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第三章
パートナーの申し込み
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◇◆◇◆
魔王を討伐してから、ここ一ヶ月。
国籍問わずあらゆる人々が世界を救った英雄の誕生に喜び、毎日お祭り騒ぎだった。
おかげで、私達は一躍有名人である。それも、世界規模で……。
ここ最近、各国の王族や貴族から色々お誘いを受けているのね。
主に食事会やパーティーの招待状だけど、求婚状もしばしば。
気持ちは嬉しいけど、恋愛方面はめっぽう弱いというか……ダメダメだから、もう少し待ってほしい。
『まだリエート卿やお兄様の気持ちにも答えられてないし……』と考えつつ、私は一つ息を吐いた。
自分の気持ちを上手く整理出来なくて。
『私は二人のことをどう思っているんだろう?』と自問する中、不意に肩を叩かれる。
「あか……じゃなくて、リディア!今、いいか?」
そう言って、『よっ!』と片手を上げるのはリエート卿だった。
アントス学園の校舎前だからか、周囲の目を気にして振る舞う彼はこちらを見て明るく笑う。
最近お互い忙しくて会えていなかったため、いつも以上に彼の笑顔が眩しく見えた。
「ごきげんよう、リエート卿。どうなさいましたか?」
体ごと彼の方に向けて背筋を伸ばし、私はニッコリと微笑む。
すると、リエート卿は少し頬を赤くした。
「久々だと、緊張するな……」
独り言のようにそう呟き、リエート卿はガシガシと頭を搔く。
なんだかソワソワして落ち着かない様子の彼は、視線を右往左往させた。
でも、何とか覚悟を決めたのか真っ直ぐにこちらを見据える。
「あ、あのさリディア。来月にある戦勝パーティー、俺と……」
「────リディア」
リエート卿の言葉を遮り、正面玄関から姿を現したのは兄のニクスだった。
『ここに居たのか』と言って近づいてくる彼は、肘で殴打するようにしてリエート卿を押し退ける。
そして私の前に立つと、素早く跪いた。
「来月にある戦勝パーティーのエスコートは、僕にさせてくれないか?」
兄としてではなく一人の男性としてパートナーを申し込み、彼はそっと手を差し出す。
以前までの彼なら、身内という立場を前面に出してパートナー役を勝ち取っていたのに。
『ちゃんと切り替えているのね』と瞠目し、私は衝撃を受けた。
お兄様の……ニクス様の言動の変化を感じ取る度、『ああ、真剣なんだな』と実感する。
おかげで少しずつだけど、兄という先入観がなくなってきたと思う。
もう手を引っ張って歩いてくれる兄ではなく、横に並んで道を歩く男女なんだと感じながら、私は唇に力を入れる。
『こ、こういう時ってどう反応すれば……?』と戸惑い、目を回した。
今までにない展開だったので、つい動揺してしまって。
「え、えっと……」
「ちょーっと待った!」
堪らずといった様子で、リエート卿は声を上げると私達の間に割って入った。
『おい、リエート』と咎める兄になど目もくれず、こちらへ向き直る。
「ニクスに先を越されちまったけど、俺もリディアとパーティーに参加したい。エスコートさせてほしい」
真剣味を帯びた瞳でこちらを見つめ、リエート卿もパートナーを申し込んできた。
緊張のあまり若干表情を強ばらせる彼の横で、兄はムッとしたように眉を顰める。
「お前のような脳筋に、リディアのパートナーは務まらない。大人しく、引き下がれ」
「絶対に嫌だ!てか、今後のことを考えたら兄妹で出席するより、俺と出席した方がいいだろ!」
『変な虫が寄ってこない!』と強気に言い放ち、リエート卿は断固拒否の姿勢を見せる。
ここまで頑なになるのは珍しいが、兄だって負けておらず……
「そんなの兄妹以上の関係を匂わせれば、済む話だろ」
と、真顔で反論した。
ある種の宣戦布告とも捉えられる発言に、リエート卿は面食らう。
「なっ……なっ!?お前、腹を括ったのか!?あれだけ、思い悩んでいたのに!?」
兄の恋心を知っていたのか、リエート卿は『マジかよ!?』と叫ぶ。
まばらではあるが、一応周囲に人も居るというのに。
『もう少し声のトーンを抑えた方が……』と苦笑する私の前で、リエート卿は後ろへ少し仰け反った。
「ニクスのことだから、一生リディアを結婚させずに囲い込むのかと思っていたぜ……」
「お前は僕をなんだと思っているんだ。まあ、一時期、そんなことも考えたが」
「いや、考えたことはあるのかよ……」
呆れたように溜め息を零し、リエート卿はやれやれと頭を振った。
「ったく……最も厄介なやつが、ライバルになっちまった」
落胆したように肩を落とし、リエート卿は『あ~あ、ついてねぇーな』と嘆く。
でも、その声色はどこか嬉しそうだった。
きっと、吹っ切れた様子の親友を見てホッとしたのだろう。
「まあ、負ける気も譲る気もねぇーけどな」
『恨みっこなしだぜ』と明るく宣言し、リエート卿は兄の肩に手を置く。
が、即座に振り払われてしまった。
「それはこちらのセリフだ。見事に振られて、泣きそベかくなよ」
挑発するようにハッと鼻で笑い、兄はこちらを向いた。
かと思えば、私の髪を一房掬い上げる。
「僕はもう遠慮しないと決めたんだ。全力で落としに行く」
『手加減なんてしない』と言い切り、兄は髪に軽くキスした。
あまりにも色っぽい動作に、私はもちろんリエート卿まで赤くなる。
────どこか、おままごとのように感じていた恋愛が熱を帯びる現実へ変わった瞬間だった。
「ぁ……えっと……その……」
なんと返せばいいのか分からず戸惑っていると、兄は柔和な笑みを浮かべる。
「ちゃんと意識してくれているんだな。安心した」
月の瞳に喜びを滲ませ、兄はスルンと梳かすように髪を離した。
かと思えば、リエート卿を横へ押しやって私の前に立つ。
「それで、戦勝パーティーのパートナーはどうする?」
強制や成り行きではなく私自身に選ばせようと、決断を委ねてきた。
こちらはまだかなり混乱しているというのに。
『この怒涛の攻めは卑怯だわ……』と考える私を前に、兄はスッと目を細める。
「僕ならリディアを完璧にエスコート出来るし、うるさい外野を黙らせることも出来るぞ」
求婚やダンスの誘いのことを言っているのか、兄は『全部対処してやる』と断言した。
こういうところは以前と同じで、私に甘い。というか、過保護だ。
「いや、ちょっと待て!俺だって、リディアをちゃんとエスコート出来る!」
慌てて私の腕を引き、リエート卿は自分の存在をアピールする。
「今、母上に頼んでエスコートを猛勉強しているんだ!ニクスと比べると、やっぱりまだまだ未熟だけど、精一杯頑張るから!俺とパーティーに参加してくれ!」
これでもかというほど赤面しながらも、リエート卿は何とか自分の想いを伝えてきた。
『くそ……もっとスマートに決めるつもりだったのに』とボヤく彼を前に、私は頬を緩める。
なんだか、気が抜けてしまって。
年相応に振る舞うリエート卿を見ていると、『焦らなくていいんだ』って思えるわ。凄くホッとする。
『居心地がいい』と考えつつ、私は視線を上げた。
「じゃあ、今回のエスコートは────リエート卿にお願いします」
魔王を討伐してから、ここ一ヶ月。
国籍問わずあらゆる人々が世界を救った英雄の誕生に喜び、毎日お祭り騒ぎだった。
おかげで、私達は一躍有名人である。それも、世界規模で……。
ここ最近、各国の王族や貴族から色々お誘いを受けているのね。
主に食事会やパーティーの招待状だけど、求婚状もしばしば。
気持ちは嬉しいけど、恋愛方面はめっぽう弱いというか……ダメダメだから、もう少し待ってほしい。
『まだリエート卿やお兄様の気持ちにも答えられてないし……』と考えつつ、私は一つ息を吐いた。
自分の気持ちを上手く整理出来なくて。
『私は二人のことをどう思っているんだろう?』と自問する中、不意に肩を叩かれる。
「あか……じゃなくて、リディア!今、いいか?」
そう言って、『よっ!』と片手を上げるのはリエート卿だった。
アントス学園の校舎前だからか、周囲の目を気にして振る舞う彼はこちらを見て明るく笑う。
最近お互い忙しくて会えていなかったため、いつも以上に彼の笑顔が眩しく見えた。
「ごきげんよう、リエート卿。どうなさいましたか?」
体ごと彼の方に向けて背筋を伸ばし、私はニッコリと微笑む。
すると、リエート卿は少し頬を赤くした。
「久々だと、緊張するな……」
独り言のようにそう呟き、リエート卿はガシガシと頭を搔く。
なんだかソワソワして落ち着かない様子の彼は、視線を右往左往させた。
でも、何とか覚悟を決めたのか真っ直ぐにこちらを見据える。
「あ、あのさリディア。来月にある戦勝パーティー、俺と……」
「────リディア」
リエート卿の言葉を遮り、正面玄関から姿を現したのは兄のニクスだった。
『ここに居たのか』と言って近づいてくる彼は、肘で殴打するようにしてリエート卿を押し退ける。
そして私の前に立つと、素早く跪いた。
「来月にある戦勝パーティーのエスコートは、僕にさせてくれないか?」
兄としてではなく一人の男性としてパートナーを申し込み、彼はそっと手を差し出す。
以前までの彼なら、身内という立場を前面に出してパートナー役を勝ち取っていたのに。
『ちゃんと切り替えているのね』と瞠目し、私は衝撃を受けた。
お兄様の……ニクス様の言動の変化を感じ取る度、『ああ、真剣なんだな』と実感する。
おかげで少しずつだけど、兄という先入観がなくなってきたと思う。
もう手を引っ張って歩いてくれる兄ではなく、横に並んで道を歩く男女なんだと感じながら、私は唇に力を入れる。
『こ、こういう時ってどう反応すれば……?』と戸惑い、目を回した。
今までにない展開だったので、つい動揺してしまって。
「え、えっと……」
「ちょーっと待った!」
堪らずといった様子で、リエート卿は声を上げると私達の間に割って入った。
『おい、リエート』と咎める兄になど目もくれず、こちらへ向き直る。
「ニクスに先を越されちまったけど、俺もリディアとパーティーに参加したい。エスコートさせてほしい」
真剣味を帯びた瞳でこちらを見つめ、リエート卿もパートナーを申し込んできた。
緊張のあまり若干表情を強ばらせる彼の横で、兄はムッとしたように眉を顰める。
「お前のような脳筋に、リディアのパートナーは務まらない。大人しく、引き下がれ」
「絶対に嫌だ!てか、今後のことを考えたら兄妹で出席するより、俺と出席した方がいいだろ!」
『変な虫が寄ってこない!』と強気に言い放ち、リエート卿は断固拒否の姿勢を見せる。
ここまで頑なになるのは珍しいが、兄だって負けておらず……
「そんなの兄妹以上の関係を匂わせれば、済む話だろ」
と、真顔で反論した。
ある種の宣戦布告とも捉えられる発言に、リエート卿は面食らう。
「なっ……なっ!?お前、腹を括ったのか!?あれだけ、思い悩んでいたのに!?」
兄の恋心を知っていたのか、リエート卿は『マジかよ!?』と叫ぶ。
まばらではあるが、一応周囲に人も居るというのに。
『もう少し声のトーンを抑えた方が……』と苦笑する私の前で、リエート卿は後ろへ少し仰け反った。
「ニクスのことだから、一生リディアを結婚させずに囲い込むのかと思っていたぜ……」
「お前は僕をなんだと思っているんだ。まあ、一時期、そんなことも考えたが」
「いや、考えたことはあるのかよ……」
呆れたように溜め息を零し、リエート卿はやれやれと頭を振った。
「ったく……最も厄介なやつが、ライバルになっちまった」
落胆したように肩を落とし、リエート卿は『あ~あ、ついてねぇーな』と嘆く。
でも、その声色はどこか嬉しそうだった。
きっと、吹っ切れた様子の親友を見てホッとしたのだろう。
「まあ、負ける気も譲る気もねぇーけどな」
『恨みっこなしだぜ』と明るく宣言し、リエート卿は兄の肩に手を置く。
が、即座に振り払われてしまった。
「それはこちらのセリフだ。見事に振られて、泣きそベかくなよ」
挑発するようにハッと鼻で笑い、兄はこちらを向いた。
かと思えば、私の髪を一房掬い上げる。
「僕はもう遠慮しないと決めたんだ。全力で落としに行く」
『手加減なんてしない』と言い切り、兄は髪に軽くキスした。
あまりにも色っぽい動作に、私はもちろんリエート卿まで赤くなる。
────どこか、おままごとのように感じていた恋愛が熱を帯びる現実へ変わった瞬間だった。
「ぁ……えっと……その……」
なんと返せばいいのか分からず戸惑っていると、兄は柔和な笑みを浮かべる。
「ちゃんと意識してくれているんだな。安心した」
月の瞳に喜びを滲ませ、兄はスルンと梳かすように髪を離した。
かと思えば、リエート卿を横へ押しやって私の前に立つ。
「それで、戦勝パーティーのパートナーはどうする?」
強制や成り行きではなく私自身に選ばせようと、決断を委ねてきた。
こちらはまだかなり混乱しているというのに。
『この怒涛の攻めは卑怯だわ……』と考える私を前に、兄はスッと目を細める。
「僕ならリディアを完璧にエスコート出来るし、うるさい外野を黙らせることも出来るぞ」
求婚やダンスの誘いのことを言っているのか、兄は『全部対処してやる』と断言した。
こういうところは以前と同じで、私に甘い。というか、過保護だ。
「いや、ちょっと待て!俺だって、リディアをちゃんとエスコート出来る!」
慌てて私の腕を引き、リエート卿は自分の存在をアピールする。
「今、母上に頼んでエスコートを猛勉強しているんだ!ニクスと比べると、やっぱりまだまだ未熟だけど、精一杯頑張るから!俺とパーティーに参加してくれ!」
これでもかというほど赤面しながらも、リエート卿は何とか自分の想いを伝えてきた。
『くそ……もっとスマートに決めるつもりだったのに』とボヤく彼を前に、私は頬を緩める。
なんだか、気が抜けてしまって。
年相応に振る舞うリエート卿を見ていると、『焦らなくていいんだ』って思えるわ。凄くホッとする。
『居心地がいい』と考えつつ、私は視線を上げた。
「じゃあ、今回のエスコートは────リエート卿にお願いします」
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