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第三章
第65話『治療対象』
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「そういえば、シムナさんはどうしたんです?」
「シムナなら、サンダーゴーレムの相手してるよ~?ほら、あそこ~」
そう言って、徳正さんは街の東方面を指さした。
促されるままそちらへ視線を向けると、ビリビリとした静電気を身に纏う巨大ゴーレムを発見する。
不自然に発光していることを除けば、見た目は普通のゴーレムと変わらなかっ。
あれがサンダーゴーレム……ラルカさんに落雷魔法を落とした犯人。
いや、正確にはラルカさん自ら当たりに行ったんだけど。
『これぞ、当たり屋』などとボヤきながら、私は避雷針をブンブン振り回すラルカさんへ視線を向ける。
と同時に、ハッとした。
自分の役割を思い出して。
こうしている場合じゃない!
「ラルカさん、早くプレイヤーの避難誘導と救出を行いましょう」
『ハッ……!!すっかり忘れていた』
「恥ずかしながら、私もです……とりあえず中央広場付近に取り残されたプレイヤーに、西口へ向かうよう指示を出してください。怪我をしているプレイヤーについては、動けるならそのままで。動けないほどの重傷を負ったプレイヤーのみ、私が治療します」
『承知した』
ラルカさんは直ぐさま首を縦に振ると、避雷針片手に駆け出した。
その背中は直ぐに小さくなる。
いや、あの……せめて、避雷針は仕舞ったらどう?
街中に取り残されたプレイヤー達に警戒されると思うけど。
「ラーちゃん、俺っちも手伝うよ~」
「それは有り難い申し出ですが、ゴーレムの討伐は……」
「今、シムナが相手してるサンダーゴーレムで最後だから大丈夫だよ~。直ぐにシムナも合流出来るだろうし~」
えっ!?この短時間で街中に居たゴーレムを全部倒したの!?
正確な数は分からないけど、少なくとも四体は居たよね!?
『徳正さんもシムナさんも凄すぎ……!』と驚愕し、私は目眩を覚えた。
が、直ぐに正常へ戻る。
「分かりました。では、お手伝いをお願いします。先程ラルカさんにも言いましたが、怪我人であっても動けるなら避難誘導を優先してください。治療は動けないほど、重傷を負ったプレイヤーのみにします」
今回は怪我人の治療よりも、避難誘導を優先したい。
ゴーレムの討伐が終わっても街中は瓦礫で埋もれていて、危険だから。
それに何より────怪我人全員を治療して回れるほど、私達は暇じゃない。
私達の目的はあくまでゴーレムの討伐。
別に他のプレイヤーの命を軽く見ている訳じゃないが、優先順位はあくまで二番目。
だって、動ける程度の怪我ならライフポーションで事足りるだろうから。
いちいち治癒魔法を掛けていたら、私の魔力が尽きてしまう。
マジックポーションを使えば魔力は回復出来るものの、それにだって限界はある。
というのも、マジックポーションには限界量が存在するため。
これは個人差のあるもので人によって違うが、大体みんな一日三・四本が限界。
それ以上飲むと、吐き気や倦怠感を覚えるようになる。
そして、コレの厄介なところはライフポーションや治癒魔法で治せないこと。
最低でも、数時間この症状に苦しむことになる。
場合によっては寝込むこともあるため、絶対に無理出来なかった。
私は回復の要であり、命を守る最後の砦。
重傷患者が現れた時、マジックポーションの過剰摂取により寝込んでいます、では困る。
まあ、本当は重傷・軽傷関係なく皆を癒したいんだけどね……。
でも、今の私の力では不可能。
己の力不足に歯痒さを覚えながら、私は隣に立つ黒衣の忍びを見上げる。
すると、徳正さんは困ったように笑った。
「ラーちゃんはいつも、最善の選択をしてるよ。頑張っているのも分かってる。だから、そんな顔しないで。ねっ?」
ポンポンと私の頭を撫で、徳正さんは子供を諭すような口調で話し掛けてきた。
慈愛に満ちたセレンディバイトの瞳を前に、私は少しだけ救われたような気分になる。
「徳正さんって、私のことを慰めるのがお上手ですよね」
「ふふっ。そう~?」
「はい、憎たらしいほどに」
「えへへ~。ラーちゃんに褒められちゃった~!俺っち、今日はいい夢見れそう~」
「まず、寝る時間があるかどうか分かりませんよ。ゴーレムの討伐に伴い、睡眠時間を削る可能性がありますから」
「えっ!?嘘っ!?せっかく、いい夢見れると思ったのに~」
徳正さんはいじけたように口先を尖らせるものの、文句を言うことはなかった。
そういう聞き分けのいいところは、実に彼らしい。
『たまに凄く頑固になるけど』と肩を竦める中、ラルカさんが戻ってくる。
怪我人と避雷針を手にした状態で。
あの、ラルカさん……本当にそろそろ、避雷針を仕舞いましょ?
「シムナなら、サンダーゴーレムの相手してるよ~?ほら、あそこ~」
そう言って、徳正さんは街の東方面を指さした。
促されるままそちらへ視線を向けると、ビリビリとした静電気を身に纏う巨大ゴーレムを発見する。
不自然に発光していることを除けば、見た目は普通のゴーレムと変わらなかっ。
あれがサンダーゴーレム……ラルカさんに落雷魔法を落とした犯人。
いや、正確にはラルカさん自ら当たりに行ったんだけど。
『これぞ、当たり屋』などとボヤきながら、私は避雷針をブンブン振り回すラルカさんへ視線を向ける。
と同時に、ハッとした。
自分の役割を思い出して。
こうしている場合じゃない!
「ラルカさん、早くプレイヤーの避難誘導と救出を行いましょう」
『ハッ……!!すっかり忘れていた』
「恥ずかしながら、私もです……とりあえず中央広場付近に取り残されたプレイヤーに、西口へ向かうよう指示を出してください。怪我をしているプレイヤーについては、動けるならそのままで。動けないほどの重傷を負ったプレイヤーのみ、私が治療します」
『承知した』
ラルカさんは直ぐさま首を縦に振ると、避雷針片手に駆け出した。
その背中は直ぐに小さくなる。
いや、あの……せめて、避雷針は仕舞ったらどう?
街中に取り残されたプレイヤー達に警戒されると思うけど。
「ラーちゃん、俺っちも手伝うよ~」
「それは有り難い申し出ですが、ゴーレムの討伐は……」
「今、シムナが相手してるサンダーゴーレムで最後だから大丈夫だよ~。直ぐにシムナも合流出来るだろうし~」
えっ!?この短時間で街中に居たゴーレムを全部倒したの!?
正確な数は分からないけど、少なくとも四体は居たよね!?
『徳正さんもシムナさんも凄すぎ……!』と驚愕し、私は目眩を覚えた。
が、直ぐに正常へ戻る。
「分かりました。では、お手伝いをお願いします。先程ラルカさんにも言いましたが、怪我人であっても動けるなら避難誘導を優先してください。治療は動けないほど、重傷を負ったプレイヤーのみにします」
今回は怪我人の治療よりも、避難誘導を優先したい。
ゴーレムの討伐が終わっても街中は瓦礫で埋もれていて、危険だから。
それに何より────怪我人全員を治療して回れるほど、私達は暇じゃない。
私達の目的はあくまでゴーレムの討伐。
別に他のプレイヤーの命を軽く見ている訳じゃないが、優先順位はあくまで二番目。
だって、動ける程度の怪我ならライフポーションで事足りるだろうから。
いちいち治癒魔法を掛けていたら、私の魔力が尽きてしまう。
マジックポーションを使えば魔力は回復出来るものの、それにだって限界はある。
というのも、マジックポーションには限界量が存在するため。
これは個人差のあるもので人によって違うが、大体みんな一日三・四本が限界。
それ以上飲むと、吐き気や倦怠感を覚えるようになる。
そして、コレの厄介なところはライフポーションや治癒魔法で治せないこと。
最低でも、数時間この症状に苦しむことになる。
場合によっては寝込むこともあるため、絶対に無理出来なかった。
私は回復の要であり、命を守る最後の砦。
重傷患者が現れた時、マジックポーションの過剰摂取により寝込んでいます、では困る。
まあ、本当は重傷・軽傷関係なく皆を癒したいんだけどね……。
でも、今の私の力では不可能。
己の力不足に歯痒さを覚えながら、私は隣に立つ黒衣の忍びを見上げる。
すると、徳正さんは困ったように笑った。
「ラーちゃんはいつも、最善の選択をしてるよ。頑張っているのも分かってる。だから、そんな顔しないで。ねっ?」
ポンポンと私の頭を撫で、徳正さんは子供を諭すような口調で話し掛けてきた。
慈愛に満ちたセレンディバイトの瞳を前に、私は少しだけ救われたような気分になる。
「徳正さんって、私のことを慰めるのがお上手ですよね」
「ふふっ。そう~?」
「はい、憎たらしいほどに」
「えへへ~。ラーちゃんに褒められちゃった~!俺っち、今日はいい夢見れそう~」
「まず、寝る時間があるかどうか分かりませんよ。ゴーレムの討伐に伴い、睡眠時間を削る可能性がありますから」
「えっ!?嘘っ!?せっかく、いい夢見れると思ったのに~」
徳正さんはいじけたように口先を尖らせるものの、文句を言うことはなかった。
そういう聞き分けのいいところは、実に彼らしい。
『たまに凄く頑固になるけど』と肩を竦める中、ラルカさんが戻ってくる。
怪我人と避雷針を手にした状態で。
あの、ラルカさん……本当にそろそろ、避雷針を仕舞いましょ?
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