30 / 52
Episode4
報酬と説明
しおりを挟む
「あとのことはこっちでやっておくから、二人はもう帰るといい」
────という言葉に甘えて、さっさと帰宅した一週間後。
報酬の受け渡しも兼ねて、リンより呼び出しを受けた。
悟史も一緒に。
『まさか、こいつと報酬を折半しろってことか?』と警戒しつつ、俺は風来家の敷居を跨ぐ。
そして客間へ通されると、そこにはリンと悟史の姿があった。
どことなく険しい顔つきの二人を前に、俺は一先ず席へつく。
「で、報酬は?」
「挨拶よりも先にお金の話とは……セイは本当にブレないね」
「大事なことだろ」
「はいはい」
『全く、しょうがないな』と言わんばかりに肩を竦め、リンは予め用意していた封筒を差し出した。
「約束の二百万だよ」
「……もう百万は?」
「ウチの人間を一人持ち帰るごとに十万のやつかい?」
「ああ」
間髪容れずに頷くと、リンは溜め息交じりにこう答える。
「結果的に持ち帰ったのは僕だから、なしだよ」
「チッ……!やっぱ、そうか」
何となくそんな気はしていたため、俺は大人しく二百万だけ受け取った。
風来家の人間の保護に関しては、正直ちゃんとこなせたかどうか自信ないため。
『結果的に戻ってはきたけど』と思案する中、悟史にツンツンと腕を突かれる。
「それより聞いてよ、壱成。今回の件────子狸に入れ知恵したのは、父さんに呪詛を掛けた奴と同じかもしれないんだって」
『ヤバくない?』と同意を求めてくる悟史に、俺は
「へぇー」
と、相槌を打つ。
札束の入った封筒を眺めながら。
「あれ?驚かないの?」
「単純に興味ないだけだけど」
「えっ!?酷くない!?」
『可愛い弟子に関することなのに!』と喚き、悟史は少しばかり頬を膨らませた。
不満を露わにする彼を前に、リンは眼鏡を押し上げる。
「まあ、興味のある・ないはさておきセイもちゃんと聞いておいた方がいいよ。氷室組の若頭の師匠である以上、君も無関係とは行かないから」
「はぁ……ったく、面倒くせぇーな」
ガシガシと頭を掻きながら頬杖をつき、俺は隣に座る悟史へ視線を向けた。
「とりあえず、話してみろ。聞いてやる」
「おっけー」
俺の偉そうな態度には触れず、悟史はニコニコと笑う。
と同時に、懐から複数枚の写真を取り出した。
「まず、事の発端────父さんの呪詛事件についてなんだけど、これは敵組織による犯行と分かった。目的は単純に氷室組の弱体化だね。これが敵の親玉で、あっちが呪詛の掛かったガラス細工……呪物を持ち込んだ下っ端」
ボコボコに腫れ上がった顔の男性や血まみれの女性を指さし、悟史はスッと目を細めた。
「で、実際に呪詛を仕掛けたのはこの男。名前は久世彰。三十五歳。壱成と同じく、フリーの祓い屋。ただ、引き受けるのはほとんど呪い……というか、殺人や傷害の依頼みたい。父さんの件も、仕事として引き受けただけっぽいね。特に恨みとか憎しみとかは、なさそう」
『一応、色んな角度から調べてみたんだけど』と零しつつ、悟史は自身の顎を撫でる。
「多分だけど、久世は僕達氷室組の報復を恐れて先日のような事件を起こしたんだと思う」
「はぁ?先日の事件のターゲットはどっちかと言うと、風来家じゃないか?」
「うん、そうだよ」
「いや、『そうだよ』って……」
点と点が線で結び付かず、俺は『つまり、どういうことなんだよ?』と溜め息を零した。
すると、悟史は久世の写真を指先で突く。
「久世は恐らく、氷室組と仲が良くて探し物を得意とする風来家を警戒していたんだよ。ここに依頼されたら……自分の居場所を探すよう要請されたら、一巻の終わりだからね」
『捜索に必要な顔や名前は割れている訳だし』と肩を竦め、悟史は大きく息を吐いた。
────と、ここでリンが久世の写真を持ち上げる。
「ここからは僕が話すよ」
────という言葉に甘えて、さっさと帰宅した一週間後。
報酬の受け渡しも兼ねて、リンより呼び出しを受けた。
悟史も一緒に。
『まさか、こいつと報酬を折半しろってことか?』と警戒しつつ、俺は風来家の敷居を跨ぐ。
そして客間へ通されると、そこにはリンと悟史の姿があった。
どことなく険しい顔つきの二人を前に、俺は一先ず席へつく。
「で、報酬は?」
「挨拶よりも先にお金の話とは……セイは本当にブレないね」
「大事なことだろ」
「はいはい」
『全く、しょうがないな』と言わんばかりに肩を竦め、リンは予め用意していた封筒を差し出した。
「約束の二百万だよ」
「……もう百万は?」
「ウチの人間を一人持ち帰るごとに十万のやつかい?」
「ああ」
間髪容れずに頷くと、リンは溜め息交じりにこう答える。
「結果的に持ち帰ったのは僕だから、なしだよ」
「チッ……!やっぱ、そうか」
何となくそんな気はしていたため、俺は大人しく二百万だけ受け取った。
風来家の人間の保護に関しては、正直ちゃんとこなせたかどうか自信ないため。
『結果的に戻ってはきたけど』と思案する中、悟史にツンツンと腕を突かれる。
「それより聞いてよ、壱成。今回の件────子狸に入れ知恵したのは、父さんに呪詛を掛けた奴と同じかもしれないんだって」
『ヤバくない?』と同意を求めてくる悟史に、俺は
「へぇー」
と、相槌を打つ。
札束の入った封筒を眺めながら。
「あれ?驚かないの?」
「単純に興味ないだけだけど」
「えっ!?酷くない!?」
『可愛い弟子に関することなのに!』と喚き、悟史は少しばかり頬を膨らませた。
不満を露わにする彼を前に、リンは眼鏡を押し上げる。
「まあ、興味のある・ないはさておきセイもちゃんと聞いておいた方がいいよ。氷室組の若頭の師匠である以上、君も無関係とは行かないから」
「はぁ……ったく、面倒くせぇーな」
ガシガシと頭を掻きながら頬杖をつき、俺は隣に座る悟史へ視線を向けた。
「とりあえず、話してみろ。聞いてやる」
「おっけー」
俺の偉そうな態度には触れず、悟史はニコニコと笑う。
と同時に、懐から複数枚の写真を取り出した。
「まず、事の発端────父さんの呪詛事件についてなんだけど、これは敵組織による犯行と分かった。目的は単純に氷室組の弱体化だね。これが敵の親玉で、あっちが呪詛の掛かったガラス細工……呪物を持ち込んだ下っ端」
ボコボコに腫れ上がった顔の男性や血まみれの女性を指さし、悟史はスッと目を細めた。
「で、実際に呪詛を仕掛けたのはこの男。名前は久世彰。三十五歳。壱成と同じく、フリーの祓い屋。ただ、引き受けるのはほとんど呪い……というか、殺人や傷害の依頼みたい。父さんの件も、仕事として引き受けただけっぽいね。特に恨みとか憎しみとかは、なさそう」
『一応、色んな角度から調べてみたんだけど』と零しつつ、悟史は自身の顎を撫でる。
「多分だけど、久世は僕達氷室組の報復を恐れて先日のような事件を起こしたんだと思う」
「はぁ?先日の事件のターゲットはどっちかと言うと、風来家じゃないか?」
「うん、そうだよ」
「いや、『そうだよ』って……」
点と点が線で結び付かず、俺は『つまり、どういうことなんだよ?』と溜め息を零した。
すると、悟史は久世の写真を指先で突く。
「久世は恐らく、氷室組と仲が良くて探し物を得意とする風来家を警戒していたんだよ。ここに依頼されたら……自分の居場所を探すよう要請されたら、一巻の終わりだからね」
『捜索に必要な顔や名前は割れている訳だし』と肩を竦め、悟史は大きく息を吐いた。
────と、ここでリンが久世の写真を持ち上げる。
「ここからは僕が話すよ」
20
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
帝国海軍の猫大佐
鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる