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第一章

第28話『アジト』

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 ────それから私達は徳正さんの案内で、『サーペント』のアジト前まで来ていた。

 あぁ、なるほど。これは確かに分かりづらい。
場所をチャットで言われただけじゃ、分からなかっただろう。
だって────『サーペント』のアジトはこの森の下……つまり、地下にあるから。

 徳正さんの話によると、地上と地下を繋ぐ出入口は三つあり、それらは一見普通の地面にしか見えないらしい。
特にこの森は落ち葉が多いため、ちょっとヘンテコでも上から覆い隠せてしまうのだ。

『それにしても、よく見つけたな?』

「ハハッ!まあね~。俺っちの手に掛かれば、ちょちょいのちょいだよ~」

 三つある出入口の内の一つを無理矢理こじ開けた私達は、登り降りするためのハシゴを眺める。
大人一人が何とか通れそうな穴を前に、『まるで軍のシェルターみたいだな』と考えた。

「さてと、そろそろ中に潜入しようか~。スネークやNo.6がいつ動き出すか分からない今、ゆっくりしていられないからね~」

「あ、はい!!」

 地面に正座したまま中を覗き込んでいた私は、慌てて姿勢を正す。
すると、徳正さんは笑いながらアジトについて説明してくれた。

「まず、このアジトはB1・B2の2階層に分かれていて、No.6はB2の奥の部屋に監禁されている。だから、まずB2に行かなきゃいけないんだけど……B2に行くには、幹部クラスの指紋認証が必要みたいなんだ。しかも、B2はかなり入り組んだ作りをしていて迷子になりやすい。一応設計図は拝借してきたけど……警備体制がいまいち分からないんだよね~」

 懐からB1・B2の設計図を取り出し、徳正さんはそれぞれ見せる。

 単純で分かりやすい造りのB1はさておき……B2は本当に迷路みたいだな。

 B2に存在する部屋は全部で三つ。
しかも、図を見る限り部屋の大きさはそこまでない。
恐らく、敵を迷わせるためのこの通路……いや、迷路に力を入れたのだろう。

 No.6さんは奥の部屋に監禁されているみたいだから、多分この部屋かな?
他の二部屋は比較的手前側にあるし。

「まあ、警備体制については別に知らなくてもいっか~。遭遇したら、倒せばいいだけの話だし~。それより、問題はB2に行くための指紋認証をどう突破するかなんだよね~」

 悩ましげに眉を顰める徳正さんに、ラルカさんはコテリと首を傾げる。

『その扉(?)を壊せば、良いんじゃないか?』

「残念ながら、扉じゃないんだよね~。正解はエベレーター」

『じゃあ、床に穴を開ける』

「それは最終手段にしたいかな~。出来れば、騒ぎを起こさずにNo.6を回収したいし~」

『じゃあ、幹部を見つけ出して僕達に協力させる』

「んー……まあ、それが一番妥当かな~」

 『ぶっちゃけ面倒だけど~』と零す徳正さんに、私は苦笑を漏らす。
相変わらず回りくどいことは嫌いみたいだな、と思いながら。

「じゃあ、とりあえず第一プランをソレにして、第二プランを強行突破にしましょうか。何らかのアクシデントがあって、第一プラン決行不可能になる可能性は充分あるので」

「おっけ~。んじゃ、まずは幹部探しからだね~」

「そうですね。でも、どの幹部を狙います?『サーペント』の幹部で顔が割れているのは、数人だけですが……」

 何かと秘密の多い『サーペント』を思い浮かべ、私は悩む。
すると、ラルカさんが片手を挙げた。

『いっそのこと、ギルドマスターのスネークを狙うのはどうだ?』

「いやいや~、スネークに指紋認証させるくらいだったら『殺すぞ』って脅してNo.6を解放させた方が早……」

「────そうか、そうか。お前達はこの俺様を脅すつもりなのか」

 ……んっ!?誰!?

 極自然に会話へ入り込んできた誰かに、私は警戒心を募らせる。
そして、姿を探すように視線をさまよわせるが……それらしい人物は、どこにも見当たらなかった。

 あ、あれ?どこに居るの?

「おい!てめぇら、どこ見てんだ!俺はここだ、ここ!下だ、しーた!」

「「『下……?』」」

 私達は互いに顔を見合わせると、一斉に視線を下へ落とす。
すると、そこには両腕にヘビのタトゥーを入れた男性が……。
どうやら、『サーペント』の隠れアジトの中に居たらしい。
黒髪オールバックの彼を前に、私はコテリと首を傾げる。

 あれ?この人、どこかで見覚えが……あっ!あの人だ!
『サーペント』のギルドマスター スネークだ!────って、は!?

「な、何でスネークがここに!?」

「『何で』って、ここは俺様の家だぜ?居て、当然だろ。むしろ、お前達の存在の方がイレギュラーだっつーの」

 うっ!それは否定できない……というか、まさにその通りだと思う。

 『正論すぎる……』と項垂れる中、スネークは蛇のように長い舌をチロチロ覗かせ、下から私達を見上げた。
その傍には、数人の部下の姿が……。

 えーと……とりあえず、状況を整理しよう。
スネークが部下を引き連れてここにやって来たってことは、私達の侵入を察知したんだと思う。
ついでに会話も、筒抜け状態だったとみて間違いないだろう。

 よくよく考えてみれば、ここって隠れアジトの出入口前だもんね。
盗聴器や監視カメラが仕掛けてあっても、おかしくない。
それなのに、私達は堂々と作戦会議を……嗚呼!想像しただけで、恥ずかしい!

 顔を真っ赤にして俯く私は、『うぅ……』と唸り声を上げる。
羞恥心でどうにかなってしまいそうな私を他所に、徳正さんとラルカさんは小さく肩を竦めた。

「あちゃ~。バレちゃったか~」

『こうなったら、しょうがない。ここからは正々堂々と行こう』

「いや、てめぇらは割りと最初から堂々としたぞ?『隠れる気あんのか?』って、疑うくらい」

『あまり褒めるな。照れるじゃないか』

「いや、褒めてねぇーよ!!なんだよ、こいつ!!ポジティブかよ!?」

 恥ずかしそうに視線を逸らし、ポリポリと頬を搔く黒クマに、スネークは思わずツッコミを入れる。
ちょうどツッコミ要員が足りないところだったため、彼のような人材は非常に有り難かった。
『これぞ、天の助け!』と目を輝かせていると、徳正さんが剣の柄に手を掛ける。

「まあ、茶番はこれくらいにして~……うちのメンバー、返してくれるかな~?」

 ヘラリと笑って交渉に挑む徳正さんは、少しばかり圧を放つ。
恐らく、ここで要求を拒否されれば強行手段に出るつもりだろう。
『さて、スネークはどう出る?』と様子を見守る中、彼は蛇舌をチロリと覗かせた。

「────断る!返してほしければ、力づくで奪いに来い!」
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