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第三章
第75話『前衛メンバー捕獲完了』
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その後、デーリアさん率いる後衛メンバーの治療をちゃちゃっと済ませ、小休止を挟んでいると……気絶したプレイヤー四人を引きずって歩いてくるシムナさんの姿が、目に入った。
あっ、シムナさんが珍しく疲れている。衣服もところどころ破れたり、焦げたりしてるし。
HPだって、ほんの少しだけ減っていた。
普段のシムナさんなら、こんなことないのに……。
“手加減”が大の苦手なシムナさんにやっぱり、今回の役割は難しかったか。
化け物並みの強さを持つシムナさんからすれば、死にかけているプレイヤーの捕獲より、ゴーレムの討伐の方が楽そうだもんね。
『はぁ……』と大きく息を吐く青髪の美少年に、私は苦笑を漏らす。
「お疲れ様です、シムナさん」
「ラミエルー……僕、もう疲れたー……」
「シムナ、お疲れ~。ちょこちょこ様子見てたけど、大変そうだったね~」
「そうなんだよー!こいつらってばさ、何を言っても耳を貸さないし、弱いくせにゴーレムに突っ込んで行くし、もう散々なのー!本当、身の程を弁えろって感じー!」
猪突猛進と揶揄すべき前衛メンバーの行動に、シムナさんは堪らず愚痴を零した。
かと思えば、四人のプレイヤーから無造作に手を離す。
おかげで、彼らの体はパタッと地面に転がった。
倒れた時の衝撃でダメージを受けるのでは!?と一瞬ヒヤッとしたが、さすがにそこまで彼らの防御力は落ちていなかったらしい。
二名ほど頭を強打していたが、なんともなさそうだ。
とりあえず、治療を始めようか。さっさと全回復させないと、危ないし。
徳正さんとシムナさんが居るとはいえ、ここはあくまでも戦場だからね。
私はアイテムボックスから純白の杖を取り出し、ソレを右手で握った。
と同時に、四人のプレイヤーの前で片膝をつく。
予想はしていたけど、かなり酷いな……何でこれだけの怪我を負っていながら、動けたんだか。
「《パーフェクトヒール》」
私は一番手前に居る黒髪のプレイヤーに杖を翳すと、最上級の治癒魔法を施した。
すると、彼の傷は見る見るうちに塞がっていき、そのうち消える。
まるで、幻のように。
ふぅ……結構、MPを持って行かれちゃったな。
何となく分かっていたけど、前衛に出ていたメンバーはわりとレベル高いみたい。
まあ、そうじゃなきゃゴーレムと戦うなんて不可能だけど……。
ごっそり持っていかれたMPを前に、私は頬を引き攣らせる。
「これは……マジックポーション一本飲まないと、四人全員の全回復は無理っぽい……」
独り言のようにそう呟き、私はアイテムボックスから小瓶を一つ取り出した。
これはアラクネさん作のマジックポーションである。
市販のものと効果はあまり変わらないが、ジュース感覚で飲めるよう味を改良したものだ。ちなみにこれはぶどう味。
予定より、早くマジックポーションを飲むことになってしまった……本当は今日の夜あたりに飲む予定だったんだけどな。
「別に全回復させなくても、いいんじゃない~?一回ずつ『ハイヒール』でもしとけば、十分でしょ~」
「いやいや!『ハイヒール』と言わず、普通の『ヒール』一回ずつでいいんじゃなーい?」
「ラミエルさん、お二人の言う通り全回復までして頂かなくて結構です。移動出来る程度まで回復して頂ければ、私達はそれで……」
『全回復はさすがに申し訳ない』と述べる彼女は、恐縮し切った様子で眉尻を下げた。
そんな彼女を前に、私は小さく首を横に振る。
あのね、皆……私も最初はそう考えたんだよ?でもさ、
「素であの無茶苦茶な戦いを繰り広げた、この四人が────また『戦わない』と言い切れますか?」
「「「……」」」
的を射た私の質問に、誰もが固く口を閉ざした。
どこか呆れたような表情で気絶する四人のプレイヤーを見下ろし、額に手を当てる。
レオンさんのように狂戦士化したせいで無茶をしたなら、まだいい。
今後は狂戦士化などせず、イベント終了までじっとしていればいいだけの話だから。
でも、彼らはそうじゃない。
多少理性がぶっ飛んでいたところはあっただろうが、確かに自分の意思で戦いを繰り広げていた。それが問題なのだ。
どんなにHPが削れようとも決して引き下がらなかった彼らの性格を考えるに、ゴーレムと遭遇すれば迷わず戦闘に走るだろう。
だから、私は『全回復』を選んだ。
中途半端な回復は、彼らの死を加速する危険材料になり兼ねないから……。
前衛メンバーの四人を完全に戦闘狂として認識している私の前で、三人は互いに顔を合わせる。
と同時に、頷き合い……こちらへ向き直った。
「「「「絶対、全回復させた方がいいと思う(いいと思います)」」」」
あっ、シムナさんが珍しく疲れている。衣服もところどころ破れたり、焦げたりしてるし。
HPだって、ほんの少しだけ減っていた。
普段のシムナさんなら、こんなことないのに……。
“手加減”が大の苦手なシムナさんにやっぱり、今回の役割は難しかったか。
化け物並みの強さを持つシムナさんからすれば、死にかけているプレイヤーの捕獲より、ゴーレムの討伐の方が楽そうだもんね。
『はぁ……』と大きく息を吐く青髪の美少年に、私は苦笑を漏らす。
「お疲れ様です、シムナさん」
「ラミエルー……僕、もう疲れたー……」
「シムナ、お疲れ~。ちょこちょこ様子見てたけど、大変そうだったね~」
「そうなんだよー!こいつらってばさ、何を言っても耳を貸さないし、弱いくせにゴーレムに突っ込んで行くし、もう散々なのー!本当、身の程を弁えろって感じー!」
猪突猛進と揶揄すべき前衛メンバーの行動に、シムナさんは堪らず愚痴を零した。
かと思えば、四人のプレイヤーから無造作に手を離す。
おかげで、彼らの体はパタッと地面に転がった。
倒れた時の衝撃でダメージを受けるのでは!?と一瞬ヒヤッとしたが、さすがにそこまで彼らの防御力は落ちていなかったらしい。
二名ほど頭を強打していたが、なんともなさそうだ。
とりあえず、治療を始めようか。さっさと全回復させないと、危ないし。
徳正さんとシムナさんが居るとはいえ、ここはあくまでも戦場だからね。
私はアイテムボックスから純白の杖を取り出し、ソレを右手で握った。
と同時に、四人のプレイヤーの前で片膝をつく。
予想はしていたけど、かなり酷いな……何でこれだけの怪我を負っていながら、動けたんだか。
「《パーフェクトヒール》」
私は一番手前に居る黒髪のプレイヤーに杖を翳すと、最上級の治癒魔法を施した。
すると、彼の傷は見る見るうちに塞がっていき、そのうち消える。
まるで、幻のように。
ふぅ……結構、MPを持って行かれちゃったな。
何となく分かっていたけど、前衛に出ていたメンバーはわりとレベル高いみたい。
まあ、そうじゃなきゃゴーレムと戦うなんて不可能だけど……。
ごっそり持っていかれたMPを前に、私は頬を引き攣らせる。
「これは……マジックポーション一本飲まないと、四人全員の全回復は無理っぽい……」
独り言のようにそう呟き、私はアイテムボックスから小瓶を一つ取り出した。
これはアラクネさん作のマジックポーションである。
市販のものと効果はあまり変わらないが、ジュース感覚で飲めるよう味を改良したものだ。ちなみにこれはぶどう味。
予定より、早くマジックポーションを飲むことになってしまった……本当は今日の夜あたりに飲む予定だったんだけどな。
「別に全回復させなくても、いいんじゃない~?一回ずつ『ハイヒール』でもしとけば、十分でしょ~」
「いやいや!『ハイヒール』と言わず、普通の『ヒール』一回ずつでいいんじゃなーい?」
「ラミエルさん、お二人の言う通り全回復までして頂かなくて結構です。移動出来る程度まで回復して頂ければ、私達はそれで……」
『全回復はさすがに申し訳ない』と述べる彼女は、恐縮し切った様子で眉尻を下げた。
そんな彼女を前に、私は小さく首を横に振る。
あのね、皆……私も最初はそう考えたんだよ?でもさ、
「素であの無茶苦茶な戦いを繰り広げた、この四人が────また『戦わない』と言い切れますか?」
「「「……」」」
的を射た私の質問に、誰もが固く口を閉ざした。
どこか呆れたような表情で気絶する四人のプレイヤーを見下ろし、額に手を当てる。
レオンさんのように狂戦士化したせいで無茶をしたなら、まだいい。
今後は狂戦士化などせず、イベント終了までじっとしていればいいだけの話だから。
でも、彼らはそうじゃない。
多少理性がぶっ飛んでいたところはあっただろうが、確かに自分の意思で戦いを繰り広げていた。それが問題なのだ。
どんなにHPが削れようとも決して引き下がらなかった彼らの性格を考えるに、ゴーレムと遭遇すれば迷わず戦闘に走るだろう。
だから、私は『全回復』を選んだ。
中途半端な回復は、彼らの死を加速する危険材料になり兼ねないから……。
前衛メンバーの四人を完全に戦闘狂として認識している私の前で、三人は互いに顔を合わせる。
と同時に、頷き合い……こちらへ向き直った。
「「「「絶対、全回復させた方がいいと思う(いいと思います)」」」」
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