45 / 315
第二章
第44話『渦神カリュブディス討伐開始』
しおりを挟む
「ひゃぁぁああぁぁあああ!?」
ラルカさんとシムナさんの間に挟まる形でグリフォンの背に乗る私は、思わず悲鳴を上げてしまった。
グリフォンの背に乗るのは初めてじゃないのに、この恐怖心は拭えない。
『高所恐怖症という前ではないんだけど……』と思いつつ、手綱を握るラルカさんにギュッと抱きつく。
「あー!ラルカ、狡い~!俺っちもラーちゃんに抱きつかれたいよ~」
『欲望丸出しにも程があるぞ、徳正』
「そんなんだから、ラミエルに嫌われるんじゃなーい?」
「徳正さん、お二人の言う通りですよ」
「えっ!?皆、俺っちに冷たない!?もっと俺っちに愛を持って接して!?」
なら、変態発言を控えてよ。今のままじゃ、愛もクソもないもん。
あと、そろそろ目の前のことに集中して。
だって、私達はもう────ボスフロアに降りているんだから。
水面に棒立ちしている徳正さんを見下ろし、私はやれやれと肩を竦める。
ボスフロアに侵入してから直ぐに結界で閉じ込められたけど、肝心のフロアボスの姿は見当たらない。
水中魔物と言うくらいだし、恐らく泉の底に居るんだろうけど……。
まあ、出てこないつもりなら、それでも構わない。
「────そっちの方が作戦遂行が楽になる!」
そう意気込み、私は瓢箪の蓋に手をかけた。
ポンッと小さな音を立てて開くソレを下に向ける。
と同時に、瓢箪の表面を親指でグルグルと撫で回し始めた。左回りを心掛けながら……。
この瓢箪の扱い方は簡単で、表面を左回りに撫でたら水分の吸収、右回りに撫でたら蓄えた水分の放出だ。
「なんか地味だねー」
「否定はしません」
チョロチョロと少しずつ泉の水を吸い上げる瓢箪に、私もシムナさんも微妙な反応を示す。
だって、掃除機並の吸引力を期待していたから。
どうしよう?このままじゃ、いつまで経っても終わらないよ。
予想だにしなかった落とし穴に焦りと不安を感じる中、横から白い手が伸びてきた。
「ちょっと貸してー!」
「あ、はい……どうぞ」
素直に瓢箪を差し出すと、シムナさんは『借りるねー』と言って受け取る。
そして、興味深そうにじっと観察すると────いきなり、瓢箪の表面を物凄いスピードで撫で始めた。
え、えっ!?いきなり、何!?
摩擦で火が起こせそうなほどの勢いで瓢箪を撫で回しているシムナさんに、私は唖然とする。
────と、ここで急に瓢箪の吸引力が上がった。
「え、ええぇぇぇえええ!?な、何これ!?」
トルネードでも起こせそうなほどの勢いで泉の水を吸い上げる瓢箪に、私は目を剥く。
『撫でるスピードが上がったから!?』と驚愕する私の後ろで、シムナさんはニヤリと口角を上げていた。
してやったり、と言わんばかりの表情である。
「えっと……シムナさん、あとはお願いします!私じゃ、そんなに早く撫でられないので!」
「おっけー!任せといてー!」
グッと親指を立てて、OKサインを出すシムナさんは実に生き生きとしていた。
新しい玩具を貰って喜ぶ子供のようだ。
『この調子なら、直ぐに終わりそう』と浮かれつつ、私はふと下へ視線を落とす。
「!?────ラルカさん、回避!!」
反射的にそう叫ぶと、グリフォンは急降下を始めた。
その直後────私達の頭上スレスレに、大量の水が……。
明らかに私達を狙って放たれたソレは、ダンッ!と結界に勢いよく激突した。
衝突した影響で散り散りになっていく水を一瞥し、私は視線を元に戻す。
────瓢箪に気を取られて、私はすっかり忘れていた。
ここには、強力なボスモンスターが居ることを……。
『やっと主役のお出ましか』
「そうみたいですね」
さすがの“渦神カリュブディス”もどんどん減っていく泉の水を見て、黙っていられなくなったらしい。
水底で揺らめいていた大きな影がふわりと水面に浮上し、ついに姿を現した。
「これが“渦神カリュブディス”……!!」
水面に浮かび上がったのは、エイによく似た魔物だった。
エイと違う点と言えば、頭に生えた鋭い角くらいだろうか。
それにしても、さっきは危なかった。
いきなり攻撃してくるものだから、つい焦って大声を出しちゃったよ。今度からは気をつけないと……。
『ラルカさん達もビックリしたよね』と考えながら、私は水面を見下ろす。
こちらをじっと観察している様子の“渦神カリュブディス”を視界に捉え、少しばかり危機感を抱いた。
フロアボスの知能指数は、通常魔物の数倍……何か策を講じてくる前に、仕留めないと!
「徳正さんは作戦通り、時間稼ぎを!シムナさんは引き続き、水の吸引に専念してください!ラルカさんは敵の警戒と攻撃の回避をお願いします!私は徳正さんのサポートに当たります!」
「りょーかーい!」
「まっかせといてー!」
『承知した』
間髪容れずに了承の意を示す三人は、直ぐさま動き出した。
さっきの攻撃を連続で撃たれたら、厄介だ。
上手く徳正さんが囮役をこなしてくれると、良いんだけど……。
“渦神カリュブディス”に考える余地を与えないためにも。
『何とか気を引いてくれ』と願う中、徳正さんは“渦神カリュブディス”の前に飛び出した。
「ねぇねぇ、君~。これから、俺っちと遊ばない?」
そう言うが早いか、徳正さんは“渦神カリュブディス”に向かって手裏剣を幾つか投げつける。
が、見事弾かれてしまった。
どうやら、“渦神カリュブディス”の皮膚は思ったより硬いらしい。
でも、攻撃を仕掛けたおかげで奴の意識は徳正さんに向けられる。
ジロリと視線だけ動かす“渦神カリュブディス”の前で、徳正さんはヘラリと笑った。
「────ま、君が嫌って言っても無理やり遊ぶけどね~」
ラルカさんとシムナさんの間に挟まる形でグリフォンの背に乗る私は、思わず悲鳴を上げてしまった。
グリフォンの背に乗るのは初めてじゃないのに、この恐怖心は拭えない。
『高所恐怖症という前ではないんだけど……』と思いつつ、手綱を握るラルカさんにギュッと抱きつく。
「あー!ラルカ、狡い~!俺っちもラーちゃんに抱きつかれたいよ~」
『欲望丸出しにも程があるぞ、徳正』
「そんなんだから、ラミエルに嫌われるんじゃなーい?」
「徳正さん、お二人の言う通りですよ」
「えっ!?皆、俺っちに冷たない!?もっと俺っちに愛を持って接して!?」
なら、変態発言を控えてよ。今のままじゃ、愛もクソもないもん。
あと、そろそろ目の前のことに集中して。
だって、私達はもう────ボスフロアに降りているんだから。
水面に棒立ちしている徳正さんを見下ろし、私はやれやれと肩を竦める。
ボスフロアに侵入してから直ぐに結界で閉じ込められたけど、肝心のフロアボスの姿は見当たらない。
水中魔物と言うくらいだし、恐らく泉の底に居るんだろうけど……。
まあ、出てこないつもりなら、それでも構わない。
「────そっちの方が作戦遂行が楽になる!」
そう意気込み、私は瓢箪の蓋に手をかけた。
ポンッと小さな音を立てて開くソレを下に向ける。
と同時に、瓢箪の表面を親指でグルグルと撫で回し始めた。左回りを心掛けながら……。
この瓢箪の扱い方は簡単で、表面を左回りに撫でたら水分の吸収、右回りに撫でたら蓄えた水分の放出だ。
「なんか地味だねー」
「否定はしません」
チョロチョロと少しずつ泉の水を吸い上げる瓢箪に、私もシムナさんも微妙な反応を示す。
だって、掃除機並の吸引力を期待していたから。
どうしよう?このままじゃ、いつまで経っても終わらないよ。
予想だにしなかった落とし穴に焦りと不安を感じる中、横から白い手が伸びてきた。
「ちょっと貸してー!」
「あ、はい……どうぞ」
素直に瓢箪を差し出すと、シムナさんは『借りるねー』と言って受け取る。
そして、興味深そうにじっと観察すると────いきなり、瓢箪の表面を物凄いスピードで撫で始めた。
え、えっ!?いきなり、何!?
摩擦で火が起こせそうなほどの勢いで瓢箪を撫で回しているシムナさんに、私は唖然とする。
────と、ここで急に瓢箪の吸引力が上がった。
「え、ええぇぇぇえええ!?な、何これ!?」
トルネードでも起こせそうなほどの勢いで泉の水を吸い上げる瓢箪に、私は目を剥く。
『撫でるスピードが上がったから!?』と驚愕する私の後ろで、シムナさんはニヤリと口角を上げていた。
してやったり、と言わんばかりの表情である。
「えっと……シムナさん、あとはお願いします!私じゃ、そんなに早く撫でられないので!」
「おっけー!任せといてー!」
グッと親指を立てて、OKサインを出すシムナさんは実に生き生きとしていた。
新しい玩具を貰って喜ぶ子供のようだ。
『この調子なら、直ぐに終わりそう』と浮かれつつ、私はふと下へ視線を落とす。
「!?────ラルカさん、回避!!」
反射的にそう叫ぶと、グリフォンは急降下を始めた。
その直後────私達の頭上スレスレに、大量の水が……。
明らかに私達を狙って放たれたソレは、ダンッ!と結界に勢いよく激突した。
衝突した影響で散り散りになっていく水を一瞥し、私は視線を元に戻す。
────瓢箪に気を取られて、私はすっかり忘れていた。
ここには、強力なボスモンスターが居ることを……。
『やっと主役のお出ましか』
「そうみたいですね」
さすがの“渦神カリュブディス”もどんどん減っていく泉の水を見て、黙っていられなくなったらしい。
水底で揺らめいていた大きな影がふわりと水面に浮上し、ついに姿を現した。
「これが“渦神カリュブディス”……!!」
水面に浮かび上がったのは、エイによく似た魔物だった。
エイと違う点と言えば、頭に生えた鋭い角くらいだろうか。
それにしても、さっきは危なかった。
いきなり攻撃してくるものだから、つい焦って大声を出しちゃったよ。今度からは気をつけないと……。
『ラルカさん達もビックリしたよね』と考えながら、私は水面を見下ろす。
こちらをじっと観察している様子の“渦神カリュブディス”を視界に捉え、少しばかり危機感を抱いた。
フロアボスの知能指数は、通常魔物の数倍……何か策を講じてくる前に、仕留めないと!
「徳正さんは作戦通り、時間稼ぎを!シムナさんは引き続き、水の吸引に専念してください!ラルカさんは敵の警戒と攻撃の回避をお願いします!私は徳正さんのサポートに当たります!」
「りょーかーい!」
「まっかせといてー!」
『承知した』
間髪容れずに了承の意を示す三人は、直ぐさま動き出した。
さっきの攻撃を連続で撃たれたら、厄介だ。
上手く徳正さんが囮役をこなしてくれると、良いんだけど……。
“渦神カリュブディス”に考える余地を与えないためにも。
『何とか気を引いてくれ』と願う中、徳正さんは“渦神カリュブディス”の前に飛び出した。
「ねぇねぇ、君~。これから、俺っちと遊ばない?」
そう言うが早いか、徳正さんは“渦神カリュブディス”に向かって手裏剣を幾つか投げつける。
が、見事弾かれてしまった。
どうやら、“渦神カリュブディス”の皮膚は思ったより硬いらしい。
でも、攻撃を仕掛けたおかげで奴の意識は徳正さんに向けられる。
ジロリと視線だけ動かす“渦神カリュブディス”の前で、徳正さんはヘラリと笑った。
「────ま、君が嫌って言っても無理やり遊ぶけどね~」
2
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜
鏑木 うりこ
BL
シメジ以下と言われ死んでしまった俺は気がつくと、秋の森でほんわりしていた。
弱い毒キノコ(菌糸類)になってしまった俺は冬を越せるのか?
毒キノコ受けと言う戸惑う設定で進んで行きます。少しサイコな回もあります。
完結致しました。
物凄くゆるいです。
設定もゆるいです。
シリアスは基本的家出して帰って来ません。
キノコだけどR18です。公園でキノコを見かけたので書きました。作者は疲れていませんよ?\(^-^)/
短篇詐欺になっていたのでタグ変えました_(:3 」∠)_キノコでこんなに引っ張るとは誰が予想したでしょうか?
このお話は小説家になろう様にも投稿しております。
アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会に小話があります。
お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354
〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
銀色の精霊族と鬼の騎士団長
柊
BL
スイは義兄に狂った愛情を注がれ、屋敷に監禁される日々を送っていた。そんなスイを救い出したのが王国最強の騎士団長エリトだった。スイはエリトに溺愛されて一緒に暮らしていたが、とある理由でエリトの前から姿を消した。
それから四年。スイは遠く離れた町で結界をはる仕事をして生計を立てていたが、どうやらエリトはまだ自分を探しているらしい。なのに仕事の都合で騎士団のいる王都に異動になってしまった!見つかったら今度こそ逃げられない。全力で逃げなくては。
捕まえたい執着美形攻めと、逃げたい訳ありきれいめ受けの攻防戦。
※流血表現あり。エリトは鬼族(吸血鬼)なので主人公の血を好みます。
※予告なく性描写が入ります。
※一部メイン攻め以外との性描写あり。総受け気味。
※シリアスもありますが基本的に明るめのお話です。
※ムーンライトノベルスにも掲載しています。
この行く先に
爺誤
BL
少しだけ不思議な力を持つリウスはサフィーマラの王家に生まれて、王位を継がないから神官になる予定で修行をしていた。しかし平和な国の隙をついて海を隔てた隣国カリッツォが急襲され陥落。かろうじて逃げ出したリウスは王子とばれないまま捕らえられてカリッツォへ連れて行かれて性奴隷にされる。数年間最初の主人のもとで奴隷として過ごしたが、その後カリッツォの王太子イーフォの奴隷となり祖国への思いを強めていく。イーフォの随行としてサフィーマラに陥落後初めて帰ったリウスはその惨状に衝撃を受けた。イーフォの元を逃げ出して民のもとへ戻るが……。
暗い展開・モブレ等に嫌悪感のある方はご遠慮ください。R18シーンに予告はありません。
ムーンライトノベルズにて完結済
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる