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第二章

第44話『渦神カリュブディス討伐開始』

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「ひゃぁぁああぁぁあああ!?」

 ラルカさんとシムナさんの間に挟まる形でグリフォンの背に乗る私は、思わず悲鳴を上げてしまった。
グリフォンの背に乗るのは初めてじゃないのに、この恐怖心は拭えない。
『高所恐怖症という前ではないんだけど……』と思いつつ、手綱を握るラルカさんにギュッと抱きつく。

「あー!ラルカ、狡い~!俺っちもラーちゃんに抱きつかれたいよ~」

『欲望丸出しにも程があるぞ、徳正』

「そんなんだから、ラミエルに嫌われるんじゃなーい?」

「徳正さん、お二人の言う通りですよ」

「えっ!?皆、俺っちに冷たない!?もっと俺っちに愛を持って接して!?」

 なら、変態発言を控えてよ。今のままじゃ、愛もクソもないもん。
あと、そろそろ目の前のことに集中して。
だって、私達はもう────ボスフロアに降りているんだから。

 水面に棒立ちしている徳正さんを見下ろし、私はやれやれと肩を竦める。

 ボスフロアに侵入してから直ぐに結界で閉じ込められたけど、肝心のフロアボスの姿は見当たらない。
水中魔物モンスターと言うくらいだし、恐らく泉の底に居るんだろうけど……。
まあ、出てこないつもりなら、それでも構わない。

「────そっちの方が作戦遂行が楽になる!」

 そう意気込み、私は瓢箪の蓋に手をかけた。
ポンッと小さな音を立てて開くソレを下に向ける。
と同時に、瓢箪の表面を親指でグルグルと撫で回し始めた。左回りを心掛けながら……。

 この瓢箪の扱い方は簡単で、表面を左回りに撫でたら水分の吸収、右回りに撫でたら蓄えた水分の放出だ。

「なんか地味だねー」

「否定はしません」

 チョロチョロと少しずつ泉の水を吸い上げる瓢箪に、私もシムナさんも微妙な反応を示す。
だって、掃除機並の吸引力を期待していたから。

 どうしよう?このままじゃ、いつまで経っても終わらないよ。

 予想だにしなかった落とし穴に焦りと不安を感じる中、横から白い手が伸びてきた。

「ちょっと貸してー!」

「あ、はい……どうぞ」

 素直に瓢箪を差し出すと、シムナさんは『借りるねー』と言って受け取る。
そして、興味深そうにじっと観察すると────いきなり、瓢箪の表面を物凄いスピードで撫で始めた。

 え、えっ!?いきなり、何!?

 摩擦で火が起こせそうなほどの勢いで瓢箪を撫で回しているシムナさんに、私は唖然とする。
────と、ここで急に瓢箪の吸引力が上がった。

「え、ええぇぇぇえええ!?な、何これ!?」

 トルネードでも起こせそうなほどの勢いで泉の水を吸い上げる瓢箪に、私は目を剥く。
『撫でるスピードが上がったから!?』と驚愕する私の後ろで、シムナさんはニヤリと口角を上げていた。
してやったり、と言わんばかりの表情である。

「えっと……シムナさん、あとはお願いします!私じゃ、そんなに早く撫でられないので!」

「おっけー!任せといてー!」

 グッと親指を立てて、OKサインを出すシムナさんは実に生き生きとしていた。
新しい玩具を貰って喜ぶ子供のようだ。
『この調子なら、直ぐに終わりそう』と浮かれつつ、私はふと下へ視線を落とす。

「!?────ラルカさん、回避!!」

 反射的にそう叫ぶと、グリフォンは急降下を始めた。
その直後────私達の頭上スレスレに、大量の水が……。
明らかに私達を狙って放たれたソレは、ダンッ!と結界に勢いよく激突した。
衝突した影響で散り散りになっていく水を一瞥し、私は視線を元に戻す。

 ────瓢箪に気を取られて、私はすっかり忘れていた。
ここには、強力なボスモンスターが居ることを……。

『やっと主役のお出ましか』

「そうみたいですね」

 さすがの“渦神カリュブディス”もどんどん減っていく泉の水を見て、黙っていられなくなったらしい。
水底で揺らめいていた大きな影がふわりと水面に浮上し、ついに姿を現した。

「これが“渦神カリュブディス”……!!」

 水面に浮かび上がったのは、エイによく似た魔物モンスターだった。
エイと違う点と言えば、頭に生えた鋭い角くらいだろうか。

 それにしても、さっきは危なかった。
いきなり攻撃してくるものだから、つい焦って大声を出しちゃったよ。今度からは気をつけないと……。

 『ラルカさん達もビックリしたよね』と考えながら、私は水面を見下ろす。
こちらをじっと観察している様子の“渦神カリュブディス”を視界に捉え、少しばかり危機感を抱いた。

 フロアボスの知能指数は、通常魔物モンスターの数倍……何か策を講じてくる前に、仕留めないと!

「徳正さんは作戦通り、時間稼ぎを!シムナさんは引き続き、水の吸引に専念してください!ラルカさんは敵の警戒と攻撃の回避をお願いします!私は徳正さんのサポートに当たります!」

「りょーかーい!」

「まっかせといてー!」

『承知した』

 間髪容れずに了承の意を示す三人は、直ぐさま動き出した。

 さっきの攻撃を連続で撃たれたら、厄介だ。
上手く徳正さんが囮役をこなしてくれると、良いんだけど……。
“渦神カリュブディス”に考える余地を与えないためにも。

 『何とか気を引いてくれ』と願う中、徳正さんは“渦神カリュブディス”の前に飛び出した。

「ねぇねぇ、君~。これから、俺っちと遊ばない?」

 そう言うが早いか、徳正さんは“渦神カリュブディス”に向かって手裏剣を幾つか投げつける。
が、見事弾かれてしまった。
どうやら、“渦神カリュブディス”の皮膚は思ったより硬いらしい。
でも、攻撃を仕掛けたおかげで奴の意識は徳正さんに向けられる。
ジロリと視線だけ動かす“渦神カリュブディス”の前で、徳正さんはヘラリと笑った。

「────ま、君が嫌って言っても無理やり遊ぶけどね~」
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