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Episode3
粗相
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「お稲荷様だ、バカ……!頭を下げろ!喋るな!」
小声で二人を叱責し、俺は『マジで命知らずだな、最近の女子中学生は!』と眉を顰めた。
最悪の滑り出しを見せた交渉に不安を覚える中、目の前のお稲荷様は呑気に毛繕いを始める。
先程のやり取りは見なかったことにしてくれたのか……それとも、本物のキツネに憑依しているせいで少し感覚が鈍ったのか、怒りや不快感を露わにすることはない。
とりあえず、大丈夫そう……なのか?
などと考えていると、お稲荷様は賽銭箱から降りた。
そのまま迷いのない足取りで、綿貫紗夜と皇桃花の前に足を運ぶ。
「────して、何をしに来た?」
どこか女性のような……少年のような声で二人に話し掛け、お稲荷様はスッと目を細める。
『あぁ、俺らは眼中にないって訳ね』と肩を竦める中、綿貫紗夜と皇桃花はこちらへ視線を向けた。
喋っていいのか分からず、意見を求めているのだろう。
『跪いたまま、喋れ。聞かれたことにだけ、答えろ』
口パクでそう教えると、二人はおずおずと首を縦に振る。
出来ることなら俺達に交渉を任せたかったんだろうが、『こうなったらしょうがない』と腹を括ったらしい。
「せ、先日働いた無礼を謝罪しに参りました」
「お稲荷様の領域で騒がしくしてしまい、申し訳ありませんでした」
二人揃って深々と頭を下げ、精一杯の謝意を示す。
すると、お稲荷様は『くくくっ……!』と低く笑った。
「ほう?今更、謝りに来たのか。で、許しが欲しい、と?」
「は、はい。出来れば……」
「……麻里を元に戻してほしいんです」
中学生なりに言葉を選んで頼み込み、綿貫紗夜と皇桃花は強く唇を引き結ぶ。
目にいっぱいの涙を溜めながら。
必死に恐怖と不安を押し殺す二人の前で、お稲荷様はゆらゆらと尻尾を揺らす。
「それで?」
「えっ?そ、それでって……」
「わ、私達は麻里を元に戻してくれたら満足なんですけど……?」
『これ以上要求はない』と見当違いなことを述べる二人に、お稲荷様は一歩近づいた。
「それで?」
「へっ……?」
「あの……?」
訳が分からずポカンとする綿貫紗夜と皇桃花は、思わず顔を見合わせる。
が、再び地面へ伏せた。いや、押し潰されたと言った方が正しいか。
「────頭が高いぞ、小娘共」
『誰が顔を上げていいと言った?』と威嚇し、お稲荷様は未だ嘗てないほどの威圧感を放つ。
その途端、綿貫紗夜と皇桃花は竦み上がった。
怖くて声も出せない様子の二人を前に、お稲荷様は顎を反らす。
「全く……礼儀のなっていない小娘共だ。こちらは代わりに何を差し出せるのか聞いておるだけなのに、答えをはぐらかすどころかこのような無礼を働くなど……そなた達も、麻里とやらと同じ目に遭わせてやろうか」
「「っ……!?」」
弾かれたように首を横に振り、綿貫紗夜と皇桃花は────まさかの失禁。
ただのオカルト好きの女子中学生に、お稲荷様のお相手は厳しかったらしい。
ひたすら恐怖に震え、嗚咽を漏らしていた。
「そなた達は本当に懲りぬな。神域内で粗相を仕出かすとは」
「ご、ごめんなさい……」
「わざとじゃなくて……」
「発言権を与えた覚えはない」
前足で勢いよく地面を踏みつけ、お稲荷様はより一層圧を掛けた。
────と、ここで綿貫紗夜と皇桃花が気を失う。
お稲荷様の力によって眠ったのか、もしくは恐怖のあまり気絶したのか……まあ、なんにせよこの場ではもう使い物にならない。
土下座した状態で眠る二人を前に、俺は────
「このくらい脅かしておけば、もう危ないことはしないと思いますよ」
────と、お稲荷様に声を掛けた。
すると、キツネはおもむろにこちらを振り返る。
「なんだ?気づいておったのか」
「ええ、何となく。実際にお会いするまで、確証は持てませんでしたが」
小さく肩を竦めながら答えると、悟史は困惑気味にこちらを見る。
「えっ?僕だけ、置いてけぼり?」
何がどうなっているのか分からない様子で、悟史はパチパチと瞬きを繰り返した。
『どういうことか説明してよ』と強請ってくる彼を他所に、俺はゆっくりと身を起こす。
「そろそろ、楽な体勢でもいいですか」
「聞く前に寛いでおいて、よく言う」
『全く……』と呆れ返るお稲荷様に、俺は愛想笑いを返した。
そしてガチガチになった体を解すと、何の気なしに胡座をかく。
悟史もさっさと体勢を崩し、お稲荷様へ向き直った。
「それで、どういうことなんです?」
「お前も図々しいやつだな。目上の者に対する態度が、なっておらん」
「すみません。師匠に似ちゃったみたいです」
「いや、お前は元からだろ」
『俺のせいにするな』と悟史を軽く小突き、俺は大きく息を吐いた。
小声で二人を叱責し、俺は『マジで命知らずだな、最近の女子中学生は!』と眉を顰めた。
最悪の滑り出しを見せた交渉に不安を覚える中、目の前のお稲荷様は呑気に毛繕いを始める。
先程のやり取りは見なかったことにしてくれたのか……それとも、本物のキツネに憑依しているせいで少し感覚が鈍ったのか、怒りや不快感を露わにすることはない。
とりあえず、大丈夫そう……なのか?
などと考えていると、お稲荷様は賽銭箱から降りた。
そのまま迷いのない足取りで、綿貫紗夜と皇桃花の前に足を運ぶ。
「────して、何をしに来た?」
どこか女性のような……少年のような声で二人に話し掛け、お稲荷様はスッと目を細める。
『あぁ、俺らは眼中にないって訳ね』と肩を竦める中、綿貫紗夜と皇桃花はこちらへ視線を向けた。
喋っていいのか分からず、意見を求めているのだろう。
『跪いたまま、喋れ。聞かれたことにだけ、答えろ』
口パクでそう教えると、二人はおずおずと首を縦に振る。
出来ることなら俺達に交渉を任せたかったんだろうが、『こうなったらしょうがない』と腹を括ったらしい。
「せ、先日働いた無礼を謝罪しに参りました」
「お稲荷様の領域で騒がしくしてしまい、申し訳ありませんでした」
二人揃って深々と頭を下げ、精一杯の謝意を示す。
すると、お稲荷様は『くくくっ……!』と低く笑った。
「ほう?今更、謝りに来たのか。で、許しが欲しい、と?」
「は、はい。出来れば……」
「……麻里を元に戻してほしいんです」
中学生なりに言葉を選んで頼み込み、綿貫紗夜と皇桃花は強く唇を引き結ぶ。
目にいっぱいの涙を溜めながら。
必死に恐怖と不安を押し殺す二人の前で、お稲荷様はゆらゆらと尻尾を揺らす。
「それで?」
「えっ?そ、それでって……」
「わ、私達は麻里を元に戻してくれたら満足なんですけど……?」
『これ以上要求はない』と見当違いなことを述べる二人に、お稲荷様は一歩近づいた。
「それで?」
「へっ……?」
「あの……?」
訳が分からずポカンとする綿貫紗夜と皇桃花は、思わず顔を見合わせる。
が、再び地面へ伏せた。いや、押し潰されたと言った方が正しいか。
「────頭が高いぞ、小娘共」
『誰が顔を上げていいと言った?』と威嚇し、お稲荷様は未だ嘗てないほどの威圧感を放つ。
その途端、綿貫紗夜と皇桃花は竦み上がった。
怖くて声も出せない様子の二人を前に、お稲荷様は顎を反らす。
「全く……礼儀のなっていない小娘共だ。こちらは代わりに何を差し出せるのか聞いておるだけなのに、答えをはぐらかすどころかこのような無礼を働くなど……そなた達も、麻里とやらと同じ目に遭わせてやろうか」
「「っ……!?」」
弾かれたように首を横に振り、綿貫紗夜と皇桃花は────まさかの失禁。
ただのオカルト好きの女子中学生に、お稲荷様のお相手は厳しかったらしい。
ひたすら恐怖に震え、嗚咽を漏らしていた。
「そなた達は本当に懲りぬな。神域内で粗相を仕出かすとは」
「ご、ごめんなさい……」
「わざとじゃなくて……」
「発言権を与えた覚えはない」
前足で勢いよく地面を踏みつけ、お稲荷様はより一層圧を掛けた。
────と、ここで綿貫紗夜と皇桃花が気を失う。
お稲荷様の力によって眠ったのか、もしくは恐怖のあまり気絶したのか……まあ、なんにせよこの場ではもう使い物にならない。
土下座した状態で眠る二人を前に、俺は────
「このくらい脅かしておけば、もう危ないことはしないと思いますよ」
────と、お稲荷様に声を掛けた。
すると、キツネはおもむろにこちらを振り返る。
「なんだ?気づいておったのか」
「ええ、何となく。実際にお会いするまで、確証は持てませんでしたが」
小さく肩を竦めながら答えると、悟史は困惑気味にこちらを見る。
「えっ?僕だけ、置いてけぼり?」
何がどうなっているのか分からない様子で、悟史はパチパチと瞬きを繰り返した。
『どういうことか説明してよ』と強請ってくる彼を他所に、俺はゆっくりと身を起こす。
「そろそろ、楽な体勢でもいいですか」
「聞く前に寛いでおいて、よく言う」
『全く……』と呆れ返るお稲荷様に、俺は愛想笑いを返した。
そしてガチガチになった体を解すと、何の気なしに胡座をかく。
悟史もさっさと体勢を崩し、お稲荷様へ向き直った。
「それで、どういうことなんです?」
「お前も図々しいやつだな。目上の者に対する態度が、なっておらん」
「すみません。師匠に似ちゃったみたいです」
「いや、お前は元からだろ」
『俺のせいにするな』と悟史を軽く小突き、俺は大きく息を吐いた。
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