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第一章

第23話『報告会議の前に』

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 ────その後、何とか落ち着きを取り戻した私達は居間のテーブルを囲んで、顔を突き合わせる。
どことなく重苦しい空気が流れる中、リーダーは顔を上げた。

「報告会議を始める前に、一つ言っておくことがある。もう大半の者が気づいていると思うが、まだNo.6が到着していない。その理由と経緯について、説明する」

 やっぱり、何かあったんだ。
だって、サウスダンジョン前に居たラルカさんより、No.6さんの方が目的地の近くに居たんだもん。
それなのに、一向に到着しないどころか連絡もないから……。
最初は『進むペースが違うだけかな?』と思ったけど、よく考えてみればおかしな話だ。

「まどろっこしいのは嫌いだから、結論から言わせてもらう。No.6は────誘拐された」

 えぇ……!?誘拐!?
それって、大丈夫なの!?────って、あれ?

 驚愕する私とは対照的に、妙に落ち着いている周りのメンバー。
むしろ、冷めていると言った方がいいかもしれない。

「誘拐って、どうせわざと・・・でしょ~?」

「No.6が本気で捕まることなんて、まずないものね」

『とりあえず、話を聞こう』

「ゆ、ゆゆゆゆゆ、誘拐の目的と理由を聞かせてくださいぃぃぃいいい!!」

 えっ?ちょっと待って?『わざと』って、どういうこと!?

 今度は別の意味で、衝撃を受ける。
『そんなこと有り得るのか?』と思案する私の前で、リーダーは小さく息を吐いた。

「ああ、そうだ。あいつが本気で捕まることは、まず有り得ない。あいつは考え無しの無鉄砲野郎だが、勝てない戦いはしない主義の人間だからな。本当にやばくなったら、勝手に逃げてる」

 あっ、本当にわざと捕まったんだ……。
グルチャ内の言動でNo.6さんが変人なのは何となく分かってたけど、まさかここまでだったとは……。

 驚きを通り越して呆れてしまう私は、深い深い溜め息を零す。
────と、ここで一つの疑問を抱いた。

「何でNo.6さんは、わざと誘拐なんてされたんでしょう?誘拐されても、メリットなんてありませんよね?」

 『目的は何なんですか?』と問い掛ける私に、リーダーは小さく肩を竦める。

「その理由については、グルチャに送ったスクリーンショットスクショを見れば分かる」

 グルチャに送ったスクショ……?

 頭の中に『?』マークを浮かべつつ、私は一先ずゲーム内ディスプレイを起動した。
トーク一覧から『虐殺の紅月』のグルチャを開き、リーダーから送られてきた画像を確認する。
画像は全部で二枚。どちらもトーク画面をスクショしたもののようだ。

 えーと、一枚目は……。

────────────────────
スネーク:お前んとこの仲間は、預かった

スネーク:返して欲しければ、一億ゴールド用意しろ
────────────────────

 そのメッセージの後には、No.6さんと思しき人物を撮影した写真が……。
多少手足に傷を負っているものの、写真を見る限り無事のようだ。

 で、リーダーの返信が────『勝手にしろ』か……。
いや、あのね……?No.6さんがわざと捕まったのを知っていたとしても、その返信はダメじゃない!?
ちょっと冷た過ぎると思う!
ていうか、今思い出したけどスネークって闇ギルド『サーペント』のギルドマスターじゃん!

 ────闇ギルド。
犯罪にならないギリギリのラインを攻めて、プレイヤーの嫌がることを率先してやる組織の総称。
大半は『なんちゃって悪役』のヌル~い組織だが、『サーペント』は別。
というのも、FRO内で女性プレイヤーを立て続けにレイプする騒動を引き起こし、数ヶ月前問題になっていたから。
近々、仮想空間ゲーム世界の性犯罪は罪になるのかという観点で、FROの運営をも巻き込む裁判を開く予定だったけど……今はそれどころじゃ、なくなってしまった。

 まあ、それはさておき。
二枚目のスクショをはいけ……んっ!?

────────────────────
No.6:ボス~

No.6:どういう状況になったら、PKしていいのー?

No.1:殺るか殺られるかの状況だな

No.1:仲間や自分の命が危険になったら、迷わず殺れ

No.6:なるほどねー

No.6:んじゃ、今から誘拐されてくるー

No.6:殺されそうになったら、殺るね!
────────────────────

 ふぅ……まず、どこから突っ込もうか。

 『何故、そうなる?』と言いたくなるような会話を前に、私は額を押さえる。
他のメンバーは『やっぱりか』といった表情で、呆れていた。

 とりあえず、No.6さんはPKするために誘拐されたという解釈で良いんだろうか?
いや、心情的には全然良くないけど……!何かの間違いであってほしいけど……!
だって、下手したらNo.6さんが死ぬかもしれないんだよ!?
そんなリスクを抱えてまで、PKする人なんて居ないよ!普通は!

 『そう考えると、徳正さん達はまだマシだった?』と困惑し、頭を抱える。
PK大好きなんて範疇を越えている荒業に悶々としていると、リーダーが天井を見上げた。

「それ以降、No.6からの連絡はない。まあ、元気にやってるだろ……多分」

「多分って……」

「まあ、とりあえずNo.6の話は以上だ」

 半ば強引に話を切り上げ、リーダーは女将さんの淹れたお茶を飲む。
『ふぅ……』と一息つく彼の前で、私はコテリと首を傾げた。

 事情は分かったけど……No.6さんへの対応は、どうするんだろう?
まさか、このまま放置……なんてことないよね?

 『さすがに心配……』と眉尻を下げていると、リーダーが苦笑を漏らす。

「心配せずとも、大丈夫だ。あいつは生きている。それにあいつの保護……いや、回収・・を誰かに任せようと考えていたところだ。放っておいたら、『サーペント』全員を殺しかねないからな。そうなったら、あいつは晴れて大量殺人鬼だ。たとえ、『箱庭』の言ったことが虚偽だったとしてもな」

 『俺達にソレを確かめる術はないから』と述べるリーダーに、ヴィエラはんは小さく頷いた。

「FRO内に隔離された今、私達は横の繋がりを大事にしないといけない。それなのに大量殺人なんて犯したら、信用も何もないわ。攻略組に入るにしろ、保守組で助けを待つにしろ、周囲の反応には気を使うべきだわ。だから、No.6の企みは絶対阻止しないといけない」

 なるほど、確かに横の繋がりは大事だよね。
でも、それはそれとして……

「皆さん、No.6さんの心配はしないんですか?」

「しないな。あいつのことだから、ケロッとしてるだろ」

「しないわね。だって、あの子強いもの」

「しないよ~。だって、No.6の方が『サーペント』の総戦力より強いし~」

「な、No.6さんには力作の武器を持たせているので問題ないと思いますぅぅぅう!!」

『むしろ、No.6と戦う敵の方が心配だ』

 いや、それはどうなの……?ていうか、No.6さんってそんなに強いんだ。
ヴィエラさんやアラクネさんにまで実力を認められているみたいだし、きっとかなりの手練だろう。

 『リーダーや徳正さん以上の実力者?』と疑問に思う中、銀髪の美丈夫は湯呑みをテーブルに置く。

「まあ、とりあえずNo.6の話は置いておこう。今は報告会議の方が先だ」

 『No.6の対応はそのあと考える』と言い、リーダーは真っ直ぐ前を見据えた。
と同時に、真剣な顔付きへ変わる。

「では────これより、報告会議を始める」
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