張ってもらうしかない。
私は立ったまま気絶しているプレイヤーに手を伸ばし、軽く頬を叩く。
「起きてください。そのまま眠り続ければ、貴方も貴方のお仲間も死んでしまいますよ。せっかく完治したのに、いいんですか?」
「ん……」
ここ最近きちんと休めていないのか、相手はなかなか目を開けない。
「こうなったら、仕方ない……グーで行きます」
一向に起きる気配がない相手に痺れを切らし、私は手を握り締めた。
と同時に、相手の頬を殴りつける。
「ん……んごっ!?な、なんだ!?」
ようやく眠りから覚めたプレイヤーは、困惑気味に辺りを見回した。
「な、何がどうなってるんだ……?目覚めたら怪我は治っているし、変な女に殴られるし……」
「はぁ……私が貴方達の怪我を治療したんですよ。ほら、お仲間さんの怪我も治っているでしょう?」
「仲間……?あっ!そうだ!あいつらは……!」
仲間の存在を完全に忘れていたらしい男性は、ハッとしたように足元を見つめる。
すると、そこには必死で守った仲間達の姿が。
「貴方が仲間を見捨てず、守り通したから今彼らは生きているんです。貴方はまさに英雄ですよ」
「……それを言うなら、アンタだってそうだろ。アンタが危険を冒してまで、俺達の治療に当たってくれなかったら俺達のパーティーは壊滅していた。礼を言う────本当にありがとう」
照れ臭そうに頬を掻きながらも、男性はしっかりと感謝の意を表した。
素直で優しい人柄が垣間見える彼の態度に、私は頬を緩める。
『治して良かったな』と心底思いながら。
「さあ、のんびりしている暇はありませんよ。私は次の患者の元へ行かないといけませんから。さっさと仲間達を起こして、体制を立て直してください」
その言葉を合図に、レオンさんとリアムさんは一気にスピードを上げた。
右へ左へ視線をさまよわせ、負傷者……というか、プレイヤーを発見するなり駆け寄る。
というのも、遭遇したプレイヤーのほとんどが怪我を負っていたから。
『これは思ったより悪い状況かも……』と顎に手を当て、考え込む。
その間も、レオンさんとリアムさんはずっと周辺を捜索していた。
「あっ、あそこのパーティー全員怪我しているね。回復役の神官は気絶しているみたいだよ☆」
「あっちには壊滅寸前のパーティーが居るぜ?五人中四人が気を失ってやがる。唯一意識があるプレイヤーも死にかけだし、あれは数分もすれば壊滅するな」
それぞれ右と左を指さすリアムさんとレオンさんに、私は目を剥く。
だって、さっきの治療からまだ二分も経っていないから。
『明らかにペースが早すぎる……』と思案しつつ、私は顔を上げた。
「リアムさんは右方向のパーティーに、ポーションの配布を行ってください。ついでに保護も。レオンさんは私と一緒に、壊滅寸前のパーティーの元へ向かいましょう。私が治療を終えるまで、ゴーレムの牽制と討伐をお願いします」
「「了解(したよ☆)」」
間髪容れずに頷いた二人は私をまるで荷物のように受け渡し、散開する。
正直、『なんだ?この扱いは……』と思うものの……現状を考えると、何も言えなかった。
それにしても、想像以上の地獄絵図っぷりだな。
イベント一日目の白虎の街も酷かったけど、今の状況とは比べ物にもならない……。
『こっちは退路も作れないからね』と肩を落とす中、レオンさんは不意を足を止める。
「着いたぞ!」
そう言って私をそっと地面に下ろすと、レオンさんは直ぐさまナイフを構えた。
その直後、キンッと硬いものがぶつかり合う音が聞こえる。
どうやら、ゴーレムと一戦交えているらしい。
レオンさんは序盤の方で体力を使い果たしている。
出来るだけ、早く治療を終えなきゃ。
私は目の前で倒れている四人のプレイヤーと、武器を構えたまま気絶している一人のプレイヤーに杖を翳した。
「《パーフェクトヒール・リンク》」
普段は絶対使わない範囲治癒を施し、私はクッと眉間に皺を寄せる。
これは魔力の消費が馬鹿にならないから。
でも、スピードを重視しなければならない状況を考えると、これが最善だった。
「とりあえず、この子達を起こさないと……」
私達の保護やサポートはあくまで一時的なもの。
治療が終われば、用はない……というか、治療後の面倒まで見れないのだ。
そんなことをしていたらキリがない上、私達にも危険が及ぶから。
申し訳ないけど、自分達の力で頑張ってもらうしかない。
私は立ったまま気絶しているプレイヤーに手を伸ばし、軽く頬を叩く。
「起きてください。そのまま眠り続ければ、貴方も貴方のお仲間も死んでしまいますよ。せっかく完治したのに、いいんですか?」
「ん……」
ここ最近きちんと休めていないのか、相手はなかなか目を開けない。
「こうなったら、仕方ない……グーで行きます」
一向に起きる気配がない相手に痺れを切らし、私は手を握り締めた。
と同時に、相手の頬を殴りつける。
「ん……んごっ!?な、なんだ!?」
ようやく眠りから覚めたプレイヤーは、困惑気味に辺りを見回した。
「な、何がどうなってるんだ……?目覚めたら怪我は治っているし、変な女に殴られるし……」
「はぁ……私が貴方達の怪我を治療したんですよ。ほら、お仲間さんの怪我も治っているでしょう?」
「仲間……?あっ!そうだ!あいつらは……!」
仲間の存在を完全に忘れていたらしい男性は、ハッとしたように足元を見つめる。
すると、そこには必死で守った仲間達の姿が。
「貴方が仲間を見捨てず、守り通したから今彼らは生きているんです。貴方はまさに英雄ですよ」
「……それを言うなら、アンタだってそうだろ。アンタが危険を冒してまで、俺達の治療に当たってくれなかったら俺達のパーティーは壊滅していた。礼を言う────本当にありがとう」
照れ臭そうに頬を掻きながらも、男性はしっかりと感謝の意を表した。
素直で優しい人柄が垣間見える彼の態度に、私は頬を緩める。
『治して良かったな』と心底思いながら。
「さあ、のんびりしている暇はありませんよ。私は次の患者の元へ行かないといけませんから。さっさと仲間達を起こして、体制を立て直してください」
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