上 下
101 / 315
第三章

第100話『リアムさんの類い稀な才能』

しおりを挟む
「それでは、これよりファイアゴーレム二体の討伐に移ります。各々与えられた役割を全うしてください────散開」

 討伐開始の合図を出すと、徳正さんは『ピィ━━━!』とグリュプスの笛を吹いた。
そして、シムナさんやラルカさんと共に顕現したグリフォンの背中へ乗ると、直ぐさま飛び立つ。
私たち後方支援組はそんな彼らの背中を見送り、各々サポートの準備に入っていた。
アイテムボックスから純白の杖を取り出しながら、私はじわじわと距離を詰めてくる火の海から距離を取る。

 とりあえず徳正さんと通話を繋いでおいたから、何かあったら直ぐに教えてくれるだろう。

 ゲーム内ディスプレイに表示された通話マークを見やり、私は一旦マイクをオフにした。
こちらの会話や雑音が入ると、徳正さんの気が散ると思って。

「リアムさん、準備は出来ましたか?」

「ああ。合図さえあれば、いつでも行けるよ」

 黒の革手袋をした白髪アシメの美男子は左手に弓を、右手に弓矢を持った状態でニッコリ微笑む。
待ち切れないといった様子で弓矢をクルクル回す彼に、私は『了解です』と頷いた。

 今回使用する弓矢は熱帯性を付与されたもので、一応私から強化魔法も掛けてある。
なので、焼き切ることはない……と思いたいが、こればっかりはやってみないと分からなかった。

 『まあ、上手くいくことを願いましょう』と自分に言い聞かせ、私は顔を上げた。
すると、ファイアゴーレムの周囲を優雅に飛ぶグリフォンが目に入る。
『あれだけ近づければ、上出来』と頬を緩め、私はマイクをオンにした。

「あ、あ……徳正さん、聞こえてますか?」

「聞こえているよ~ん。このタイミングでマイクをオンにしたってことは、もうそろそろ始める感じ~?」

「はい、その通りです。まずは弓矢での攻撃を始めていいですか?」

「全然いいよ~。始めちゃって~」

 『小手調べがしたい』と申し出る私に、徳正さんは二つ返事でOKした。
私は『ありがとうございます』とだけ言って、マイクをオフにする。

「リアムさん、準備が出来次第攻撃を始めてください。どちらを最初に狙うかは、リアムさんにお任せします」

「おお!!ついに僕の出番だね!任せておくれ。必ず君の望む結果を出すと約束しよう!」

 自信満々に断言したリアムさんは、優雅な所作で弓を構えた。
と同時に、真剣な表情へ変わる。
力いっぱい弓を引き、狙いを定めると────一思いに弓矢を放した。
ヒュンッと風を切るような音と共に飛んでいく弓矢は、一切スピードを殺すことなくファイアゴーレムへ近づいていく。
『おお!これは!』と感嘆する私を他所に、弓矢は突然────真横・・に曲がった。
普通では考えられない動きに、私はもちろん……同じギルドメンバーのレオンさんまで驚いている。大きく口を開けながら。

 『弓矢の遠隔操作リモートコントロールだって、出来る』とは言っていたけど、まさかここまでとは……。
本職である弓使いアーチャーですら、自分の手から離れた弓矢をここまで正確に操ることは出来ないのに。
完全に使いこなしているな。

 本来なら軌道を整える程度のことしか出来ない能力を前に、私は小さく息を吐いた。
リアムさんの類い稀な才能を垣間見た気がして。
『どんな能力も極めれば、立派な刃になるって訳か』と感心する中、弓矢はファイアゴーレムの目の前に躍り出る。
そして、燃えないよう一定の距離を保ちながらクルクルと回った。
まるで、ファイアゴーレムを挑発するかのように。

 なるほど……なかなかやるな、リアムさん。
今回の目的はあくまでファイアゴーレムの注意を引きつけることだから、攻撃する必要はない。

 『これなら、弓矢も節約出来るし』と考え、私は頬を緩めた。
────と、ここでファイアゴーレムは弓矢へゆっくり手を伸ばす。
その様子は蝶々を捕まえようとする子供に似ていた。

 よし!上手く気を引けた!あとはこのまま、上手く誘導出来れば……!!

 密かにガッツポーズする私は、ファイアゴーレムの手をすり抜けた弓矢に称賛を送る。
『ナイス!その調子!』と内心盛り上がっていると、

「────おい、お前ら!仕事に集中するのはいいが、火の海をもっと警戒しろ!」

 と言って、レオンさんが私達を小脇に担いだ。
と同時に、駆け出す。

 あっ、よく見たら火の海がすぐそこに……危なかった。

 『レオンさんが居なかったら焼死していたかも……』と本気で危機感を抱き、私は反省した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し
ファンタジー
 16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。  だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。  そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

処理中です...